表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/64

私の人生・3

国王の間を出たとたん、アンジェリカが耳元で囁く。

「まだ、毒を盛られているの?」

「えぇ。まだ毒の気配があるのよ。毎回、消滅しているのを確認しているのにね」

「フェリクス殿下に王位を渡したくないって事なのこしら?」

「それはおかしいわ。もう、次期国王はフェリクス王子だと宣言したもの」


王太子の間へ続く廊下の途中で、アンジェリカは立ち止まると、ヴィオラの腕を取った。

「ヴィオラ、死なないでね」

急に何を言い出すのだろう、と思っていると、彼女の頬を涙が伝う。

「おかしな事を言うわね。 確か、人はいずれ死ぬのものよ。って言ってなかった?」


アンジェリカの涙を指で拭いながら、私は微笑んだ。 覚悟とまではいかないが、()にしがみつく、私の人生を歩む。そういう思いだけはあった。


「嫌な予感がするのよ。『アカンサスの花園』の強制力なのかしら? 何か……」

私は、アンジェリカの細くか弱い肩を抱いた。 大人びていた彼女の、弱い部分を垣間見れたような気がした。

「大丈夫よ。アンジェリカを見習って『アカンサスの花園』に抗ってみせるわ」


再び私達は歩きだした。


「ルイ王子はどうなのよ」

私は話題を変えた。 分かりやすく不愉快な表情を浮かべたアンジェリカは、吐き捨てるように答えた。

「あいつ、ウザイ」

その変わりように、クスッと笑ってしまった。


※※※


王太子の間に入ると、相変わらず不機嫌なフェリクス王子が待ち構えていた。


「ずいぶんと楽しそうだな」


廊下の笑い声が、ここまで聞こえたのだろうか。


「申し訳ありません」

「まぁ、別に良いけど」


フェリクス王子は、目の前のソファーを指差した。

「殿下……」

その場にいたアジュール様が、呆れたように嗜めたが、当の本人は、知らん顔だ。

私達は、笑わないように気を付けながら、示されたソファーに腰を下ろした。


「それでは」と断り、フェリクスの手を取ると、やはり毒の気配がある。

探るように見つめているアンジェリカに、頷いてみせた。

「アジュール様、人払いと側近を集めて頂けますか?」

「それと、オリバー様もお願い致します」

私はフェリクス殿下に『完全中和』を(ほどこ)しながら頼んだ。


※※※


「それで、この忙しい俺達を呼びつけて、何を言いたいんだ? ヴィオラ」

「私の可愛い妹に会えるんだ。感謝して欲しいね、ラウル」

相変わらず、私が絡むと不機嫌なラウルだった。


コホンとアンジェリカが咳払いをした。 すると、ラウルは姿勢を正す。

(なんだか気にくわない)

睨むようにラウルを見ていると、その視線に気付いた彼は、フンと鼻を鳴らすような仕草で、視線をかわした。


「国王陛下、それにフェリクス殿下。相変わらず毒を摂取しているようです」


アンジェリカの声が部屋に響く。


「―――毎日、『完全中和』を(ほどこ)しているのにか?」

兄が、驚いたように尋ねる。 オリバー様は、絶句していた。

「いったい、いつ……」


「殿下、部屋を見て回ってもよろしいでしょうか」

私がフェリクス王子に許可を求めると、「好きにすれば」と、まるで気にしていない。


なぜ、そんなにも投げやりなのか不思議に思いながらも、部屋の中を歩き回る。 気になっていたのは、花瓶の花とテーブルの上の水差しだった。

触れてみると、思った通り()の痕跡があった。

しかし、飾られた花は()を持つような花ではなかった。 変わった色のバラだった。


「この花瓶の水と水差しには、毒が混入しています。たぶん、気化して空気中に毒素があるんだと思います」


昔から、毒殺に使用されている()()を感じた。しかし、自然界に当たり前の様に存在していて、単体では基本()としては扱われない。

この鉱物を加工して気化できる様にし、微量を長い期間をかけて摂取させ続ける、その手間と根気は並大抵の物ではない。


静かなる殺人者(サイレント・キラー)か……」

「おそらくは……」


オリバー様が唸る。

解毒剤はある。しかし、そんな長期間をかけて、国王とフェリクス王子を、毒殺しようとする、その執念が恐ろしい。

いったい何時(いつ)から、毒を摂取しているのだろうか。


呼び鈴をフェリクスが鳴らすと、直ぐに護衛騎士が現れた。

「この水差しと、花瓶を準備した侍女を呼べ」

抑揚の無い声で、威圧的に護衛騎士に指示する。が、アジュールとオリバーが静止した。


「殿下。 侍女達は何も知らないと思います。 この部屋には許可さえあれば、誰でも入れますから」

「それに、殿下の身の回りの物は、全て確認されてから持ち込まれています」

「………」

フェリクス王子は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ