私の人生・4
「僭越ながら、一つ提案をさせて頂いてもよろしいでしょうか」
ヴィオラは、一歩前に出た。
実は、運命を変えるために努力を積み重ねた事がある。 魔方陣を利用した魔法の定着だ。
「完全中和」
私の足元に現れた魔方陣が、ゆっくりと広がり部屋全体をおおう。床全体が白く光り輝いて、そして魔方陣が消えていった。
「これは、いったい……」
「殿下。 この部屋全体に『完全中和』の魔法を掛けました。数日程度は、どんな毒も無効化されますので、解毒剤はここでは飲まないで下さい」
「ヴィオラ、これは……寄生だな?」
兄のグリシヌが、自分の手のひらを眺めながら、そう尋ねた。
「えぇ、つたに閃きました。その場にいる人々から、少し魔力をお借りしてます」
「なるほど。良い着眼点だ。 これくらいの魔力ならば、気付かれない上に何の問題もないな」
ラウルも感心したように、手のひらを握ったり開いたりしている。
「えぇ。なので、食堂と国王と王太子の執務室に魔方陣を敷けば、ある程度の毒は防げるかと」
「いいだろう。許可する」
フェリクス王子が、頷いた。
「ありがとうございます。それと、この部屋には兄様達も、留まる事は多いのですか?」
「まぁ、それなりに打合せはするからね。あぁ、僕らも毒に犯されているんだね」
物分かりの良い兄で助かった。 早速、兄の手を取ると、やはり微量だが毒を感じた。
続いてアジュール様の手を取る。兄よりもかなり多めの毒を感じた。
「ありがとう。ヴィオラ嬢」
至近距離で、美形を観賞できるなんて幸せだ。
次はラウルだ。すると、ラウルは拒否する。
「俺はいい。今日はいい。明日、魔法の訓練の時に頼む」
そう言うと、逃げるように部屋を出ていった。
「そんなに私が嫌なのか?」
なんて失礼な奴なんだろうか。しかし、アンジェリカの考えは別のようで、しきりに感心していた。
「ヴィオラの魔力切れを心配してるのよ」
「さすが、幼なじみだな。ヴィオラ、お前は魔力が乏しいのを忘れたか?」
そうだった。すっかり忘れていた。言われてみれば、少し身体が重いような気がする。
「ヴィオラ、今日はもう、帰りなさい。送っていこう」
オリバー様が、私の肩を押す。
「私も、寮に戻るわ。途中まで、一緒にいいかしら」
※※※
ヴィオラ達が退室した後、フェリクス王子は深いため息をつく。
「そんなに急がなくとも、王位はルイに譲るつもりでいるのに」
「殿下……」
アジュールが困ったように、フェリクス王子を見る。
「お前達も災難だな。年頃が近いからと、私なんかの側近に命じられて。こんな、魔力のない出来損ない王族に仕えても、なんの意味もない」
「それならば、何故、戴冠式に賛同したのですか?」
そう、尋ねながらグリシヌは、隣室の扉を開け、詰めていた侍女に飲み物を頼んだ。
「ルイはまだ、成人していない。国王の死後、国内に争いが起こるのは望んでいない。そう、言わなかったか?グリシヌ。 私は、それまでの繋ぎだと」
「しかし、ルイ王子はそう思っていないようですよ?」
最近のルイ王子の奇行は、フェリクス王子の回りにも聞こえてきていた。
アンジェリカを追い回すだけでなく、「ユニコーンの乙女、アンジェリカこそ私の婚約者に相応しい」そう、言っているのだとか。
以前のルイ王子ならば、婚約者がいるのにも関わらず、他の令嬢に興味を持つなんてあり得なかった。
彼なりに、マーガライト侯爵令嬢を知ろうと、交流を深めていた。 それなのに、今さら……。
「誰が考えても、おかしいですよ。まるで、自分は国王になる資格はない、と知らしめているようだ」
ソファーに座ったグリシヌは、チラリとフェリクス王子を見やりながら、入れたての紅茶に口を付けた。
「魔法の使えない、魔法王国の国王なんて、ありえるか?」
ドサッと音を立て、フェリクスもソファーに座り、紅茶を一口飲む。そして、いまだソファーにも座らず、立ち続けているアジュールに声を掛けた。
「お前は飲まないのか、アジュール」
「いえ、自分は……」
「大丈夫だよ、アジュール。毒は入っていない」
グリシヌがアジュールのカップを持ち、銀のスプーンでクルクルとかき混ぜる。
「ほら。大丈夫だ」
スプーンが変色していないのを見せた。
「………」
アジュールは、グリシヌの隣に腰を下ろすと、無言でカップを受け取った。
「それにしても、お前達は面倒だな。 これからは、ヴィオラ嬢に解毒してもらえばいいさ。口実は出来た」
クックッとフェリクス王子は笑い出す。
「ルイが王位を継ぐのは構わないが、懐柔されるのは困る。ルイには平和な王宮を残してやりたい」
フェリクスは独り言の様に呟いた。




