すーぱーヒール(仮)
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小屋を出た俺たちはクエストの場所へ向かう。
不死山を登るのではなく、北の方へ迂回していくのだ。
「…なあ。アンはどうしてこんな難易度が高いクエを受けてたんだ?」
「…」
道中、気まずすぎて聞かないようにしていたことをつい訊いてしまった。
無言が続くということはやはり答えにくいことだったか。
「…おとうは早くにしんじゃって…おかあも今は病気にかかっていて…。ここのてきが落とす『あんでっどればー』を食べさせればよくなるってきいて…」
…絵に書いたような不幸話…!
LUK 666はやはり不吉な数値なのか!
「…どこで聞いたかは知らんが、ただ『死者の肝』を食べさせれば治るというわけではない」
「え…」
「そのまま食せば毒になる。魔法調理師に解毒を頼む必要がある」
「そう…なの…」
そもそもLUKが影響するレアドロップ率は、自分が討伐した敵に限り効果を得られる。
つまり、ボスを自力で倒さないと意味がない。
ラストアタック…倒す最後の一発でも効果はあるが、オレにそんな器用なことは出来ない。
それにステータスを見た限りでは、マジシャンに転向したとしても難しい。
最大MPも少ないし、俺が後ろで回復に徹したとしても何時間かかるかわからない。
…って、アンはまだ成人してないんだったな。
そう考えるとこの歳でこのINTは化ける可能性もあるのか。
しかし…本人がヒーラーでいくと決めているからな…。
何故秀でた才能よりも、自分のなりたいものに固執するんだ。
絶対ヒーラーよりマジシャンの方が強くなれるだろうが。
まだ子供だからな。
段々世界を知って、柔軟な考えを持つようになればいか。
「とりあえずだな…。陣形を決めておこう」
…一応PTメンバーとして役割を決めておくか…。
「アンの位置取りは、俺の真後ろだ。射程もそこそこある遠距離攻撃を放ってくるから、なるべく俺を盾にするように立ち回ってくれ。そして俺がダメージを受けたら…回復を頼む」
「わかった。モンちゃんなおす」
俺は、この幼女にも最強ヒーラーであることを隠さなくてはならない。
ヒーラーを夢見ている子に、こんな筋骨隆々のハゲ男が憧れのヒーラーだったなんて…最悪だろう。
絶対にバレないよう立ち回る必要がある。
まぁ『アカシック・ライブラリ』を見つけるまでの辛抱だ。
隠し通してみせる…!
***
「さあ着いたぞ。ここからは敵が湧いてくるから気をつけるんだ」
「わかた!」
ゴボォ……ウエァァェェェ!!
「キャァ!」
「早速来たぞ!…うおお!左!右!真ん中!」
俺は湧いた順に拳を6連発放つ。
ホゲぇ!アブッィ!バジャア!
敵がかき消えた。
「…!!」
「ボサっとするな!入り口はかなり敵が多いぞ!」
「…わかた!」
「右!左!真ん中!おらぁ!」
アブィ!ホゲぇ!バジャア!
何故、回復しか脳がない俺がこのように無双できているのか?
そしてこのクエスト唯一の利点として…。
敵は全てアンデッドということだ。
アンデッド相手ならば回復魔法でもダメージがでる。
魔法ではないこの俺の拳でもアンデッドであれば全ての敵を2パンで倒せる。
割合回復であるオレの特権が故、ボスだろうが関係ない。
一人でも容易く周回ができていたわけだろう。
「すごうい…」
…しまった、ちょっとやりすぎたか。
ここは一つ、アンにも活躍してもらわないと本当に寄生という扱いにさせてしまう。
バシュッ
「うく…!敵の溶解液が…体にかかってしまった!アン!回復を頼む!」
フフ…我ながら素晴らしい演技力だ。
「モンちゃん!!すーぱーヒール!」
フワフワ…
「……え?」
「え?」
…回復、かかったんか…?
1も回復してないぞ…?
もしかして、自分自身で回復しすぎたせいで他人の回復が効かないんじゃ…?
はたまた、回復率が少なすぎで四捨五入されて回復しないんじゃ…?
オレのHPが48,000だから…0,00001%の回復量とすると0,48…とかで1未満…。
「…」
「…」
「うっ、うおお!見事な回復!!これならば安心してアンに背中を任すことができる!!」
「やったー!」
…なんかこれはこれで違う気がしてきたが今は考えないようにしよう…。
「…よし、雑魚を20%に減らしたぞ。ボスが来る…下がっていろ」
「いけー!モンちゃん!」
世界の認識的に、筋肉と回復が共存出来ていればなんの問題もなかった。
力こそ全てという考えのオレだが、生まれ持った回復能力を伸ばしていくのも悪くはなかった。
…だが、見た目を重視するこの世界ではオレの存在価値はこの筋肉、力でしかない。
見た目と器が合致してこそ、自分の真価が問われるはずだ。
この偽りの生活から…いつか抜け出してみせる!
ボゴッ…ボゴッ…ザシュ…ウエァァェェェ!!
「ハァァ…プリティキャノン!」
ジュッ…
俺の放った渾身のパンチは、大回復の嵐により周囲のアンデッドを巻き込み吹き荒れた。
その光でボス諸共消滅した。
「……!!」
…むう、少しやりすぎたか?
範囲回復エリアを前方へと集約し、パンチの衝撃で放射状に広範囲へと飛ばす奥義。
何千、何万と行ったクエストのため、効率重視で周回していた癖がここで出てしまった。
だがこのパンチが回復属性だとはアンも気づくまい。
「き、キレイ…!モンちゃんすごい!」
「そうだろう、キレイだろ……き、キレイ…!?どこがそう見えるんだ…?」
「え、だってすごかったもん。キラキラした光がとんでってボワアって!」
…。
見えるんか、オレの回復の片鱗が…。
…まあそれを皆にバラしたところで、子供の戯言と言われるのがオチだろう。
気にしない…。
「モンちゃんつよいのすごい!」
「なに、大したことではない。それよりも『アンデッドレバー』が落ちてないか探すんだろ」
「あ、そうだ!」
そう言って辺りを探し回るアン。
本当に子供だ。
「…おちてなかた。でも、モンちゃんがたおしたからワタシのじゃないよ…」
「オレの目的は他にある。ドロップなど興味ない。全てくれてやる」
「いいのー?いいのー?やったー!」
…一つ気になることがある。
今まで何千、何万とクリアしてきたクエストだが…。
ドロップアイテムを一度も見たことはなかった。
オレが無頓着且つドロップアイテム不要だったのもあるが、今までに落ちた気配も感じたことはない。
LUKがそれほど高くないのもあるが…。
もしかして…回復で倒すと…ドロップなし…??
ま、まさかな。
そんなことマニュアルにも書いてなかったし…。
…待てよ?
そう言えばオレのレベル…。
ずっと32のままだな。
こんな高難度のクエを何万と周回しているのにも拘らず!!
何故気づかなかったんだ…。
敵をバシッと飛ばした時とか、光の彼方へ消し去った時に経験値が入らないのと同じか!!
…落ち着こう。
ま、まぁオレの目的は希少点穴だからな。
アイテムや経験値なんてどうでもよかったことだ。
…でも今はアンがいるからな。
アンデッドレバーはどうにか見つけてやりたいが…。
「おわったら一回かえるんだったっけー?」
「あ、あぁそうだ。またギルドに戻って生存確認だ」
「ちょっとたいへんだね…」
グウウ…
「あ…」
離れていても聞こえてきた腹の虫の音。
さすがにこの距離を朝早く歩いてきたんだ。
そんなに慌てなくてもいいか。
「一度戻って朝飯でも食うか?」
「わあい!あ…でもおかねそんなにないや…」
「…子供に払わせるか!オレが出すに決まっている!」
「やった!!モンちゃんありがとう!」
「…さぁ、戻るぞ」