告白
ジョセフィーヌに促されるように、ライリーの隣に腰を下ろしたヴィオラは、どのような顔をすれば良いのか悩む。 彼の顔を見ることができない。 頬が火照る。
「あの……ライリー様は、私を死の運命から救うために協力してくれているんですよね?」
ヴィオラが、ゆっくりと一言一言噛み締めるようにライリーに尋ねた。
その表情は、戸惑っているように見えた。が、頬には高揚感が感じられる。
ヴィオラは、ライリーが義務感で付き合ってくれていると思っていた。 だから、勘違いしないように、いつも自分自身に言い聞かせていた。
でも、彼の優しさを知ってしまってからは、どんどんライリーに惹かれていく。 止められなかった。
彼も自分と同じ気持ちだったら、どんなに幸せだろうかと思ったものだ。
それが、まさか……。
「ヴィオラの魔力は、とても心地よいんだ……」
ヴィオラの手を、ライリーがそっと優しく包む。
そして、彼女を覗き込むその紅い瞳は、蕩けるほどに艶かしい。
ライリーが言うには、ヴィオラに触れると自分の魔力が柔らかくなる気がして、不調を感じなくなるそうだ。 そして、とても穏やかな気分になると言う。
要は、魔力が高い為に起こる弊害を、ヴィオラが中和しているのではないか。というのだ。
「初めは、ただ心地よいと思っていたのだが、だんだんと離れがたいと感じるようになって……そして、ヴィオラを失うと思った時に、自分の気持ちに気が付いた」
と、ライリーは説明する。
「それって、ただヴィオラの力を利用しているようにしか……聞こえませんけど?」
フレイヤは心配になり、ライリーを睨む。
「違うっ、違うんだ……。 確かに、初めは心地よい。としか思っていなかったのは、本当だ……。 でも……」
ライリーは、わからなかった。 この気持ちを表現する方法が。 胸の奥から込み上げてくる、ゾワゾワする快感にも似た、高ぶる感情。 かと思うと、谷底に突き落とされるような焦燥感もある。
だだ、一つ確かなのは……
「ずっと、ヴィオラの側にいたい、触れていたい、誰にも渡したくない。 ヴィオラを笑顔にしたい、泣き顔も可愛いけど。 あと、少し緊張している……」
「わかった、わかったから。 後は二人でゆっくり話した方が良さそうだ」
フェリクス国王の制止で、ライリーは気が付いた。
思考が言葉に出ていたようだ……。
「ありがとうございます。でも、それは私のギフトの力のせいで、そう感じただけです」
そういうと、ヴィオラは薄く微笑んだ。
「違うっ! 貴女を失う、と思った時に確信したんだ。 私は貴女と共に生きていたい。この先ずっと」
ライリーは、そう言いながらヴィオラの手を握った。
そして、彼女の左手薬指に填まる婚約指輪に唇を落とした。
「お願いだ。私を見捨てないでくれ」
そのまま懇願するように、彼女の手を自分の額を押し付けた。
気を利かせたフェリクス国王達は、こっそり談話室から退室していく。 後には、ライリーとヴィオラの二人きり。
「私はてっきり、嫌々ながらも婚約式までしてくださったとばかり……」
「違う! 早く婚約しておかないと、蒼に取られると思って……」
「だって、馬車の中で一言も話してくれないし、ずっーと外を見てたじゃないですかっ」
「それは、あんな狭い空間でヴィオラと二人きりなんて、自制するのがやっとだったんだっ」
「自制って……」
あまりにも必死に弁明するライリーの姿を見て、ヴィオラは思わず吹き出した。
つられてライリーも笑い出す。
「ヴィオラ……」
「………」
急に真面目な顔をされ、ヴィオラはドキリとする。 ライリーの顔が近づいてきた。
ルビーの瞳が妖しく輝く。 その妖艶な輝きに魅入られてしまう。 彼の指が、戸惑いながらもヴィオラの耳元から髪を掻き上げ、そして頬を包む。
思わずギュッと目を瞑ったヴィオラの耳に、ライリーのフッと笑った声が聞こえた。
そして、鼻先が触れ合った……、その時
「無理っ!!」
ヴィオラはライリーを突き飛ばした。
「むっ……むりぃ……?」
尻餅をつき呆然とするライリーに、慌ててヴィオラは弁明する。 その顔は、解りやすく真っ赤だった。
「違うんです。 その……」
恥じらいながら視線を反らすその首筋も、朱に染まりそこはかと無く艶かしい。
おずおずと差し出されたヴィオラの手を借り、ライリーは立ち上がる。 その勢いを借りて、彼女を抱きしめた。
そして、腕の中で、身を固くするヴィオラの耳元で囁いた。
「僕と同じ気持ち……と思ってもいいのかな?」
コクリと頷いたヴィオラは、そっとライリーの背中に手を回す。
「その……ゆっくりでお願いします」
そう言って、背中に回した手に力を込めた。




