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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚17 速攻

 日中、長閑な授業中に鳴り響く、長閑さとは無縁のけたたましい警報。


「アタシが行く」


 異譚の情報をさっと確認して連続する密林の異譚だと分かれば、ばんっと勢いよく立ち上がり、返事も聞かずに朱里は教室を後にする。


「い、良いのかな?」


「大丈夫よ。ウチのナンバーツーなんだから」


 心配そうなみのりとは違い、白奈は特に心配した様子はない。


 春花も朱里のローテーションなので特に慌てた様子は無い。そして、春花はアリスの担当なので出動する必要も無い。


 異譚の出現場所も離れているのでそのまま授業は継続される。


「キヒヒ。心配じゃ無いのかい?」


 いつの間にかノートの上に座っていたチェシャ猫。春花は慣れたものなので驚きはしないけれど、前の席の女子は急に声が聞こえて来てびくっと身を震わせている。


「授業中」


「キヒヒ。ごめんね」


 謝りながら、チェシャ猫は机の端に移動する。


 朱里の心配はしない。心配事など一つも無い。何せ、一番長く朱里を見て来たのだから。


 その実力を一番よく知っているのは春花だ。朱里(ロデスコ)であれば、あの程度の異譚支配者に負けはしない。





 走る、走る、走る。


 常人離れした脚力で異譚へと走るロデスコ。


 いつもは魔力温存のために装甲車で移動しているけれど、相手の高が知れている以上、変身して自分で走った方が速いし効率的だ。


 目視で異譚を確認できる距離まで近付くと、ロデスコは高く跳び上がる。


 そのまま空を蹴り(・・・・)、高く高く上がって行く。


「アリスの真似ってのは癪だけど、アタシだって思いついてたんだから!」


 高く、高く、上がって行く。異譚すら超え、更に上空へと上がる。


「爆ぜろ、赤い靴(ロデスコ)!!」


 ある程度の高度に到達した後、ロデスコは赤い靴から爆炎を噴かす。


 爆炎の威力を利用し、高速で上空から異譚へと飛来するロデスコ。


 異譚の暗幕を上空から潜り抜け、即座に全体を見渡す。


「見つけた!!」


 木々犇めく密林で唯一開けた場所を見付けると、ロデスコは赤い靴に炎を溜める。


 煌々と輝くもう一つの小さな太陽。ロデスコの周囲が歪んで見える程の激しい炎。それが、彼女の右足に溜まっていく。


「燃えろ、赤い靴(ロデスコ)!!」


 まるで彗星のように煌びやかに、美しく、小さな太陽が()ちる。


 高速で飛来した小さな太陽は、寸分違わず異譚支配者へと直撃した。


 太陽が爆ぜ、衝撃波が広がる。


 木々はへし折れ、地面は抉れ、庭園を賑わせていた花々は例外なく全てが散った。


 異譚支配者は塵も残さずに焼け焦げ、跡形も無く消滅した。


「はい、終了」


 ふぅっと息を吐いた後、ロデスコはさっと乱れた髪をかき上げた。





 ロデスコは異譚を終わらせた後、学校へと戻った。帰りは変身を解除して装甲車で戻った。連戦が続く事を見越せば、魔力の消費は抑えた方が良い。


ローテーションを組んでいるとはいえ、何が在るか分からないのが異譚だ。いつでも出撃できるように、最高のコンディションを維持しておく必要がある。


 装甲車でゆっくり戻れば丁度お昼休みだったらしく、学校内は穏やかな喧騒に包まれていた。


 教室に戻れば、クラスメイトから視線を受けるも、出撃前の態度が不機嫌そうだったからか、誰も声をかけては来ない。


 自分が悪い事は分かっているので、朱里も何も言わずに自分の席へと戻る。


「お疲れ様」


 朱里の机にお茶を置き、前の席の椅子の向きを変えて座る。


「別に疲れて無いわ。いつもより楽な相手だったしね」


 言いながら、鞄からお弁当を取り出す。


「戦った所感だけど、菓子谷姉妹と珠緒をフィニッシャーにした方が良いわ。ヘンゼルとグレーテルは火力もあるし、イェーガーなら銀の弾列(ナンバーズ・シルバー)の属性を炎に設定すれば一発よ」


「そう。じゃあ、その三人は別チームの方が良いわね。唯と一は嫌がりそうだけど」


「ニコイチなんだからそこは外さないでも良いんじゃない? その方がパフォーマンス上がるし。ただ、鼻が効く奴も分散した方が良いわ。見通し悪いから」


「なら、ヴォルフとシュティーフェルは別々ね。空いた一枠にサンベリーナかしら?」


「マーメイドでも良い気もするけどね。まぁ、采配はアンタ達に任せるわ。今回は露払いだから、無理する必要も無いしね」


「その割には、一目散に突っ込んで行ったように見えるけど?」


「兵は神速を(たっと)ぶ、よ。強者としての当然の務めね。アンタ達には分からないでしょうけど」


「そうね。無茶が出来るのは、強者の特権だものね」


 無茶をするのが強者であり、無謀をするのが弱者である。例え同じ事をしても、そこに実力が伴わなければ結果は大きく違う。


「でも、無理だけはしないでね」


「分かってるわよ。死んだら元も子もないもの。てか、それあの馬鹿にも言っときなさいよ。アタシより平気で無理するからね、アイツ」


「そうね。あの子が筆頭だものね。困ったものだわ」


 本当に困ったような顔をする白奈。


「キヒヒ。困らせてるね」


 二人の会話を聞いていたチェシャ猫が春花に言う。


 春花はチェシャ猫の前足を持って、まるでダンスでもするかのように揺らす。


「そうだね」


「キヒヒ。悪い女だね、アリスは」


「そうかもね」


 チェシャ猫は後ろ足でよたよたとタップを踏む。


 そんな様子を、みのりはバレないように撮影している。みのりだけではなく他のクラスメイトも春花を観察したり、写真を撮ったりしている。


 見た目だけで言えば春花は可憐な少女にしか見えない。そんな春花がチェシャ猫と戯れている姿は、まるで猫を紹介する雑誌の一ページのように洗練された美しさがある。つまり、どこを切り取っても可愛いのだ。


 春花はまるで気付いてはいないけれど、春花は異性に限らず同性にもモテる。


 男でありながら女性的な見た目。綺麗な(かんばせ)に幸薄そうな雰囲気と不透明な過去。ミステリアスでアンバランス。


 何故だかアリスの相棒であるチェシャ猫に好かれ、アリスに目を掛けられているところもまたミステリアスさに拍車をかける。


 因みに、チェシャ猫と踊っている事に深い意味は無い。前足を持ったらチェシャ猫がタップを踏み始めたから、踊ってるように前足を動かしているだけだ。


 写真を撮られても春花は気にした様子が無い。チェシャ猫と居る時はいつもの事であり、春花は自分が撮られているとも思っていない。


 しかして、チェシャ猫は盗撮(それ)を許さない。


「あ、あれ? 顔に変な(もや)が……」


「え、そっちも?」


 なにやらこしょこしょと不思議そうに話す盗撮犯(クラスメイト)達。


 チェシャ猫の数少ない魔法であり、殆ど使い道の無い摩訶不思議な魔法によって写真に勝手にモザイクがかかる。


 許可無き撮影は絶対に許さないのだ。


「キヒヒ。不便だねぇ」


「なにが?」


「キヒヒ。このまま異譚が続く事さ。学業にも、支障が出るだろう?」


「そうだね。まぁでも、仕方ないよ」


「キヒヒ。そうかなぁ?」


 ゆらゆらと尻尾を揺らすチェシャ猫。


 そして次の瞬間、ぴーんっと尻尾が伸びる。


「キヒヒ。そうだ、良い事を思い付いたよ」


「良い事?」


「そう。良い事さ。キヒヒ」


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