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ペガサスの御影(1)

擦れ違いざまに射出した宇宙機雷で敵を撃破するという思わぬ戦術で僕たちは勝利し、その後意識を取り戻した艇長の操縦によって、僕たちは国際ステーション「ペガサス」の軍事ブロックに無事帰着した。(僚艇<彩雲改0255号>は僕たちが会合地点に着く直前に遭遇報告の通信をする間もなく敵に撃破されたようだった。)

全員に大きな負傷も無く、艇にも大した損害が無かったのは幸いであった。

そして帰着した僕たちを待っていたのは、7日間もの特別休暇と長い事情聴取と報告書の嵐だった。

ウンザリする日々を過ごしながらも、ひとつだけいい事があった。

それは、僕が3等宙曹に昇進した事だ。

どうやら僕の英雄的行動が評価されての事だったらしい。(本山艇長によると膠着した戦況を打破するのにプロパガンダのひとつとして利用するためで、僕たちの戦果は実際にニュース配信されたらしい。)

ただどうしても浮かれた気分になれないのは、勝ち方が釈然としなかったからだ。

どうしてみな敵の存在を知っているような口ぶりだったのか? 僕を含めて。(僕以外のクルーはそのような遣り取りに覚えが無いと言う。)どうして僕はセオリー通りレーザー砲を使わず宇宙機雷なんて使ったのか? 咄嗟とはいえ機転が効き過ぎている・・・等々。

そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま休暇を過ごした。


休暇も4日を過ぎた頃から特にすることも無く、あまりにも退屈をもてあましていたので、めったに行かない映画館に行ってみることにした。

なぜめったに行かないか。

それは今は戦時下であり娯楽映画を撮る余裕が無く古い映画のリバイバルか、政府が作ったプロパガンダ映画ぐらいしか上映していないからだ。

古い映画のリバイバルはほとんど見てしまった。

なので、自分が利用された事から少なからず興味が生まれたので、プロパガンダ映画を見てみることにした。


映画は突如土星基地が敵の攻撃を受けた2923年から始まる戦記ものだった。

僕たちが言う敵とはおそらく異星人である。

おそらく、と言うのは変な言い方だが、100年たった今でもいまだに敵の素性がまったく分かっていないからだ。

まずレーダーには映るものの目視、光学カメラ、赤外線カメラなどあらゆる手段をもってしても、何か黒いモヤモヤした物といった感じで実体が掴めない。

光は通さないようだから、そこには確かに何かがある。何かがあるのだが実体が掴めない・・・ それは固体なのか気体なのか、はたまた液体なのか・・・

劣勢になると消える(逃げる)。撃破しても何も痕跡を残さない。だから正体の足がかりさえ掴めずにいる。(先の戦闘でも実際に撃破したのかどうか本当は分からない。ただ民間人には国威発揚のため、撃退ではなく撃破という表現を使っている。)

だからおそらく、という言い方になってしまうのだ。

俊敏さは無いものの強力なレーザーを放ち、猛スピードで突っ込んでくるという非常にやっかいな敵なのだ。

当初は対応の遅れで火星宙域まで敵の侵攻を許したが、戦闘パターンが分かってきてからは、木星宙域まで戦線を押し返したものの、決定的な撃退方法が無く何十年も膠着状態が続いている。

主戦場が木星宙域なのに僕たちが月周回軌道上で敵に遭遇したのは、予想外の出来事だった。

だから軍首脳部は慌てて僕たちを召喚し、詳しい情報を求めたのだった。


そんな事を考えながらぼんやりと見ていた映画は、華々しい戦果を告げて終わりニュース映像に変わった。

“ええええええええ!?”

そのニュース映像は僕たちの先の戦闘のものだった。

勇ましい調子の良い音楽が流れ、僕たち一人ひとりの写真とともにプロフィールの紹介。

テレメトリーデータからCGによって再現された戦闘映像が流れる。

そのバックに・・・ あたかも僕たちが喋っているようなアフレコとナレーションが入る。

「艇長! 敵を発見しました!! 座標02-24-59!!」

“僕はそんないい声じゃないぞ?  艇長たちだって・・・”

でも、さすがプロの声優だ。僕が見てもすごくカッコいい笑

「ドド─────ン!!」

敵を派手に爆破したシーンで終わった。

“本当は宇宙空間では音がしないんだけどな。”僕は心の中で苦笑した。

“実際はどんなに無様でも、これを民間人が見たらカッコいい闘いに映るんだろうな。道理でプロパガンダに使われるわけだ。”

僕はしらけた気分で映画館をあとにした。


まっすぐに宿舎に帰ってもつまらないので、久々にカフェに寄ってみた。

地球でチェーン展開しているあの緑と白の丸い看板のアレだ。

「ホットラテひとつと、その照り焼きサンドひとつ。」

僕は手のひらをスキャナーにかざして支払いを済ませ空いている席を探した。

“ふぅ── なんだか逆に肩が凝っちゃったな。”

そんな事を考えながらぼんやり歩いていると・・・


「キャ────!! ニュースに出てた人ぉぉぉ!!」


悲鳴にも似た黄色い叫び声の主を見ると・・・ガーリーなファッションで眼鏡をかけてて── 胸が??? おおおお、大きい女の子だった。

僕は一瞬で視線を彼女のトレイに移して言った。

「いいいい、いっぱい食べるんですね!」

しまったぁー。女の子にかける言葉じゃなかったぁあああ。

「すすすす、すみません! お腹が空いてしまって──!」

彼女も何を言っているんだか笑

僕もすっかり動揺してしまって

「よよよよ、よかったらご一緒にどうですか──?」

僕も何を言っているんだか笑

「はははは、はい! よろこんで──!」

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