除幕式・2
騎士団の祝砲に始まり、子供達の歌や踊りで賑やかな除幕式が行われた。
サフィルス公爵の側には、嫡男アジュール、弟セレストの他、グリシヌ、ラウル、オリバーなど蒼の貴族を代表する青年達が並んでいた。 エミリーじゃないが、婚姻適齢期の令嬢達には格好の相手達だろう。
布を外された守護聖母イマの像は、アジュール様の後ろを、ついて回っていた彼女より大人びていた。
この後、公爵邸で食事会が行われる。アジュール様や兄達は、公爵と共に慌ただしく会場を後にしていた。
去り際にグリシヌが、私に小さく手を降ってきた。
令嬢達にも、別会場になるのだが食事が振る舞われ、少し時間を置いた後、お茶会が開かれるのだ。
エミリー曰く、公開お見合いだ。
しかしながら、森の小道は狭く、一度に移動出来ない。 そのため、私達はそのまま待機していた。
いつの間にか隣にきたエミリーが、「変な匂いがする」と言い出した。 私もスンスンと鼻を鳴らすが、良くわからなかった。
しかし、他の令嬢達の間でもザワザワし始めたので、何かあるのかも知れない。
「やだ、あれを見て」
エミリーが指差した方向の茂みの中に、黄金に光る瞳が見えた。 それも、複数……。
ゆっくりと姿を現したそれらは、狼型の魔物だった。
「こんなところに?」
私とエミリーは顔を見合わす。
途端、悲鳴が上がり、子供達が私達の方に駆け寄ってくる。 令嬢達も悲鳴を上げ、逃げ出した。 森の外へと続く小道に人々が集中していく。
小道の道幅は狭く、二人並ぶのがやっとなのに。
そんな中、一部の令嬢達はその場に残り、杖を顕現させ攻撃態勢を取りだした。
魔物と令嬢達のにらみ合いが続いている状況の中、エミリーは子供達の避難を優先させ、私は令嬢達の後方で、防御態勢を取っていた。 子供達の避難が終わるまで、耐えきろうと決めていた。
魔物が飛びかかってくるのを合図に、一斉に攻撃魔法が撃ち込まれた。 あちらこちらで、魔物の断末魔の叫びが響く。
ジリジリと令嬢達は後退しだす。私は、援護するのが精一杯だった。 自分の無力さを思い知った。
その時、守護聖母イマ像の陰に、子供がうずくまっているのに気が付いた。 隣にいる令嬢も子供に気が付いているようで、視線が忙しなく動いていた。
「援護してもらえますか?」
早口で声をかけると、彼女は無言で頷いた。
「今よ!」
彼女の掛け声で走り出す。 子供を抱きかかえ戻ろうとするが、間に合わない。 目の前に現れた金色に光る目を凝視する。
(もう、ダメだ……)
私は子供をギュッと抱きしめ、固く目を瞑った。
※※※
グリシヌ達が森を抜け、食事会が開催される建物へと向かっていたその時、森の中から悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ?」
ラウルが不思議そうに、小径の奥を覗き込む。すると、爆発音と共に、動物の断末魔が響いてきた。
グリシヌは考える前に走り出した。 その後をラウルが追う。 アジュール達も続いた。
直ぐに、令嬢達の一団に出くわした。 彼女達を避けつつグリシヌが進むと、子供達を誘導しているエミリー達にあった。
彼女は一瞬、安堵の表情を浮かべたが、直ぐに厳しい顔付きに戻り「ヴィオラがまだっ!」と、叫びながら、後方を指差した。
(まともに魔法も使えないくせに、何やっているんだ)
グリシヌは憤りと共に、誇らしいと思う矛盾した気持ちを感じた。すると……
「グリシヌ、お先に」
能天気な声が、グリシヌを追い越した。 その後ろ姿はライリーだった。
ライリーはというと、アメシスタス侯爵に書簡を届ける途中、サフィルス公爵邸にヴィオラがいることを知った。
彼女が帰省する事を知っていた彼は、どうせなら一緒に向かおうと、誘う為に寄ったのだ。
(サフィルス公爵邸に、寄り道をして良かった)
そう思いながら、先を急ぐライリーだった。
※※※
いつまでも襲ってこない痛みを不思議に思いつつ、ヴィオラはゆっくりと目を開けた。 すると、彼女の目に剣を奮う紅髪が映った。
驚き声もでないヴィオラに、駆け寄ってきた令嬢が「子供をっ!」と叫ぶ。
彼女に急ぎ子供を託し、ヴィオラは立ち上がった。
「ヴィオラ、大丈夫?」
「ライリー様、なんで!?」
彼に腕を取られ、ゆっくりと小径の方へと後退していくのだが……、囲まれてしまった。
「ヴィオラ!」
「兄様!」
グリシヌと、ラウルが小径に魔物が入ってこないように、令嬢達を援護していた。
「このまま後退すると、小道に魔物を連れていく事になるなぁ」
そう呟いたライリーは、小道とは反対側にゆっくりと移動していく。
「ライリー!?」
グリシヌは驚いたものの、ライリーの意図を汲み取ったようで、後ろ髪を引かれるような表情のまま、森の中に消えていった。




