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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚11 神業射撃

60万PV突破しました。ありがとうございます!

 朱里、珠緒、笑良、餡子が異譚に突入してから一時間が経過する。


「チッ、あっつい……」


 フードを被ったイェーガーが苛々した様子でこぼす。


「そうだねぇ……環境適応の魔法が在ってこの暑さだもんね……」


 言いながら、アシェンプテルはドレスの胸元を摘まんでパタパタと胸元に風を送る。


 その度に豊満な胸元がこれでもかと動き、イェーガーが自身の薄い胸元に手を当てながらアシェンプテルの胸を凝視する。


「何食ったらそんなデカくなんの……?」


「え?」


 急に言われ、何の事だか分からなかったけれど、イェーガーの視線の先が胸に向かっているのに気付くと、アシェンプテルは納得したように微笑む。


「特に何も食べて無いよ。イェーガーちゃんだって、成長期なんだから直ぐに大きく育つわよ」


「……そうかな」


 言って、イェーガーはシュティーフェルの胸元を見やる。


 シュティーフェルの年齢はイェーガーの一つ下である。にもかかわらず、シュティーフェルの胸はイェーガーよりも大きい。それでも、特別大きいという訳では無いけれど。


「アンタ達、バカな事言ってないで集中しなさい」


 先頭を歩くロデスコがちらりと背後を振り返りながら注意する。


 そんなロデスコも確実にイェーガーよりも胸が大きい。それに、ロデスコは身体のラインがとても綺麗だ。モデルのように引き締まっておりながら、出るところでは出ており、背も高ければ手足も長い。


笑良のように肉感的な妖艶さは無いけれど、全体的な美しさは誰よりも上だ。


 イェーガーのように背も低く、発育も悪い少女からしたら羨ましい程に美しい。


 ロデスコの事は嫌いだけれど、そういう所は認めざるを得ない。まぁ、だからこそ嫌いなのだけれど。


「ていうか、無い物ねだりするくらいなら、自分の長所を磨くべきなのよ。その方が建設的なんだから」


「うっざ……持ってる奴(・・・・・)の上から目線が一番うざいわ」


「あら? 人が手に入れた(・・・・・)モノを羨ましがるなんて、随分と浅ましいのね」


「ちょっと、異譚に来てまで喧嘩しないの」


 いつも通りの口喧嘩を繰り広げようとする二人を止めるアシェンプテル。


「イェーガーさん、今度私と一緒にバストアップ体操しましょう!」


 きらきらとした目で誘うシュティーフェル。


 シュティーフェルと同い年で同期である瑠奈莉愛も、年齢にそぐわない長身とスタイルの良さを誇っている。それがちょっと羨ましいので、自分も少しでもスタイルが良くなりたいと思っていたのだ。


 羨ましいなぁと思っている時にイェーガーもスタイル良くなりたいと思っていると知り、嬉々として提案をした訳である。


「いや、良いわ……」


「えぇ!? そんなぁ……」


 しかして、イェーガーはなんとも言えない表情でシュティーフェルの誘いを断る。


 確かに、スタイルが良い人を羨ましいとは思う。自分の中に、その気持ちが在る事は否定しない。


 けれど、そこまで躍起になる事でもないのだ。それに、バストアップ体操なんて誰かと一緒にやるようなものではない。


 しょぼーんっと肩を落とすシュティーフェルをアシェンプテルが慰めるのを横目に、イェーガーはすっと手に持った長銃を構え、即座に発砲。


 極小さな木々の隙間を正確に通り、銃弾は異譚生命体の頭を打ち抜く。


 針の穴を通すような神業射撃に驚く様子も無く、三人は周囲を警戒する。


 この異譚に入ってからずっと、先制攻撃はイェーガーが行っている。そして、この神業射撃を毎回命中させている。


「巨乳でもこんな事出来ないでしょ」


 ふふんっと得意げなイェーガーに、アシェンプテルは苦笑しながら返す。


「胸は、関係無いと思うなぁ……」


 二人が無駄口を叩いている間も、足早に迫る異譚生命体。


 その足音を聞いて、シュティーフェルが顔を顰める。


「……先輩方……これ、多分人間です……」


 二足歩行特有の足音。この異譚では寄生植物が既存の生物に寄生すると聞いた。


 その中に、人間がいる事も既に知っている。


「知ってるわよ。見えてたから」


 イェーガーはそう答えながら、躊躇なく引き金を引く。


 木々の隙間を通り、弾丸は異譚生命体の頭を打ち抜く。


「助けられないのでしょうか……?」


「変成とは違って、寄生だからね……」


 変成であれば、異譚の外に出られれば時間経過で元に戻れる。しかし、この寄生植物は対象の脳を侵食して支配する。つまり、今のように寄生されて動いている宿主は既に取り返しのつかないところまで侵食されているのだ。


 助かる術はなく、異譚から出たとしても異譚生命体は異譚の外でも活動が出来るので、被害を拡大するだけになってしまう。


 つまり、異譚内部で仕留める他無いのだ。


 だからこそ、イェーガーは容赦無く頭を撃ち抜く。脳さえ破壊出来れば身体は動かせない。残酷でも、それが一番確実なのだ。


「アンタも説明聞いたでしょ。ここで終わらせてあげるのが、せめてもの情けよ」


「そんな……」


「それが異譚なのよ。無慈悲で、残酷で、救いようの無いクソみたいな場所」


「……終わった」


 三人が話をしている間に、イェーガーが全ての異譚生命体を撃ち抜いた。


 これが四足歩行の動物であれば何体かはこちらに来ていたけれど、人間程の速度であれば近付かれる前に全て撃ち抜く事が出来る。


 銃を下ろしながら、イェーガーはシュティーフェルを見る。


「助けたいなら、早く異譚を終わらせる事。それが一番」


「長引けば長引く程、被害が拡大するからね。それが一番の解決策だよ」


「……そうですね。それしか無いなら、そうするべきですね!」


 ふんすと鼻息荒く気合を入れるシュティーフェル。


「先を急ぎましょう! 一人でも多く助けるために!」


「そうね。手柄取られても癪だしね」


 言って、さっさと歩いていくロデスコ。


「それに関しては同感だわ」


「アンタ、前回良いとこ無しだもんねー」


「……ちっ。あんただってとろとろしてたくせに」


「アタシは最速だったわよ。避難が遅れただけでね」


「ほら喧嘩しないの! せっかくシュティーちゃんが良い事言ったんだから!」


 喧嘩をする二人を窘めるアシェンプテル。


 別段、良い事を言ったとは思っていなかったシュティーフェルは照れたように顔を赤くする。


「と、友達(・・)の受け売りですよ! ささっ、早く行きましょう! 索敵は任せてください!」


 自ら斥候を買って出るシュティーフェルを見て、ロデスコが最後尾に移動する。


「いやー、この編成楽で良いわ。目が良いのが二人に魔力感知が得意なのが一人。あの馬鹿がいないから、アタシが変に気ぃ張る必要も無いし」


 魔力だけではなく、五感を頼りに索敵が出来る人員がいるのは圧倒的なアドバンテージだ。今回のように、視界が悪い場所では尚更に。


「まぁ、アリスちゃんは急に突拍子もない事するからねぇ……」


「地面割ったり、目の前の物全部ぶっ壊したり……アイツマジで急に蛮族になるのよね」


「人一倍異譚を終わらせたいって気持ちが強いからね、あの子」


 だからこそ、アリスの中で優先順位が簡単にひっくり返ってしまうのが、少し心配なところでもある。


建物を壊さないように配慮したりも出来るし、味方に対しても気を回してくれている。が、異譚の危険度が高いと分かるや否や、アリスから配慮の一切が無くなるのだ。


 前々回の漁港の時も、考える前に即座に致命の大剣(ヴォーパルソード)を放っていた。人には配慮していたようだけれど、建物には配慮していなかった。


 人に対する思いやりは在るけれど、建物や土地に対する思いやりが無い。それは、イェーガーにも言える事である。


 イェーガーの場合は土地に思い入れを持たない生活をしてきたからだろう事は理解している。けれど、アリスに関してはどういう背景があるのか分からないのだ。


 休日にお茶にでも誘っていっぱいお喋りでもしようと考えつつ、アシェンプテルは意識を異譚へと向けた。


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