運命の歯車
翌日、王都に到着したのだが、向かった先は柘榴石宮ではなく、王妃宮だった。
ライリーの冷たい手のエスコートを受けながら、降り立った先には、ジョセフィーヌの暖かな笑顔が待っていた。 隣ではフレイヤが微笑んでいた。
数ヶ月後、ジョセフィーヌは王妃になる。 その彼女を支えるため、私とフレイヤは早々に王妃宮に入り、前王妃の女官達から、手解きを受ける事になっていた。
「ヴィオラ……」
何か言いたげなライリーの手から離れ、お礼を伝えた。
「ライリー様、ありがとうございました」
そして、ジョセフィーヌの手を取った。
「私達の宮殿にようこそ」
ジョセフィーヌとフレイヤの声が揃う。
背中にライリーの視線を感じつつ、近衛兵に守られながら王妃宮へと、ヴィオラは足を踏み入れた。
※※※
ジョセフィーヌの私室、王妃の間と私達、王妃付女官の私室は隠し廊下で繋がっていた。 また、近衛兵の控室もある。 まるで要塞のように、そこかしこに隠し部屋や扉があった。 覚えるのに苦労しそうだ。
それに、王妃宮の御披露目(……といっても、謁見の間などの公共の場所のみなのだが)の為に、お茶会を開く事になっている。
ジョセフィーヌの初公務だ。 失敗はできない。 そのため、早速明日から、前王妃の女官達の指導を受ける。
なので、今夜はジョセフィーヌの私室で、お互いを鼓舞激励するのだ。
私達の私室には、すでに侍女により荷物が運び込まれ、整理されていた。
アメシスタス家の私室と同じような家具に、同じような壁紙。 ライリーがこだわったと聞いた。 まるで、自宅に帰ったのようで、とても落ち着く。
直ぐにでもお礼を伝えたいのだが……もう、そうもいかない。 少し寂しく感じながら、彼が用意したのであろう、バラの生花に鼻を寄せた。
―――聖都で、アンナ様から様々な魔法を習った。 薬剤師として調合してきた薬は、魔法で似たような効果を出すことができた。
目標としていた『結界』も使えるようになり、なによりユニコーンのギフト『完全中和』の派生で『解術』が出来るようになったのが大きい。 相手の魔法を打ち消す事ができるのだ。
ただ、魔力の保有量が少ないので、魔力を増やす為に毎日、ギリギリまで魔力を使うようにと言われていた。
そして、再び予知をしたのだ。 自分の死に際を。
ジョセフィーヌの女官となった私が、国王と王妃を逃がすために、蒼の前に立ちはだかり、そして、命を落としていた。
その蒼の中に、見知った顔があった。 アジュールとラウルだ。 リーラの予知と合致する。 私は蒼に殺されるのだ。
女官として王妃宮に上がる事が決まっていたので、今までのように、未来は変えられない。 蒼に狙われるのも、クーデターなのだとすれば、腑に落ちる。
私に出来ることと言えば、防御力を上げて国王と王妃を逃がしきる事だ。
アンジェが「必ず助けるから」と言っていたが、一度は捨てた命だ。 クーデター阻止の為に失ったとしても、悔いはない。
ただ、ライリーの事が心残りだった。
私の意識が無い間、毎日のようにバラの花束と手紙を届けてくれていた、と聞いた。
(私が死んでしまったら、どうなるのだろう)
『人の機敏に疎い』と言っていたが、心優しい素敵な人ではないか。
本当の妹のように、大切にしてくれているのを感じていた。 そんな彼だからこそ、幸せになって欲しいと思う。
早く、ライリーを解放してあげたい。
クーデターの時期はわかっている。
前国王の崩御後、フェリクス国王の結婚式までの間。
たぶん、今シーズンだ。




