異譚14 寝間着
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体調も良くなってきたので、がんばります。
春花はいったんアリスのプライベートルームへと向かい、アリスに変身してからカフェテリアへと向かった。
カフェテリアには既に白奈と朱里、みのりと餡子が居た。
「他の皆は?」
「順繰りに来るわよ。ほら、もう来た」
「遅れて」
「飛び出て」
「「じゃじゃじゃじゃーん」」
眠たげな顔でカフェテリアに入って来たのは唯と一だった。
慌てて飛び出して来たのだろう。二人共可愛らしいお菓子のガラがプリントされたパジャマに身を包んでおり、その上に薄手のカーディガンを羽織っていた。そのカーディガンもピンク色であり、二人の可愛い物へのこだわりが伺える。
因みに、朱里は無地のシャツにドルフィンパンツというラフな格好。みのりはふわふわもこもこのパジャマに身を包んでおり、餡子は無地の清潔感のあるパジャマに身を包んでいる。
唯と一の後に来たのは瑠奈莉愛だった。
「こ、こんばんはッス! すみません、自分遅くなりましたッス!!」
挨拶しながらもの凄い勢いでカフェテリアに入って来る瑠奈莉愛。
アリスは一回行った事があるから分かるけれど、瑠奈莉愛の家は対策軍から徒歩で約三十分かかる。まだ警報が鳴ってから十分程しか経っていない事を考えると、余程急いで来たのだろう。よれよれのジャージに身をつつんだ瑠奈莉愛はジャージが肌に張り付く程に汗をかいている。
「あちぃッス……!」
ジャージをぱたぱたとさせて風を送る瑠奈莉愛を見て、アリスはタオルを生成する。
生成されたタオルはひとりでに瑠奈莉愛の元へと飛び、ふわっと優しく首にかかった。
「ありがとうございますッス!!」
「風邪引かれても困るから」
にぱっと嬉しそうに笑みを浮かべる瑠奈莉愛に、アリスはいつもの調子で返した。
にっこにこで汗を拭く瑠奈莉愛を羨ましそうに見るみのりだけれど、今が緊急事態という事は承知しているのでアリスに強請るような事は言わなかった。
「ごめんなさい、ちょっと遅れた~!」
はひはひと息を切らしながら入って来たのは、『I♡Alice』と書かれたTシャツに身を包んだ笑良だった。
胸部に押し出されてシャツの文字が歪んで見えるけれど、そこにはしっかりと『I♡Alice』とプリントされている。
「なにそのクソださTシャツ」
朱里がドン引きしたような顔で問えば、笑良は恥ずかしそうに笑いながら説明する。
「あぁ、これ? 魔法少女関連のお店で山のように売れ残ってたから、つい……」
最後まで口には出さなかったけれど、つまりは、同情で買ったということだ。使わないのも勿体無いから、そのまま部屋着として使っているのだろう。
「アンタ優しいわね。アタシなら一着も買わないわ、そんなクソださTシャツ」
「だ、ダサく無いよ! すっごいイカすよ、それ! わたしも十着持ってるもん!」
ムキになって朱里に反論するみのり。
「うわっ、人生最大の金の無駄遣い。アンタ、もっとお金の使い方考えた方が良いわよ?」
「か、考えたうえで買ってるよ!」
「あらそう。じゃあ思考回路がバグってんのね。ご愁傷様」
「ば、バグって無いよう!!」
ぷんすこと怒るみのりの肩に、白奈がぽんっと手を置く。
「大丈夫よ、みのり。私も五着買ってるから」
「あぁ……此処にも同類が……」
「えっと……因みに、ワタシは三着買ってるよ……」
おずおずと購入枚数を申告した笑良に、朱里はまるでこの世の終わりを嘆くように天を仰ぐ。
「バカばっかりか……」
そんな皆の反応を見て、アリスは面白くなさそうな表情を浮かべている。
なにせ、アリスはそんなクソださTシャツが売られているだなんて知らなかったのだ。魔法少女関連の物は対策軍の商品開発部が関わっている。そのため、このTシャツは正式なルートで仕入れたお店しか販売できない。
三人が違法なお店に行くとも思えないので、このTシャツはまず間違いなく真っ当な品物だ。
だが、アリスはそんなTシャツが作られている事も、販売されている事も知らなかった。
色々無頓着なアリスでもこのTシャツがダサい事だけは理解できている。それが売れ残っていると言うのもまことに遺憾である。
後で商品開発部に文句を言いに行こうと決めるアリス。因みに、この商品にゴーサインを出したのはチェシャ猫だ。犯人は意外と近くに居るものなのである。
クソださTシャツで揉めている間に、のろのろっとした動作で詩がカフェテリアに入って来る。
「……最後……?」
「ドベ2ってとこよ」
「……そ……」
非常に眠たげな様子で歩く詩。
詩はのそのそと歩きアリスの隣に座ると、そのままアリスの膝に頭を預けた。
余程気に入ったのか、最近はアリスの膝枕を直ぐに御所望してくる詩。
「なっ!? だ、駄目だよう! こ、これからブリーフィングなんだから!!」
至極真っ当な理由で詩を起こそうとするみのり。しかし、自身の情欲に真っ直ぐに従っているだけである。たまたま体のいい理由があっただけだ。
詩を起こし、代わりに自分の膝の上に頭を乗せてやるみのり。
膝枕ならば誰でも良いのか、詩はそのまま眠りにつく――
「……硬い……」
――事は無く、ふらふらとした足取りで笑良の方まで移動し、笑良の太腿に頭を落とす。
「……ムチムチ、極楽……」
「それどーいう意味かなー?」
額に青筋を浮かべた笑良が詩の頬を引っ張る。
対して、みのりは硬いと言われて涙目になっている。
「か、硬くないもん。ね、アリス?」
「私に訊かれても困る……」
「デブって言われるよりマシでしょ」
「デブとは言われてないけど!」
みっともなくぎゃーぎゃーと騒いでいると、カフェテリアの扉が勢いよく開かれる。
「っそ遅れた!! っんで職質してくんだよ!! こちとら魔法少女だっつーの!!」
怒りを爆発させながらカフェテリアに入って来た珠緒。しかし、そんな珠緒を見て全員が信じられないものを見たかのように唖然とした表情を浮かべる。
「あ? なに?」
苛立ち交じりに珠緒が訊ねれば、朱里が笑いを堪えながら珠緒を指差す。
「ぷっ、ふふっ、ふ、服、服……っ」
「あ、服がどーし…………ぁっ」
朱里に指摘され、自身の服を確認した珠緒は思わず息を呑む。
珠緒が着ていたのは可愛らしいガラのパジャマだった。だが、それだけなら問題無いだろう。菓子谷姉妹だって可愛らしいガラのパジャマを着ているのだから。
問題は、そのガラだ。
「愛されてるわね、アリス?」
朱里が面白がって言えば、アリスは複雑そうな表情を浮かべた。
そう。珠緒が着ていたのは、デフォルメされたアリスが幾つもプリントされた子供向けのパジャマだったのだ。
珠緒は出先でたまたまこれを見付けた。子供向けだと一目で分かったけれど、サイズ的に珠緒は着る事が出来た。であれば、買うしかない。ただでさえ供給の少ないアリスのグッズだ。迷う事無く買った。
それを今日、たまたま着ていたのだ。それに気付く事無く、警報に慌てて家を飛び出して来たのだ。
それは職質もされる。何せ珠緒の見た目は完全に小学生だ。夜に出歩いていたら職質されるに決まっている。
「なっ、これ、違っ……!!」
顔を真っ赤にして否定をしようとする珠緒。その視線は真っ直ぐにアリスに向けられていた。
そこで、二つ目の失態に気付く。
慌てていたので身振り手振りが混じった。その際、右手に何かを持っている事にも気付いた。
それを見て、珠緒は更に顔を真っ赤にする。
右手に持っていたのは、可愛らしくデフォルメされたアリスのぬいぐるみだった。
これは、いつも珠緒が寝るときに抱きしめているぬいぐるみだ。これが無いと良い夢が見られないのだ。
これも警報に慌てたために一緒に持って来てしまっていた。
それは職質もされる。何せ――以下略。
「ち、違う……違うから……っ!!」
擦れた声で否定をするも、何の説得力も無い。
焦りと羞恥の極地で、最早泣きそうになっている珠緒。
そんな珠緒を見て、アリスはゆっくりと口を開く。
「……私の知らないグッズだ……」
そう、この商品も、アリスは認知していなかったのである。勿論犯人はチェシャ猫だ。
アリスの言葉が届いていない珠緒は涙目でアリスを見て、アリスはむすっとした表情で珠緒の持っている物を見た。
そんな二人を見て朱里はお腹を抱えてゲラゲラと笑い、それ以外の全員は何とも言えない顔をしていた。




