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中山裕介シリーズ第7弾

時は移ろい三月中旬の火曜日。最終回の前週となる今日、最後の構成会議が開かれた。

「さあ、これで最後よ皆! 最終回を盛り上げるにはどうしたら良いと思う? Let's think!」

大石CPがスタッフ全体を見渡す。遂に英語まで飛び出したか。最終回への強い意気込み――

「『オムツマンVSブリーフマン』も決着を着けさせなきゃね!」

下平チーフディレクターも然り。

「最終回を盛り上げるとは言うものの……」

オレが呻吟していると……。

「ねえお貴さん、また「セレブ提案」を頼むよ」

「大畑、また人任せな」

「だって「セレブ提案」ぶっ飛んでて面白いじゃん」

「確かにぶっ飛んではいるけどね。でも大畑君、たまには自分から考えてみたら」

ほらな。到頭大石CPにも言われた。

「「セレブ提案」はいつも出て来るものじゃないですよ」

お貴さんも困惑顔。

「オレからの提案ですか……なら、エンディングの風船の匂いを「今までありがとうございました」って気持ちを込めて、いつもより倍の匂いにしてみたらどうでしょう」

「あっ、それ良いかもしれませんね」

大畑もお貴さんも相変わらず突拍子もない。

「いつもより倍の匂いねえ。観客にとっては大迷惑な事だよ」

下平は渋る。

だが、

「でもそれはそれで面白いんじゃない? 今まで観客応募が減らなかったのも、三組のアイドル的人気のおかげだもん。服に匂いが付いてもね」

大石CPのアンテナには引っ掛かったようだ。

「大石さんがそこまで仰るんならあたしは別に良いですけど。後は『オムツマンVSブリーフマン』をどうするかだね」

下平は渋々といった顔付きで話題を変える。

「それは『ブリーフマン』がこの世を支配しようとするで良いんじゃないか?」

最後はオレが提案した。

「最終回にはありがちな展開ね」

今度は大石CPが渋る。

「だったら木村君を『ブリーフマン』に入れてみたらどうでしょう。これで三対三になりますし」

「今まで三対二だったもんね。木村君がブリーフを被ってくれるかは分からないけど、一応打診してみよう。彼はプライドが高いけど」

大石CPは取り敢えずオレの提案を呑んでくれた。

「プライドが高くても笑いの為なら何でも遣ると思いますよ」

下平が助け船を出してくれる。さあ本番はどうなる事やら。



そして迎えた最終回。

「こういうフリートークはある種サーフ「イ」ンなんですよ」

「ああっ!!?」

サーフィンをかんだ木村君の頭を、浜崎君がハリセンで叩いて突っ込む。

「波が来なかったら溺れるだけじゃないですか。オレは死にたないがな」

「オレかて死にたないがな」

番組前半にはアップダウンのフリートークあり。その後はゲストを迎えてのクイズコーナー、『木村流 クイズ道場』。最後のゲストは大物俳優だ。木村君とB29の三人、TEAM―2の二人は問題を勘考して行く。因みにこの時の『道場』の看板は、木村チームが負け続け、『村流 クズ場』となっている。

六人は必死になって問題を考えるものの、木村君が音楽の問題をゲストに出題したが、勝手に編曲したりして結局木村チームが惨敗。大物俳優のゲストは一番取り易いからと、「村」の看板を持って帰る事にした。

クイズコーナーが終われば『オムツマンVSブリーフマン』だ。最終回という事もあり、オレが提案した通り木村君が金色のブリーフを被り、『キングブリーフマン』となってセットセンターの出入り口からTEAM―2を従えて登場。TEAM―2の二人は縄で縛り上げられた加藤と山崎を、人質として引き連れている。

「良かったわね。木村君がブリーフを被ってくれて」

サブにいる大石CPは安心した口振り。

「あたしが打診しても「嫌だ」とは言いませんでしたから」

下平が付け足す。

「面白い企画が欲しいんだったら幾らでも考えてやる」とは以前に言い放ったが、これが面白いかどうか、木村君はどう思っているのか、はっきりいって自信は、なし……。

とはいえ、

「この女どもを拉致したぞ!」

『キングブリーフマン』の木村君が言えば、

「またかよ。捕まり易い奴らだな」

ミサオ君が突っ込み、観客に一笑い起こった所で、

「世の中オレ様達が頂くぞ!」

「そうはさせるか!」

コントは始まった。

今回の対決は水鉄砲対決。パイ投げ対決のようにCM中にステージにビニールシートを敷き、客席前列に座る観客にも水が掛からないようにビニールシートを用意。また誰か足を滑らせないか心配だが、これは下平の「その方が盛り上がる」という提案。エアガンにしようかという案も出たが、「それは危険だ」として却下された。

コント中、加藤と山崎は、

「助けて『オムツマン』!」

「早く助けてえ!」

と叫ぶ。

六人は雷様の太鼓のような紙が貼ってある丸い物を六個ずつしょってコントに参加。『オムツマン』と『ブリーフマン』は水鉄砲で次々と互いの紙を破いて行く。

六人は「冷たあ!」「冷めてえ!」と叫びながらもコントを続行。加藤と山崎も「冷たい! 冷たい!」と言いながら然り。客席前列に座る女性達は、パイ投げ合戦の時と同様「キャーッ! キャーッ!!」と叫びながら笑いビニールシートを被る。

「客席はやっぱ盛り上がってるわね」

大石CPが満足げに呟けば、

「ね? 水鉄砲対決にしといて良かったでしょう」

下平チーフディレクターも得意げに返す。

オレは只コントが無事終わるようにと、モニターを見詰めるばかりなり。

やがて――『オムツマン』が『ブリーフマン』の紙を全て破り、

「無念じゃ」

木村君がステージに倒れ込み悔しさを呟くと、

「時代劇じゃねえんだよ!」

ミサオ君が突っ込み客席が笑いに包まれ、六人はスタジオを水浸しにしてコントは終了した。

実は『オムツマン』の紙には上からラップが三枚ずつ三人の紙に貼られており、幾ら水を掛けられても破れない仕組みとなっていたのだ。これは珠希の提案。

そしてエンディング。木村君とB29、TEAM―2の六人は濡れたタイツのまま、加藤と山崎は濡れた衣装のままで参加。

「ちょっとこれを嗅いでみてください」

浜崎君がゲストに足の匂いがする液体が入った小瓶を渡す。ゲストの大物俳優は「何これ?」と言いながら蓋を開け、数秒間匂いを嗅ぐと渋い表情となる。

「こんなのどうするの」

ゲストが訊けば、

「今日はお越し頂きありがとうございます。そして今までありがとうございました。という感謝の気持ちを込めて観客に嗅いで貰うんです」

木村君が解説した。

「こんなものが感謝の気持ちになるの?」

ゲストは訝しがったままだが、

「風船用意!!」

浜崎君が叫ぶとセットセンターの出入り口からロケット風船が登場。おまけに天井からは足の形をした人形に巨大風船を付けた代物まで下りて来る。

「今日は最終回という事なので匂いも倍にしてあります!」

浜崎君が告げると客席からは「ええーっ!!」と抗議の声が上がった。大畑とお貴さんの案が見事採用されたのだ。

「最終回やから別に別にええやん」

木村君が観客を宥めるも、客席はざわついたまま。それを無視してTEAM―2の二人が各一人ずつ風船をポンプで膨らませ始める。

「さあ風船はまだ発射されないのか!?」

浜崎君がTEAM―2の二人を急かす。約二分後、巨大風船が破裂した所でいつものようにロケット風船を発射。B29の三人とTEAM―2の二人が大きなうちわで匂いが客席に行くように扇ぐ。

さっき木村君が言った、「今まで本当にありがとうございました」との感謝の気持ちを、出演者並びにスタッフ一同込めた風船。観客はいつもより倍の足の匂いを「キャーッ! キャーッ!!!」「嫌あ! こっちに来たあ!」と悶絶しながら嗅ぎ、無事本番は終了した。



生放送終了後、

「最終回のゲストは○○さんでした!」

浜崎君に告げられ、ゲストの大物俳優は一足早くスタジオから出て行って頂く事になった。

「こんな臭いとこにいつまでもいられないよ」

そう言い残し、ゲストは拍手に包まれながらスタジオを出て行く。

それはそうと、今日は山崎くにこの二二歳の誕生日だった為、本番後、出演者、観客はスタジオに残り、山崎の誕生日を祝う事になった。

「今日はくにこちゃんの誕生日です!」

浜崎君が告げると観客からは拍手と「おめでとう!」との歓声が上がる。

「ありがとうございます!」

山崎はセンターに立ってペコリと頭を下げた。それから足の匂いがプンプンするスタジオ内に、薬玉とケーキが用意される。

「はい、火を消してや」

木村君が促すと、山崎はケーキに立てられた二二本のろうそくの火を吹き消した。すると出演者、観客からまた拍手が起こる。

「くにこちゃんおめでとう!」

浜崎君が薬玉の紐を引っ張ると、薬玉は割れず代わりに灰色の煙が……。何と薬玉に火が点いてしまったのだ。足の匂いのガスが着火につながったのか起因は分からないが、この一件でスタジオは騒然となる。それはサブでも……。

「何で薬玉に火が点いちゃう訳!? 着火するような物入ってなかったわよね?」

大石CPがモニターを観たまま珍しく慌てている。それに対し下平チーフディレクター殿は、

「足の匂いのガスが着火につながったんじゃないですか」

案外冷静。

「オレも一瞬そう思ったんだけど、火が点くようなものか?」

「それはあたしにも分からないけど、早く火を消さなきゃ」

「そうね。『オムツマンVSブリーフマン』の水鉄砲の水、まだ残ってたわよね? あれで消化させるように伝えなきゃ」

大石CPは早速インカムを使って指令を出す。

スタジオ内では、

「珍しい事故もあるもんやなあ」

木村君が呟けば、

「おい水水!!」

浜崎君が叫ぶ。

「お前の誕生日って悲惨やな」

浜崎君の言葉に、

「私のせいですかあ!?」

山崎は微苦笑を浮かべる。

結局、AD二人がコントで使った水鉄砲を手にステージに上がり、薬玉に向けて水を発射。火は十秒あまりで消し止められ、難なく事なきを得た。までは良かったのだが、結局せっかく用意した「くにこちゃんお誕生日おめでとう!!」という垂れ幕は出て来ずじまいに終わってしまう。

「良かったわあ。大事に至らなくて」

大石CPは心から安堵している様子。

「あれくらいの火だったら大事には至りませんよ」

下平は全く冷静のまま。肝が据わっているというのか呑気というのか……。



観客をスタジオから送り出し、出演者も一旦楽屋に戻り私服に着替えた所で、THS内A6会議室という比較的広い会議室で出演者、スタッフ総出の細やかな打ち上げが開かれた。

「皆、たった半年だけのお付き合いだったけど、本当に良く頑張りました! 数字は誉められたものじゃなかったけど、皆の頑張りにあっぱれです! 乾杯!!」

「乾杯!!」

大石CPの音頭により打ち上げが始まる。

「ちょっとクラナリ君とオオシタ君、さっきの薬玉を持って来て。それからくにこちゃん、こっちにおいで」

大石CPの指令により、ADのクラナリ君とオオシタ君が焦げた薬玉を持って来た。山崎も大石CPの右隣に移動する。

「さっきは割れなかったけど、今度は手で割りましょう。クラナリ君宜しく」

「はい」

オオシタ君が薬玉を持ち、クラナリ君が両手で薬玉を割る。

「改めてくにこちゃん、お誕生日おめでとう!」

大石CPが祝福し、会場は拍手に包まれるが、垂れ幕の「おめでとう」の「う」とビックリマークが完全に燃えていた。これには全員が失笑。やれやれ。せっかく美術スタッフが用意した薬玉も、この成れの果てか……。その後、出演者にだけ、さっきのバースデーケーキが振る舞われた。

「酒飲んで甘い物食べたら糖尿になるかもしれへんな」

とは浜崎君の弁。

「今日一日くらいは大丈夫だろ」

とはミサオ君の弁。

こうして二人の遣り取りを見ながら会議室全体を見ていると、出演者、スタッフが楽しそうに歓談し飲食している。まるで高視聴率番組の打ち上げのようだ。

そこに普段は飲まないビールで赤ら顔をした木村君がオレに近付いて来た。てっきり愚痴られると思ったが、彼の表情はにこやか。

「ユースケさんお疲れ様でした」

「お疲れ様。ごめんね木村君、「あれ」くらいしか面白い企画考えられなくて」

「一応」謝っておく。

「別にええですよユースケさん。『オムツマンVSブリーフマン』、あれ冷たかったですけど遣ってておもろかったですから」

これは意外な発言だ。笑いに厳しい木村君から「お誉」の言葉を頂けるとは。

「あの番組、遣りながらダメだなあって思ってたんですけど、最後が良かったんで結果オーライですよ」

「そう、それは良かった」

心底そう思う。宴もたけなわになった時に二人で笑い合う事が出来て本当に良かった。

すると、

「何? 何? 二人で何話してるの?」

「そうですよ、随分楽しそうですね」

こちらも赤ら顔をした大石CPが沢矢さんを伴ってオレ達の方へ近付いて来る。

「今日の『オムツマンVSブリーフマン』、木村君が遣ってて楽しかったんですって。結果オーライだそうですよ」

「そうだったんですか。放送作家冥利に尽きますね、ユースケさん」

「そうだね」

「私も番組を楽しみながら遣ってくれて嬉しいわ」

大石CPの言葉に、

「最終回くらいわね」

木村君は照れ臭そうに笑う。その光景に大石CPと沢矢さんは破顔して頷く。それだけ木村君は笑いに厳しくプライドの高い人だから。

「明日の視聴率発表が待ち遠しいわあ」

大石CPは破顔したままの表情で言う。まるで高視聴率番組のCPのようにしか見えない。酒で気持ちがハイになっているのだろう。



そして翌日。キー局の会議前に事務所に立ち寄ると、

「中山君、昨日の『ポンペイウスの夜光に』の数字が出たよ」

陣内社長が微笑を浮かべて視聴率表を差し出して来た。

「どうせ一桁だろう」と思って見てみると、何と関東地区で一○・五%と、リアルタイムでは初の二桁を記録していた。

「良かったね。THSから干される事もなく、番組が有終の美で終われて」

陣内社長はからかうような笑みに変わる。

「一○・五かあ。初の二桁ではありますけど、有終の美とまではちょっとね」

手放しで喜ぶ事は出来ない。

「でも大石さんは喜んでると思うよ」

陣内社長の弁。確かにそうかもしれない。大石CPの事だから今頃は手放しで喜んでいる事だろう。でもあの木村君も楽しんでくれたし、最終回ではあるが、二桁を記録した事は本当に良かった。

そして八日後、タイムシフトも合わせた結果も出た。すると一四・二%。まあ有終の美だろう。までは良かったのだが――



その日の夕方、多部から『明日の夜に会えないか?』とメールが送信されて来る。なーんか嫌な予感がしたが応じる事にした。

同日の深夜、飲酒後に寝ていると嫌な夢を見た。多部と二人で居酒屋の個室にいる。多部はタバコを吸いながら静かな声で言う。『オレ、会社辞める事にしたから』と。

「辞めないでくれ多部!」

自分の声で目が覚めた。

「まさかあいつ、本当に会社辞める気じゃ……」

「まさか」と思い直し、再びベッドに横になった。

そして運命の約束の日。二○時に会う約束をして、

「久しぶり」

「ご無沙汰」

という短い挨拶をして世田谷の居酒屋に入る。

「どうしたんだよ急に?」

「ちょっと会って話したい事があってな」

メニューを注文する前の短い会話。多部は微苦笑一つ見せない。その様子に嫌な予感は更に加速する。オレは昨日の夢の事が頭を過った。

「何だ? また仕事の話か?」

気分を変えようとオレから口火を切った。

「まあ……仕事といっちゃあ仕事の話なんだけどさ」

多部はいつになく訥弁。

「まあ仕事の話の前に注文しようぜ」

この状態のままでは埒が明かない。オレの方から事を進める事にした。

「そうだな。何注文しようかなあ」

多部がやっとメニュー表を開く。

やがてオレはビール、多部はハイボールを注文し、空揚げなどのつまみも届いて来る。取り敢えず乾杯。

「それで何だよ? 話って」

「実はオレ……石本の責任を取って会社を辞めようと思ってるんだ」

「えっ! そうなのか!?」

あまりの衝撃に二の句が継げない。

「オレさ、昨日お前が会社を辞めるって言い出す夢を見たんだ」

「正夢になったな」

多部がやっと失笑する。

「石本が元族出身って事は前にも言ったけど、その族が曾て新山さんが所属してた『Toukyou Reckless Run』ってやつでさ。そこに石本も所属してたらしいんだよ。言わば先輩後輩の間柄って訳」

「そうだったのか……」

やはり二の句が継げない。が、心中ではヤンかチーフプロデューサーとADだったのか……と比較的冷静。

「それで「自分はプロだ」とバラした美容師に暴行を加えろって指示したのは新山さんだったんじゃないかって噂が出てるんだよ」

「なるほどね」

話を聞きながらビールとタバコのピッチが上がって行く。

「石本は警視庁の取り調べに始めは「自分一人で遣った」と供述してたらしいけど、最近になって「実は新山さんに指示された」って供述し始めたみたいで、近く新山さんも警視庁から事情聴取されるらしい」

多部はしんみりとした口振りで言った。

「暴行教唆ってやつだな」

「まあそういう事」

しかし多部が<ワークベース>を辞める。仕事仲間が一人減るという事は衝撃的で寂しい。オレはあまりの動揺に「辞めないでくれ!」とも言えず、それ以外の話は上の空で殆ど耳に入って来なかった。だって新山さんが逮捕されようがされまいが、オレにとってはどうでも良い事だから。



後日。新山さんは警視庁の任意の事情聴取を受けたそうだ。初めは否認していたそうだが、捜査が進むにつれ態度を軟化させて行き、容疑を認めたらしい。その容疑が固まった所で、オレが多部に話したように暴行教唆の容疑で逮捕される。

警視庁の捜査員に連行されて行く新山さんと、THS内の廊下で擦れ違った。新山さんはオレと目が合うと初め目を逸らしたが、直ぐに顔を上げ、

「ちょっと良いですか」

と捜査員に告げて足を止める。

「オレに何か言いたい事があるな」そう思ってオレも足を止めた。

「おいポンスケ」

新山さんが案の定オレに話し掛けて来る。

「だから僕はユースケです」

「ああユースケ」

初めて新山さんから「ユースケ」と呼んで頂いた。

「編成局長がお前の事を誉めてたぞ。「オレに反論するとは中々骨のある男だ」ってな」

「そうですか。それはそれは」

としか返しようがない。あれは勢いで言った言葉だから。最後のメッセージを残し、新山さんは連行されて行った。

新山さんが逮捕された一件は直ぐに各マスコミに拡散され、テレビでは夕方と夜のニュース番組で、スポーツ紙は翌日に報じる。これを受けTHS広報部は、『今回我が社の社員が逮捕された事は誠に遺憾。事実確認をし厳正に対処したい』とのコメントを出す。この一件で、新山さんはTHSを、石本は<ワークベース>を懲戒解雇処分となる。当然といえば当然の処分だ。



新山さんが逮捕された後日、THS内のロビーに下平、多部、オレに沢矢さんとお貴さんが集まった。目的は多部が会社を辞める事を考え直させる、翻意を促す為である。

オレを含め皆、顔は神妙としている。

「何であんたが辞めなきゃいけないの?」

始めに口を開いたのは下平だ。

「自分の部下が起こした不祥事の責任は取らなきゃな」

多部は頑な。

「辞めて責任が取れると思ってんの?」

下平がこう返す。

「オレもそう思うんだよ。何も多部が辞める必要はないだろう」

「私もそう思うんですよね。何も直属の部下が逮捕されたといっても」

沢矢さんもオレと同じ事を思っていたようだ。

「そう思ってくれるのは嬉しいしありがたいんだけど、もう会社には辞表を提出してるんだよ」

多部はやっぱり頑な。笑顔一つ見せない。

「会社にもう辞表を出してるんなら、これ以上説得してもダメですね」

「そうかもね」

お貴さんと下平は諦めの表情。

でもオレは、「多部よ、お前もか……」という言葉が頭を過る。『ポンペイウスの夜光に』を遣っていたからか?

「会社に辞表出して、今後はどうするんだよ。ハローワークで仕事を探す気か?」

一番気になる事だ。

「最初は地元の山梨に帰るつもりでいたけど、今後はフリーで遣って行く事にした。大丈夫だよ、ディレクター自体を辞める訳じゃないんだからさ」

多部がやっと笑顔になった。

「なーんだ、ディレクターは辞めないんだ」

「そうですね。少し安心しました。また一緒にお仕事出来ますもんね」

下平も笑顔になり多部の左肩を小突き、お貴さんも破顔する。だが――

「でもフリーじゃ自分で仕事を探さなきゃいけないんだよ。その辺は大丈夫なの?」

下平は直ぐ友人を心配する表情になる。それに対し、

「大丈夫だよ。今までの人脈、コネクションがオレには一杯あるからな」

多部は楽観的。確かに人脈、コネクションはあるだろうが……。

「なら良いけど、苦労すると思うよ」

下平は尚も心配顔。

「だから大丈夫だって。オレを必要としてくれてるプロデューサーは大勢いるんだから」

「そう。それは相当自信がおありのようで」

下平の表情がいたずらっぽく変わる。まだ何かあるのか?

「それより知ってる? こいつまだ「チャラ男D」なんだよ」

「ある程度は予想はしてたけど何かあったのか?」

「もう結婚したからクラブや合コンには行ってねえよ! 「チャラ男D」は卒業した」

今度は多部が下平の右肩を小突いて突っ込む。

「だって一昨年の披露宴で前に付き合ってた女の席作ってたじゃん。あたし知ってるんだからね。しかも三こ擦り半で付き合ってた女達でさ」

「ええっ!? そうなのか!?」

オレも沢矢さんもお貴さんも出席していたが、全然気が付かなかった。

「そんな事してたんですか!?」

「最低ですね。奥さんは知ってるんですか?」

沢矢さんもお貴さんも軽蔑した表情。

「当時連絡が着いた女だけだよ! かみさんには「友達」って言った。バラすなよ!」

多部は慌てた口振り。

「それに下平、もう良いだろその話は。もう終わった事なんだから」

「良くないよ。元カノを披露宴に呼ぶなんてありえなくない?」

多部よ、やっぱりお前は「チャラ男D」のまんまだ。

「ああ分かったよ! 「チャラ男D」で結構!」

多部は投げ遣りな口振り。まあこれだけ責められたら当然だわな。心中お察し致します。

「じゃあオレも前から思ってた事言わせて貰うけどな、「シモダイラ」」

多部の小さな反撃。

「あたしは「シモヒラ」だよ!」

下平が冗談でムッとした表情になる。

「前から思ってた事って何だよ」

「下平ってブスだよな」

唐突過ぎるし失礼極まりない発言に、

「何よいきなり!?」

下平は今度は本当にムッとした表情で多部の左肩を「バーン!」と叩く。

「おい多部、「シモダイラ」は元読者モデルだぞ」

「だからあたしは「シモヒラ」だよ!」

「だから凄いと思うよ。こんなブスで読モ遣ってたんだから」

「もう良いよ!」

下平はムッとした表情のまま。

この間、沢矢さんもお貴さんも失笑しているだけで全くフォローしようとしない。彼女達も下平がブスだと思っていたのか? だが――

「ちょっと加奈ちゃんも貴子ちゃんも笑ってないでフォローしてよね!」

下平が二人にフォローを促す。

「ダメですよ多部さん。女性にブスなんて言っちゃあ」

「そうですよ。失礼ですよ」

沢矢さんとお貴さんはようやくフォローする。

「フォローが遅いよ! 二人共」

「下平の機嫌が直った所でユースケ」

「直ってないよ!」

「何だよ、オレにも言いたい事があるのか?」

「何でお前は年上でしかも業界歴も長いオレ達を「多部!」「下平!」って呼び捨てにするんだ?」

「それもそうだよね。あたしも気になってた」

二人がジロリとオレと目を合わせる。さてどう言い訳しようか。

「別に深い意味はないけど……」

やっと出た言葉がこれ。でも事実だから。

「ユースケさんも案外常識知らずですよね」

沢矢さんが失笑しながら被せて来た。常識は持っているつもりなんだけど……。

「そうなんだよ。オレと初めて会った時も「チャラ男D、チャラ男D」って指差したんだぜ」

「あたしの時には「元ヤン読モ、元ヤン読モ」って言ってたね」

「もう古い話は良いじゃないか「多部さん」」

「今頃「さん」付けしてももう遅いんだよ!」

「結構無礼な人なんですね、ユースケさんって」

お貴さんが笑う。人が責められているのに。

「だから昔の話なんだからもう時効だろう。「下平さん」」

「もう遅いんだって。散々呼び捨てにしといてさ」

「「下平さん」、お前もか……」

オレが少々打ち拉がれていると、話題は仕事の話になる。



「それにしても<ワークベース>に入社してから色んな経験をさせて貰ったな」

多部がしみじみとした口振りで言う。

「今度は何よいきなり」

下平が微苦笑を浮かべる。

「オレ、一度だけ大物演出家と制作の仕事をさせて貰った事があるんだけど、VTRのプレビューが終わった瞬間「このVボツ!」って言い出すんだ」

「そういう話、オレも聞いた事あるよ」

「あたしも昔そんな事があったって聞いた事がある。でも制作費も削減されてるこのご時勢で?」

 下平は目を丸くする。

「それでどうなったんですか?」

沢矢さんとお貴さんは興味津々といった表情。

「「ウン十万掛けたんですよ」って他のディレクターが進言したら、「こんな面白くないV流して番組がポシャったらそれこそ大きな損失だ。だからボツ!」ってそれで決定なんだぜ。ウン十万の制作費がパー。でもそれだけ番組制作に情熱を掛けてる人なんだなあって思った」

「そういう厳しい人がいるんですね」

お貴さんは興味はあるみたいだが我関せずといった口振り。

「あたしも苦労っていうか、芸能界って凄いなって思った話があるよ」

「何があったんだよ」

「(ビート)たけしさんの番組のディレクターに就いた時、これは本人に挨拶しなくちゃって思って、所属事務所に電話したんだけどさ、十人くらいの人に挨拶しなきゃいけなくて、十一人目でやっとたけしさん本人につながったの」

下平が当時を懐かしむ。

「超大物になると取り巻きも凄いからな」

プロデューサーやディレクターは大変だ。

「作家も楽じゃないぞ。オレも作家成り立ての頃、先輩作家から「毒キノコを食べる村があるらしいから調べてくれ」って言われたんだ」

「そんな村があるんですか!?」

沢矢さんが驚愕する。

「でも「らしい」って事だけで又聞きの又聞きの情報でさ、調べるのに苦労したんだこれが。ネットを使ってもそんな村出て来ないんだよ」

「それで結局どうなったんですか?」

お貴さんはやっぱり興味だけといった感じ。

「調べるのに疲れてその先輩に「見付かりません」って報告したら、「ああその話。もう良いんだ。違うネタが見付かったから」って言われて、ストレスから気を失なっちゃってさ、その場で倒れちゃったよ」

「大変でしたね、それは」

お貴さんはまるで他人事のように言う。

「それでどうなったんですか」

沢矢さんは気の毒がっている様子。

「大変だね作家も」

下平は少々バカにした口振り。これが放送作家とディレクターの差か? 何か腹立だしい。

「気付いたら病院のベッドの上だったよ。点滴を受けてた。その先輩、救急車を呼んでくれたみたいでさ」

「優しい先輩だったんですね」

お貴さんは破顔する。そんなに優しい先輩ばっかりじゃないんだぞ。

「そういえば私も苦労というか、大変だった仕事がありましたよ」

沢矢さんは当時を思い出し、少し苦痛な表情に変わる。

「どんな事があったの」

多部が真顔で訊く。

「私も作家成り立ての頃だったんですけど、「男の精子を持って来い」ってディレクターに言われて、色んな友達とかに打診したんですけど、中々見せてくれる男性なんていませんよね」

「ちょっとオレでも抵抗あるね」

多部は真顔のまま。沢矢さんに同情しているのだろう。

「それでどうなったんですか?」

お貴さんはやっぱり興味本位。

「精子を見せてくれる人が見付からなくてメソメソしちゃった夜もあったんだけど、何とか先輩作家が「オレので良ければ」って提供してくれて、それで無事威令を遂行出来たの」

「皆さん色んな苦労をしてるんですね」

お貴さんは飽く迄他人事。

「貴子ちゃん、さっきから我関せずみたいに言ってるけど、その内苦労する仕事があるよ。絶対に」

下平がいたずらっぽい笑みを浮かべ、お貴さんに脅しを掛ける。

「大丈夫ですよ、私は。今はリサーチャーもいますし私にはそんな仕事来ないと思いますから」

お貴さんは澄まし顔。下平の脅しも何のそのといった感じ。

「貴子ちゃんのその自信は何処から出て来るんだろうね」

多部は呆れ顔。

「そうだよお貴さん。まだ作家の大変さを分かってないな。私は大丈夫とかリサーチャーがいるとか大した自信だよ」

オレも反撃せねば気が済まなかった。



ある程度皆の仕事の苦労話が終わった所で――

「オレ、最後の編集があるからこれで失礼するわ」

多部が席を立つ。去り際、

「お前達でテレビ業界を活気付けてくれ……なあんてな」

「チャラ男D」はこう言い残して編集室へと向かって行く。

「お前は和久平八郎か!」と突っ込んでやろうかと思ったが、心中ではもう一つ、「addo tabe(さようなら多部)」と呟いていたのだが、

「和久さんかよ」

下平に先に言われてしまった。

でも「お前達でテレビ業界を活気付けてくれ」という言葉は気になる。何か違った形でディレクターを続けて行こうとしているのだろうか?

「結局辞めちゃうんだね、多部は」

下平は諦めの表情。やっぱりディレクター仲間が一人減る事は寂しいようだ。

「でもディレクターは続けるって言ったんだからそれだけが救いですよ」

沢矢さんが下平を宥めるように言う。

「でもどう活動して行くのやら……」

下平の心配は止まらない。

「多部の事だから大丈夫だろう」

「そうですよ、下平さん」

お貴さんも同意する。

「さあオレ達も仕事仕事」

オレの一言で今日は解散となった。



後日、小説家の夕起さんと久しぶりにイタリアンレストランで食事をする事になった。「たまには逢おうよ」と誘って来たのは夕起さんだ。

夕起さん。オレが定時制高校に通っていた頃からの友人で、元人気風俗嬢という異色の経歴をお持ちのお方。処女作である『DEPATURE』が五万部を売り上げ、続く『ARRIVAL』も四万部を売り上げて一躍売れっ子作家へと華麗に転身した。

そしてオレが放送作家に成れた恩人でもある。当時テレビなどのメディアに出演し、コメンテーターを務めるなどタレントとしても活躍していた夕起さんに、「放送作家に成りたいんです」と相談した時、オレは企画書一枚書いて来なかった。

夕起さんは「これはダメだ」と思ったのだろう。自分が曾て勤務していた風俗店の個室待機室にオレを「監禁」。「放送作家に成りたいんだったらここで企画書を書け」と命令して来た。オレは風俗店の個室待機室で企画書を書きまくった……訳でもなかったが、一定の努力は認められ、親友の陣内美貴社長を紹介してくれたおかげで、オレは<マウンテンビュー>に所属する事が出来たのだ。夕起さんは親友でもあるが、オレにとっては頭が上がらない人でもある。

オレも夕起さんの番組にアシスタントとして出演した事があるが、まさか少年時代に出会った人と大人になっても関係が続き、一緒に仕事する仲になるとは夢にも思っていなかった。

それはさて置き、夕起さんはボンゴレ、オレはオーソドックスにマルゲリータピッツァと二人で赤ワインを注文し、料理が運ばれて来た所で、

「改めて久しぶり」

「暫くでした」

乾杯して食事開始。

「チハルちゃんは元気」

いきなり「びくり」とする質問。

「元気だと思いますけど……」

「思いますけどって、何かあったの?」

「喧嘩別れしたんですよ」

「喧嘩別れ!? どうして?」

夕起さんが驚愕した表情になりフォークを止める。でもオレは構わず、

「まあ色々ありまして、チハルの両頬に平手打ちをしてしまいました」

そう答えながらピッツァを頬張る。そんなオレの態度に、

「ユウ君、ピッツァに舌鼓を打ってる場合じゃないでしょ。女に暴力は良くないよ」

夕起さんはフォークを止めたままオレをギロッと睨み付ける。

「何があったのか知らないけど、それでちゃんと謝ったの」

「一応謝りましたけど、『しばらくほっといてよ!』って返されました」

「どうせメールでしょう」

夕起さんはオレを睨んだまま。

「はい……」

夕起さんには正直に話すしかあるまい……。

「どうして直接謝らないの」

「気が弱いものでして」

「またそんな言い訳して。直接謝った方が良いに決まってるじゃない。チハルちゃんまだキャバ遣ってるの?」

「いいえ。今は五反田でバーを経営してます」

「住所は知ってるの?」

「はい。一応聞いてますけど」

何か嫌な予感……。

「なら決まり。食事が終わったら五反田のバーに行こう」

夕起さんの顔がやっと笑顔になる。が、オレにとっては嫌な笑顔。

「えっ!? マジですか!? そんな急に言われても……」

ある程度予想はしていたがやっぱり渋ってしまう。

「マジに決まってるでしょ! ここは私が払うから早くしよう。ね?」

夕起さんの食のピッチが上がった。オレも急いでピッツァを頬張るしかあるまい……。

そして食事が終わり――



「さあ行こう」

夕起さんは店を出る支度を始める。

「分かりましたよ」

言われるがまま隣の席に置いたバッグを手に持つ。

夕起さんが会計を済ませ店を出ると直ぐに空車のタクシーを拾う。仕方なくオレも乗車した。

「住所は五反田の何処なの?」

「はいはい。五反田三丁目までお願いします」

これまた仕方なく運転手に行き先を告げる。

「タクシー代とバーの料金はユウ君が払ってね」

「えっ! どうしてですか?」

思わず声が上擦ってしまう。

「そりゃそうよ。だってユウ君の為にチハルちゃんのバーに行くんだから」

「行こうと言い出したのは夕起さんじゃないですか!」言い返したかったけど何も反論出来ず……。

それにしても夕起さんの声は弾んでいる。人の不幸を何処かで楽しんでいるような……。

「チハルちゃんと会うのはどれくらいぶりなの」

「多分、七、八ヶ月ぶりだと思いますけど」

「一年近くも会ってないんだ。所で店名は分かってるよね?」

「分かってますよ。別れる前に聞きましたから」

「なら良かった」

「五反田三丁目の<AIR>ってバーです」



タクシーを走らせる事約十分、五反田三丁目に到着。代金を支払い歩いて五分でラーメン屋の二階にある<AIR>に着いた。

「ここなんだあ」

夕起さんは何だか嬉しそうに言う。オレの緊張も知らないで。

一階のラーメン屋からは旨そうな豚骨スープの匂い。

「ここまで来てまさか逃げる気じゃないでしょうね。「しめにラーメンでも食べて帰りましょう」みたいな」

夕起さんがまたギロッと睨む。

「逃げようとしてもどうせ掴まえるでしょう。今も右腕掴まれてるし」

オレの腕を掴んだ夕起さんの手には痣になるような力が入っている。オレをチハルに会わせる気満々だ。

「よおし! じゃあ行くよ」

腕を掴まれたまま階段を上って行く。やがてバーの出入り口のガラスドアの前に辿り着いた。

「入る覚悟は着いた?」

「ここまで来て覚悟も何もないですよ……」

「じゃあ開けるよ!」

中に入ると「いらっしゃいませ!」バー特有の薄暗い店内から懐かしい声が。チハルだ。

しっかしこのバー、副店長以外は皆女性。まるでガールズバーだ。と思ったのが最初の印象。

が、チハルの声を聴いて緊張はMAX。だがチハルは夕起さんに気付いて出入口の方へ近付いて来る。

チハルの服装は白いYシャツに黒のベスト、蝶ネクタイを付けている。他のバーテンダーも同じ服装。オーソドックスなバーの制服だ。

チハルは額を出して髪をさらりと下ろし、メイクもナチュラルだ。これもまた他のバーテンダーもポニーテールやショートカットにしている人もいるが、メイクはナチュラル。とても元キャバ嬢とは思えないくらいの変貌。

客席は半分程埋まっている。開店して間もないけど結構繁盛しているようだ。

客層は中年から青年と幅広いが、バーテンダーが全員女性という事もあるのだろう、九割が男性。やっぱりここはガールズバーか?

「あら夕起さんお久しぶりです! 来てくださったんですね。ありがとうございます」

「久しぶりチハルちゃん。今日は私だけじゃないわよ」

夕起さんがオレの背中を押す。

隣にいるのが元カレだと気付いたチハルは微苦笑を浮かべ、

「ユウ……もね。久しぶり」

やっぱりぎこちない。

オレも、

「ご無沙汰」

としか答えようがない。

しかし頭は冷静で、打ち合わせや長丁場の会議を縫って映画を観に行った事。半ば強引に東京ディズニーランド、ディズニーシーに連れて行かれた事。鴨川シーワールドのシャチのパフォーマンスショーを観に行った事。一泊二日で草津温泉に行き、二人で一緒に露天風呂に入った事。それらの思い出が、何故かスティーヴィー・ワンダーの『Isn't She Lovely』と共に、走馬灯のように思い出された。別に二人の思い出の曲でもないのに摩訶不思議だ。まあ、『Isn't She Lovely』は嫌いな曲ではないんだけど。

それはそれとして――

チハルは直ぐに営業スマイルに戻り、

「さあ座ってください」

オレ達をカウンター席へ案内する。

「お二人さん何飲みますか?」

「私はハイボール。ユウ君は?」

「オレは取り敢えずビールで良いです」

「分かりました。少々お待ちを」

そう言ってチハルは一旦厨房の方へと引っ込む。

約一、二分してチハルがハイボールとビールのグラスを持って戻って来た。

「何かつまむ物欲しくないですか。これメニュー表ですけど」

チハルは夕起さんにメニュー表を差し出す。

「そうねえ、食事はして来たからウインナーの盛り合わせで良くない?」

「そうですね。オレは別に良いですけど」

「ウインナーの盛り合わせですね。少々お待ちを」

チハルがまた厨房の方へと引っ込み、暫くするとまたオレ達の席へと戻って来る。

「ちょっと待っててくださいね。今焼いてますんで」

「それにしても良いバーね。雰囲気も最高」

夕起さんが呟く。

「ありがとうございます。でも改装前は酷い状態だったんですよ」

チハルが当時の状況を述懐し、微苦笑を浮かべる。

「どう酷かったの?」

「天井は剥げてるは壁はやに汚れが酷くて」

「そうだったんだ。良くここまで奇麗にして貰えたね」

夕起さんが言うと、

「そうですね」

チハルは破顔する。

「それはそうと、ねえユウ君、チハルちゃんに何か言う事があるんじゃないの?」

夕起さんに促され、また緊張がMAXになる。

「分かってますよ……」

残っていたビールを一気に飲み干した。

「酒の力を借りて言う事じゃないけど、チハル、暴力を振るって本当に申し訳なかった」

「ああ、その事を謝りに夕起さんに連れられて来たの。その事だったらもう良いのよ。私もお酒の事くらいで怒ってごめん」

チハルは何ともあっさりした答え。そんなに緊張する事ではなかったという事か。

「お酒の事で喧嘩して暴力を振るったの?」

夕起さんは何か不思議そうな表情。

「でも二人共何かよそよそしいなあ」

夕起さんは直ぐに表情を変え、破顔して茶々を入れる。

「笑わないでくださよ。人が真剣に謝ってるのに」

酒の力を借りてだけどね……。

「笑ってごめん。あまりにも二人の温度差があったからさ」

「だから言ったじゃないですか。喧嘩別れしたんだって」

「でも去年でしょ。チハルちゃんももう気にしてないみたいだし」

夕起さんは破顔を崩さない。オレ達を面白がっている。

「チハルちゃんも何か飲む?」

「良いんですか? カズミちゃーん、私にウーロンハイを」

チハルはオレの伝票にウーロンハイ代を書き込む。

「おい! オレに金を払わせる気かよ」

「良いでしょ。私のお酒散々飲んだんだから」

何も言い返せず。事実だからな。でも……さっきは「お酒の事くらいで怒ってごめん」って言っていたくせに。

「ブランデーじゃねえのかよ」

これは気になる。

「ブランデーはうちでだけ」

「ああそう……」

また何も言い返せず。でもウーロンハイの方が安いから良いか。

やがてウインナーの盛り合わせとウーロンハイが運ばれて来た。



「それにしてもユウと付き合ってた頃、私随分尽くしてあげたよね」

チハルが酔い始めた。責められるな……。

「それなのに両頬を力一杯殴ってさ」

ほらね。

「だからさっき謝っただろ。申し訳なかったって」

「女性に暴力を振るうなんて本っ当最低!」

「本当にそうだよね」

そこに夕起さんも乗っかって来た。

「オレがせいせい謝れば良いんだろ。本当に申し訳ありませんでした」

「お詫びの印としてハイボール貰うからね。ユミちゃーん、私にハイボール一つ」

またオレの伝票に追加しやがった。

「ウーロンハイがまだ飲み終わってないじゃないか」

「だからお詫びの印」

「お詫びの印ねえ……」

またまた何も言い返せず。こうしてチハルの愚痴と夕起さんの援護射撃、酒が進んで行き……。

「所でユウ、新しい彼女は出来たの?」

「出来ないよ。女性に暴力を振るう「最低男」には」

「ユウはそこがいけないんだよ!」

チハルの眼光が鋭くなった。

「何で自分の人間味に気が付かないの!?」

「何だよ唐突に」

それに自分にはもう新しい彼氏がいるのかよ。訊きたかったが訊けなかった。それだけチハルの迫力は凄いから。

「私に暴力を振るったのは最低だけど、ユウにはもっと素敵な人間味があるじゃない! 不器用で引っ込み思案だけど優しくて、いつだって他人にも仕事に対しても真っ正面から向き合って、地道で粘り強く解決して行く。私はそんなユウが大好きだよ!」

 チハルは今にも泣きそう。

「そうそう、根は正直で真面目。まるで真面目が服を着て歩いてるみたいだよ」

夕起さんの言葉。「真面目が服を着て歩いてるみたい」喜んで良いのやら……複雑だ。

「そうなんですよ夕起さん! ユウはそこに気が付いてないんですよ」

「何だよ。愛想を尽かしたり散々愚痴っといて、今度は説教かよ……」

「そうよお説教よ!」

「愚痴られたりお説教されたり、ユウ君も大変だね」

夕起さんは終始破顔してゆったりとハイボールを飲んでいる。他人事だと思って……。

「カズミちゃーん! チハルさんにウーロンハイを!!」

チハル、そのウーロンハイ代はオレが払うんだからな。夕起さんの分もだけど……。

ウーロンハイは直ぐに運ばれて来た。さて何杯目やら……。チハルは一口飲む。

「ユウは何で自分の人間味に気が付かないの!? そこがダメなんだよ!」

「そうね。もっと自分の良さに気が付かなきゃね」

また夕起さんが加わる。

「オレの人間味ねえ……」

やっと返せた言葉がこれ。別に大したものはないと自分では思っているんだけど。

「さっきも言ったじゃない。まるで真面目が服を着てるみたいだって」

「夕起さんそれ誉め言葉ですか?」

「勿論そうよ」

夕起さんは破顔一笑。本当だろうか? オレは何も言えなくなってしまう。



「そんなユウに紹介したい女の子がいるの」

「これまた唐突に何だよ。紹介したい女性? いいよ別に」

「良いじゃない。せっかくだから紹介して貰いなさいよ」

夕起さん……。

「またそんな消極的な事言っちゃって。もう呼んでるんだからね」

「本っ当、唐突な奴なんだよな、チハルって……」

でもどんな女性なんだろう。気になっている自分がいるのも確か。

「みつみ! ちょっとこっちに来て」

チハルが呼んだ名前、何処かで聞き覚えがある。

呼ばれた女性はオレ達から五、六メートル離れたカウンター席で飲んでいて、徐に立ち上がるとゆったりと笑みを浮かべてオレ達の席に近付いて来た。

「紹介するね。この子」

「初めまして。小玉みつみです」

名前を名乗った女性は、笑顔のままペコリと頭を下げる。

オレも挨拶しなくてはいけない所だが、

「まさかオレに紹介したい女性って!?……」

この女性は良く知っている。が、動揺から言葉が続かない。

「私この子知ってるよ。有名だもんね。良かったねユウ君、こんな有名人紹介して貰えて」

夕起さんも笑顔だがオレは笑顔になれない。

彼女の正体は、

「そう。AⅤ女優の小玉みつみちゃん。私がAVのバイト遣ってた頃からの友達なの」

チハルは淡々と説明した。

チハルは弟にAVに出演している事がバレて直ぐに引退したが、小玉さんは企画女優のままAV業界に残り、ハードなプレイと端正な顔立ちがウケて見事単体女優に昇格した。

「いつ小玉さんを呼んだんだよ」

「え、一時間くらい前かな。夕起さんのお酒作ってる序に電話でね。もしユウに新しい彼女がいないんだったらみつみを紹介しようと思ったの」

チハルは笑顔一つ見せずあっさりとした口振り。

「もっと別に紹介したい子はいなかったのかよ」

つい本音が出てしまう。

「それはみつみちゃんに失礼じゃない」

夕起さんに右肩を軽く叩かれた。

「そうだよユウ、せっかく紹介してあげたんだから」

「そう言わずに宜しくね、ユースケ君」

破顔したままの小玉さん……。もう「君」付けかよ。

オレは動揺が続いて心臓もバックンバックン状態。だから「こちらこそ宜しく」とも返せず。

元カノと和解出来たのは良かったけど、その代わりに人気AV女優を紹介されるなんて、今日は何という日なんだ!!         



後日談――

あの日、チハルから小玉みつみさんを紹介して貰い、大いに動揺したが、チハルから、

「ユウ、連絡先交換しなよ」

破顔して促され、夕起さんからも、

「そうだよユウ君。こんなチャンス滅多にないよ」

こちらも破顔して促された。人の動揺も知らないで二人共……。

「そうそうユースケ君、これから仲良くして行くんだから。メアドくらい教えてよ」

みつみさんも破顔。何て積極的な女性なんだ……。

三人に促されては仕方がない。「分かりましたよ……」そう思い渋々バッグからスマホを取り出した。

「赤外線受信で交換しよ」

みつみさんに言われるがまま、赤外線受信で連絡先を交換する。「メアドくらい」って言われたけど、結局電話番号まで交換してしまった……。

「これから宜しくね、ユースケ君」

満足そうなみつみさん。まだ会ったばかりなのに「君」付け。馴れ馴れしくて積極的な人だ全く。

「うん。こちらこそ宜しく」

やっと言葉を発する事が出来た。あまり乗り気ではないけど。

「今度は暴力を振るっちゃダメよ」

チハルが釘を刺せば、

「そうだよユウ君、相手は女の子なんだから。幾らムカついてもそれだけはダメよ」

夕起さんも注意する事を忘れない。

「分かってますよお二人さん。もう女性に手を挙げたりしませんから」

こう答えるしかあるまい。

「分かれば宜しい」

「ちゃんと守ってよね、約束だから」

夕起さん、チハルの順で念を押される。

「それ聞いて安心した。AV女優は顔と身体が命だから」

みつみさんは心から安心している様子。まだ付き合ってもないのに……。

「ユウ、本当だろうね。もう一度言うけど約束だからね」

チハルは破顔から真顔になり再度念を押す。

「分かってるよチハル。チハルに手を挙げた時猛省したんだから」

「なら良いけど」

チハルはまだ疑っているな。

「大丈夫だよ。本当に猛省したんだから」

「ユウ君は基本的に暴力を振るう性格じゃないよ」

夕起さんが助け船を出してくれた。

「本当に約束だからね」

チハルに再三再四念を押されてこの日はお開きとなった。

夕起さん、チハルの飲み代を合わせて八千五百円也……。タクシー代も合わせると本当に手痛い出費だ。しかも大いに動揺もさせられたし。



それから三日後の午前中――

自宅マンションで寝ていると、スマホの着信音で目を覚まされた。見ると多部からの電話。会社を辞めてから最初の電話だ。「早速また仕事の話か?」と思ったが無視する事も出来ず出るしかない。

『おいユースケか?』

「オレのスマホなんだからオレに決まってるだろ。何だよ、朝から何の用だ?」

『別に大した用じゃないんだけど、聞いたぞユースケ。お前新しい彼女にAV女優の小玉みつみを紹介されたんだってな』

多部がいたずらっぽく笑いながら言う。だが何でこいつが……。

「おい多部、何でその事を知ってるんだよ?」

一番気になる事だ。

『夕起さんからだよ。「お世話になりました」って電話したら楽しそうに話してくれたよ』

あのお喋り……。やっぱり人の動揺を楽しんでいたか。

因みに多部ディレクターは夕起さんの冠番組の制作に携わっていたので、知らない仲ではないし連絡先も知っている。

「夕起さんは本当に口が軽いな」

『確かに。でも良いじゃん、AV女優を紹介して貰うなんて滅多にないぞ』

多部のいたずら心は止まらない。

「他人事みたいに楽しそうにしやがって、チハルから紹介された時、何も言えなくなる程動揺しまくったんだぞ」

『まあ相手が人気AV女優だったら、お前なら動揺も凄いだろうな』

多部はチハルとも面識があり見知っている仲だ。キャバクラに勤務していた事も知っている。

「全くなんでも楽しそうに喋るな、お前も」

『友達の吉報だからな。オレも嬉しいよ』

「まあ、吉報っちゃ吉報だろうけど……」

これくらいしか答える言葉が見付からない。事実といっちゃあ事実だからな。

それはともかく……。

「お前今何処にいるんだよ」

気になる事。さっきから人の話し声が聞こえて来る。外にいる事は確かだ。

『成田。今からギリシャに向かってロドス島に行くんだよ』

「ロドス島!?」

観光か? 何をしに行くんだろうか? それにしてもあまり耳慣れない地名。

「そんな遠い国に何しに行くんだよ?」

『ロドス島には世界の七不思議の一つ、太陽神へーリオスの彫像があったそうなんだよ』

「何か聞いた事もあるような気もするけど、今はないんだろ? 何を見に行くんだよ」

『確かに今は現存しないけど、何か興味が引かれてな。全長は三四メートル、台座まで含めると約五○メートルになって自由の女神に匹敵する大きさがあったらしいんだぜ』

多部の口振りは今からわくわくしている様子。

「まあ勉強したんだろうけど、早速フリーになってその仕事なのか」

『いや、仕事と言っちゃあ仕事なんだけど、ハンディーカメラでへーリオスがあったらしきとこを撮影して、ナレーションを入れてYouTubeにアップしてみようと思ってるんだ』

「それってYouTuberじゃないか」

『まあそういう事』

「随分気分が弾んでるみたいだけど、「今後はフリーでディレクターを遣って行く」って、YouTuberの事だったのか」

『別にYouTuberを目指した訳じゃないよ。番組のオファーがあればテレビでもラジオでも遣って行くつもりだけどな』

「そう。お互い頑張ろうな。気を付けて行けよ」

『ありがとう。お互いにな。でも話は戻るけど、せっかく紹介された彼女を大事にするんだぞ』

多部の口振りが真剣で釘を刺す声に変わる。

「分かってるよ。まだデートもしてないけどな」

『そうなのか。まだこれからって事だな。オレもう直ぐ出発だからこの辺で』

「ああ、帰って来たら土産話でも聞かせてくれ。酒でも酌み交わしながら」

『そうだな。それじゃあ』

多部の方から電話を切った。

しかし太陽神へーリオスの彫像には殆ど知識はないが気にはなる。ノートパソコンをネットにつなぎ、自分なりに調べてみる事にした。

太陽神へーリオスの彫像は、エーゲ海南東部のロドス島に、紀元前三世紀頃に建造されたそうだ。完成したのは着工から一二年後の紀元前二八四年だったという。

しかし完成から五八年後の紀元前二二六年にロドス島で地震が発生し、巨象は膝から折れて倒壊してしまったそうだ。時のファラオは再建の為の資金提供を申し出たが、ロドス島の住民達は『神に似せた彫像を建設した事が、神の怒りに触れたのだろう』と思念し、再建を拒否したのだという。

よって、現代には現存……しない。なのに多部は何故、太陽神へーリオスの彫像に興味を持ったのだろう。

それこそ、チハルとの思い出を振り返った時の『Isn't She Lovely』と同じで、「不思議」だ。



同日の午後。みつみさんからも電話が掛かって来た。バッグの中のスマホがバイブしているのだが、キー局で会議中だったので出れない。会議終了後、オレの方から折り返した。

「もしもし。どうかしたの?」

『ユースケ君、今仕事中なの?』

「今さっき会議が終わったよ。それより何」

『今夜夕食でもどうかなって思って。初デートじゃん』

「また<AIR>に行くの? あそこパスタかウインナーの盛り合わせくらいしかないよ」

バーなのでそれ以外はピーナッツ、ビーフジャーキーくらいしかない。

『いや、<AIR>じゃなくてファミレスでも良いかなって思ってね』

「ファミレス? バレるんじゃないか」

『大丈夫だよ。何度も変装しなくて行った事あるし』

みつみさんはあっけらかんと答える。

「そうなんだ……」

本人がそう言うんなら何も言うまい。

「それじゃあ何処のファミレスにする」

オレは正直あまり乗り気ではないのだが……。

『じゃあイタリアンのとこにしようよ。最初は豪華なとこじゃなくてさ』

「イタリアン……のファミレスだね」

 またイタリアンかよ……。とは思うものの、彼女のご希望なら仕方あるまい。

『そう。私パスタ好きでさ。ワインでも飲みながら色々話そうよ。ユースケ君の事もっと知りたいし』

「まあそうだね」

確かにお互いの事は知らないに等しい。まだ見知っているだけだ。

「今日の夜は空いてるけど、責めて来るね、みつみさんって」

『みつみで良いよ。そんなに畏まらなくても』

「確かにそうではあるんだろうけど……」

積極的な彼女。消極的な彼氏。

そして十九時半。他の会議や打ち合わせを終え、約束した場所に車で向かった。向かうは世田谷区内のファミレス。オレが駐車場に車を停車させ、出入口の所に行くと、みつみは白いワンピースにジージャン姿でもう店の前に着いていた。

「ごめん、待った?」

「ううん。私も今来たばっかりだから」

みつみは破顔するも、オレはやっぱり緊張してしまう。

「タクシーで来たの?」

「いいや、電車で最寄り駅まで来て後は歩いて来たの」

「そうなんだ。オレ車だから今日は酒飲めないんだ」

「そうなの。ワインでも飲みながら色々話そうって言ったのに」

「ごめん。酒はまた今度飲もう」

みつみと飲むのは<AIR>だけで十分だ。っていうかもうこりごり……。

「じゃあ私だけワインを注文しようかな」

みつみは破顔したまま。さてどんな話が展開されて行くのやら……。

「ああお腹空いた。早く入ろう」

みつみに促され店内に入った。

「いらっしゃいませ。二名様ですね。喫煙席ですか、禁煙席ですか」

店員が訊く。

「禁煙で良いよね? 私食事中にタバコを吸われると嫌なの」

「ああそう。じゃあ禁煙で良いよ」

このファミレスも喫煙席は後に廃止されるし。

窓側の禁煙席に座り、みつみがメニュー表を開く。オレもメニュー表に目を通す。

「私はカルボナーラと白ワインで良いや。ユースケ君は?」

「オレはタラコパスタとドリンクバーで良いや」

「そう。じゃあ注文するよ」

みつみが呼び出しボタンを押す。

待つ事約十五分。メニューと白ワインが運ばれて来た。

「それじゃあ初デートに乾杯」

みつみは白ワイン、オレはウーロン茶で乾杯した。

「所でユースケ君、本当に今彼女はいないの」

カルボナーラに手を付ける前にみつみは訊く。

「唐突だね。今は彼女はいないよ」

「そう、なら良いんだけど。チハルと付き合ってる時も浮気とかしなかったの」

「まだ訊くか」

食事前に、唯々呆れてしまう。

「本当に積極的な性格だね」

「だって一番気になるんだもん」

みつみはいたずらっぽい笑顔に変わる。

「浮気なんかする暇ないよ。連日会議やら打ち合わせで拘束時間も長いし、チハル一筋っていうかそうするしかないくらい時間なんてないよ」

「そうなんだ。なら安心した。私浮気されるのだけは許せないの」

みつみは安心したのだろう、ようやくカルボナーラに手を付ける。

「チハルはキャバ遣ってたから分からないけどね。でも枕(営業)はしてなかったんじゃないかな」

オレもタラコパスタに手を付ける。

「チハルは真面目なキャバ嬢だったからね。お客とメールとか電話はしただろうけど浮気まではしてないんじゃないかな」

みつみは真顔で言う。チハルの性格を知っての発言だろうと思うんだけど。

「まあ分からないけどね。オレが知らないだけで」

オレが洒落っぽく言うと、

「彼女の事を信じてあげなさいよ」

みつみはいたずらっぽい笑顔を浮かべる。

「別に信じてなかった訳じゃないけど……」

何とも複雑な心境で、これくらいしか返す言葉が見付からなかった。本当にお客との関係は分からなかったし、「浮気してる」とも訊いた事ないから。

「それよりみつみには彼氏はいないの」

オレも反撃。すると、

「いないよ。私付き合い始めると長いんだけどね」

とあっさりした答え。

「そうなんだ。一途な人なんだね」

反撃で訊いておいてこれくらいしか言葉を返す事が出来なかった。

「私、こう見えても結構尽くすタイプなんだよ」

みつみが笑顔で念を押す。彼女の笑顔に何か背中がゾクッとさせられる。多分初めてのAV女優の彼女候補だからだと思うけど……。

やがて食事が終わり、

「今度はお互いお酒を飲みながら話そうね」

ワインで赤ら顔のみつみに言われ、

「そうだね」

と答えるしかあるまい。

「お会計どうする。オレが払っても良いけど」

「いや、今日は初デートだから割り勘にしよ」

みつみに言われるがままレジに向かい、お互い飲食した会計を支払う。

「みつみさん」

また「さん」付けで呼んでしまう。

「だからみつみで良いよ」

「ならお言葉に甘えてみつみ、また駅まで歩いて電車で帰るんだろ」

「そのつもりだけど」

「家の近くまで送って行くよ」

「そう。じゃあ私もお言葉に甘えて送って貰おうかな」

みつみが甘えた笑顔になる。



二人でオレの車に乗車し、

「うちは何処なの」

と訊く。

「目黒。途中途中道教えるから」

助手席に座ったみつみが言う。世田谷区内のファミレスを後にして、オレは車を目黒区内に向けて発進させた。

車を走らせる事約四十分。その間みつみは、

「ユースケ君って今何処に住んでるの」

や、

「ユースケ君、お酒そんなに強くないの」

とか、

「ユースケ君、趣味は何」

などと質問ばかり。

興味を持ってくれるのは嬉しいが、運転にも集中しなくてはいけない。だから一言二言で返す事にした。

やがてみつみが住んでいる自宅マンション近くまで着き、

「今日は楽しかった。この辺で良いよ、後は歩いて帰るから」

「そう。じゃあここで止める」

「今度はお酒飲みながら話そうね」

みつみは楽しみにしている感じで笑う。

「そうだね」

あまり乗り気ではないんだけど……。

みつみを降ろし、オレは文京区内の自宅マンションまでそのまま帰った。しかしたった二時間くらいのデートだったけど、何か疲れる初デートだ。これがずっと続くのだろうか? 背中がゾクッとさせられる。チハルもえらい人を紹介してくれたものだ。



みつみとの初デートの夜。途中まで書いた台本を読み返したり新たに執筆していると、あっという間に深夜になっていた。「明日も午前中に打ち合わせが入ってるし、そろそろ寝るか」そう思いベッドに横になる。その就寝中の事。今は亡き母方の祖母が夢に出て来た。

内容は、

『裕介、AV女優のような子とは付き合わない方が良いわよ!』

とオレに縋り付きながら訴えるものだった。翌朝起きると普段は忘れている夢の内容を今日は確りと覚えている。「やっぱり婆ちゃんが言うように、止めておいた方が良いのかなあ」とは思ったが、これはAV女優の人達に失礼な言葉でもあるので、みつみには言うまいと決める。

それはさて置き、本当にみつみと交際する事になるのだろうか……。だがオレの戸惑いとは裏腹に、みつみは食事や映画を観に行こうと誘って来る。

「良い映画だったね」

みつみは満足げ。

「そうだね。飽く迄映画はね」

「何? 私と観たのはご不満?」

みつみはふざけて脹れっ面。

「いや、そう言う訳じゃないんだけど……」

確かに映画は良かったのだが、もう交際してるのと同様だ。

映画は渋谷区内の映画館で午後の会議を終えた後、二人でポップコーンを買って恋愛コメディー映画を観た。

「ユースケ君、今日は車じゃないんだから飲めるよね?」

場所は新宿区内のちゃんこ鍋屋。みつみはウキウキしたような表情で言う。

「うん、今日は付き合おう」

仕方がない……。塩ちゃんこ鍋、白ワインも注文し、みつみと乾杯した。

「ユースケ君って本当に彼女いないの」

また同じ質問。

「くどいねえ。仕事が忙しくて彼女なんか作ってる暇ないよ。女友達はいるけど」

「そうなんだ」

みつみは安心した様子でちゃんこ鍋をつつき、ワインのピッチも上がって行く。

「ねえ、今度うちに来ない?」

「また唐突だね」

呆れて笑ってしまう。

「出会って二ヶ月は経つし、そろそろお互いのうちを行き来しても良いかなって思って」

みつみはニンマリ。

「初めは君のうちなんだ」

「私のうちは他の所とは違うよ」

みつみは勿体ぶった笑顔。一体どういうマンションなんだろうか……。

「ユースケ君のマンションは文京区だったけ?」

「そう。駐車場付きのね」

「普通のマンションなんでしょ」

「まあ普通っちゃあ普通だけどね」

「私が住んでるマンションは一目見ただけで驚くと思うよ」

「さっきから勿体ぶってるけど、一体どんなマンションなの」

「それはうちに来てからのお楽しみ」

みつみの勿体ぶった笑顔は変わらない。AV女優のマンションだからそれに因んだマンションなのか?

「ユースケ君、さっきから鍋もワインも進んでないよ。せっかく来たんだからどんどん食べてじゃんじゃん飲もうよ」

みつみは箸が遅いオレを「もっと楽しめ!」という気持ちなのだろう、破顔して促すが、オレはどうも彼女の積極的過ぎるくらいの性格、そしてどんなマンションに住んでいるのか何か不安で、ちゃんこ鍋もワインもさっきから進んでいない。

だがここは自棄だ。残っていたワインを一気に飲み干し、また赤ワインを注文した。

「そうそう、どんどん飲もう!」

「うん、ちゃんこも旨いしね。今日はここの食事代、オレが払うよ」

勢いで言ってしまった。

「そう。じゃあ次の食事は私が払うから。私奢って貰うのばっかりは嫌いなの」

みつみはさっきまでの破顔とは打って変わって真顔で言う。ここだけは真面目なんだ。デートは全て男が払うべきという考えではなく……。



それから一週間後の金曜日。

みつみに『うちにおいでよ』とメールが送信されて来て、その日は打ち合わせしか予定がなかったので行かざるを得なかった。

「お招きありがとう。夜にお邪魔するよ」と返信する。さて「一目見ただけで驚くと思うよ」と言うマンションはどういう造りなのか……。

十七時半、車をコインパーキングに停めて目黒区内のみつみのマンションを目指す。住所はちゃんこ鍋屋で食事をした時に聞いている。

マンションに着くとピンクの外壁で少々派手だが、見た目は普通のマンションと変わらない。エントランスに入りインターホンを押す。

「ユースケ君もう着いたの? 今鍵を開けるから」

みつみは弾んだ声で答える。

「ちょっと早かったかな」

「いや良いよ全然」

短い会話をして六○五号室のみつみの部屋を目指す。

「ようこそ」

みつみは破顔して迎えてくれる。服装は淡いピンクのカーディガンに白いワンピース。その上に肌色のエプロンをしている。見た目は清楚、だが内面はどうだか……。

「お邪魔します」

玄関を入ると煮物のような匂いがした。

「何か作ってるの」

「うん。今肉じゃがを煮てるの」

「料理出来るんだ」

「これくらいは普通でしょ」

みつみは洒落っぽくムッとした顔付をする。までは良かったのだが……。

「さあ上がって」

みつみに促され「お邪魔します」と、もう一度言いながらリビングに通されたのだが、一目見て唖然とした。キッチン、リビングは普通のマンションと同じなのだが、リビングの中に何とバスルームが……。しかも鏡張り。

「何なのこの造りは」

訊かずにはいられない。

「このマンション、実はリノベーションマンションで元々はラブホテルだったの」

みつみが笑みを浮かべて淡々と説明する。

「一目見ただけで驚くと思うよ」との一言はこういう意味だったのか。

「随分珍しいマンションに住んでるんだね」

これくらいしか感想が浮かばない。しかもAV女優が……。

「面白いでしょ。不動産屋さんに紹介されて即決したの」

「確かに面白いかもしれないけど、このマンションに決めた時彼氏がいたの?」

「うん、当時はね。二人で一緒にお風呂に入ったり別々に入ったりとかして色々楽しかったよ」

みつみは当時を懐かしみ破顔する。

「それもプレーっちゃプレーだね」

呆れてオレも笑ってしまう。

「さあ、お部屋にも驚いただろうけどまずは食事。もう直ぐ肉じゃがが出来るから」

みつみに促され、背中を軽く押されてリビングの椅子に座らせられる。

だけど最初は食事。肉じゃがとご飯、わかめと豆腐の味噌汁。それと刺身がテーブルの上に並べられた。

「頂きます」

「はい召し上がれ。そのお刺身、私が捌いたんだよ」

「へえ、魚も捌けるんだ」

最初に肉じゃがから手を付ける。

「味どうお?」

「旨いよ。良く煮えてて」

「なら良かった」

みつみが破顔する。

食事は確かに美味だが、この後を考えると何か胸がドキドキする。

「ブランデーあるけど飲む?」

「いいや、今日は車だから」

もうブランデーにはこりごりだ……。

やがて食事が終わり、

「さあ食事も終わったし、一緒にシャワー浴びようか」

みつみが立ち上がり食器を流しに置きながら笑顔で言う。

「一緒にねえ……」

予想していた通りになった。

「今日はそんな事しなくて良いんじゃないか」

「何言ってるの。せっかく来てくれたのに。彼女のうちに来るっていう事はそういう事だよ」

みつみは笑顔を崩さない。

「私バスタオル持って来るから」

みつみが一旦寝室の方へ引っ込む。

AV女優と一緒にシャワー。別に期待している訳ではないが、「あそこ」が主張し始めてしまう。

「お待たせえ」

やがてみつみがバスタオルを二枚持って戻って来た。

「服自分で脱ぐ? それとも脱がしてあげようか?」

みつみは笑顔。もうAV、仕事と同じだ。これも一種の「職業病」なのだろうか?

「いいよ。自分で脱ぐから」

一緒に脱衣所に行き、みつみは慣れた手付きで素早く服を脱いで行く。オレは興奮しているが何か気が進まない。

「さあユースケ君も早く脱いで」

みつみに急かされる。

「分かったよ……」

仕方なく服を脱ぎ始める。オレはボクサータイプのブリーフを穿いているのだが、その時はもう勃起してしまっていた。

「ユースケ君って勃つの早いんだね。チハルの時もそうだったの」

「いや、そんな事はなかったと思うんだけど……AV女優とは初めてだから」

これくらしか返す言葉はあるまい。

とはいえ、チハルとの初体験の時はどうだったか覚えていない。あの時はアルコールも入っていたからな。

二人共全裸になり、みつみが浴室のガラス張りのドアを開け、

「さあ、シャワー浴びるよ」

みつみに手を引かれていざ浴室へ。オレはされるがまま……。

みつみは浴室に入ると直ぐにシャワーの蛇口を回す。

「お湯になるまで少し掛かるから」

「うん」

オレの「あそこ」は勃ちっぱなし。興奮もして来た。

「お湯になった。身体洗ってあげる」

みつみがオレの身体にお湯を掛け、スポンジにボディーソープを掛けて泡立て、オレの方に近付いて来る。

「いいよ。自分で洗うから」

「恥ずかしがらなくて良いんだよ。私色んな人の身体洗って来てるから」

みつみは笑顔で意に介していない様子。もうAVの撮影現場と同じだ。みつみに従うしかない。

「じゃあ頼むよ」

諦めて背中を向けた。みつみは優しく背中を洗ってくれ、その手は尻にまで伸びる。

「さあ、今度は前」

「分かったよ」

前も優しく洗って貰った。

「「あそこ」も洗ってあげようか?」

みつみに言われたが、

「そこはいいよ。自分で洗うから」

スポンジから泡を出し、「あそこ」は自分で洗った。

「じゃあ今度は私の身体を洗って」

みつみが背中を向ける。

「はいはい分かりましたよ」

「職業病」には困ったものだ……。オレはスポンジをみつみから受け取り、彼女の背中を洗い始める。

「もっと優しくして」

みつみに言われ力を少し抜く。

「チハルとお風呂入った事ないの」

「何回かあるけど、お互い身体は自分で洗ってたからな」

「そうなんだ。背中の序にお尻も洗ってね」

「はいはい」

もう自棄だ。

後ろが洗い終わったら、

「はい、今度は前も洗って」

みつみが笑顔で振り返る。

「分かったよ。でも「あそこ」は自分で洗ってくれよ」

女性の「あそこ」を優しく洗う勇気はない……。

「そう? 別に気にしなくて良いのに」

みつみは笑顔のまま。積極的なんだか、これも「職業病」なんだか。多分両方だろう。

「身体も洗い終わったし、フェラしてあげようか?」

みつみが勃起したままのオレの「あそこ」に手を触れる。

「いいよ。そういう事はシャワーを浴び終わってからで」

断固として拒否する。みつみはもう仕事モードだ……。

「本当に恥ずかしがり屋なんだね、ユースケ君って」

みつみが「フフンッ」と鼻で嗤う。

「今までの彼氏は遠慮しなかったの」

「うん、皆普通にしてたよ」

何が「普通」だよ……。一般的にはあまりないと思うんだけどな。まあ、カップルによってはケースバイケースかもしれないけど。

やがて「あそこ」も心も興奮状態のままシャワーを浴び終え、脱衣所に出て身体を拭こうとすると、

「身体拭いてあげようか」

みつみはまた……。

「いいよ。自分で拭くから。みつみも自分で拭きな」

これまた断固拒否する。

「そう」

みつみはバスタオルを手に持ち、オレの気持ちを看破しているのかまた「フフンッ」と鼻で嗤う。畜生! 人が素人だと思いやがって! でも事実だからな……。

お互い身体を拭き終わると、

「さあ、ベッドに行こう」

みつみにまた手を引かれ、寝室へと移動する。



寝室に着くと、

「まずは抱いて」

みつみが両腕を広げた。今日は……っていうか初対面の時からだったけどみつみのペース。もう従うしかない。お互い全裸のままみつみを今度は力を抜いて抱いた。

「お互い体温を同じにしないとね」

みつみが言う。そういうものなのか。

二、三分抱き合っていると、

「舌出して」

みつみが仕事モードなのかプライベートモードなのか知らないが、真顔で言う。オレは素直に舌を出した。

「もっと」

みつみはやっぱり完全に「仕事モード」なのだろう、なまめかしい表情で言う。

「これ以上は出ないよ」と言いたかったが、言葉が出ず思いっきり舌を出した。だが、

「もっと」

みつみは更に求めて来る。みつみも舌を出して初体験でディープキスをした。が……。「カチン」とお互いの前歯が当たった。すると……。みつみは一旦キスを止め、

「ユースケ君慣れてないね。キスは初めてじゃないんでしょ?」

みつみは「フフフフフンッ!」と、また鼻で嗤う。

「確かに初めてじゃないけど……」

悔しいがこれ以上抗弁が出来ず。

お互いの前歯が当たるのは、確かチハルとの初体験の時も同じで、チハルにも「慣れてないね」と嗤われたっけ。やっぱりオレはAV男優には成れないな……。

「じゃあ改めて舌出して」

みつみがまたなまめかしい表情に戻って、再びディープキス。今度は歯が当たる事もなく一応成功。

それが終わったら――



お互いベッドに横になり、みつみは直ぐに座り直し、慣れた手付きでファラを始める。さすがはプロ。気持ち良くて声が出そうになるのだが、ここはグッと我慢。

「ユースケ君って声出さないんだね。気持ち良くないの?」

「気持ち良いけど何か照れ臭くてね」

「やっぱり恥ずかしがり屋なんだね」

また「フフンッ」と嗤われた。

その後は――

「さあ、私の「あそこ」に指入れて」

だの、

「胸を揉んで」

とか、

「そろそろ入れようか。ゴム付けてあげる」

などと全部みつみのペースで「事」が進んで行く。オレは彼女のペースに従って行くしかなかった。

みつみは「プロ」というのか慣れているのか、「ああ気持ち良い」、「ユースケ君上手いね」だの終始声を出しっぱなし。

「おい、そんなに大きい声出してお隣に聞こえないか?」

「あっ、あん!……。大丈夫。ここは元々ラブホって言ったでしょ」

「なるほど……」

だから防音対策はばっちりって訳ね。でも窓から漏れるんじゃねえの?

SEXは順調に進んで行き、みつみは一々髪で顔が隠れると耳で髪を引っ掛け、常に顔を見せようとする。これはもう完全に「職業病」だろう。女優は顔が命だから。オレも気持ちが良くて喘ぎ声が出そうになるが、我慢するよりもみつみの行為の方が可笑しくて、思わず嗤ってしまいそうになる。

だがSEXは、「今度は騎乗位やろう」、「後ろから入れて」とバックを要求して来て、全てみつみが仕切っている。オレは言われるがまま。されるがまま状態……。

それと、みつみは「ああダメ。壊れちゃう!」と言っているが、普通はそんな事は言わないだろう。チハルもそんな事は言わなかった。全くもってAVの世界。この発言にも嗤ってしまいそうになる。



経つ事約一時間――

オレがいってSEXは終わった。みつみも「いくう。ああいっちゃう!」と言っていたが内心はどうだか……。

「ユースケ君って喘ぎ声も出さなくて淡白だね」

みつみが初体験を終えた感想を言う。

「喘ぎ声は出したかったけど、「プロ」とヤるのは初めてだから緊張しちゃって」

適当に誤魔化した。

「バックの時お尻の穴ヒクヒクしてたでしょ? あの時お尻の穴の皺数えたり、「お尻の穴もっと見て良い?」とか言ってくれて良いのに」

みつみがいたずらっぽく嗤う。

「そんな変態的な事……」

出来っこない……。それはもう完全に「AVの世界」だろう。ある某有名男優が以前、キー局の某バラエティ番組に出演した際にこう仰っていた。「AVは合法産業だけれど、飽く迄も大人の娯楽」だと。そこにオレの心情をプラスさせて頂くならば、「AVは別にSEXの教科書ではない」。中には真似する若いカップルも数多いるだろうけれど。

「私のIカップの胸もっと揉んでくれたり、吸ってくれても良いのに」

みつみは自分のIカップをさりげなく自慢する口振り。確かにチハルの胸よりデカいけど。

「ヤりながら胸揉んだり吸ったり、それに尻の穴の皺数えてる余裕なんてないよ」

「でも私と仕事してる男性は皆そんな事言ってるよ」

みつみがまたオレのSEXを嗤う。

「それはお互い「プロ」だからだろう」

 それに、AVにだって台本があるんだし。

「そうかもね、これは失礼。でもチハルも言ってたよ。「ユウはもっと変態的なSEXをしたいんだろうけど、いつも雑か淡白だって」ハハハハハッ!」

「あのお喋り女……。人のSEXを嗤いやがって!」

でも事実っちゃあ事実だからな。

「今度はチハルの時よりも、もっと変態的なSEXをやろうね」

みつみがまた嗤う。だが幾ら友達だからって「チハル、チハル」と、オレの元カノの名前をそんなに出して気にならないのか? そっちの方が可笑しい。

それに「もっと変態的なSEXをしたいんだろう」って、女性は男性を変態扱いするけど、それは女性の方も同じ。どっちもどっちだと思うのだが――

だからオレの気持ちは一言。「チハル、みつみ、お前達もか……」だけ。それが、衷心――                



七月上旬。正午近くに目を覚ますと携帯のランプが点滅していた。メールを開くと多部から、

『ハンディ(カメラ)持ってロドス島まで行ってきたぜ! アップしたからオレの撮影技術と編集力を久しぶりに味わってくれ!!』

との事。

「気取りやがって」

 ぼやきながらベッドから立ち上がり、奴の「自信ありげな」動画をノートパソコンで観る事にした。

『ここはエーゲ海南部にある、ギリシャ領の島、ロドス。人口は八万人。世界の七不思議の一つ、太陽神へーリオスの巨像があった事で知られている。

 「あった」という事は現代にはない。ならば現在の巨像跡はどうなっているのだろうか?

 早速目的地へ行ってみる事にする。港口がロドスの巨像があったとされている場所だが……なーい! 奇麗に整備されて何もなーい!!

 当時を再現したのか、港口には二頭の鹿の灯台が建っている。巨象はこの灯台を跨ぐ形で築かれていたと考えられている。よって、現代人は「こんな形だったのだろうか」「あんな顔してたのかな」と想像力を膨らませるしかなーい! のである。

 だがしかしである。何故、この島に、台座まで含めると約五十メートルに達していたという巨象が築かれたのかというと……。 

ロドス島の歴史は古く、新石器時代から人が住んでいたと確認されています』

 ここでナレーターが女性に代わった。間違いない、多部の奥さんだ。多部夫人はナレーター、ケーブルテレビのリポーター、イベントコンパニオンとして活動している。



『古代のロドス島は主に交易関係を通じて、エジプトに拠るファラオと密接な関係にありました。

 しかし、ロドスの海運がエジプトに利用される事を嫌ったギリシャの国王は、息子に四万の軍を率いさせてロドスに派遣。

 所が、城壁で囲まれたロドスの防備は堅く、軍は攻城塔を作って接近しようとします。まず六隻の船に攻城塔を搭載させて送り出しますが、嵐の為に接近出来ませんでした。

 そこで軍は大型の攻城塔を建設し、陸上からロドスへ送り込みます。しかし、城内から出撃したロドスの守備隊が城壁に到達する前に軍を阻止。その内にエジプトのファラオが派遣した軍隊がロドスに到着し、軍は狼狽して急遽引き揚げます。

 この時、あまりにも急な撤収であった為、多くの装備が置き去りにされました。ロドスの人々は勝利を祝い、軍が残した武器を売却して得た収益を元に、太陽神へーリオスへの感謝の証として港口に彫像を建設する事にしたのです』

 この間、映像は二頭の鹿の灯台の静止画、それと今に残る城壁の周回を映しただけ。お世辞にも……面白い動画とは思えぬ。世界史好きの人なら興味があるだろうが。

『建設はまずロドスの港口付近に高さ十五メートルの大理石の台座を設置し、台座の上に鉄製の骨組みを作り、更に薄い青銅板で外壁を覆いました。

 彫像の建造には盛り土の傾斜路を利用し、組立が進むにつれ、傾斜路の高さを調節して対応していたと考えられています。

 こうして着工から十二年の歳月を経て完成した彫像は、高さ三四メートル。台座を含めると約五十メートルに達したと伝えられています。

 しかし完成から五八年後、ロドス島に巨大地震が発生。巨象は倒壊してしまうのです』

 はいはい。そこんとこはもう自分でリサーチ済みですよ。

『倒壊した巨象は八百年間に亘って放置され、その間に残骸を見物する為に多くの人が訪れました。記述によれば巨象の脱落した親指に腕を回せる人は僅かしかおらず、指だけでも殆どの彫像より大きかったと伝えられています。

 その後巨象の残骸はトルコの商人に売却されたと伝わり、商人は彫像を破壊して青銅のスクラップにし、九百頭のラクダの背に積んで持ち去ったといわれています。こうしてロドスの巨像は残骸すら消失してしまったのです。

 七世紀以降の人間はその姿を想像するしかなく、その過程で多くの誤解や伝説が生まれました。その最もたるものは、巨像は港口を跨ぐ姿勢を取っていたという伝説です。従来はこの説が広く信じられていて、多くの画家が作品に残しています。

 しかし、現在の研究では港口を跨ぐ姿勢は全長が大きくなり過ぎ、耐久性も弱くなる為不可能だと考えられています』

 なるほどねえ……。世界史の授業はここで終了。頬杖を突いて動画、というよりナレーションに聞き入っている自分がいた。

 


その後はまた多部のナレーションに戻り、

『城壁の最寄りの入り口まで向かったけど、小さなビーチがある。何故か泳いでるのは全員お年寄り! 老後の人生を楽しんでいるのかなあ』

とか、

『裏路地以外の場所は観光客向けの店やレストランが建ち並んでて、朝は人も疎らな広場も夜になると……この人だかりである』

だの、

『土産屋が並ぶ通りでも、夜になると人だらけ! でも夜は夜で雰囲気がガラッと変わり良い感じになるので、ぜひとも両方体験して欲しい』

そして……。

『昼間見たら只の古い時計台も……夜になるとちょっとロマンチックに』

 と、昼と夜の違いを映像で表していた。

 只の観光旅行じゃねえか! しかも奥さんまで巻き添えにして……。これが約十七分に編集されてアップされていた。何が『撮影技術と編集力』だよ……。



 翌月下旬。その多部から『久しぶりに逢おうぜ!』とメールが入り、港区内の居酒屋で待ち合わせた。

「ほんと何にもなかったよ。巨像の跡。石碑すら建ってなかった」

「行く前から分かってたんだろ? 観れば分かるよ。それより、今更だけど奥さん、会社辞める時反対しなかったのか?」

「まあ最初は渋い顔されたけど、「あんたの中ではもう決まってるんでしょ? だったら好きに生きれば」って言われた」

 多部の表情は吹っ切れたというか明るい。でも「好きに生きれば」って、捉えようによっては諦められているようにも聞こえなくはないのだが。

「ロドスに行ってナレーション頼んだ時もそんな反応だったのか?」

「ああ、「はいはい、分かりました」って一言だったよ」

「そう……」

 やっぱ諦められてんじゃねえの? でも多部の表情は明るいし満足げ。この男にとって今回の二つの行動は、自分の中では正解だったのだろう。

「成田から往復九万八千円。しかも成田からはアテネ国際空港の直行便はないから、トルコのイスタンブールで乗り継いで、オリンピック・エアからロドス島まで片道十五時間四十分くらいの長旅。その時点でちょっと疲れたけどな」

 多部は笑う。その笑みの中には「嗤う」も入っているのだろうか。

「それはご苦労さんだったな」

「でも良いとこだったぞ。城壁は壮大で街並みも奇麗で」

「なら良かった」

「ごめんごめん。多部、元気そうじゃん」

 仕事で遅れた下平も合流する。

「おう! ご無沙汰。相変わらずブスだな」

「久しぶりに逢って止めろってそれ!」

 下平は被っていたキャスケット帽で多部の頭をはたく。

「呼んどいて帰るよ! あたし」

「オレなりのスキンシップだよ。座んな」

「ユースケも笑ってんじゃないよ!」

「ごめん。久しぶりに二人の遣り取り見たからさ」

「そのデリカシーのないスキンシップ止めた方が良いよ、YouTuberさん。しかもフリーで遣って行くんなら尚更」

 下平は内心、多部がいつも通りな調子で安心もあるのだろう、薄笑いで脹れっ面のままオレの右隣の椅子に座る。

 オレ達はビール、下平はウーロンハイを頼み改めて三人で乾杯。

「多部、あんたの動画観たけど、単なる観光じゃん、あれじゃ」

「その話をさっきまでしてたんだよ」

「撮影技術だの編集力だのって、あんなの素人でも出来るよ」

 下平は呆れて箸で多部を指す。

「もっとディレクターらしくしてくんないと、プロが軽く見られるじゃん」

「お前の言う通り、今回は「自分探しの旅」ってレベルだったな」

 多部は苦笑するが反省はしていない。

「今後も「自分探しの旅」、続けて行くつもり?」

「ああ。気が向いたらな」

「良いよね、フリーのディレクターは。時間があってさ」

 二人の遣り取りを一服しながら傍観しているが、あれが「自分探しの旅」になるのか?

「あたし一人旅ってした事ないけど、あたしも一遍あんな動画撮ってみよっかなあ」

「おいおい」

 さっきは呆れていた下平が、アルコールのせいか感慨深げな口振り。プライベートで何があったのかは知らんが。

「でも何で世界の七不思議だったんだよ?」

 それも現存しないものを。

「ロマンだよ」

「ロマン?」

「現代にはないものを追い求めて想像する。これって最高の男のロマンじゃねえか」

 そんなもんかねえ。

「男のロマンってくっだらねえ! でも、あたしもマチュ・ピチュとか行ってみようかな」

 下平よ、お前もか……。何触発されてんだよ。

「行って撮ってみたら、案外楽しいかもだぞ。今回は少し失敗した感はあるけど、次回は「映像のプロ」として力量を見せ付けてやるぞ!」

「張り切っちゃって」

 下平は嗤う。マチュ・ピチュに行って撮りたいのかそのつもりはないのかはっきりしろ!

「次回は何処に行くのか決めてんのか」

 一応訊いておく。

「そうだなあ、エジプトのアレクサンドリアの大灯台かな」

「何で七不思議に拘んの?」

 下平は今度は串刺しの串で多部を指す。

「だからロマンだよ。十四世紀の二度の地震で全壊したらしいけど、ピラミッドに次ぐ長命な建造物だったんだ。一九九四年にダイバーによって遺構も発見されてる」

 今度は水中撮影……ってか。

「はいはい」

「そうなのか」

 下平とオレは右から左へ聞き流す。

「お前らちゃんと聞けよ!」

「聞いてるよ、あんたの事だから」

「今度はもっと下準備して必ず行く!」

 確認はしておいた。が、YouTuberへの計画は遠し……だな。

「まっ、オレにとってYouTuberはバイトみたいなもんだ」

 だから、バイトの「バ」の字もないと思うんですがねえ。

「バイトで思い出したけど、あたしも読モの頃は色んなバイトしたなあ」

「何だよ急に、しみじみと」

 しかも真顔になって。

「最初はスナック、その次はキャバ遣って」

「源氏名は」

 興味なくとも訊くしかない。

「しずく。給料は安かったけど楽しかったよ。お客がいない時は仲良い子達と喋りながらただで酒飲んでさ」

「じゃあお前のハスキーボイスって」

「只の酒やけかよ」

 多部が止めを刺す、結論付ける一言。

「はっきり言わないでくれる! あんた達」

「もう一生分飲んだんじゃねえの?」

「まだまだ。ウーロンハイお代わり! ユースケ、ボタン押して」

「分かったよ」

 若干うんざりしてコールボタンを押す。でも多部も下平も、外連味がなく正直な奴ら。だからオレは二人からの仕事を、断れない……お人好しだ。



「ここで「本業の」話なんだけどな」

「真顔になって、ディレクターとしての話なんだろうな?」

「ディレクターっていうか、オレ、TOKYO―MS(東京メディアシティー)の来年一月期の深夜ドラマで監督デビューする事が決まったんだ」

「はっ?」

 オレは呆然。

「えっ!? あんたが監督!?」

 下平は驚愕。

「そう。チーフディレクターに成る前にドラマの監督に成ってやった」

 多部は自慢げ。

「ちっ! ああそうかい」

 下平は悔し顔。

「前に勤めてた社長がオレを推してくれたんだ。な? やっぱ需要があるんだよ、オレは」

 尚も自慢げな多部と……、

「お待ちどう様でした! ウーロンハイの方」

「はい、これ空のジョッキ。そこ置いといて!」

下平は余程悔しいのだろう、あからさまに店員に八つ当たり。

「はい……」

 店員は逃げるように出て行く。

 「好きに生きれば」……奥さんは多部のこのような姿を見詰めていたのだろうか。

「それはおめでとう。どんなドラマになるんだよ?」

 場の雰囲気を……オレが変えるしかない。逆に火に油を注ぐ状態になってしまうかもしれんが。

「一人の女優が主演。もう氷室美咲に決まってる。タイトルはまだ未定だけどな」

「そうか」

 氷室美咲。名バイプレーヤーとして数多の映画やドラマで好演している。

「そういや彼女、主演の作品は殆どないよね」

 下平は若干ムッとした顔付だが食い付いて来た。

「ああ。三、四作目になるのかな。監督と主演女優は代わらずに氷室ちゃんに毎週色んな役を演じて貰うんだ。脚本は気鋭の人達が日替わりで担当して貰う予定」

「その企画が変更になって監督も日替わりで、みたくなるかもよ」

 下平がいたずらっぽく笑い始める。

「それはぜってえねえ! っていうかここまで企画煮詰まらせて来てそうはさせねえよ!」

 多部の口振りが少しムキになった。

「あたしも社長に懇願してTOKYO―MSのドラマの監督に挑戦してみよっかなあ」

 また触発されたな。

「あんたはまだ速いよ」

「何でよ!?」

「いや別に。特に確言する理由はないけど」

「根拠もなく毒吐くな!」

 下平が左肘でオレを小突く。

 多部が言うように最近のTOKYO―MSの深夜ドラマには注目が集まっている。それは深夜にしては出演する役者達が豪華だという事。最大の理由が制作スタンスが「クリエーティブファースト」だから、らしい。TOKYO―MSの深夜ドラマには気鋭の監督、役者を迎える作品が多く、スポンサー事情よりも「良いものを作る」に徹している。

 監督達は「この役はあの役者に演じて欲しい」と推薦し、役者側は「あの監督が撮るならぜひ出演したい」という気持ちになり易いのだとか。が……多部が「気鋭の監督」といえるのかはさて置き、そういうコンテンツになっている。

「彼、彼女が出演するなら私も出演しておきたいっていう安心感とか、ライバル意識が芽生え易いから、制作サイドにとってはオファーを受けて貰い易い好循環が生まれてるんだよ」

 多部は今からワクワクしている様子。気持ちは分からなくもないが。

「役者の事務所は監督との関係性を深めておく良い機会だって、OKを出し易いってのもポイントの一つだね」

 下平はもう自分が監督に成れると確信しているのか、嬉々としちゃって。

「それにTOKYO―MSの深夜ドラマなら数字が低くてもネガティブな記事を書かれる心配もない。リスクや労力が少なくてはっきりとしたメリットがあるから、ギャラが安くても問題ないんだよ」

 と多部。まるで自分に言い聞かせているような口振り。

「まっ、TOKYO―MSの深夜なら数字についてとやかく言われる心配はないよね」

「まあな」

 下平と多部の遣り取りを、また一服しながら傍観しているオレ。

 二人が言うように、TOKYO―MSは他のキー局に比べて全体の数字が低く制作費も低額な事で知られている。以前新山が局長に対して、「振り向けば何とやら」と発言したのはTOKYO―MSを指していた。



「脚本はユースケ、分かってるよな?」

 多部はにんまり。言うと思った。だから口を挟まず傍観していたのに……。

「オレはパス! 放送作家業だけで精一杯だね。あっちもこっちもという訳にはいかない」

「一話くらい良いじゃねえかよ」

 多部は尚もにんまり。

「あたしも監督に成れたら、ユースケ、お願いね」

 下平は眼光鋭く表情も決然。

「下平はまだ何にも決まってないだろ。オレは作家だけで手一杯なんだよ」

「ユースケがどんなホン書くのか楽しみだな」

「賞なんか狙ってたりして」

 多部、下平の心中ではもう勝手にオレが脚本を執筆するものだと決めている様子。そこが憎たらしい。

「二人共、オレの話を聞いとったんかい! 賞なんか狙ってねえし、別に」

「直ぐムキになっちゃって、そのくせ嫌々でも仕事は地道にこなすんだよね。そういうの嫌いじゃないよ、あたし」

「オレも何か疎めないっていうか憎めないんだよな。ユースケの性格」

 下平と多部はにんまりとしやがって! 誉めているのやら貶しているのやら……。

「ありがとよ」

 これがチハルが言っていたオレの人間味……か?

 嫌味ったらしく礼は言ったが心中で叫ぶ。「多部! 下平! お前達もか!?」と。だってこいつらガチでオファーして来るから――


                                              了


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