すーぱーふよふよ(仮)
「おいしい…はじめてたべた…」
アンは食べる手を止めてポツリともらした。
「食べたこと無かったのか。まあ今日くらい好きなだけ食べるといい」
「…モンちゃん、昨日はじめて知ったのにやさしい」
…オレは今、葛藤している。
この娘だ。
そもそも俺は固定PTを組むつもりはない。
仮に『アカシック・ライブラリ』へ到達して見た目相応の強さになれた時、難易度A以上のクエストに挑むことはあると思う。
その時はまた、適当なメンバーを集めて行けばいい。
現状気まずいのはゴメンだが、仲良くなりすぎて情が移ると今後の野望に支障をきたす恐れがある。
仲良しをしたところでオレの人生の何割をこの幼女が占めるのか。
こういった関係はお互いがWin-Winでなくてはならない。
損得勘定で付き合っていけば、失敗をした時に割り切れることが多い。
そう思っていても…、アンの笑顔を見ていると荒んでいた心が落ち着いていくのがわかる。
まぁこの笑顔を見れたという、これだけでもWinだと思ってしまう。
「あ…、ワタシのせいでモンちゃんが食べるのなくなっちゃうよね…」
「…いや、気にするな。アンには頑張ってもらわなきゃいけないのだからな。これくらいは報酬みたいなものだ」
「にしし…がんばる!」
そう言ってアンは再びバーガーを口いっぱいに頬張った。
*****
一旦宿屋に戻り、今後の方針についてアンと話をすることにした。
「いいか、よく聞いてくれ。恐らく…多分だが、オレの戦い方だと…アンデッドレバーはドロップしないかもしれない」
「えっえー!」
「ちょっと確証はないんだがな…今まで他のアイテムすらドロップしたことはないんだ」
「それって…モンちゃんがつよすぎてアイテムごとボカッってなるのかな?」
「あー…いやー…どうなんだろうなー…。そうかもしれないしー、そうじゃないかもしれないがー…」
「そうなんだ…『あんでっどればー』はおちないんだ…」
「ま、まぁ方法が無いわけじゃないんだ。オレの拳じゃなくてコイツを使う」
そう言ってナイフを見せた。
「うっ…!コワイ!!」
「あぁ!スマン!!」
いきなり取り出したナイフに怯えるアン。
オレが足並み揃えないことにはどうにもやりづらい…。
「えーとだな…つまりナイフで倒せばアイテムはドロップする…かもしれないから…これからはこれでやってみようと思う」
「う、うん」
「今までみたいにサクサク敵を倒せなくなる…かもしれないが、それでもいいか?」
「…モンちゃん、それって『あんでっどればー』のためにそうしてくれるの?」
「あ、ああ。まぁそうだな。オレの目的はそんなに簡単には成し遂げられないと思うし、アンのお母さんの方を先に治してやれば安心するだろ」
「…ひっく」
「あ、お!おい、なんで泣いている!?」
「…こんなに…いいひとに…ひろってもらえて…ほんとによかったって…」
「おま…、拾ってってなぁ…人聞き悪いぞ…。肩の荷が降りたらその分、クエストに集中出来るだろ」
「ありがとね、モンちゃん…ワタシがんばるから…」
泣きながらしがみついてきたので涙と鼻水でオレの服はデロデロになった。
それから少ししてアンが落ち着いた頃、気になっていたことを聞いてみた。
「なあ。アンは歳、いくつなんだ?」
「8才だよ」
「…あ!?あんだと!?…オレと二回り違うぞ…。これ、犯罪にならないよな…」
「?」
わかっていたことだったが、それを耳にしてようやく現実を突きつけられる。
PTを組むだけなのだから犯罪にはならないとしても、これが犯罪への一歩に成りかねない。
ホイホイついていって事件に巻き込まれた…なんてニュースも見たことくらいある。
「いいか、アン。これからはクエストを受注する時は十分気をつけるんだぞ。PTメンバーの犯罪歴がないかどうか確認して、相手の顔もよく見るんだ。そいつが信用に足る人物なのか見極めるのんだぞ」
「…それはよくわかんないんだけど、なんか……モンちゃんってお父さんみたいだね」
「お、おと…う…」
…。
幼い頃に亡くした父の面影を…。
…なんでこんなにも…オレの胸がヒリつくんだ…。
「か、勘違いするな。お前がなんかあるとオレの後味が悪いだけだ」
「ご、ごめんなさい…」
「今日はもう終いでいい、ゆっくりしていろ。また明日、朝から出発するからな。今日と同じ時間、同じ場所に来い」
そう言ってオレは201号室を出て不死山の小屋へ向かった。
小屋に着いたオレはそれ以上は何も考えないよう、薪を割り続けた。
*****
「モンちゃん、おはよう…」
「…時間ぴったりだな。でも流石に2日続けて朝清風は吹いていなかっただろ?」
「ふいてなかった。でもタクシポニーがいたからここまでのっかってきたよ」
「タクシポニー!?乗りなれていなくても容易く操れるという小型の馬で、野良だと希少価値が跳ね上がるあの!?」
「そこはよくわかんないけど、のってきた」
意図せずこういった運があると、益々LUKの期待をしない訳にはいかないよな。
今日は思い切り周回したいものだが。
「よし、早速出発するか」
「うん!」
今日こそ希少点穴に当たる…!
そんな気がしてならなかった。
だが…それよりもまず異変に気づく。
「…モンちゃんぜんぜんすごいよ」
「な、何故だ…!?コイツら豆腐か!?」
ナイフで戦えば時間がかかるのはわかっていた。
それなのに…どういう訳か瞬殺出来ている。
急にオレのレベルが上がった…?
いや、それは考えにくい。
レベルが上がったとしても所詮はSTR依存の武器攻撃。
ここにきて急激にSTRが上昇することは考えにくい。
だとするとどういうことだ?
過去のオレと違う点…。
この娘…?
いや、昨日は別に変わりなかった。
だが…待てよ?
昨日はオレの拳で戦った。
今まで通り拳2発、必殺1発…。
今日はナイフ。
このアンデッド共にもナイフで戦ったことはある。
普通に時間がかかっている。
今日はサクサク…さっぱりわからん。
まぁこの機会に狩りまくるとしよう。
「アン、今日こそアンデッドレバーを物にするぞ!」
「うわぁい!」
***
…狩れども狩れどもノーマルドロップすらない。
経験値も入る気配がない。
なっ、何故だ!!
この世界は狂っているのか!
普通じゃないぞ意味がわからん!
回復で倒すから経験値もドロップもないのはわかったんだがー…
…ん?
「回復で倒すから経験値もドロップもない」…?
まさか…!?
オレは慌ててナイフを見た。
そのナイフには回復の片鱗がガッツリ残滓している。
…どういうことだ。
武器に回復を付与していると…いうことか?
過去、そのような事象は聞いたことがない。
言わずもがな、武器に回復を付与したら敵が回復するからだ。
アンデッド相手ならばそれもアリかもしれないが、やる意味がない。
回復は貴重だし、MP消費も馬鹿にならない。
あえて武器に付与する必要はないからだ。
オレは意図せず付与してしまったのだろうか。
何気なく自身のステータスを確認する。
「…RES 666!?!?」
な、なぜそのような数値に…。
これでは溢れ出る回復能力が武器に漏れ出してもおかしくないか…?
現状はっきりしていることがある。
この数値…確実にこの娘のせいだろ!!!w
「?」