船団護衛(1)
次の任務は月基地から火星基地へ軍事物資や建設資材、食料などを届ける輸送船団の護衛だった。
火星基地は日本自衛軍の基地のみならず民間技術者の施設もあり、約1万人が従事している。
多少の自給体制はあるものの約1万人の食料をカバーするのには十分ではない。
月基地も同様に地球からの供給に頼っているのだが、近いので火星基地に比べ輸送規模や回数が遙かに大きい。
従って特に食料の安定供給は火星基地にとって死活問題なので大規模な輸送を定期的に行っている。
今回の輸送船団の規模は── 航宙艇搭載護衛艦「飛龍」(戦闘爆撃艇「彗星改」20機、強襲偵察艇「彩雲改」4機搭載)、雪風級護衛艦4隻、おおすみ型輸送艦10隻という陣容だ。
早速、夙川さんが勤務しているという飛龍の艦載というのは出来すぎた話だと思うけど・・・
まあ、長い航宙になるんだから楽しみのひとつがあってもいいじゃないか?笑
艦隊の陣形は3機の「彩雲改」が前面に出て楔形に展開し、その後に「飛龍」、輸送艦10隻が2列で航行。その回りを護衛艦4隻が囲むといった形で、「彩雲改」1艇は必ず「飛龍」の格納庫に収容され逐次交代するといった具合だ。
国際ステーション「ペガサス」の軍事ブロックを出発後、僕たちの乗る「彩雲改0318号」は楔形の先頭に位置し、周囲を警戒しつつ発進した。
「御影3曹、レーダーどうか?」
「はい、レーダー範囲内の航宙船はすべてIFF反応ありです。特に左舷約10,000kmに蒼龍を旗艦とする火星基地からの定期輸送船団が通過します。」
「そうか。総員、第一哨戒配備にて航行。」
前回の戦闘を考えれば、いつどこで敵が襲ってくるか分からない状況なのだ。これから長時間の緊張を強いられる。
「もうこの辺に敵はいないんじゃないっすかー。御影がやっつけちゃったし。」
「伊丹3曹、油断は禁物だぞ!」十三先任が一喝した。
「了解しましたよ── 先任!」
こうして何事も無く最初の3日間の勤務が終わり、僕たちは母艦「飛龍」に帰艦した。
「飛龍」に帰艦した僕はそそくさと報告書をまとめて、さっそく夙川さんと艦内SNSを使って食事の約束をした。
「こんにちは夙川さん、久しぶり。ごめんね急に呼び出して──」
「こんにちは御影さん、誘っていただけてすっごく嬉しいです! 御影さんは何を食べますか?」
「飛龍」の食堂は基本バイキング形式で、3つに仕切られたトレーに主菜1種類、副菜2種類を自由に組み合わせて盛りつけるシステムだ。
「飛龍のおすすめの料理は何?」
「そうですねー、肉料理ならやっぱりミラノ風カツレツかな。魚料理だとアジの南蛮漬けですね。あ、飛龍のカレーも美味しいんですよ♡」
基本のバイキング以外にもカレーやパスタ、うどんなどの麺類も充実しているようだ。
「じゃあ僕はそのミラノ風カツレツと野菜の副菜をつけよう。」
「私は今日はボロニア風ミートソースのパスタとサラダにします!」
「え? そんな量でいいの?」
「もう! 御影さん! 私いつも食いしん坊じゃないですよ!!」
「ごめん、ごめん。最初の印象が強かったから──」
「あれは忘れてください!!」
「ところで夙川さんは休みの日とかは何してるの?」
「私ですかぁ、私は個人用のPDAでマンガやアニメ見たりラノベを読んだりして過ごしてますよ。出航前にしこたまダウンロードしておくんです!」
「なるほどー 用意周到なんだね。」
「御影さんは何してるんですか?」
「僕は・・・ ゲームとかトレーニングとかかなぁ── 僕もアニメとかは好きなんだけど何かおすすめがあったら教えてくれる?」
「はい、分かりました。リストを作ってお渡ししますね。」
そんな調子で交代のため帰艦する度に会い、僕たちは少しずつお互いの距離を縮めていったんだ。
そして約2ヵ月が経ち── 火星軌道上の国際宇宙ステーション「イカロス」まであと3日という距離まで来た。