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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚15 単独出撃

 魔法少女が全員揃った後、異譚の情報を揃えた沙友里がカフェテリアに急いだ様子でやって来た。


 パジャマバレショックから抜け出せない珠緒を置いておいて、メンバーが揃った事でブリーフィングが始まる。


「先遣隊からの画像データだ。暗くて見辛いとは思うが、日中と同じ異譚だ」


 スクリーンに映し出される夜間の密林。


「規模、様相、全てのデータがほぼ同一だ。恐らくだが、異譚支配者の実力も変わらないだろう」


「なら、提案がある」


 すすっと手を上げるアリス。


「なんだ?」


「私一人で異譚に行く」


 とんでもない事を言い出すアリスに、驚いたように目を見開く沙友里。


 通常、異譚を一人で攻略する事は不可能だ。例えば、白奈(スノーホワイト)。スノーホワイトはオールラウンダーとして優秀ではあるけれど、異譚支配者と一対一(サシ)で戦える程の力は無い。


 スノーホワイトに限らず、他の魔法少女もその他の異譚生命体は相手取れるだろう。けれど、異譚を終わらせるには異譚支配者を倒す必要がある。異譚支配者を一対一で倒すという事こそ最大の壁なのだ。


 だからこそ異譚を一人で終わらせるという事は不可能に近いのだ。


「……理由を聞いても良いか?」


 沙友里が問えば、アリスはこくりと頷く。


「もし、異譚がこれで終わらなかった場合、ローテーションを組む必要がある。私とロデスコが一人で攻略できるなら、三人一組(スリーマンセル)が三つ作れる。五組でローテーションを組めるならその分余裕が出来る」


「それは確かにそうだが……一人は危険過ぎる。せめて、ペアで行動するべきだ」


 アリスには異譚支配者を単独で倒した実績がある。だが、だからといって危険が無い訳では無いのだ。


 だが、沙友里の提案にアリスは首を横に振る。


「速度を重視したい。私とロデスコだけなら、最速で異譚支配者を倒せる」


「ならアリスとロデスコでペアだ。流石に、異譚に一人で放り込むのは許可できない」


「私なら平気。ロデスコの記録(ログ)も確認した。あれなら一人で倒せる。ロデスコもそう言ってる」


 ちらりとアリスがロデスコを見やれば、ロデスコはソファにふんぞり返りながら答える。


夢見る灰被りの城(シンダー・パレス)を抜きにしても、アタシとアリスの突破力なら必ず倒せる」


 アリスの言葉に、ロデスコも賛同を示す。


「それに、アタシとアリスは単独撃破の実績があるわ。アリスがSでアタシがA。明らかに格下の相手にアタシ達が一緒に出向くなんてナンセンスだわ」


「それは分かるが、危険が無い訳では無いだろう」


「危険は承知の上。それに、長期的に見ればこれがベスト」


 言って、アリスはぺこりと頭を下げる。


「お願い」


 珍しく頭を下げるアリスを見て、沙友里だけではなくこの場に居る全員が驚愕に目を剥く。


「傍若無人が頭下げてる……」


 なんて、朱里が失礼な事を言う。


「はぁ……」


 沙友里は一つ溜息を吐いた後、諦めたように口を開いた。


「分かった。アリスと朱里の単独出撃を認める」


 ぱっとアリスが頭を上げる。


「ありがとう」


「だが、条件が在る」


「条件?」


「ああ。この異譚が長期化した時にのみ単独出撃を許可する。今日で終わればそれに越した事はないからな」


「分かった。それで良い」


 アリスだって、異譚が長引いて欲しいとは思っていない。早く終わるに越した事は無いのだから。


「話もまとまったところで、今回の編成を発表する。とはいえ、今回我々童話の役割はいつもより明確だ」


 童話組の役割は遊撃。要望があれば援護に向かい、助けを求める声があれば救援に向かう。また、隙を見て異譚支配者をぶっ殺すのも仕事の内だ。まぁ、つまりは連携も何も無しに好きに動けという訳だ。


 だが、今回は遊撃ではなく、明確な役割が存在するらしい。


「我々の仕事は露払いだ。星と花の新人と異譚支配者を当てるらしい」


 この異譚が続く可能性を考えていたのは朱里やアリスだけでは無い。二度目の段階で嫌な予感を覚え、三度目の今になって更に次が在る可能性を考慮した。


 異譚としての強さはそこまでではない。それに、相手の能力や特徴は知れている。であれば、異譚支配者との戦闘経験を積ませるのにこれほど適した相手はいないだろう。


「恐らく、この状況が続けば、今後も露払いを仕事として振られるだろう」


「……それが分かってたから許可したの?」


 むすっとした顔でアリスが言えば、沙友里は首を横に振る。


「いや。何より異譚終結が最重要だ。先に接敵した分には、そのまま殲滅してもらって構わないそうだ」


「なるほど」


「つまり、早い者勝ちって事ね」


「そうなるな。ただ、露払いを意識して行動してほしい。童話組は少数精鋭という特性上、遊撃をする事が多いが、今後は今日のように明確に役割を求められる事もあるだろう。他との連携を取る実戦練習でもあると心がけてくれ」


 沙友里の言葉に、少女達はまばらに返事をする。


「では、編成を発表する。今回は、みのり、瑠奈莉愛、珠緒、餡子の四人だ。みのり、この中では一番先輩だ。三人を頼んだぞ」


「は、はい!」


「では出撃だ。頼んだぞ」


「了解ッス!」


「了解です!」


「……了解」


 瑠奈莉愛と餡子の新人コンビは元気に答え、珠緒がテンション低く答える。未だにパジャマバレショックを引きずっている様子だ。


「さ、さぁ行くよ! 先輩に着いてきて!」


 ふんすと鼻息荒く先導するみのりの後ろを、ひよっこ二人組がぴよぴよと着いて行く。


「……ぬいぐるみ持ってて」


「あ、うん。大丈夫?」


「……ちょっとストレス発散してくる」


 笑良にアリスのぬいぐるみを預け、意気消沈した様子で三人の後を追おうとする珠緒。


「イェーガー」


 そんな珠緒を、アリスが呼び止める。


 びくっと大きく身を震わせる珠緒に、アリスは小首を傾げながらも言いたい事を言う。


「新人二人を抱えての異譚は大変だと思うけど、よく見てあげて。無理そうなら、直ぐ撤退。いい?」


「……分かった」


 頷き、珠緒は逃げるように三人の後を追った。


「アンタ、も少し気の利いた事言えないの?」


 呆れたように朱里が言えば、アリスは訳が分からないと言った様子で小首を傾げる。


「今言った。先輩らしいアドバイス」


「アリス、こういう時は頑張ってって言われた方が嬉しいものよ」


 白奈が言えば、アリスは更に小首を傾げる。


「頑張るは当たり前。それに、私に言われなくてもイェーガーは頑張ってる」


 前回の異譚でもイェーガーはイェーガーなりに頑張っていた。今だって、強くなろうと頑張っている。もうすでに本人がしている事に対して、更に同じように言葉をかけるなんて意味がない。


「そういうのは事実よりも気持ちが大事なのよ。あの子、アリスちゃんに頑張ってって言われたら、今以上に頑張っちゃうと思うわ」


 珠緒のアリスのぬいぐるみの手を動かしながら、高い声で『頑張って』と言ってふざける笑良。


「ま、どっちにしろ落ち込んでる相手にかける言葉じゃ無かったわね。コミュ力0点。補習確定ね」


 朱里がおどけた調子で言えば、アリスは不満そうな顔をする。


「……そもそも、なんでイェーガーは落ち込んでいるの?」


「は? マジで言ってる?」


「マジで言ってる」


 真面目な顔で返すアリスを見て、朱里は笑良と白奈に視線をやる。


 笑良も白奈も苦笑を浮かべており、笑良に至っては手をばってんにして『分からないなら話さない方が良い』とジェスチャーで伝える。


 朱里は深い溜息を吐いた後、呆れたように言葉を零した。


「はぁ……宿題よ、コミュ障女」


「なら良い。後で本人に聞く」


「それだけは止めてあげなさい可哀想だから!!」


 流石の朱里も珠緒が不憫だと思ったのか、アリスの蛮行を止める。


 傷口に塩どころか劇薬をぶっかけているようなものだ。


「アリス。コミュ障が急にアクティブになると良い結果にならないのよ? 分かる? てか分かれ。余計な事するな」


「むぅ……」


 明らかに不服そうなアリスは、人差し指を立ててくるくると回す。


 どこからか現れた毛布が独りでに移動し、いつの間にか眠りこけてしまった唯と一にかけられる。


「私は気遣いが出来る。余計なお世話」


「及第点ね。あそこにも寝てるの居るわよ」


 言って、朱里は笑良の膝枕で爆睡している詩を指差す。


「あれはいい」


「いいとか言ってやんな、可哀想でしょうが」


「……仕方ない」


 渋々といった様子で、アリスは爆睡する詩の上にチェシャ猫を置く。


「これで良い」


「良い訳あるか」


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