表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/64

舞踏会・2

ライリー様に連れられオリバー様の元へ向かっているはずなのだが、彼は会場の奥へと進んでいく。

「ライリー様?」

音楽が小さくなっていく。 どこまで行くのだろう。


「ライリー様?」

私は立ち止まり、もう一度彼に声をかけた。

「そんなに警戒しないでよ。僕達、婚約中でしょ?」

「そんな話は、兄から聞いていません」


彼が差し伸べる手を、思わず叩き返す。

短い舌打ちが聞こえ、彼のルビーの瞳が妖しくきらめいた。が、直ぐに光が消えた。


「ヴィオラ?」

「兄様!」


私は兄に駆け寄り、背に隠れる。 とたん、兄の顔が曇った。

「ライリー殿?」

「少しからかっただけだよ、オリバー殿が待ってる」

ライリーは、おどけた表情(かお)で両手を上げた。


案内された部屋に入ると、オリバー様が直立不動の姿勢で待っていた。

私の顔を見るなり、勢いよく頭を下げる。

「ヴィオラ、申し訳ない。私のせいだ」


彼が言うには、客室利用の申請を出したはずなのだが、向こうは受け取っていない。と言うのだそうだ。

確かに、書類は受付箱に入れたのだが、確認を怠った自分のミスだと。

「本当に申し訳ない」

「謝罪を受け入れます」


「本当にいいの?」

ライリーが口を挟む。

「見回りの衛兵に、暗闇に引きずり込まれた可能性もあるんだよ?」


確かに。想像すると身震いする。しかし、処罰は私の仕事ではない。


「後は兄に任せます」

「あぁ」


グリシヌの返事を聞いたヴィオラは、踵を返し部屋を出た。その後を、やはりライリーが追いかける。


「ねぇ、ヴィオラ。 君は強いの?弱いの?」

突拍子もない質問に、思わず私は足を止めた。

「物音に驚いて、泣いていた令嬢とはおもえないんだけど」

クスクスと思い出したように、ライリーは笑い出した。


「……ただ、感情で判断するのは良くない、と兄に教わりました。本当は怒っています。なので、兄に任せます」

「なるほどね……」

ふと優しい眼差しを向けられ、目が離せなくなる。


―――再び二人は歩き出した。 カツカツという靴音だけが、人気の無い廊下に響いていた。


会場に戻ると、一斉に視線を浴びた様な気がした。

思わず、足を踏み出すのを躊躇して、ヴィオラは立ち止まる。


もう、踊りたくないと思っていてた彼女は、魔方陣を敷く振りをしてやり過ごそうと考えた。


おもろに軽食コーナーで、魔方陣を敷き出したヴィオラを見て、彼女に向いていた視線が疎らになっていく。

ヴィオラは、ホッと安堵のため息をついた。

(流石に疲れたわ……)


すると、テーブルに飾ってあった花瓶から、ライリーが紅いバラを一輪抜きながら、ヴィオラに尋ねてきた。


「ねぇ、ヴィオラの好きな花って何?」

私は、ライリーの側にある花瓶を見ながら答える。

「そうですねぇ……その中なら、キキョウでしょうか」

「ふーん」

そう言いながら、ライリーは私の髪に紅いバラを飾り付けた。 甘い香りが鼻をくすぐる。

「ねぇ、ヴィオラも僕を飾ってよ」

唐突にそう言いうと、花瓶から抜いたばかりのキキョウを手渡してきた。 言われるままに、彼のフラワーホールにキキョウを一輪差し込んだ。


満足したように薄く微笑んだライリーは、私の手を取り会場の真ん中へと引きずり出した。


「なっ、なんですか!?」

「最後に一曲踊ってよ。そうしたら、もう踊らなくてすむと思うよ。たぶん」

そう言って、イタズラっぽく笑う。


―――私の手を取り、クルクルと私を回すライリー様は、()()()楽しそうだった。


「ライリー様は、悩み事とかあるんですか?」

「なにそれ、ひどくない? それなりに悩むこともあるよ。例えば今、ヴィオラ嬢は何を考えているか、とか」


そうだった。ライリー様は、()()()()()()()()んだった。


「快も不快もないですかね。ただ……自分のこれからに悩んでいます」

「重いね……、聞こうか?聞くだけだけど」


私は、胸をつかえを吐き出した。

フェリクス王子毒殺の罪で処刑される未来を見てから、処刑されない事だけを目標に、行動していた事。

無事、フェリクス王子が国王になった今、今後どうすればいいのか。

今まで、薬剤師として生きてきたのに、急に薬剤師の仕事ができなくなって、今までの努力が無駄になった事。

自分の存在価値が見つからない事。


気がつけば、とうに音楽は変わり次の曲が始まっていて、私はライリーに連れられ、庭園を歩いていた。

流れる様に誘導され、気が付けばベンチに腰かけていた。

そして、寝物語をするような、優しい柔らかな口調で話し始めた。


「僕は今まで、自分の存在価値を考えた事はないよ。それは、自分の人生の最後の総評だと思うから。それに、自分の出来る事を一つ一つこなしていって、それがいつか誰かの為になっていればいい、と思っているんだ」

私を見るライリーの瞳が、細く弧を描く。


「それと、僕が思うに、ヴィオラの今までの薬剤師としての知識や経験は、今後の人生の無駄にはならない。どちらかと言えば、有益だと思う」

「知らないんですか? 私が触れると薬草の効能を消してしまうんですよ? もう、薬は作れないの」

私の頬を涙がこぼれ落ちる。


「私、薬を作るのが一番好きだったんです。ただの()が、薬に変わっていくのが、それを見るのが好きだった」


背中に置かれたライリーの手の暖かさに、心の刺が涙と共に溶けていくような、そんな感じがした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ