表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/64

婚約式

春の暖かな陽気に誘われ、草花が花開く頃、白銀に輝く神殿で、ライリー・ルーベル公爵子息とヴィオラ・アメシスタス侯爵令嬢の婚約式が行われた。


ヴィオラは、聖都にて()()()()を受けた事で、奇跡的に目を覚ました事になっていた。


イマ像の前に置かれた大理石のテーブルの上に、婚約宣誓書が置かれている。

家族が見守る中、ライリーとヴィオラは署名をした。立会人として、大司教のサインが入った。


久しぶりにグリシヌと会ったヴィオラには、彼がどこかやつれて見えた。 また、会場全体にピリピリとした雰囲気を感じていた。

(やはり、蒼と紅の関係が悪化しているのね……)


そんなライリーも、厳しい顔付きで隣に立っていた。いくら『ユニコーンの乙女を囲い込め』と言われても、蒼から命を狙われる()()()は面倒でしかないだろう。


でも、大丈夫。アンジェと話し合った。今後の人生に関して。

きっと私、ヴィオラが蒼に殺されないと、この世界から消えないと、物語が進まないのだろう。


ならば、殺された事にすればいい。

「必ず、私が助けるから」

アンジェは約束してくれた。


(直ぐに解放して差し上げます)

そんな思いを込めて、ライリーを見つめた。


※※※


滞りなく式が終わり、ヴィオラがアメシスタス家の控室に戻ると、リーラが飛び付いてきた。


「姉様、とても綺麗だったわ。 それに、もう安心よね? ライリー様に守って貰えるものね?」

私は、彼女の頭を撫でながら答える。

「大丈夫よ。聖女様達に魔法を教えてもらったわ。自分の身くらいは、守れるようにね」


それに、もう女官として、フレイヤと共に王妃宮に私室を準備されていた。 ライリーとは、会わない。

私があの日、彼と婚約すると決めたのは、蒼の誰かと婚約するのを避ける為だった。

さすがに、顔見知りに殺されたくはない。オリバー様が、婚約者として有力候補だったはずだ。 信頼していてた上司を疑って生活するのは……しんどい。


私も彼を利用したのだ。 そのせいかはわからないが、私は聖都で自分の死に際を予知していた。


「ヴィオラ……ライリー殿に、もう少し気を許してもいいのでは?」

顔色の悪いグリシヌが、ヴィオラの言いように眉をしかめる。

「兄様、どうしたの?」

柄にも無い事を言い出したグリシヌの手を取り、回復魔法をかけた。

「ライリー様が私と婚約したのは、妹に対する愛情みたいなものよ。 それを、勘違いしたら失礼だわ」


少し顔色がよくなったグリシヌの手を、彼の膝に戻しながら伝える。

「こんな茶番は、早く終わらせないと」


呆気に取られるリーラ達を残して、ヴィオラはライリーの家族の元に挨拶に向かった。


「ライリー義兄様は、姉様に気持ちを伝えていないのかしら?」

「あの様子じゃ、伝えてなさそうだな……。蒼から守る方に気が向いて、それどころじゃ無かったんだろうな」

リーラとアドニスが、そう言いながらグリシヌに視線を寄越した。


「―――ライリーにそれとなく伝えておくよ」

苦々しい顔をするグリシヌだった。


※※※


「この頃、蒼の様子がおかしい………」

「敵対心を隠そうともしない」

「あからさまに、中立派の貴族を囲い込んでいる……」


ヴィオラが、ライリー側の控室の前に立つと、そんな話が漏れ聞こえてきた。 ドアをノックするのが躊躇(ためら)われた。


意を決してドアをノックする。 ピタリと話し声が止まった。


室内にはルーベル公爵と主要な紅の貴族、それにライリーとジョシュア、それにフェリクス国王にジョセフィーヌがいた。


何処にフェリクス国王がいたのだろうか。まったく気が付かなかった。 慌ててカーテシーをする。


「お忍びで来ているのだから、気にしなくていいよ。それより、毒の中和をお願いしていいかな」

珍しくフェリクス国王が、自ら手を差し出してきた。


彼の手を取ると、直ぐに毒の気配を感じた。 相変わらず狙われているんだ。と、ジョセフィーヌを見ると

「国王の地位が惜しくなったみたいよ」と、カラカラ笑う。


アンジェリカが姿を消してから、ルイ王子とフェリクス国王は話し合ったそうだ。 長い時間話し合い、ルイ王子に説得され、というよりは「僕に王位を譲ろうと画策するならば、史上稀に見ぬくらいの愚行を働く」と脅されたようだ。


王宮のいらぬ混乱を避けたいのならば、継承順位を守る方が良いに決まってる。


私は、気を取り直してライリーに向き直った。

「何から何まで……ありがとうございます」

彼は笑顔を返してくれたのだが、どこか遠くに感じた。


―――その後、ライリーと共にグリシヌ達やルーベル公爵、フェリクス国王の方々を見送り、王都へ戻る馬車に二人きりで乗り込んだ。


ガタゴトと馬車の揺れる音だけが聞こえていた。ライリーは頬杖をつき、窓の外をボンヤリと眺めているようだった。 彼と二人きりになるのは、領地に帰る馬車の中以来だろうか。

あの時と同じように、彼の顔を、燃えるような紅髪を夕陽が照らしていた。 私もボンヤリと婚約者となった美丈夫の形よい鼻筋を眺めていた。


息苦しい程の沈黙が続く。


私の私室で、ライリーが「こんな気持ちは始めてだ。とても苦しい」と言ってくれたような気がしていたが、この現状をみるに、私の妄想だったようだ。

一瞬でも、心をときめかせてしまった自分が恥ずかしい。


ライリーは、父に、兄に頼まれて、蒼から守ってくれているだけなのだ。


(死ぬ間際の最後の一瞬は、ライリー様の顔がいいな)

私は、ライリーの横顔を脳裏に焼き付けた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ