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アンジェリカの決意・2

アンジェリカは、ヴィオラが退室し、護衛騎士達も離れた所にいる事を確認した。


そして、国王の手を取りながら囁く。

「お願いがあります。お人払いを」

頷きながらも、国王は警戒心を(あらわ)にしていた。

「まずは、話を聞こうか。それと、人払いはできん」

「それならば、紅でも蒼でもない中立で口の硬い人を………」


アンジェリカは、真剣な眼差しを国王に向けた。 今、断られてしまえば、きっと自分の死期は早まる。何故か、そう感じていた。


国王は視線だけで、一人の側近を呼び寄せた。それと共に、他の人々は静かに退室していった。

アンジェリカは、国王に威厳と驚異を感じた。


「彼はシラー公爵、王妃の兄にあたる。そして、教会関係者でもある。 アンジェリカ、お前の助けとなるだろう」


先ほどとは打って変わって、祖父のように微笑む国王は、アンジェリカの頭を優しく撫でた。

国王は、()()()承知の上なのだ。彼女の頬を、涙がこぼれ落ちた。


「わたし、逃げたい」

アンジェリカは泣きじゃくった。


―――アンジェリカは、フェリクス王子から衝撃の事実を告げられた。自分をルイ王子の婚約者に据える動きがある事。

そして、それをメイジーが了承していて、自分の女官になりたいと願い出たと。

これも全て、王宮内の揉め事を回避する為だと理解していると。


「そんなの、おかしい」

フェリクス王子が、王位を継げば良いだけなのに。

魔法がつかえなくても、立派な国王であることを示せばいいだけなのに。

なぜ、彼自身は努力もせず、諦めるのだろうか。納得出来なかった。


アンジェリカには夢があった。 大聖女になって、養父のスピンタリス伯爵を喜ばせたい。そして、恩人の()の元に戻りたい。


三年間学院に通い、王族に関わらず、聖女の技を習い、あの人の元に帰る。


その夢の為に『アカンサスの花園』の運命に逆らう事を決めた。

必死に学び、()の運命に(あらが)ってきた。

それなのに―――


「陛下、私を聖都に行かせて下さい。私は大聖女になりたいのです。その為に()()に来たのに。王子妃になりに来た訳じゃない」


アンジェリカの嗚咽だけが、部屋に響いていた。


―――どれくらいの時が経っただろうか。

国王の膝に頭を乗せ、アンジェリカは静かに寝息を立てていた。


「この子を聖都に行かす事は可能か?」

「可能でしょうが、策を練らないとなりませんね」

国王の問いに、力強く頷くシラー公爵だった。


「ただ残念なのが、学院を中退してしまう事ですかね。特例で卒業扱いにできるでしょうけど。 しかしながら、聖都には他の聖女もいますから、より高度な技の習得ができるかと。なにせ、難解な『再生魔法』も理解してしまうのですから。まぁ、伯爵には事後報告となってしまうのが、申し訳ないですかね……」

「囲い込まれて、ルイの婚約者に持ち上げられよりは()()だろう。そうなる前に、なんとか逃したいものだが……」


国王は、眠るアンジェリカを眺めながら、思案する。


※※※


ヴィオラは王宮の廊下を早足で歩いていた。

(どこに行っちゃったのよ……)

どこかにいるはずの()()を捜していた。


夏の日射しが燦々と降り注ぐ中庭の木陰に、紅がチラチラ見え隠れしていた。

長い廊下から中庭へと踏み出したヴィオラは、眩しさに思わず目を瞑った。 手の甲で日射しを避けながら、紅髪に近付いていった。


「ライリー様……」

「あぁ……ヴィオラ嬢……」


紅髪のその人は、気だるげに顔を上げただけだった。

私は、拒絶されなかったのをいい事に、彼の隣に腰掛けた。

頭を抱えうずくまる彼に、兄の面影を重ねる。

そっと背中をさすると、一度ビクッと跳ねただけで何も言ってこなかった。 私は背中を擦り続けた。


「ジョセフィーヌは……活発な子だったんだ。王妃教育を受け始め、だんだんと心から笑わなくなった。いつも微笑みを張り付けて……。それなのに、その努力が………」

私は黙って背中をさすり続けた。


「ヴィオラ嬢……」

潤んだルビーが近付いてきて、コテンとオデコが肩に乗る。

私は腕を回し、ヨシヨシと紅髪を撫でていた。 なんだか可愛らしくて、フフッと笑みがこぼれる。


「ヴィオラ!!」


大声で名前を呼ばれ、背筋が伸びた。 この声は兄様だ。

ゆっくりと両手を上げ、振り替える。


「お前はまた、こんな大きな紅犬を飼い慣らして。 どうするんだ」

「紅犬って……」

ライリー様が唖然としている。が、コホンと咳払いをして、ライリーが立ち上がる。


「アメシスタス卿、夜会でヴィオラ嬢をエスコートしたい。許可してくれ」

キョトンとしていたグリシヌだったが、ライリーの言葉の意味が理解できたのと同時に、顔付きが変わる。

「断るっ!!」


兄は私の腕を掴み、ズンズンと歩いていく。

去りゆく私達に、ライリーは声を掛けた。


「ヴィオラ嬢、また明日」

そう言うと、ルビーの瞳が優しく弧を描いた。




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