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誕生祭・2

彼女が言うには、ユニコーンに『絶対治癒』をギフトされたそうだ。そう言いながらも、寂しそうに笑う。


「そのユニコーンに未来を見せてもらったの。私が必死に変えようとした、私の未来。でも、それは私の望む物じゃなかった。結局、()()なのよ」

「どういう事?あなた、ルイ王子と婚約するつもりはないのでしょ?」

「えぇ、王族とは関わりたくないわ」

「それなら、なぜ? 結局、私は処刑される運命って事なの?」

「処刑かはわからないけど……。結果は、変わらないかもね」

「フェリクス殿下は? 私は殿下を救えるの?」


そうだ。結局、私が死んでしまうなら、フェリクス様も毒殺されるのだろうか。

しかし、アンジェリカは答えない。テーブルの上の水差しの中の果実水を、グラスに注ぎだした。


「ねぇ、あなたは()()()()()ことができるのでしょ?」

「えぇ」

「でも、少量なら()にならない物は、感じられない。そうよね?」

「えぇ、少量ならば薬効になるものも………」


彼女が注ぐグラスから、果実水が溢れだした。


「ねぇ! こぼれてるわよ」


慌てて彼女の手を止めようとして、ハタと気付いた。 少量の毒を服用し続けたら? 毒物中毒? そのような毒物があるのだろうか。


「―――中毒」

「そうゆうこと。 定期的に中和をした方がいいわよ。念のためにね」

そういいながら、彼女は右のこめかみを押さえつける。

「もしかして、予知してるの?」

「………」

彼女は目を閉じ、黙り込む。


「ダメだわ。やっぱり私達、死んじゃうみたい」

そう言うと、アンジェリカは溢れてしまったグラスの果実水を口に運んだ。 彼女の喉元を水滴が伝う。


()()()()。ものすごい脅威じゃない? あなたの()()()()も。悪巧みをする連中にとっては、邪魔な能力よね」


考えてもみなかった。 『ギフト』の力で、フェリクス王子を毒殺から救える。その事しか、考えていなかった。

私達は『ギフト』の為に、命を狙われる事になるのだろうか。


湖から霧が立ち込めてきた。 ゆっくりと辺りを包み、全てがおぼろ気になった。


「私、ユニコーンに会った事にしてね」

アンジェリカは、口元の水滴を手の甲で拭う。

「無理よ。証明しようがないわ。すぐに、バレるわよ」

クスッと笑った彼女の手に、忽然(こつぜん)と杖が現れた。 ヴィオラが入手したユニコーンの()()()とまったく同じだった。


「言ったでしょ。私もユニコーンに会ったって」

そう言うと、不敵に微笑む。

「どうあがいても、私は国民に()()()()運命みたいだわね。わたしは()の人生を(あゆ)むわ。『アカンサスの花園』なんて、知った事ではないわ。」

「何をするつもりなの?」


私の問いに答えること無く、彼女は杖を振る。 すると、霧が集まり()()()()()の姿になった。


―――その日、霧が立ち込めた湖の畔に現れたユニコーンは、()()アンジェリカに近寄ると、霧のように姿を消した。

そう、語られている。


※※※


翌日、王宮のバルコニーで、国王から国民へ、アンジェリカは『聖女』である。と発表された。 聖女は、ここ何年も誕生していなかった。 いまだ、魔物の脅威に怯えていた国民達は、狂喜乱舞(きょうきらんぶ)の有り様だった。


アンジェリカが言うには「魔物は居なくならない」そうだ。 数は減らすことができても、絶滅はしない。

「人間だって、絶滅しないでしょ?」


「『聖女』が存在していれば、自分達は安泰なんて馬鹿げた思考だわ。 私が居たところで、世界は変わらない。 だって、私は『絶対治癒』の能力しかないのだもの。魔物となんて、戦えないわ」

とも言っていた。

「ヴィオラ様、あなたは()()()()()?」

そう、尋ねられた。


妹と同い年のはずなのに、まるで年上のような思考のアンジェリカ。 彼女は幻想を抱いた国民に、神秘的な微笑みを向け、バルコニーに立ち続けていた。


どんな思いで、手を振り続けているのだろうか。


※※※


―――夕刻から始まった舞踏会では、聖女の話で持ちきりだった。しかし、当の本人は『デビュタント前だから』と欠席していた。


そんな所も『アカンサスの花園』のヒロインとは違う。アカンサスのアンジェリカならば、ルイ王子を伴って、颯爽と登場しそうだ。


変わりに、養父のスピンタリス伯爵の回りに、人垣ができていた。 人々の関心は、アンジェリカの生い立ちのようで、根掘り葉掘り質問されていた。


私の回りにも、アンジェリカの話を聞きたそうな貴族達が、遠巻きにしていたが、兄とオリバー様が、がっつりガードしてくれていた。

だが、二人は噂好きの貴族だけを気にしているわけではなさそうだった。


ヴィオラは不思議に思いながらも、久しぶりに再会した友人達と楽しい一時を過ごしたのだった。



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