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another story・2

侯爵の話は衝撃的だった。


ヴィオラが産まれたその日、侯爵はモノクロの未来を見た。

十八を迎える前に、娘が殺される未来だった。


そのヴィオラは、有り余る魔力のせいか、とても傲慢だった。 その性格が原因なのだろうか、()()()として、フェリクス王子の毒殺を命じられ、そして処刑された。


グリシヌが十歳になる頃だろうか、彼が侯爵に泣きついた。 ヴィオラの魔力を封印してと。

「魔力さえなければ、()にされないでしよ?」

聞けば彼もヴィオラの未来を予知していた。 しかし、魔力を封印する方法も技も存在しない。


悩み抜いたグリシヌは、暗示をかけることにした。

幼いヴィオラに、囁きかける。「魔力がないから、魔法は使えないよ」

眠るヴィオラに、泣きながらグリシヌは囁き続けた。


なぜか、ヴィオラの魔力は乏しくなっていった。 そして、グリシヌの思惑通り彼女は()()()の道を選んだ。

それなのに、ヴィオラは死の運命から逃れられなかった。


貴族学院の入学を控えたアドニスが、予知をした。 ヴィオラが二十歳頃に、フェリクス王子毒殺容疑で処刑される未来を。

―――未来は少しも変わってはいなかった。


侯爵とグリシヌは(あらが)った。 もっともらしい理由をつけて、ヴィオラを監視させる事にした。

監視されていれば、ヴィオラに毒殺容疑がかからないはずだった。


フェリクス王子毒殺事件は、起こらなかった。

ヴィオラ自身が自分を予知した事で、未来が変わったのだろうと安堵していた。

そして、フェリクス()()が誕生し、未来が変わったと確信した。


しかし、つい最近リーラが予知した。セピアに色づいた未来を。

それは、()に殺されるヴィオラだった。 彼女は二十三の誕生日を迎えられなかった。


「ヴィオラは、春には二十二になる。言ってしまえば、来年ヴィオラはこの世から居なくなる。それに、あなたは耐えられますか?」


ライリーは真剣に尋ねる侯爵に、返す言葉が見つからない。 何故なら、それがどのような感情なのか想像がつかないからだ。 寂しい、悲しいという言葉は理解できるが、今まで感じた事がなかった。 ただ、周りに合わせていた。


「私にはわかりません」


正直なライリーの返事に、細く息を吐いた侯爵は

「私達は耐えられません。 どうかヴィオラを守って欲しい。何故、蒼に殺されるのかわからないが、紅のあなたなら……」


その時、侯爵は気が付いた。応接室の入口にヴィオラが立ち尽くしている事に。


「お父様……それは、本当なのでしょうか……」

「ヴィオラ!」


※※※


ヴィオラは駆け出した。 どこをどう通ったのか……気が付けば、離れにある温室にたどり着いていた。


夏の間外に飾られていたいた、寒さに弱い植木達がが、冬を越す準備の為、温室内に所狭しと並べられていた。 その合間を縫って、小さな噴水の前にあるベンチに腰を掛けた。


「そっか……私、死んじゃうんだ」

涙が頬を伝う。


どのくらい、そこに居ただろうか。 気が付けば、とっぷりと日も暮れ、辺りは薄暗くなっていた。


私が知っている『アカンサスの花園』とは、まったく別の物語になっていた。 正直、自分が転生者であることを忘れかけていた。

きっと、この世界は俗に言う()()()なのだろう。 アンジェリカが王妃を目指さない世界線の物語なのだろう。


「せっかく逃げ切ったと思ったのに、残念だわ」


アンジェリカとの約束が、果たされる事はない。 申し訳なく思うのだが、そういう道筋なのだから仕方がない。


「後一年……トマト祭まで生きていられるかしら」


私は、踏ん切りをつけるように立ち上がった。 涙は、とうに乾いていた。


すると、ポゥと灯りが漂ってきた。 驚いて、灯りが来た方向を見ると、ライリーが顔を覗かせた。 いつから居たのだろうか。


「落ち着いた? 夕食に招待して欲しいんだけど」

近付いてきたライリーは、ヴィオラに手を差し出した。


彼の暖かい手に触れ「ねぇ、人の機微に疎いって、嘘でしょう」と問いかける。


思えば、ライリーはいつも良い頃合いでやってくる。 そして、丁度いい塩梅の優しさをくれる。

「そう? そう見えてるなら努力した甲斐があるな」

言葉とは裏腹に、ライリーはどこか乾いた笑いをした。


食堂に行くとリーラの目が赤く腫れていた。

「姉様……」

リーラは立ち上がり、フラフラとヴィオラに近付いてきた。

「姉様がサフィルス公爵邸で、魔物に襲われたって聞いたわ。予知が当たってしまったのかと、恐ろしくて……」

リーラがしがみついて離れない。そっと抱き締めると、震えているのがわかった。


※※※


早朝、まだ陽も昇りきらない内に、ヴィオラは屋敷を抜け出した。


馬を走らせ、山を登る。山の中腹あたりで馬を降り、眼下を見下ろすと、谷合に霧が溜まり、雲海を作っていた。

朝日が当たった雲海は、青紫色に波打っていた。 まるで、生き物のようにうごめく霧を、ボンヤリと眺めていたが、寒さに震えて我に返る。


私は、馬の手綱を手近な木にくくりつけ、少し荒れた山道を進んでいった。

この先には、使われなくなった坑道がある。 有毒なガスが噴出したからだった。


そして、そこは私の目的地でもあった。


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