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対策

「姉様が寝込むって、珍しいわね」

妹のリーラが、ベッドサイドに座っている。


―――リーラこそ、完全たる()()でストーリーには出てこない。 一度、ヒロイン『アンジェリカ』が、我が家で開かれた『紫水晶(アメシスト)の貴公子・アドニス』の誕生日パーティーに招かれた事がある。 その時、中庭で顔を合わせただけだ。


そして、その時『アンジェリカ』は『アドニス』にこう言うのだ。


《お姉様の事を気に病むことはないわ。貴方は一生懸命、冤罪を晴らそうと努力したわ。貴方のお蔭で彼女の名誉は回復できたのよ?》


私は王太子を毒殺した疑いで処刑されるのだ。 もっとも、死後に冤罪だったと判明し、名誉回復するのだが。


『アドニス』は姉の冤罪を晴らす事が出来ず、死なせてしまった事を悔やみ心を閉ざすのだ。

その心の傷を『アンジェリカ』が癒し、攻略する。


「リーラ。私、もうすぐ冤罪で処刑されるわ……」

「姉様……?」


私はクッションをギュッと抱き締める。

『アカンサスの花園』で『アドニス』に姉は()()()()()。そして、第一王子も()()()()()

『アンジェリカ』がいつ『アドニス』を攻略するのかわからないが、早ければ明日にでも第一王子は毒殺されるのだろう。そして、私は処刑される。


「王太子毒殺の疑いをかけられるのよ」

「毒殺って……、王族を毒殺する事なんて、一侯爵令嬢には無理よ」

「私には()()だわ」

「でも、姉様はいつも監視されてるじゃない……また、()()?」

「私、誰かに()められるみたいだわ」

私はリーラの青紫の瞳をジッと見つめた。


※※※


私、ヴィオラ・アメシスタスは魔力が少ない。その為、アカンサス貴族学院で本薬学を専攻し、王立植物園の研究員になった。


アメシスタス家が防御を得意とする家系だからなのかか、紫水晶(アメシスト)の加護なのか、()を感じる事ができ、解毒に天賦の才を持っていた。

解毒の研究には、必然的に()の知識も必要で、日常的に毒薬を扱っている。 なので、常に三人の騎士が私を見張っている。


直感的に()を見抜く才を買われ、国賓を迎えた時など、食事の席に招かれる事もある。

そんな私だからこそ、第一王子毒殺の疑惑を掛けやすいのだろう。


ここが『アカンサスの花園』の世界ならば、第一王子が毒殺される事も、私が処刑される事も決定事項だ。 それは、変わらない。

第一王子が退()()しなければ、物語が始まらないのだ。


(ん?―――始まらない?)


「姉様、なんとかならないの?」

リーラは涙ながらに私の手を握る。

「策はあるかも……」


そうだ、物語が始まらなければいいのだ。第一王子の『フェリクス』が毒殺されなければいいのだ。


「フェリクス王子の毒殺を止めるわ」

そう宣言して、私は妹の手を強く握り返した。


※※※


そう宣言したものの、具体的に何をどうしたらいいのか、さっぱりわからない。

とりあえず、今から兄・グリシヌのエスコートで誰だかの歓迎会に参加しなければならない。


私は数人の侍女に取り囲まれ、アメシスタス家の象徴である紫水晶(アメシスト)色が基調のドレスを身に纏う。


鏡に写るヴィオラは、やはり弟妹と同じ薄紫の髪色に青紫の瞳をしていた。『アカンサスの花園』に登場しない私でさえ、これ程の淑女ぶりなのだから、悪役令嬢の『マーガライト侯爵令嬢』は羞月閉花(しゅうげつれいか)の令嬢なのだろう。

一度お会いしてみたいものだ。


仕上げにラベンダーの香を纏い、エントランスへと向かうと、兄のグリシヌが待ち構えていた。

儀礼服を着た兄は、スラリとした長身で立ち姿も美しい。 彼もこれ程の眉目秀麗なのに()()()()()ではない。


「リーラが泣いていた。困った()()があったようだね」

「えぇ。詳しいことは馬車の中で」


差し出された手を取り、馬車に乗り込んだ。


※※※


「―――という事なのですが、何かいい策は思い付きますか?」

「なるほど、フェリクス王子が毒殺ねぇ……」

兄は腕を組み、首を傾げ視線を上げた。

「その時期は、わからないのかい?」

「今のところ、サッパリです。どんなに遅くても一年以内だと思うわ」

「早ければ?」

「今日にでも……」

沈黙が続く。


「王子の毒殺も問題だけど、僕としてはヴィオラの処刑の方が重大だよ」

兄は、私の頭に手を乗せる。トントンと軽く指で叩く仕草をしながら、再び考え込んだようだ。


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