ラッキーガール(仮)
並んで歩くと迷子の子供を拐っていく男に見えるだろうか…。
俺たちは一旦、荷物を置きに宿屋に向かう。
その途中…
コテン…
「ふぎゃ!」
幼女が転んだ。
「…おい、大丈夫か?」
抱き起こすと目いっぱいに涙を溜めている。
しかも転んだ近くに尖った岩があった。
キシャァ!!
するとその岩に『アントニオデビルアント』と言われる猛毒を持った蟻が数十匹もいることに気づく。
「お、お前…、草むらに倒れたから良かったものの、もう少し先で転んでたら顔面を岩にぶつけた上に猛毒の蟻にやられていたぞ」
「は、はい…すみません…」
こ、コイツは本当にLUK 666なのか!?
運が悪すぎる気がするのだが…。
LUK 30の俺でもこんなに酷い目には合わないぞ…。
「ほら、クエストの申請は俺がやっておくからお前は宿に行ったら少し休め」
「はい、わかりました…」
はぁ、俺もどうかしてるか…。
あんな小娘に期待をしていたのだから。
しかし、それに縋らないといつまで経ってもこのままかもしれない。
少しでも確率が上がると思うことならやっておきたい、賭けたい。
もう俺に残された道はそれしかないのだから。
*****
クエストの申請書を提出したオレは宿屋に戻り店主に確認する。
もしかしたら逃げたかもしれないからだ。
「予約していたダイモン=ストレイトだが…アンヘル=スティルは来ているか?」
「はいはい!えー、来ていますよ。201号室、先にチェックインされております」
「そうか。…もう一室、今から取れる部屋はあるか?」
「あー…、今日は満室になってしまいましたね…。空きが出たらお知らせしましょうか?」
「そうか…。いや、いい。では201号室に言付けを頼む。「早朝5時、クエストの準備が出来たら不死山の1合目の小屋まで来い」とな」
「え、あの子一人で不死山1合目までいかせるんですか?」
それくらい一人で出来なくてこれから先、長生きできるとも思えないからな。
「頼んだぞ」
俺は返事を待たずして宿屋を出た。
さすがに幼女と同じ部屋には泊まれないし、金に余裕があると言うわけでもない。
あの歳で何故ギルドに入っているか気になるが、それを聞くのは野暮というものだ。
逆にそれを聞いてしまったら、PTメンバーという関係が崩れる恐れがあるしな。
*****
不死山の小屋に泊まることで、クエスト周辺の天候や敵の状態を事前に知ることができる。
余裕ではあるが決して驕ることなく、全力で立ち向かうのが俺のポリシーだ。
そうこうしているうちに小屋に着く。
こんな小屋に泊まる物好きなど、俺の他には見たことがない。
俺は荷物を放り投げ、すぐさま小汚い布団に入る。
そしてアンヘル=スティルのことを考えた。
学校にも行ってないようなら親に売られたか、もしくは生活費の為にギルドに入ったか…。
どちらにしろ、普通のPTに入れるような感じじゃないしな。
幼子で且つ、弱いヒーラーを入れる利点は全く無い。
この先、どうなることやら。
気がつくと俺は眠っていた。
*****
ガタッ
「む、誰だ!?」
物音で目が覚めた。
「あ、アンヘル=スティルです。言われた通り来ました。ダイモン=ストレイトさん…」
…俺としたことが寝坊でもしたか…?
と時計を見たがまだ4:30だった。
「お、お前…一体何時に出てきたんだ…?」
「4:00に出ました」
心底驚いたが、この幼女が嘘を言っているようには見えない。
あの宿屋からここまで30分足らずで来られる力量が…?
しかもここらへんの朝は靄がかかったり、昔の名残でフレイルボアが出たりすることもある。
来たことない者だと1時間どころか2〜3時間かかってもおかしくない場所なのだが…。
「朝清風が吹いていたので楽に来られました」
な、朝清風だと!?
滅多に起きることはない不死山一帯から山頂に向けて起こる風。
この風が吹く日は靄は起きず、フレイルボアも縄張りからでない。
そして、山頂に向かって吹く風によってそれが追い風になったというのか。
これが偶然じゃなく、LUK 666の力だとするならば…。
期待をして良いかもしれない。
「予定時間前に来るとは…感心だ。では事前に打ち合わせでもしておくか」
俺は地図を広げた。
「今回のクエストの目標は、エリア一帯の対象を殲滅させること。雑魚の数が20%以下になるとボスが出てくる。ボスの範囲攻撃と雑魚敵復活の行動パターンに気をつけてくれ」
「はい、わかりました。ダイモン=ストレイト様」
「…さすがにフルネームは面倒だから呼び方を決めておくか。俺のことはダイモンでいい。ダイでもいいしイモでも何でも良い」
「…じゃ、じゃあ……モンちゃん…で…」
「モっ、モンちゃん…!?」
「何でも良いって…」
…他人からの見た目なんて気にはしていないが、こう見えて俺は天下のダイパンマン。
それがモンちゃんなんて名前をつけられて…皆が聞いたら馬鹿にされるに違いない。
…くっ、見た目を気にしているのは俺のほうか…!
名前などどこで何と呼ばれているのかわからないもの。
俺が気にしなきゃいけないのは、この筋肉に相応しい力を手に入れることのみ。
「…ああ、構わん…。俺はお前のことを何と呼べばいい?」
「…何でも良いです。「おい」でも「お前」でも「ヘル」でも好きにお呼びください」
…俺と同じような感じじゃないか。
「…じゃあー…そうだな。アンヘル…、「アン」でどうだ?」
「わかりました。今後、アンとお呼びください」
名前を決めるのも一苦労だな…。
「あと、別に敬語で話さなくてもいい。まどろっこしいし何より疲れるだろ」
「…わ、わかった」
「よし、それじゃあアン。出発するぞ」
「…モンちゃんのしたくがまだっぽい…」
「…ハッ!!」
俺は裸で寝る癖があったんだった!!
「す、すまん…ちょっとあっちを向いていてくれ…」
「…」