新たな波紋
魔力切れを起こした後、ヴィオラは王宮の医師団に魔力を調べてもらった。
やはり、私に魔力は無かった。 正確には、人並みには無かった。
―――なぜ、魔力が増えたようにみえるのか。医師達は、散々首をひねったあげく、ユニコーンの乙女だから。という、安直な理由をつけて納得していた。
しかしながら、今後魔法を使いたいのなら、それなりの知識があった方が良いだろう。と、ヴィオラは兄から魔力操作の基礎を習っていた。
「ふむぅ。人に教えるのがこうも難しいとは……ラウルはすごいな」
兄が困っている。秀外恵中の兄でも、出来ないことがあるとわかり可笑しくなる。
クスクス笑う私を一睨みすると、兄はため息をつく。
「わかっているか? ヴィオラの出来の悪さに困っているという事を」
「……すみません」
「もう一度、学院に通うか?」
独り言のように兄が言う。
「えっ?」
卒業して三年経っている。そろそろ婚約話が出てくるお年頃の大人の女性……のはずだ。さすがに無理があるだろう。
「ヴィオラは、本薬学を専攻しただろう? 魔法についての知識も実戦も足りない」
「リーラが同級生ですよね?無理です。嫌です」
「アンジェリカとも同級生だぞ? それに……」
ユニコーンの乙女達を護衛するのに、二人一緒にいてくれる方が助かるらしい。
(そういえば、そんな話もあったな)
と思い返す。
「それに護衛もすごいぞ。アジュールにラウル、それに卒業したてのアドニスと私もつくぞ。交代だけどな」
「嫌です! そんな……この歳で年下と一緒に学ぶなんて。恥ずかしいわ」
もはや、唸るしかない。この世代の三歳差は以外にきつい。十八と二十一だ。肌のハリが………。
(アンジェリカに回復魔法をかけてもらったら……もしかしたら……)
そんな馬鹿げた考えも浮かんでくる。 仕方がない。腹をくくろう。 魔法について、学びたい気持ちが勝った。
※※※
「やだ。同級生になるの? 可笑しいんだけど」
来学期、魔法学の応用と実戦の実技の講義のみ受講する事で妥協した。
さすがに、全ての講義を受け直すのは……キツイ。
その事をアンジェリカに伝えると、ツボだったらしく笑い転げている。
国王の執務室へ向かう為、宮殿の長い廊下を歩いていた。門兵とも顔見知りになり、軽く挨拶を交わす。
前室で待っていると、ライリー・ルーベル公爵子息が顔を覗かせた。
(いつもはアジュール様が来るのに)
と思っていると
「やだなぁ。あからさまに残念がらないでよ」
と、クスクス笑う。
彼が言うには、アジュールやラウル、グリシヌはフェリクス王子の執務室にいるそうだ。
この頃、現国王の側近達から交代で、実務を引き継いでいるのだとか。 今日は自分達の日らしい。
「という事で、安心したかな? どうぞ、入って」
そう言って招き入れる仕草は、やはり優雅で無駄がない。さすが、公爵家。
「待たせたかな?」
国王はにこやかに微笑んでいた。
今月末に行われる戴冠式を、無事成し遂げたい一心の為なのか、体調が良くなっているかのように見える。
しかし、国王の手を取ると、まだ毒の気配がある。未だにどこかで、毒を摂取させられているようだ。
そして、国王の手を取り魔力を流すアンジェリカの表情は固かった。
一時よりは持ち直しているが、小健状態なのには変わりがない。
だが、戴冠式には臨める程度の体調ではあった。
再び完全中和の魔方陣を張り、フェリクス王子の執務室へと向かう。
後ろからライリー・ルーベル公爵子息とジョシュア・グラタナス公爵子息が付いてきていた。
フェリクス王子の執務室の前室で、護衛騎士に取次をお願いしていると、グリシヌが顔を出した。
「ルーベル卿とグラタナス卿も御一緒でしたか」
余所行きの笑顔を張り付けた兄だった。
「今日は人が多いな」
疲れているのか不機嫌なフェリクス王子は、書類机から立ち上がり、ソファーの指定席に腰を下ろした。
「お前達も座ったらどうだ?」
フェリクス王子が、少し恐縮している私達に声を掛けてくれた。
すると、ライリーが私の手を取り流れる様にソファーへとエスコートしてくれる。 アンジェリカも同様にジョシュアにエスコートされていた。
公爵というものは、エスコートの神なのだろうか。
感心したのも束の間、ライリー様がちゃっかり私の隣を陣取り、仰々しく話しかけてきた。
「アメシスタス嬢、君の兄から許可をもらえたよ。改めて、我が領地の催しに招待するよ。フレイヤ嬢も来るはずだから、きっと楽しいよ」
―――空気が張り詰めたような気がした。




