きっかけ・3 ~ラウルの危機
「グリシヌを呼んでくれ」
ヴィオラを抱き抱えたラウルは、騎士とすれ違い際に、そう頼んだ。
真っ青な顔で騎士団の医務室に駆け込んだラウルは、ヴィオラを寝台に寝かす。
「魔力切れを起こしたようだ」
薬師にそう告げると、ラウルは頭を抱える。
(まずいぞ。グリシヌが怒る)
医師が回復薬をヴィオラの口に流し込むが、効果が現れる様子がない。
「もしかして、回復薬の効能も中和してるのではないですか? 」
薬師の彼女は、植物園での一件を知っていた。
植物園の薬草の効果も、薬の効果も全て打ち消してしまうので、ヴィオラは、薬剤師の任を解かれたのだ。
「ラウル!どう言うことだ」
不機嫌に駆け込んできたグリシヌに、ラウルが手短に状況を説明すると、グリシヌはヴィオラの傍らに座り込み、手のひらから魔力を流し始めた。
しばらく魔力を流し続けると、ヴィオラの瞳が微かに開いた。 室内に安堵のため息が漏れた。
「兄様……」
「ヴィオラ、気分はどうだい?」
「―――悪くわないわ……。少し、ムカムカするかしら?」
安心したグリシヌは、ヴィオラの薄紫の髪をかき上げ、おでこに唇を落とした。
「で、ラウル。どういう事だ?」
振り返りラウルを睨むグリシヌは、今まで誰も見たことの無い程の、鬼の形相だった。
「ヒッッ」
薬師が短い悲鳴を上げる。
「やっ……。ヴィオラに魔力があるのを確かめたくて……、ちょっと……やりすぎましたっ!!」
ラウルはジリジリと後退し、一目散に部屋から逃げ出した。
「まてっ!!」
直ぐにグリシヌが後を追う。
「なっ……何?」
入れ違いにアンジェリカが顔を出し、驚いたように走り去る二人の背中を見送っていた。
「聞いたわよ。いっちょまえに魔力切れですって?」
クスクス笑いながらアンジェリカが、回復魔法をヴィオラに施していた。
「そうなの。私、魔力があったみたい。今度は、攻撃魔法を教えてもらえそうよ。まぁ、その前に防御をしっかり学ばないと。だけど」
「ヴィオラ、あなたもようやく生きる目標を見つけたみたいね」
「そんな、たいそうな物じゃないわよ」
私は、キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないのを確認した。 そして、アンジェリカの耳元で尋ねた。
「ねぇ、ルイ王子に落ちたの?」
「なっ……!」
アンジェリカの頬が、パッと朱に染まった。
(そうなのか……アンジェリカ程の意志の強さを持っても、王族の魅力に絆されてしまうのか)
ある意味、私は感心した。
「詳しく話す事はまだできないんだけど……絆されていないわ。そこは大丈夫。ただねぇ………」
そう言って、アンジェリカは一点を見つめていた。
「何かあるの?」
「ねぇ、今、気分はどう?」
急に尋ねられて少し驚くが、「何ともない」と答えると「今からフェリクス王子の所へ行こう」と言い出した。




