きっかけ・2
孔雀石騎士団の片隅に、今日も砂煙が上がっている。
そして、私はやっぱり砂だらけ。 ラウルの高笑いが聞こえる。
「もう、諦めて大人しく誰かの嫁になれ。お前に魔法使いは無理だ」
「誰も魔法使いに成りたいなんて言ってないわ。自分の身を守れる様になりたいだけよ」
私はユニコーンの杖を構える。
「旦那に守ってもらえばいいだろ?」
ラウルの攻撃が飛んで来る。
「なんで、人に守ってもらわないといけないのっ」
着弾点を見定めて、防御シールドを展開する。 いくつかは防げたものの、やはり避けきれない。
「グッッッ」
へたり込む私にラウルは手を差し伸べながら、子供を諭すように、優しく語りかけてきた。
「ヴィオラ、もう十分だろ? 騎士をつけてやるから……」
ピシャリとその手を払いのけ、私はフラフラと立ち上がった。
「馬鹿にしないで。私は運命を変えたいの。黙って殺されるのなんて、ごめんだわ」
「殺されるって、誰にだよ」
ラウルは少し苛立った様子で、私の腕を掴む。 その腕を再び払いのけながら、彼を睨み付けた。
「知らないの?私、予知ができるのよ」
「だから、誰に殺されるんだよ!」
ラウルが、私の肩を掴み揺さぶってきた。
「―――あなたよ」
「えっ!?」
ラウルが目を見開き、私を見つめた。 信じられないとでも言いたげな様子で、フラフラと後方に下がる。
「まぁ、その予知は変わったみたいだけど、誰かに殺されるのは決定しているみたい。今のところ」
呆然と座り込んでいるラウルに、今度は私が手を差し伸べた。
「なぜ、俺がお前を殺したんだ?」
ラウルは私の手を取り立ち上がったが、やはり気になるようだ。
「最初の予知は、フェリクス王子毒殺の容疑で処刑されたの。 その、執行人の中にあなたがいたわ。 仕方ないわよね、孔雀石騎士団の隊長だもの」
ラウルの顔を覗き込み、「だから、仕方ないわ」と声を掛けようとしたのだが、ガバッと急に抱きすくめられた。
「俺は知っている。ヴィオラはそんなに事をしない。絶対に。翠玉に誓う。俺はお前を殺さない」
「ありがとう。でも、象徴に誓うのは良くないわ。まだ時間があるなら、もう少し特訓してくれると嬉しいんだけど」
そう言いながら、ラウルの青緑の髪を、グシャグシャにかき混ぜた。
「まだ、殺される未来は変わっていないんだな?」
「アンジェリカが言うにはね。私には見えないけど」
「ふーん」と納得したのか不満なのか、わからない表情のまま、ラウルは距離を取る。
「じゃ、仕切り直しだ」
ニヤリと笑ったラウルが攻撃し始めた。 先ほどとは、威力もスピードも違う。 やっと防御が形になってきたと思っていたのに、手加減されていたのだ。
「ラウル! ぜんぜん違うじゃない!」
集中して防御シールドを張るが追い付かない。
「ヴィオラの命が懸かっているなら、ちゃんと指導しないとな」
―――何度吹っ飛ばされただろうか。もう、疲れ過ぎて痛みも感じない。気付けば、騎士達が遠巻きに見ている。いつもなら、とうに「馬鹿馬鹿しい」と、切り上げているハズなのに、今日に限っては、終わる気配がない。
「ヴィオラ、そろそろ反撃もしてみたらどうだ」
「馬鹿なの?私、魔力ないのよ?」
一際多きな爆発音が響いた。私の防御シールドが弾け飛ぶ。
「ヴィオラ、気付いていないのか? お前、魔力あるよ。やっぱり」
「えっ?」
「座学で学ばなかったか?攻撃よりも防御の方が、魔力の消費が激しいって。もう、どれだけ防御を続けてる?」
肩で息をしながら、空を見上げると太陽の位置がかなり高い。特訓を始めたのは、まだ朝だった。
「そして、魔力を使いきると少しずつ魔力は増えていく。基本だな」
「ラウル……私……」
ヴィオラは、自分の手のひらを見つめた。
「あぁ。たぶん、攻撃魔法も簡単な物なら撃てるはずだ。ヴィオラが本気なら、俺も本気で相手をするさ。運命を変えるんだろ?」
「あんた、良い奴だね。 想い人も気付くといいのにね……」
急に視界が暗くなった。
(この感じ、前にもあったなぁ………)
ラウルの叫び声が、遠くに聞こえた。
明朝9:00




