表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

哨戒任務(1)

僕の名前は御影 真。

日本自衛軍 宇宙作戦群、通信士兼電測員、階級は2等宙士だ。

西暦3023年3月10日午後4時10分。

月方面隊所属 4人乗り強襲偵察艇「彩雲改0318号」のスリープ・コパートメントで目を覚ました。


月から地球を挟んだ裏側── ラグランジュ・ポイントL3で哨戒任務について今日で10日目。午後11時には月周回軌道上の国際ステーション「ペガサス」の軍事ブロックに帰着し、明日から待ちに待った4日間の休日だ。

ステーションにはショッピング施設や映画館なんかの娯楽施設もあるが、郊外型のショッピングモールの規模とさほど変わらない。

なので仲のいい友達も彼女もいない僕は特に何をするわけでもなく、ブラブラして無為に過ごして終わり、である。

情けないけど現実の19歳男子なんてこんなもんだ。

おっともう4時30分だ。

これ以上ダラダラして5時からの任務に遅れたら艇長に怒られてしまう。

僕はもそもそとコパートメントから抜け出し、軽い食事と身支度を整えて小さな操艇区画に向かった。


この「彩雲改」は小型のレーザー核融合ロケットエンジンを2基搭載し、最高速度約100,000km/hを誇る快速艇だ。

哨戒任務から護衛任務、強襲偵察、果ては連絡艇として・・・まあ要するに小回りの効く便利屋として様々な任務にこき使われているわけだ。

武装は30mm 07式収束レーザー砲1門、20mm 15式機関砲2門、03式対艦ミサイル1機、あと10式宇宙機雷12機。

全長21m、全幅50mの全翼式の宇宙艇である。

宇宙艇とはいえ単機で大気圏突入能力と大気圏内飛行能力を有する優れものだ。ただ単独での大気圏脱出能力は無い。

一旦地球に降りたらブースターを付けて打ち上がるか、マスドライバー(僕らは「バカ・バズーカ」と呼んでいる笑)で打ち出されるかだが、どちらも強烈なGを伴うので、できれば地表に降りるような事態は避けたい。


操艇区画と居住区画は隣り合わせなので出動時間はわずか5分。

しかし、狭い艇内にところ狭しと様々な機材・食料を詰め込んでいるから、まだ慣れていない僕は体をあちこちにぶつけて通り辛い事この上ない。

大昔の潜水艦みたいだと誰かが言ってたな。

網膜スキャンで操艇区画のドアを開けた。

「2等宙士 御影 真、入室許可を願います!」

「2等宙士、許可する!」

艇長であり操縦士でもある本山 恵2等宙尉が応えた。

艇長は宇宙作戦群でも有名な美人士官で、僕達新米隊員の憧れの── なんだが怒ると怖い怖い。

大昔のSFアニメの登場人物に似ていることから、セイラさんと僕達は密かに呼んでいるんだ笑

“ぴったりとした耐Gスーツが映える細身のスタイルは確かに最高なんだけど・・・”

そんな事を考えながら僕は自分のシートに着いた。


「よく眠れたか? 2士」

機関長で砲術長の十三 武先任1等宙曹が声をかけてきた。

先任1等宙曹は軍歴17年の叩き上げの下士官で、群では珍しい髭面の寡黙な宙曹だ。

「いいえ! 明日からの休みが待ちきれなくてあまりよく眠れませんでした!」

「おいおい、居眠りしてレーダー画面から目を離すなよぉ? 一瞬の見逃しが宇宙じゃ命取りだかんな!」

今のは航宙士で副操縦士、2年先輩の伊丹 峽3等宙曹だ。

彼もまた群では珍しいロン毛の自称プレイボーイ。やたら女性に声をかけているが相手にされた試しがない。その軽さがダメなんだと僕は思ってるわけで・・・

「どうせ彼女もいないんだし浮かれてもしかたねぇだろ──」

“大きなお世話だ! あんたに言われたかねーよ!” と心の中で返す・・・

「いや、でも、休みは休みなので──」と言いかけたところで艇長が

「3曹、2士、そこまでにしておけ! これから本艇は僚艇<彩雲改0255号>と会合ののち任務を交代し、ペガサスへ向け帰投する! 準備急げ!」

「アイアイ、マァム!!」


午後5時30分。

僚艇<彩雲改0255号>との会合地点に着いた。もうレーダーかIRSTシステム(赤外線捜索追尾システム)に映ってるはずだが── 見当たらない・・・

「2士、0255の反応は無いか? 無線で呼びかけてみろ!」と艇長。

「狭域探査レーダー及びIRSTに感なし。」

──彩雲改0255号、こちら彩雲改0318号。応答願う。

返答も・・・無い。おかしい。救難信号も無い。僕は不安に駆られ咄嗟に緊急時以外使っちゃいけない高出力の広域探査レーダーに切り替えた。

すると広域レーダーの範囲ギリギリに点がひとつ。だが・・・

「艇長、広域探査レーダー範囲ギリギリに感あり! 識別はイエロー! ボギーです!!」

“ボギー・・・ IFFに反応しない所属不明機だから目視で確認しないといけないが・・・”

「これより本艇は戦闘態勢に入り目視のため接近する。2士、月司令部にボギーとの遭遇を報告。それからボギーに呼びかけを開始しろ!」

「アイアイ、マァム!!」

僕はボギーに無線で呼びかけたが・・・ 反応が無い。すると、

「艇長、ボギーがこちらへ向かって来ます!! 速度は・・・ うわ!! 時速約300,000km!! こちらの3倍です!!」

「3倍? 5分でぶつかるぞ!!」伊丹3曹が叫んだ。

「艇長、進路変更を進言します!」十三先任も叫ぶ。

「進路変更する! 全員耐衝撃態勢!!」

「ぐうううう・・・」スラスターによる急激な進路変更の強烈なGで声がもれる・・・

「2士──!! ボギーの進路は?」と艇長。ボギーは・・・

「ボギーも進路変更!! なおもこちらに向かってきます!!」

「先任! レーザー砲戦用意!!」

「艇長! 広域探査レーダー使用でレーザー砲チャージに5分を要します!!」

“しまった 僕は何ということを・・・”

「何だと? 間に合わん!!」

「艇長、ボギーから高熱源反応!!」僕は叫んだ。

「うわあ!! ボギー、レーザー発し・・・」

その瞬間、僕は光と爆音ののち暗闇に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ