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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚10 連続

 密林の異譚が終了し、魔法少女達は対策軍本部へと帰投する。


「だぁれが仔犬でっすってぇ~?」


 アリスが帰投した途端、朱里が(まなじり)を吊り上げてアリスに詰め寄り、アリスの頬をぐいっと摘まみ上げる。


「いひゃい……」


「言っとくけどね、アタシは憎まれ口を叩いてんじゃないの! アンタがどーしようもないアホで鈍ちんだから、アタシがアンタの不出来を教えてやってんのよ! 分かった!?」


 ぐにぐにぐいぐいと引っ張りながらアリスに文句を言う朱里。


「わかやなひ……」


 アリスは自分がアホでも無ければ鈍感でも無いと思っているので、朱里の主張は容認できない。


「分かれアホ!」


「わかやなひ……!」


 頬を引っ張る朱里と抵抗をするアリス。


 そんな二人を見守りながら、他の出撃した面々はソファに腰を下ろす。


「ぴぁ……疲れた」


「ぷぁ……疲れた」


 唯と一がソファにどっかりと座りながら、冷蔵庫から取り出した炭酸飲料をごくごくと呑む。


 異譚支配者と戦ってはいないとはいえ、異譚が消えた後に残った異譚生命体と戦闘をしたので疲れはある。


 白奈と詩もソファに座り、二人の前に笑良がお茶を置く。


「ありがとう、笑良」


「良いのよ。お疲れ様」


 にこっと可憐に微笑む笑良。


「……うむ、苦しゅうない……」


 偉そうにふんぞり返りながらお茶を飲む詩。


「そっちの二人も、じゃれ合ってないでこっちでゆっくりしなさい」


 笑良がアリスと朱里に言えば、朱里はアリスの頬を乱暴に離してからソファに腰を下ろす。


 アリスは頬を抑えながら逃げるように二階に上がる。


「いやこっち来んかい! そーいう流れでしょーが!」


 朱里は二階に逃げるアリスを追いかける。


 暫くして、朱里はアリスを俵抱きにして一階に降りて来る。


 アリスは不服そうな顔をして、なすがままになっている。


 朱里はアリスをソファにぶん投げるも、アリスは魔法を使いゆっくりとソファに着地する。


 不満そうな顔でソファに座るアリスの膝の上に、いつの間にか現れたチェシャ猫が座る。


 アリスの前にみのりがお茶を置き、すかさずアリスの隣をキープする。


 アリスにぴたっと引っ付きながら、自身もお茶を飲む。


「あ、アリス、お疲れ様だよ! お、お茶飲んでゆっくりして? ね?」


「……」


 むっすりとした顔で、アリスはお茶を飲む。


 ゆっくりするなら二階で一人でゆっくりしたかったのだ。


 むすっとするアリスを見て笑良が笑いながら、甲斐甲斐(かいがい)しくお菓子を用意したりなどして出撃組を労う。


 そうして、出撃後のゆったりとした時間を過ごす童話組。


 きっと、花も星も同じようにゆったりとした時間を過ごしている事だろう。


 そんなゆったりとした時間を引き裂くように、対策軍内に警報が鳴り響く。


「この警報……っ」


「嘘、なんで!?」


 白奈が息を呑み、笑良が驚愕を表に出す。


 現在対策軍内で鳴り響く警報は、異譚が発生した時に鳴るものだ。


 異譚が終幕を迎えてから、まだ三時間ほどしか経過していない。


 通常、異譚は早くても一週間、遅ければ一ヶ月程スパンを空けて発生する。更に遅いときは半年から一年後の場合もある。まぁ、一年も異譚が起きなかったのは海外での話だけれど。


 ともあれ、数時間程で異譚が発生するなど前代未聞の出来事である。


「全員揃っているか?!」


 沙友里が慌てた様子でカフェテリアに入って来る。


「沙友里さん! これ誤報とかじゃないんですか?」


 笑良の問いに、沙友里は深刻な表情で首を横に振る。


「残念ながら異譚の魔力を確認できた。異譚発生で間違い無い」


「こんなに短いスパンで? 今まで在った?」


「いや、こんな出来事は初めてだ。海外で連続的に発生した事例は在るが、それでも一日ごとだった。こんな短時間に異譚が発生した前例はない……」


 言いながら、沙友里は端末で巻き取り式のスクリーンを下ろし、プロジェクターで資料を投影する。


「それに、海外で起こった異譚はまったく別の異譚だった。別の異譚の後に、別の異譚が発生する。運悪く短時間で起こってしまっただけだった」


「その言い方だと、今回は違うって事?」


「ああ。偶然(・・)居合わせた魔法少女が撮影した画像がこれだ」


 頷き、沙友里は送られてきた異譚の写真を写す。


「これって……!」


 映し出されたのは、まるで遥か昔、それこそ有史以前の地球のを思わせるような密林(・・)


 蠢く巨大な虫達は前回送られてきた画像と同様の見た目をしている。大きさに若干の変化はあるけれど、個体差の内に入る程だ。


 そう、前回の異譚とまったく同じ異譚が発生したのだ。


「まったく同じッス……!」


「ど、どういう事だろう……?」


「考えたって仕方ないでしょ。異譚の事なんて、まだ何にも分かって無いんだから」


 言いながら、珠緒はソファから立ち上がる。


「さっきのメンツ以外が出撃でしょ? 早く行こ」


「ああ。異譚侵度も変わらずB。異譚内部の状況も変わらないとあれば、ブリーフィングは不要だろう。珠緒、笑良、朱里、餡子の四人で頼む」


「「「「了解」」」」


 編成を伝えられると、四人は即座にカフェテリアを後にする。


「笑良。朱里と珠緒をお願いね」


「ふふふっ、大丈夫。お姉さんに任せなさいな」


 朱里と珠緒に聞こえないように白奈が言えば、笑良はぱちりとウィンクをして返す。


「自分はお留守番ッスか……」


「だ、大丈夫! わ、わたしもお留守番組だから!」


 しょぼーんとする瑠奈莉愛にみのりが声をかける。


「次が無いとも限らない」


「前例が無い事」


「可能性は未知数」


 アリスの言葉の後に、唯と一が続ける。


 詩はタブレット端末を操作して、前回の異譚の際に調査班から送られてきた異譚の情報に目を通す。


「……アリス、これ……」


 ひょこひょことアリスに近寄り、アリスにタブレット端末を渡す。


「……ここ……」


 詩が指差す箇所を見やれば、そこには猫が徐々に蔦で覆われる映像が載っていた。


「……多分、アリスの言う通り……」


「寄生型って事?」


「……うん……身体から、突き破ってる……」


 血を噴き出しながら身体中に蔦を巻き付けられている猫を見て、みのりが顔を青褪めさせる。


「ちぇ、チェシャ猫は、行かない方が良いかもね……」


「キヒヒ。拾い食いはしないから大丈夫さ」


「そ、そういう問題じゃ無いと思うッス……」


 チェシャ猫の言葉に、瑠奈莉愛は呆れたような顔で言う。


「これ、小動物だけ?」


「いや、そうでも無いらしい」


 アリス達の話を聞いていた沙友里は、スクリーンに寄生された生物達の写真を写す。


 そこには、犬や猫だけではなく、蔦に巻き上げられた人間の姿も在った。


「うぅっ……」


 蔦に巻き上げられた人間を見て、瑠奈莉愛が顔を青褪めさせる。


「おいで」


「ッス……」


 アリスが瑠奈莉愛を手招きし、自身の横に座らせる。


 瑠奈莉愛の膝の上にチェシャ猫を置いた後、魔法で冷蔵庫から飲料水を取り出して瑠奈莉愛の前に置く。


「猫にはリラクゼーション効果がある。多分……」


「キヒヒ。その内万病の薬になる予定さ」


「ありがとうございますッス……」


 よすよすとチェシャ猫を撫でる瑠奈莉愛。


 そんな瑠奈莉愛の様子を見て、沙友里は詩に言う。


「詩、朱里達にそれとなく餡子に気を遣うように伝えておいてくれ」


「……了解……」


 たたたーんっともう一台のタブレット端末を高速でタップしてメッセージを送信する詩。


「それにしても、これが続くとなると厄介だな……」


 ただでさえ異譚は脅威的なのだ。それが連続するなど最悪以外のなにものでもない。


 異譚侵度B。であれば、最悪の場合はアリスとロデスコの単騎出撃も視野に入れなければいけない。そうしなければローテーションが滞るのであれば、そう命令せざるを得ない。


 二人であれば迷いなく頷くだろうけれど、異譚には異常(イレギュラー)が付き物だ。あまり単騎出撃はさせたくはない。


「頼むから、これで終わってくれ……」


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[一言] 今回のは恐ろしいことになりそう...
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