表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/64

戴冠式・2

「ヴィオラ嬢?」

「ヒッ!」


肩を叩かれ振り替えると、ライリー様だった。 腕を取られ、引っ張り起こされた。

聞けば、カンテラの灯りが急に消えたのが見えて、心配になり、追いかけて来たのだとか。


「何かいるのです。 あのガゼボ近くにっ」


私は暗闇を指差しながら、必死に訴える。 ガサガサ物音がすると。

その時、また()が聞こえた。


ガサッ

「ヒャッ!」


思わずライリー様にしがみついた。 彼に肩を抱かれ、どことなく安心する。

ライリーが魔法を使い、カンテラに火が灯った。 その灯りでガゼボの方を照らすが、何も見当たらない。


「何もいませんよ」

クスッと笑いながら、ライリー様がカンテラを返してくれたのだが………、一度怖いと思ってしまったら、もうダメだった。 あの暗闇に、一人で立ち向かうのが。


「ありがとうございます」

「じゃ、気を付けて」

ライリーは(きびす)を返して、会場の方へ戻って行ってしまった。

心細さを押し殺し、暗闇に消えるライリーの背中を見送ったヴィオラは、気合いを入れ直す。


(よしっ)

暗闇に向かい、一歩あゆみを進める。

(大丈夫、何もいなかったじゃない)

私はなるべく早足で、ガゼボ横を通りすぎようとしていた。

その時、植え込みの向こうに何かが()()


「ッ!」

もう、声も出ない。

ガシャン!! 思わず同時にカンテラを落とし、私はその場にへたりこんだ。


数十メートル先の宮殿の入口には衛兵がいる。 そこまで走ろう。と、なんとか立ち上がり走り出したが、恐怖のせいで足がもつれ転んでしまった。

痛さと恐怖で涙が溢れ、視界が歪んできた。


「大丈夫か!?」

再び腕を掴まれた。目をこすり、顔を上げるとライリー様だった。

私は、思わず彼の胸に飛び込んだ。

「―――何かいます。あの植え込みの向こう」


指差した方向に、視線を向けたライリーは「あぁ」と言い、何かを悟ったらしい。


「送っていこう」


そう言うと、ライリーはハンカチをヴィオラに手渡した。

遠慮なく受け取ったヴィオラは涙を拭った。 微かにバラの香りがした。


宮殿の入口でライリー様にお礼を伝えると、彼は「部屋まで送ろうか?」と、艶やかに微笑んだ。

ドギマギして返答に困っていると、「冗談だよ」とカラカラ笑う。そして、耳元で囁いた。

「さっきの物音は、()()()()()()()()()()()()()


ライリーはクスクス楽しそうに笑って、会場へと戻っていった。


※※※


「フハッ」

暗闇に笑い声が響く。 ライリーは、思い出し笑いをしていた。

日頃ツンケンしている、あのヴィオラが()()を怖がって、石畳にへたりこんでいた。

それも、才色兼備(さいしょくけんび)と言われる、あのヴィオラの顔が涙でぐちゃぐちゃだった。


他の誰も見たことがないだろう。

「ククッ」

追いかけて良かった。 ()()()()が見れた。


忍び笑いをしていると、段々とカンテラの灯りが近付き、声をかけられた。

「ライリー殿!」

グリシヌだった。息も切れ切れに問いかけてくる。

「ヴィオラを見ませんでしたか?」

「あぁ、彼女なら今しがた、宮殿の入口まで送ったが?」


「良かった……」

と、グリシヌが石畳にへたりこむ。

(この兄妹は、しゃがみこむのが癖なのだろうか)

そんな事をライリーは思っていた。

「何かあったのかい?」

興味本意で聞いたライリーは、後々後悔した。


―――晩餐会が行われていた会場を通り抜け、個室に入ったグリシヌとライリーは、カチリと鍵をかけた。

テーブルには、ワインとカード、それと果実水が置いてある。


ライリーは、グラスにワインを注ぎグリシヌに渡すが、彼は首を振る。 仕方なく、果実水を入れて()()()


「ヴィオラが狙われているかもしれない」


ライリーはワインにむせた。 激しく咳き込みながら、グリシヌを見る。


「なぜ?」

「わからない。初めは気のせいかと思っていたが、今日、確信した」


アンジェリカとヴィオラが『ユニコーンの乙女』になってから、各々が一人にならないように、護衛を付ける事になっていた。

それが、なぜかヴィオラには付かない事が多かった。 調べれば、伝達ミスや行き違いだったのだが、あまり気にしていなかった。 まぁ、王宮内なので衛兵もそこかしこにいる。


しかし、今日は違う。

帰りが深夜になることもわかっていた。 今までの行き違いや伝達ミスも加味して、オリバー、ラウル、アジュールにだけ相談した。

ヴィオラが隣室で控えているのは知っていたので、帰る時にオリバーに声を掛けてもらう事になっていた。


それなのに………


オリバーに、グリシヌからだと言って、メモを渡した人物がいる。

『頃合いを見て、連れて帰る』

そう書かれたメモだった。


几帳面なオリバーが「念のため」と言って声をかけてくれたので、直ぐに追いかけてきたそうだ。


「蒼の一族の中に、ヴィオラを邪魔に思っている人物がいるのは確実なのだろう。それが、嫌がらせの(たぐ)いなら、まだいいのだが」


「それなら、部屋まで送り届けた方が良かったかな?」


何気なく言ったライリーの言葉に、グリシヌが立ち上がった。


「すまないライリー殿、付き合ってくれ」

「えぇぇぇぇ」


ライリーは、グリシヌに引きずられるように部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ