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短編とかその他

それは私にとって魔法のアイテム

作者: リィズ・ブランディシュカ



 今の町から遠くへ行く事が決まった。


 学校は当然変わってしまう。


 転校したら、友達と疎遠になってしまうだろう。


 物理的な距離が遠くなると、簡単に会えなくなるから、きっとすぐ忘れられちゃうんだ。


 抗う方法なんて、無力な子供にはおそらくない。


「私達、ずっと友達だよ」


 なんて、言われても。


 すぐに、そんなの嘘になっちゃうに決まってる。







 転校すると決まった日から、私の気分はずっとどん底。


 今の学校には、何人も仲のいい友達がいるのに。


 遠くに行くなんて嫌だな。


 けれど、お父さんの仕事の関係で、どうしても引っ越ししなくちゃいけない。


 そんなの、子供の自分にはどうする事もできない。


 実際、学校で先生に事情を言ったり、引越しの荷物をまとめたりして時間はすぐに過ぎ去ってしまう。


 心の準備をかためる余裕なんてなかった。


「一人暮らしできればいいのにな」


 ってそう思ってあれこれ、考えた日もあった。


 けれど、いきなり自炊したりあれもこれもできるようになるとは思えなかった。


 空いているアパートとかも見つからなかったし。


 引っ越し判明が、数週間なんて短時間じゃなくて、もっと数か月前だったら。


 心構えしたり、何か残る方法を考えられたかもしれないのに。


 段々と家の中から物がなくなっていくのが寂しい。


 それに……。






 放課中。


 学校の教室で、楽しそうに皆が話してる光景なんて、今までは何でもない当たり前のものだったのに。


 今はそれが、違って見える。


「三か月先に、ゲームがうちに届くんだ。一緒にやろうよ」


 とか。


「あの俳優の映画もうじき上映されるみたいだよ。前売り券出たら買っておく?」


 とか。


 未来の話を聞くと気持ちがおちこんでしまう。


 みんなの言う未来の時間には、もう私はここにはいないんだなって。


 そう思うから。







「荷物は全部車にのせたわね。それじゃあ、出発しましょうか」


 そうしているうちにその日がやってきて、あっさりさよなら。


 皆、お別れパーティーしてくれたけど、「ずっと忘れないよ」なんて言われても、不安が大きい。


 物理的な距離は心が離れていくのに、十分。


 きっと、みんなが語った未来では、私の話題はなくなってるんだと思った。


 慣れ親しんだ町を、最後の荷物をのせた車が走っていく。


 私はその光景を、目に焼き付けるようにじっと見つめていた。


 そんな私に、母が話しかけてきた。


「ずっと持ってなかったでしょう。でもいい機会だと思ったの」


 渡されたのは一台のスマホと、たぶん私に内緒で作られたアドレス帳。


 お母さんが作ったのか、友達が作ってくれたのか。


 どっちにしても、私にとってそれは地図を飛び越えるような魔法のアイテムだった。


 そう、私はずっとスマホを持ってなかったから、今までは家の電話を使うしかなかった。


 電話を受ける時は、家族の目が気になるから簡単には利用できない。


 でもこれなら、いつでも気軽に好きな時に話せるんだ。


 私は渡されたそれを、新しい家につくまで、ずっと大切に抱きしめていた。



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