真相(2)
宙佐がそのパソコンに何やら文字を打ち込むと画面に、白髪交じりの髪を短く刈り恰幅の良い体格に軍服を纏った優しそうな人物が映った。
「岡本宙将、紹介します。彼が我々の御影 真です。」
「君が御影君か。噂は聞いているよ。」
あまり抑揚のない日本語がスピーカーから流れた。まるでコンピューターの合成音声のようだ。
俺の考えを読んだように宙佐は言った。
「宙将は実際に1000年後から話しかけている。音声は文字情報から合成したもので、映像は宙将の特長をAIで作成したものだ。」
「こ、こんにちは岡本宙将。お、俺は御影 真です。」
「こんにちは御影君。君が話してるということは十三1等宙佐から事情を聞いたということだね?」
「はい、聞きました。まだ完全に理解したとは言えませんが・・・」
「そうだろうね。なかなかに突拍子の無い話だからね。」
宙将はふふふと笑った。
「君が疑問に思うことを何でも話そう。それに値する人物のようだからね。」
「そんなことは・・・ では教えてください。ゲームの中の、いや俺がゲームだと思っていたはずの俺のアバターが、なぜ自我を持って俺に話しかけてきたのですか?」
「まず、君がゲームだと思ってプレイしている戦闘は、1000年後の現実の戦闘だ。
どういうことかと言うと、君がゲーム内で君のアバターだと思っている人間は、君たちより1000年後に実在する人間で、君はその人間を操作して本物の戦闘をしているということだよ。」
「そんな! 俺たちは何回もリプレイしましたよ? 現実の戦闘だと言うのならリプレイなんてできないはずです! ゲームでなければそんな都合の良いことはできない!」
「そう、ゲームだと思って気楽にやってもらわなければならない。それは我々の意図することでもある。」
「どういうことですか?」
「ゲームだと思って気楽にやってもらわなければ思い切った戦略、戦法がとれないだろう? 命を惜しく思ってもらっては困るのだ。」
「では、俺たちが操作している人たちは本当の戦闘で、実際に死んでいるということですか?」
「そうだ。」
「でも、何回もリプレイできるのはどういうことですか? 一度死んだ人間がまた現れるなんて・・・」
「そう、そこにもうひとつ秘密がある。我々には通信データなら過去や未来に送れる技術を活かした戦略がある。
例えばある作戦が失敗したとしよう。その失敗した事実を作戦前の我々に伝える。そして作戦前の我々が1000年前の君たちに再度同じ作戦の実行を依頼する。
作戦が失敗する度に同じ依頼をする。何度でも何度でも。成功するまで。
そうすると何も知らない君たちは、あたかもゲームで何回もリプレイしているように思うわけだよ。」
「じゃあ、俺たちが失敗する度に実際に何人も何人も1000年後の人間が死んでいるということですか?」
「その通りだ。」
「・・・・・・」
俺は絶句した。
俺たちが失敗したせいで人が死ぬなんて。しかも何人も・・・
「わかりました。では俺が操作している御影について教えてください。なぜ俺と同じ名前を名乗っているのですか? なぜ容姿も同じなんですか?」
「まず、君が操作している人間は本当は御影という名前ではない。彼には・・・」
宙将は1点を見つめ何やらつぶやいた。何かを検索しているのだろうか?
「彼には名前が無い。J03-0004798521というコードネームがあるだけだ。クローンなので名前をつけるシステムがもはや無いのだよ。彼には親族がいないので名字も名前も必要ないからだ。
私も岡本と名乗っているが、それは君たちと話す上で便宜上つけた名前でしかない。私も本来はコードネームしかない。
J03-0004798521を君と同じ名前にしているのは、君にあくまで君のアバターだと思わせ、これはゲームだと思わせるためだ。容姿が同じなのも同じ理由からだ。」
「本来の彼は俺と違う容姿なのですか?」
「むろんだ。CGで加工し君に似せているにすぎない。年齢は・・・」
宙将はまた1点を見つめた。
「年齢は君と同じ19歳のようだが。」
「彼は本気で御影 真だと思っているようですが・・・」
「J03-0004798521は本気で自分は御影 真だと思っているよ。そのようにマインドコントロールしているからね。彼は御影 真として生きている。」
「マインドコントロールだなんて、そんな・・・」
「君が言いたいことは分かる。だがここで人権云々を論じるつもりはない。それほど人類は切迫しているのだよ。敵に負けて人類が絶滅してしまっては人権など意味の無いことだからね。」
俺は宙将の言葉で自分の甘さを実感した。
「・・・分かりました。あと、戦闘中の彼はどういう状態なのですか? 俺の意のままに動いているのはなぜですか?」
「そうだな。平たく言うと君に精神を乗っ取られている状態だな。ましな言い方をすればJ03-0004798521の意識に君の意識を上書きしている、とも言える。
実際は君の意識で戦闘しているが、彼の意識が完全に無くなっているわけではないので、彼もまた自分が戦闘をしている気になっているのだよ。だから彼自身が戦闘をしたと思い込んでいるわけだ。戦闘中以外は御影 真として普通に生活している。」
「ならなぜ彼は俺に話しかけたりできるんです? なぜ彼は疑問を持っているのです?」
「本来J03-0004798521は疑問など持つはずは無いのだが・・・
君たちゲーマーと我々の戦闘員をマッチングする際、できるだけ高いレベルで同調できるよう、脳波などの様々なバイタルデータや、性格や身体能力なども考慮して行っている。
もちろんJ03-0004798521は君と最適なマッチングだったからこそ、君のアバターとして選ばれたはずだ。
君とJ03-0004798521はあまりにも親和性が高いのかもしれん。DNAレベルで調べれば何か分かるかもしれんが・・・ 今のタイムリープ技術では相互のDNAを検証することはできない。」
「そうですか。原因は分からない、と。」
「そういうことだ。だが、君とJ03-0004798521の戦果には目を見張るものがある。J03-0004798521にこの事実を伝えるかどうかは君に任せよう。引き続き我々を勝利に導いてくれたまえ。」
その言葉でこの会談は終わりのようだった。
十三1等宙佐は宙将に短く挨拶をし映像を切った。