中編
それから数ヶ月後。隣国との戦争が起きた。
不幸中の幸い、小競り合いというか小規模にとどまっているのだが、死傷者が大勢出ていることには違いない。
私は大神殿長の反対を押しきって戦場の手前まで駆けつけ、そこで次々運ばれてくる兵士達の癒しにあたった。
慈悲からでなく、ぶっちゃけ自分の評価を上げるのにうってつけの場面と思ったからだ。
私は寝る間も惜しんで癒した。
幸いなことに、ヒロイン設定のおかげか私の聖魔法の素質や才能は桁外れで、鍛えつづけた今では一日に数十人を癒しても、まだ余裕がある。
負傷者を癒しつづけて、空き時間に兵士達の遺体に祈りを捧げる日々を送っていると、ある人物と再会した。
例の、悪役令嬢のとりまきの一人、騎士団長の息子だった。
あの入学式の時に、
『わかったらセレス嬢に近づくなよ、尻軽女。セレス嬢はお前のような性格ブスとは違うんだ』
と、あの中で一番頭の悪い罵倒をしてきた、赤毛の青年である。
彼も未来の騎士団長として、小隊を率いてこの地に派遣されていたのだ。
もともと大柄な青年だったが、今はさらにたくましく成長して、スポーツマン系というか、乙女ゲームではあまり人気の出ないタイプに変化しており、漫画でも、主に悪役令嬢や王太子の盾役とコミカルなシーンを担当して、読者から見ても「本命にはなれないポジションだな」と思わせるキャラクターだった、気がする。
その騎士団長の息子が戦場で怪我を負い、私のもとまで連れて来られたのだ。
正直、思うところはあった。
が、今は緊急事態。なにより彼は指揮官としては優秀らしく、ここで彼が脱落した場合、部下の兵士達が無用に命を落とす羽目にもなりかねない。
私は団長の息子のためというより彼の部下のため、騎士団長令息を癒した。
そして用が済んだあとは二度と関わるまい、と心に決めていたのだが。
「俺のものになれ」
「は?」
癒しと祈りが一段落し、空いた時間で一休みさせてもらおうかと、あてがわれた個室に戻ろうとしていた時。人気のない廊下で待ち伏せされ、例の騎士団長の息子に告げられた。
「この数週間、兵士を癒し、葬儀で死者に祈りを捧げるお前をずっと見てきた。お前はたしかに、尻軽だったあの頃とは違う。性根を鍛え直すためにどれほど努力を重ねたか、俺にはよくわかる。今のお前は『聖女』の名にふさわしい、よくやった。俺の妻になれ、アリシア・ソル。今のお前にはその資格がある」
「要りません、そんな資格」
私は背を向ける。
しかし相手は追ってきた。
「卑下することはない。平民といえど、これだけ実績があれば貴族の妻として迎えるのにふさわしい」
「嫌です!」
私は逃げるが、神官のローブの裾は床につきそうなほど長いため、走ることができない。せいぜい早歩きだ。
相手は長身なだけあって足が無駄に長く、大股で余裕で追ってくる。
筋肉質な腕をあげ、力ずくでこちらをつかまえようとしてきたので、叫んだ。
「あなたは、セレスティナ嬢に忠誠を誓っていたのでは!? 私を嫌う彼女が、今のあなたの言葉を聞いたら、どれほど傷つくことか!!」
「!!」
騎士団長の息子の動きが止まる。
その瞬間を逃さず、私は裾をたくしあげ、廊下を走り去った。休憩はあきらめる。
幸いなことに、相手は追ってこなかった。
が、念のため神官達に「こういうことがあった」と包み隠さず報告して、彼らから騎士団のほうへ報告と注意をしてもらう。
が、騎士団長の息子はあきらめなかった。
彼は良く言えば『男らしく』、悪く言えば『脳筋』な頭の持ち主らしく、
「女を口説く時は、少し強引なくらいでちょうどいい」
「その男らしさ、力強さに女は惚れるんだ」
と、疑いなく信じて、私が何度断ってもしつこく言い寄ってくる。
彼のそういう行動はあっという間に騎士団中の噂になり、私に同行してきた神官や女神官達の間でも問題視されて、注意や忠告がくりかえされたが、本人は逆に忠告してくる者達を自分達(複数形である。恐ろしいことに、彼の中では私達は相思相愛の仲らしい)の恋路を阻む邪魔者と認定して、ますます強引な行動に出る一方だった。
(聖女で良かった、人望を集めていてよかった…………!)
この時ばかりは心から思った。
もし一般人だったら、身分や権力を笠に着て強引に結婚させられるか、いっそ誘拐されてどこかの館に愛人として監禁されていたかもしれない。
さらに悪いことに、彼のそういう態度は騎士団や神官を通して王宮や大神殿まで伝わり、王都からは宰相の息子と大神官長の息子までやって来て、三人で火花を散らす始末だった。
「セレスティナ嬢にべた惚れのくせに…………」
私としては、その一言に尽きる。
不思議なのは、友人と対立してまで私の気を引こうとしていながら、入学式の時点での私への評価が誤解だったかもしれないとは、誰一人、疑ってもいない点だ。
それこそが、主人公たる悪役令嬢様の人徳とか魅力のなせる技なのかもしれない。
口ではどう言おうと、彼らの中にはセレスティナ嬢に対する愛や信頼が、今も深く深く根付いているのだろう。
ただ、彼女が未来の王太子妃だから手が出せないだけで。
だからせめて二番手になった私を手に入れ、満足しようとしている。
迷惑な話である。
私は辟易していたが、じきに転機が訪れた。
ざっくり言うと、隣国の負傷した捕虜への癒しをはじめたのだ。
これには騎士団はじめ、私に同行する神官達の中にも苦い顔をする者がいた。
自分達を苦しめる敵の兵士を何故わざわざ…………というわけだ。
この点に関しては、私が転生者であることが大きく影響しているかもしれない。一般的なノベーラ人に比べると、良くも悪くも私は「ノベーラの兵も隣国の兵も、この世界の人間という点では同じ」という意識が強かった。
それに彼らはそのうち、隣国に捕らわれたノベーラ人捕虜と交換される可能性が高い。
そう考えると、やはり見殺しにするわけにはいかなかった。
私は二年をかけて開発した聖女スマイルで「ノベーラ人も隣国人も、等しく神の子。無為に死んでいくのを神は望まれないでしょう。彼らを助けることは神の御心に沿うことであり、めぐりめぐっては、ノベーラの民に神の祝福をもたらすと信じています」と騎士団を説得、さっさと癒しにとりかかったが、説得されない者がいた。
例の騎士団長の息子である。
「なんという愚かな女だ!! 敵を助けるとは!!」
赤毛の青年はわざわざ、大勢の捕虜が横たわる天幕まで来ると、患者達の前で大声で私を叱責した。
「我ら騎士がどれほど苦労して戦っているか、女のお前にはわからないのか!! やはりお前は売女だ! 売国奴だ!! セレス嬢の足もとにも及ばない!!」
そう怒鳴ると乱暴に天幕を出ていき、以後、あれほどしつこく私にまとわりついていたのが、一変して無視するようになった。
おかげで私はおおいに気が楽になる。
やがて隣国との間で停戦交渉がはじまり、捕虜の交換も行われて、戦争はひとまず終結した。
私も兵士達も神官達も心から安堵して生き延びた喜びをかみしめ、神に感謝の祈りを捧げて、帰路についた。
王都に帰還すると、兵士や聖女の帰還を喜ぶ民の歓声と花吹雪に迎えられた。
私達は王宮に呼ばれて、騎士団長達は国王陛下直々に労いのお言葉と褒賞を授かる。
私も今回の働きを認められて、なんと貴族の位を賜った。
伯爵とか男爵とかの爵位でなく、最下位で一代限り、「平民ではない」という程度の地位だが、それでも貴族には違いない。
未婚の平民の女子が、貴族と結婚するわけでもないのに貴族に列せられる、というのは非常に異例であり、それだけの価値が今回の働きにある、と認められたのである。
あとから聞いた話では、最初は高価な宝石とか絹地とか金貨が候補にあがっていたそうなのだが、大神殿側と相談の結果、貴族位の授与に決定したそうだ。
私の後見である大神殿長いわく「おそらく、そなたに高価な品物を与えても、右から左に寄付や援助にまわしてしまうと思われたのだろうな」とのこと。
それで「じゃあ地位にしよう」となったらしい。まあ、一番懐が痛まない選択だし。
とにかく、私は公には『嬢』の敬称で呼ばれる身分になった。
『アリシア・ソル』あらため『アリシア嬢』、もしくは『アリシア・ソル嬢』である。
で、畏れ多くも国王陛下から労いと励ましのお言葉をいただくと、さらに王太子殿下からもお言葉を賜るという。
国王の隣に立つレオポルド王太子は、あの入学式から二年半ぶり。
もともとの秀麗な容姿にさらに磨きがかかり、高貴なオーラもさらに増して、誰から見てもまさに『人の上に立つ者』、若き王族の気品と風格にあふれていた。
(せめてビジネスに徹してよ)
私は念じた。
ただ、型通りの言葉を発してくれればいい。
そうすればこちらも礼儀を守って頭をさげるだけだ。
まかり違っても、あの三人のような反応にだけはならないでほしい。
私の痛切な祈りが通じたわけでもなかろうが、レオポルド殿下はアリシアに対して求婚してくることはなかった。
「私は、お前を認めはしない。いかに巧みに神聖な仮面をかぶろうと、私には貴様の本性が透けて見える。お前は今も、ティナを怯えさせ、苦しめる魔性だ。なにも変わってはいない」
憎しみすら込めた、冷ややかに見おろしてくる侮蔑のまなざし。
王太子レオポルドは二年半前と変わらず、婚約者であるセレスティナ嬢の絶対の味方であり守護者であり、私を敵と見なしていた。
「王太子!」
周囲はざわめいたし、さすがに国王もめでたい儀式での息子の暴言を咎めるが、レオポルドは怯まない。変わらず堂々として、自分に非は一点もないと言わんばかりだった。
公爵令嬢セレスティナはこの場にいなかったが、いればさぞかし婚約者を頼もしく思ったに違いない。
そんなこんなで私の初めての、そして最後にしたい従軍経験は終わり、王都での忙しい日々が戻ってきた。
癒しの聖女、アリシア・ソル嬢は王都の民に歓喜と花吹雪で迎えられ、大神殿にはふたたび大勢の患者と、金貨銀貨や贈り物を抱えた人々が押し寄せる。
商人や資産家達からは新しい図書館へ寄贈する書籍や、新設される薬草園への苗が送られてきて、医学大学も入学式にまでこぎつけることができた。
図書館や薬草園には『アリシア』の名がつけられ、医学大学にも国王陛下と私の名が並んだ。
王立学園の入学式から、そろそろ三年。
私も十七歳。
世間的にはそろそろ嫁き遅れというか「危ない」と言われる年頃のある日、神聖帝国から使者が手紙をたずさえてやってきた。
なんと教皇猊下からの召喚だという。
「敵も味方も貴族も平民も、分け隔てない大勢の人々への癒し」及び「大学や図書館や薬草園の設立に奔走」という功績を認め、「聖女に列する」というお知らせだった。
「今さら?」と思うかもしれないが、正式には私はいまだ本物の聖女ではない。
『聖女アリシア』は、あくまで世間の人々が勝手に呼んでいるだけの呼び方であり、私に限らずこの世界のすべての民は、神聖帝国の教皇猊下から『聖』の位を授けられて、はじめて公式に聖女や聖人として歴史に名を残せるのである。
その聖女位授与が私に認められた、という話だった。
大神殿は上を下への大騒ぎとなったし、大神殿長に至っては比喩でなく卒倒しかけた。
国王からの呼び出しもあったりして、一騒動どころか五騒動くらいあった気がするが、最終的には、大神殿は私が聖女位を受けることを決定したし、私も異論はなかった。
今の自分がどれだけ漫画本来の筋道から外れているか、漫画の記憶が少ししか思い出せない私には、確信も自信も持てない。
とにかく、我が身を守るものが一つでも多く欲しかった。
さすがに正統な聖女となれば、王太子や公爵令嬢も安直に私を処刑したり、追放したり、娼館送りにしたりはできないだろう。たぶん。
私は荷物をまとめ、幾人かの神官と兵士達に守られて王都を出発、神聖帝国へと旅立った。
そして十数日間の旅路の末、教皇との謁見を果たして、無事に聖女位の授与を済ませたのである。
晴れて、正式に『聖女アリシア』が誕生する。
漫画ではセレスティナがもらっていた地位だった気がするが、断罪の未来はどれだけ回避できたのだろう。
一方。今世の私の故郷であるノベーラ王国の王宮では、順調に王太子の挙式の準備が進んでいた。
なにしろ、本来なら王太子レオポルドを誘惑してセレスティナ嬢に濡れ衣を着せ、レオポルドやとり巻き達の威を借りて彼女を追い落とすはずのヒロインは、早々に学園を退学して彼らとの接触を断ち、レオポルドもセレスティナだけを見て彼女を溺愛していたのだから、二人の恋路に障害など存在するはずもない。
政略によって定められた婚約でありつつも、両者の仲は安定して好調であり、周囲も睦まじい若者達をほほ笑ましく見守って、新たな戦争や災害などの急変がない限り、二人の結婚は確実なものと誰もが信じていた。
が、麗しき未来の王太子妃、品行方正で才色兼備の学園の華、セレスティナ・デラクルス公爵令嬢は国を出た。
皇国の第三皇子と共に。
ほぼ駆け落ちにちかい状況だった、と、ノベーラに残る友人ラウラから届いた手紙には記されていた。
美人で成績優秀だった彼女は能力を認められて王宮勤めとなり、この頃にはある伯爵の後ろ盾も得て、ノベーラ王妃付きの女官に抜擢されていたため、かなり詳細を知っていた。
現在、息子が大恥をかかされた王妃殿下は怒髪天をつき、セレスティナ嬢を気に入っていた国王陛下は「不忠である」と怒りつつも「なにが不満だったのか」と深く苦悩。セレスティナ嬢の母親である公爵夫人は心労のあまり床について起きあがれず、父親の公爵は国王やその周辺への謝罪に日参するかたわら、どうにかして娘と連絡をとれないか、奔走しているらしい。
「どういう展開なの…………?」
たしかに、漫画ではレオポルドとアリシアによって断罪されかけたセレスティナを、第三皇子が助けて求婚。そのまま皇国に連れ帰るのだから、セレスティナ嬢が第三皇子と皇国へ去ったなら、表面的には漫画どおりの筋書きかもしれない。
だが駆け落ちと、婚約破棄されたのちに新たな婚約者の国に赴くのとでは、ずいぶん差があるように思えた。
いったい、どういうことなのだろう。
ラウラからの手紙によれば、もともとセレスティナ嬢は、第三皇子がノベーラ王宮に遊学してきた時から折に触れ、彼との接触をはかっていたらしい。周囲にばれるようなあからさまなやり方ではなかったが、王妃殿下や側仕えの何人かは気づいており、妃殿下はやんわりと、けれど厳しく注意していたそうだ。
だがセレスティナ嬢はあらためず、周囲にはレオポルド王太子を一心に慕う健気な婚約者に見せかけて、陰で第三皇子に秋波を送りつづけ、結婚式のひと月前、準備に追われた周囲が目を離したわずかな隙に第三皇子のもとに走り、皇子は友好国の王太子の婚約者を胸にかき抱いて越境、帰国の途についたのである。
ちなみに王太子レオポルドだけは、
「セレスティナ嬢が第三皇子と通じて、計画的にノベーラを出た」
という臣下からの報告を信じず、
「ティナは皇子にさらわれた」
「皇子が美しいティナに魅了され、力ずくで彼女を連れていったんだ」
「かわいそうなティナ。あれほどくりかえし愛を誓ったというのに、どうして私は彼女を守れなかったのか」
「今頃ティナは絶望に嘆き悲しんでいるはず、どうにかして助け出してやらねば」
と、あくまで「ティナは被害者」という立場と信念を崩さぬらしい。
現実逃避かもしれないが、そこまで一人の女を信じぬく王太子の態度には、少し感心した。
おそらくレオポルドは、悪役令嬢漫画定番の「浮気して悪役令嬢を断罪する愚かな王子」でなく、もう一つの定番「破滅の未来を回避するために奔走する悪役令嬢の心配と苦労をよそに、何故かガンガン婚約者を溺愛してくる有能な王子」タイプなのだろう。
その時点で、漫画とは異なる展開が進んでいるのかもしれないが、だとしても今回のセレスティナ嬢の行動は浅はかすぎないか。
たしかに、セレスティナからすれば、今日までの道程は不安と疑惑に満ちたものだったかもしれない。
自分を陥れようとする元凶のヒロインが早々に学園を去って安堵したのもつかの間、アリシアはどんどん世間の評価を高めて、先に攻略していたはずのとり巻き達も次々アリシアに夢中になった挙句、ヒロインが正式に聖女となってしまった。
おそらくこれは、漫画にはなかった展開なのだろう。
うろ覚えだが、漫画本来のアリシアは学園に入学して以降、王太子やとり巻き達との恋愛にばかり夢中になって、聖女としての勉強や心構え、聖魔法の訓練などは後回し。聖女位の授与どころか、ろくに他人を癒す場面もないまま、レオポルド共々断罪されて娼館に送られていた…………と思う。
セレスティナにしてみれば、とり巻きを奪われて漫画の展開に近づき、さらに聖女位もアリシアに奪われて「漫画以上にひどい断罪の展開になるかも」と恐怖にかられたのかもしれないし、「これ以上、ゲームヒロインに奪われてなるものか!」と第三皇子だけでも手に入れておきたかったのかもしれない。あるいは強大な皇国の第三皇子と結ばれることで、彼の権力でヒロインの魔手から守ってほしかったのかもしれない。
「でも…………そもそも、そこまでする必要ある? レオポルド殿下はセレスティナ嬢を溺愛していたわけだし、彼女が望めば、いくらでもセレスティナを守ったでしょうに…………」
それともセレスティナにとっては、あくまで『皇国の第三皇子』という点に意義があったのだろうか。
たしかに、漫画では皇国の第三皇子こそがセレスティナと結ばれるヒーローだ。
王太子レオポルドは本来、アリシアに心変わりして、セレスティナとの婚約を破棄する役回りだし、それだけの愚行をやらかす説得力をもたせるため「私情に走る愚か者」という設定もつけられている。
しかし実際に学園に通う彼は成績優秀、文武両道で、なによりセレスティナを心から愛し、溺愛していた男性だ。
その彼を捨ててまで、セレスティナは第三皇子を選ぶ必要があったのか。彼のほうが好ましかったのか。
仮に、自分が生き延びるため、私に対抗する力を求めて、より強力な男性を選んだのだとしても、いまだ婚約者を信じつづけているレオポルドの気持ちを考えると、一抹の同情を禁じ得なかった。
とにかく、そんなこんなで悪役令嬢セレスティナは本来のヒーローである皇国の第三皇子と結ばれた。漫画本来の筋書きに近づく、大きな転換点と言えるだろう。
つまり私も本来の断罪、娼館行きへの未来が近づいた可能性が高い。
これが強制力だろうか。この先は、もっと気を引き締めなければ。
そう、思ったのだが。