聖都にて・2
全てにおいて、ルーベル公爵の方が一枚上手だった。
ジョシュアとフレイヤをアメシスタス侯爵邸に向かわせ、聖都にて婚約式を行う手筈を、すでに整えていた。
その上、ヴィオラの回復を願い聖女の技を受けるという口実をつくり、しばし滞在する事まで決まっていた。
ついさっき、ヴィオラとの婚約を願い出たばかりだというのに………。
ライリーが、何度公爵に尋ねても手の内を明かさない。
そして、ヴィオラは眠ったまま、紅の竜騎士団の護衛で、聖都へと向かう事となった。
※※※
聖都はどこもかしこも白く光り輝き、神々しく見えた。
ヴィオラは眠っている事になっているので、馬車の揺れるカーテンの隙間から、聖都を覗き見ていた。
「このまま、静養予定のジョシュア様の叔母様の住まいに向かうらしいわよ」
フレイヤは、ソワソワしている。 聖女を間近で見るのは初めてらしい。
ジョシュア様の親戚、アンナ叔母様は聖女を引退し、今は後任を育てているそうだ。
アンジェリカが『アカンサス貴族学院』を卒業後、聖女認定の為、聖都に来るはずだった。
ふと、彼女の勝ち気な表情が脳裏に浮かぶ。
アンナ叔母様の住まいは、神秘的な雰囲気の漂う森の中にあった。
湿地帯を回り込むように、雪が残る石畳の一本道を進む。 寒空の下、残る木々の緑が池に反射し、エメラルドグリーンに煌めく。 その水面から、そびえ立つ樹木が神々しく映る。
沼地を過ぎると、苔むした岩肌を滑るように流れる小川が見え、深くなっていく森に、絹糸のような、柔らかな陽が射し込んでいた。 少しばかり、春の訪れを感じる。
静かな山中に、騎馬の足音がだけが響いている。
コンコン
馬車の窓がノックされ、ジョシュアが顔を覗かせる。
「もうしばらくで、叔母の家に着きます」
突如開けた雪原に、素朴な白壁の石造りの家が現れた。その家の前に懐かしい顔がある。 ―――アンジェリカだった。
※※※
前国王の手引きの元、アンジェリカはアンジェと名乗り、聖女見習いとして聖都で暮らしていた。 時折、聖都近くのアンバー城に居を移した、前国王の治癒を手伝っている。
前国王からの連絡でアンジェはここに来たそうだ。 どのような経緯で、自分がここにくる事を知ったのだろうか。
王家の情報収集能力の高さに舌を巻くが、裏を反せばヴィオラを狙う者達にバレている可能性もある。 思わず、ヴィオラは辺りを見渡す。
その不安そうな様子を察したのか、ジョシュアがヴィオラに耳打ちをした。
「叔母が気を回してくれたのですよ」
見習い聖女の教育を任されているアンナは、アンジェがユニコーンの乙女だと知っている。 そして、ヴィオラがユニコーンの乙女だとも聞かされた。
そこで、もしやと思い、前王とアンジェに相談したという訳だった。
そして、聖都には『ユニコーンの乙女』に関する文献があり、ヴィオラがジョセフィーヌの女官として王宮に上がる前に、その技を叩き込む思惑が彼らに在ることを、ヴィオラはまだ知らない。
その一端を担うアンジェは、素直にヴィオラとの再会を喜べずにいた。
「ここは、私の許可なくしては、誰もたどり着けません。なので、ヴィオラ嬢の安全はお任せ下さい」
アンナ叔母様がいうには、聖女の技の一つである結界の一種が施されているそうだ。
ジョシュアとフレイヤ、そして紅の竜騎士団が王都へと帰っていく。 今度会うのは、数週間後だ。
「さて、ヴィオラ様。 時間がありません。貴女の能力を極限まで高めたいと思います」
アンナは、聖女らしからぬ笑みをこぼした。
―――アンジェとの再会を懐かしむ暇も与えられず、
すぐさま『ユニコーンの乙女』の能力を引き出す特訓が始まった。
アンナが言うには、薬を作る要領で、魔法陣に薬の効果を持たせる事ができるそうだ。
その上、ユニコーンの乙女は、幾つかの聖女の技を使う事ができるという。
聖女候補のアンジェは『絶対治癒』からの『再生』と『結界』が使えるようになった。 また、ヴィオラも『完全中和』からの派生で『回復』や血統から『結界』も使えるはずだという。
『回復』は簡単な物ならできるので、その精度を上げる事と、『完全なる盾』が使えるのなら『結界』も使えるはずだと、アンナは言う。
「素敵なギフトを授かったのですから、有効利用しましょう」
そう微笑むアンナの目は笑っていない。私は覚悟を決めた。
(いつまでも、守られている訳にはいかない)
「宜しくご指導をお願いいたします」
―――数時間後には、ひどく後悔をしていた。




