ギフト
祝賀行事が終わり、いつも通りの日常が戻ってきた。 私はオリバー様に、アンジェリカの考えを伝えた。
『少量の毒を摂取させ続ける事で、薬物中毒症を起こさせる』
「少量の毒を摂取して、慣れてもらう事はあったが、中毒か……」
「えぇ。直ぐ死んでくれればラッキー。そうでなくても、いずれは……ということでしょうか」
そこで、定期的に解毒剤を服用する事と、ヴィオラによる『完全中和』を行う事を、王の主治医に提案する事にした。
王の宮殿に向かう途中、アジュール様と出くわした。
「ヴィオラ嬢、申し訳ない。 議会で、あなたの護衛の件は、却下されてしまった。 そもそも騎士を疑うな。という事らしい。 まぁ、もっともな話なのだが……」
気まずそうな表情で、そう伝えてきた。 そもそも、護衛をしてもらっている立場で、彼等を疑うのも失礼な話だ。
でも、彼等は国王に忠誠を誓っているわけではない。 領主に命令されれば、躊躇無く手を汚すだろう。
「問題ないです。もう、毒殺の疑いをかけられる事は無いはずですから、処刑される事もないでしょう」
そうなのだ。私が毒と認識して触れたものは、ことごとく中和されてしまう事がわかった。 お陰で、毒殺をする事はできなくなったが、薬を作る事も出来なくなった。
全ての薬効を無効化してしまうのだ。 微妙な量で毒にも薬にもなるものだから、どうしても無意識に毒を意識してしまう。
植物園でも、薬草に触れてしまえば効能を消してしまうので、手入れも出来ない。 近々私は、薬剤師の任を解かれる予定なのだ。
そして、薬剤師を解任された私に、もう騎士の護衛はいらない。
「ですから、気になさらないで下さい。 お気遣いありがとうございます」
一礼して、オリバー様の後を追う。 薬剤師を解任された後は、そのまま王宮植物園職員として、オリバー様の側近を勤める事になる予定だ。
※※※
王の宮殿の衛兵に、王専属の主治医に取次をお願いしていると、王専属侍女だろうか、小走りで駆け寄ってきた彼女に、ちょうど私達を呼びに行く所だったと教えられた。
王の間の隣室に入ると、アンジェリカも控えていた。
「良かった。早速で悪いけど、陛下に『完全中和』をお願いしたいの。そうでないと、治癒できないみたいで」
彼女は心底安心したように、そう告げた。
―――アンジェリカは『聖女』認定されたからといって、日常を変えることはなかった。
今日も変わらず、いつも通り敷地内の寮からアカンサス貴族学院へと向かい、いつも通り授業を受けていた。
『聖女』になった事で、声を掛けてくる生徒は増えていたが、今まで通り一人で図書館に籠っていた。
すると、王宮から急ぎの呼び出しがかかり、来てみれば国王の体調が急変したと聞いた。
ユニコーンのギフト『絶対治癒』を施してみたが、いったんは治癒したようにみえるのだが、時間が経つと元に戻ってしまう。
困り果てたアンジェリカは、ヴィオラの『完全中和』が必要だと、使いを頼んだ。
※※※
私は主治医の許可を得て、意識が無い様子の国王陛下の手を取り『完全中和』を施した。 パァーっと国王陛下の身体が光に包まれる。 これで、体内の毒素は中和されるはずだ。
続いてアンジェリカが『絶対治癒』を施す。 同じように国王陛下の身体が光に包まれた。
「―――ここは」
目を開けた国王陛下は、キョロキョロと不安げに回りを見渡した。
「陛下!」
「お加減はいかがですか?」
国王陛下が言葉を発すると、回りにいた側近や主治医達が、口々に声をかけていた。
アンジェリカは難しい顔をしていたが、一先ず安心だろうと、私は胸を撫で下ろした。すると、肩を叩かれ振り替えると、オリバー様が手招きをしていた。
「どうかしましたか?」
「フェリクス殿下に話をした。 念のために殿下にも『完全中和』をお願いしたい」
オリバー様の視線の先には、青白い顔のフェリクス殿下がいた。
それならば……と、アンジェリカに声を掛け、一緒に来てもらうことにした。
隣室で、椅子に座るフェリクス殿下に『完全中和』を施す。続いて、アンジェリカが『絶対治癒』を施した。
心なしか、顔色が良くなったように見える。
国王陛下の手を取った時にも感じたが、二人とも確実に毒に犯されていた。 いままで、何のために毒を警戒していたのだろうか。 結局、役に立たなかった。
―――悔しくて拳を握る。
まだまだ、知識が足りない。もっと、『毒』について学ばなければ………




