アカデミーの御影(2)
「ふぅ────」
俺はヘッドギアを着けたまま大きく息をついた。
「やったじゃねーか! すげえぞ御影!!」
隣のチェアから伊丹さんが歓声をあげた。
「あんな探査方法よく思いついたなー!!」
「確かにヒントは出したけど、すぐに気づくとは大したものよ。」本山さんが褒めてくれた。
「よく気づきましたね、御影君。その後の反撃も見事でした。」十三教授も満足そうにうなづいた。
「それなんですが教授。なぜこちらのレーザー砲が外れたのでしょうか?」
「レーザー砲は確かに当たったのですが、おそらく敵は何らかのシールドを使って弾いたようですね。」
「ええー、そんな設定ありかよぉ。なら俺たちにもシールドの設定が欲しいぜ。」と伊丹先輩。
「まあ、レーザー砲だけで片が付くようでは戦闘シナリオとしては陳腐過ぎますからねえ。」
「だからといって、あの場面で宇宙機雷をあんな風に使うなんて発想、私には無理だったかも。」と本山さん。
「うーん、俺も咄嗟に思いついただけで・・・ レーザーがダメなら実体弾ならって。それも躱せない距離なら・・・って、運が良かっただけですよ。」
「いやいや御影君、咄嗟とはいえ良い判断でした。未知の敵に対して戦局を変える上では、独創的な戦術が必要だと私は思いますよ。」
「教授の言う通り御影君には戦術的センスがあると思うわ。」
「女を口説くセンスは全然ねえけどなー あははははは!」
「あはははは、そうですかねー。」“うっせーな。先輩には言われたかねーよ。”
「じゃあ初めてのミッションクリアって事で、みんなで学食でお祝いしよーぜ!」
「そうね、行きましょう。教授の奢りでね。」
「みなさん、お手柔らかにお願いしますよ。」
「いよぉーし、何を食べようかなぁ? この際思いっきり食べてやろう!!」
「伊丹君、ほどほどにね。」
「本山さん、構わないですよ。クリアのご褒美ってことで。」
ここ「国立日本ゲーミングアカデミー」の学食は、よくあるバイキング形式だけど料理の種類は多い方だと思う。
俺も色んな料理をトレイに盛って席に着こうとし────
「キャッ、ごめんない!」
女の子とぶつかりそうになった。
「こちらこそ、ごめん。ちゃんと前を見てなくて──」
ガーリーなファッションで眼鏡をかけてて── 胸が??? おおおお、大きい女の子だった。
俺は一瞬で視線を彼女のトレイに移して言った。
「いいいい、いっぱい食べるんですね!」
しまったぁー。女の子にかける言葉じゃなかったぁあああ。
「すすすす、すみません! お腹が空いてしまって──!」
彼女も何を言っているんだか笑
俺もすっかり動揺してしまって
「よよよよ、よかったらご一緒に食べませんか──?」
俺も何を言っているんだか笑
「はははは、はい! よろこんで──!」
というわけで、みんなが待っている席に誘った。
「お前、なに学食でナンパなんかしてんだよぉ?」
“ほんっっっと、伊丹先輩うざい!!”
「あはははは、ちょっとそこでニアミスがあって──!」
「御影君、やるじゃない。」
「まあまあ、みんなで一緒にどうですか? せっかくだし。」
「すみません教授。」
「私、ゲームキャラクターデザイナー養成科1回生の夙川 愛です。」
「あ、僕たちは十三教授のゼミのメンバーで、僕はプロゲーマー養成科1回生の御影です。こちらが十三教授です。」
「俺は同じくプロゲーマー養成科3回生の伊丹だ。なんだよ御影、僕なんて言っちゃって。」
「私は大学院2回生でプロゲーマー管理・育成コースの本山よ。」
「はい、皆さんよろしくお願いいたします──!」
「ささ、自己紹介はそこまでにして早く食べよう。」
「では、初クリアを祝してカンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
「愛ちゃんはどこ出身なの?」
“早くも「ちゃん」付けかよっっ”
「私、兵庫県なんですぅ──」
「おぉ? 御影も兵庫県だよな?」
「はい、僕は神戸市だけど夙川さんは?」
「私は丹波篠山市です。」
「へえー、いいとこだよね。自然が多くて。」
「ただの田舎ですぅ。」
「なんか名産とかあんの?」
「そうですねー、丹波篠山黒豆とか?」
「黒豆? 何それ?」
「黒い枝豆です。美味しいんですよ。」
「そうそう黒豆。黒くて大きくてちょっと不気味だけど、すごく美味しいよね。神戸でも普通に売ってるよ。」
「皆さんはどちらの出身ですか?」
「俺ぁ群馬だ。」
「私は神奈川よ。」
「私は千葉だね。」
「へえー、教授は千葉っすか。」
「何ですか伊丹君?」
「いや、何でもねえっす。」
「千葉はいいところですよ。特に千葉のピーナッツは日本一!!」
「うーわ、何だよこの豆自慢の会話は?」
「は、は、は、は、まあ、いいじゃないか!」
「ところで夙川さんはどうしてこのアカデミーへ?」
「私、元々アニメが大好きだったんです。特に転生ものが。で、だんだん転生もののゲームにもハマりだして──」
「よくあるパターンだよなぁ。」
「自分がデザインしたキャラがヌルヌル動くのを見てみたいなーと思って、このアカデミーを選びました。」
「なるほどー、僕らはプレイする側だけど作るのも面白そうだよね。」
「今、皆さんはどんなゲームを研究されているんですか?」
「今はVRMMOの戦争ゲームだよ。」
「VRMMOってあのバーチャル空間にダイヴしてプレイするゲームですよね?」
「うん、それの主に宇宙空間で戦闘をするゲームなんだ。」
「うわあー、面白そう! 皆さん一緒にダイヴしてプレイしてるんですよね?」
「そうなんだよ! ただ、いっつもこの御影が足を引っ張ってなかなか進めねえんだけどな!!」
“なんだよ伊丹先輩、夙川さんの前で言わなくってもー” と思いながら俺は聞き流した。
「でも今日のミッションで御影君が大活躍してクリアできたのよ。」
“さすが本山さん! ナイスです!!”
「それでこのお祝いなんですね? おめでとうございます、御影さん!」
「ありがとうございます! ねえ今度僕たちのゼミに遊びにおいでよ。最新のVRMMOを体験させてあげるからさ。」
「うわあー、いいですね! よろしくお願いいたします!!」
「御影てめえ調子に乗ってんじゃねえぞ? ちょっと上手くクリアしたぐらいで。」
「まあまあ伊丹君、楽しく食べようじゃないか。は、は、は、は。」
そんな調子で俺たちは楽しい時を過ごして2時間程で解散した。
“夙川さん、いいコだな。カワイイし。眼鏡も似合ってるし。”
なんてちょっと浮かれた気分で歩いてたんだけど、どうしてもミッションの最後の── 頭の中に語りかけるような、あの言葉が気になっていた。
──このナンセンスな戦い方はなんだ? 僕じゃないみたいだ。それから僕は自分の事を俺なんて呼ばない・・・──