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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚8 寄生植物

 境界を潜れば、そこには写真で見た通りの密林だった。


「アツアツ」


「ジメジメ」


 熱帯雨林のように湿度の高い暑さに顔を顰める五人。


「マーメイド。近くに異譚生命体はいる?」


 暑さに顔を顰めながらも、アリスはマーメイドに訊ねる。


「……試してみる(・・・・・)。アリス、音叉出して……」


「分かった」


「……クソデカで頼むぜ……」


 マーメイドの依頼通り、剣程の大きさの音叉を生成する。


 そして、アリスは音叉を指で弾く。


 きぃぃぃんっと高温が密林に響き渡る。


 マーメイドは目を閉じて耳を澄ませる。


「……虫うじゃうじゃ……足音五つ……あ……」


「どうしたの?」


「……音叉の音で、気付かれた……」


 マーメイドが報告をすれば、全員が臨戦態勢に入る。


「位置」


「……左方向……数、五体……」


 マーメイドの報告の直後、ようやっと四人も感知できる距離に異譚生命体が接近してくる。


「この距離なら……」


 アリスお得意の『執行』を繰り出そうと手を伸ばす。


 が、相手の速度が速すぎて捕捉を千切られてしまう。それに、速さだけではない。


 木々の間を不規則に進むので、枝に剣が当たってしまいターゲットの捕捉から射出までの時間を稼げない。


 アリスは手を下ろす。


「自動追尾が使い物にならない」


「大丈夫よ。アリスはマーメイドをお願い」


「分かった」


 近距離でもアリスが対応できるけれど、今回は後衛でマーメイドを護る事に専念する。


 無軌道に高速で迫る異譚生命体。その姿を木々の隙間から一瞬だけ捕捉出来るけれど、全容を把握するには足りない。


 密林の中を自由自在に駆け回れるのだから四足歩行には違いないだろうけれど、それ以上の情報は得られない。


 音と魔力を頼りに異譚生命体の位置を把握し、襲撃に備える。


 そうして、死角から一体の異譚生命体が飛び掛かってくる。


 狙われたのはアリスの背後にいるマーメイド。


 が、背後に回られている事に気付かない程の愚鈍はこの中には居ない。


 飛び掛かった異譚生命体の真下から幾本も槍が突き出し、異譚生命体を串刺しにする。


 背後からの攻撃を皮切りに、異譚生命体が四方八方から飛び掛かる。


「私がやるわ」


 スノーホワイトがさっと手を振る。


 瞬間、五人を囲うように氷の礫が生成される。


「スノーホワイト。一体は氷漬けにして」


「いつものね。分かったわ」


頷き、即座に氷の鎖を生成し、一体を素早く絡めとる。その直後に、一斉に礫を射出。


 氷の弾幕は容赦無く異譚生命体を貫き、その身体を凍てつかせる。


「……終了……周囲に敵、無し……」


「了解」


 頷きながら、氷漬けになった異譚生命体を確認する。


「これは……」


 四足歩行の異譚生命体。そう思っていたけれど、どうやら少しだけ違ったらしい。


 氷の中に閉じ込められた四足歩行の生命体。それは、獣と呼ぶにはあまりにも奇怪な姿をしていた。


 鼻の長い顔立ちからして元は(・・)犬なのだろう。その犬をまるで蝕むように蔦が絡みつき、蔦から葉や蕾が生えている。蔦はただ絡まっているのではなく、犬の体内から生えてきているように見える。


「異譚生命体……じゃない……?」


「……変成してる、途中かも……」


「でも、犬の中から蔦が生えてる」


 言って、アリスは身体の中から蔦が生えているように見える部分を指差す。


 マーメイドはアリスの頬に自身の頬をぴったりとくっつける程に寄せて、アリスが指差す方を見る。


「……ぐろい……」


 確かに、体内から蔦が無理矢理体外へと皮を突き破って出ている様はとてもグロテスクである。


「寄生植物という植物が存在する。生物に寄生するというのは聞いた事が無いけれど、異譚であれば無いとは言い切れない」


「……寄生……私と一緒……」


 言って、ぎゅっとアリスを抱きしめるマーメイド。


「そう」


「……アリス、すーぷぁーどぅるぁーい……」


 嫌に巻き舌で言うマーメイド。


「スノーホワイト。どう思う?」


 どぅらぁーいどぅらぁーいと巻き舌を続けるマーメイドを無視して、アリスはスノーホワイトに意見を求める。


「どうかしら。異譚発生から時間が浅いから、どちらも考えられると思うわ」


「五分五分?」


「ハーフアンドハーフ?」


 スノーホワイトの言葉に小首を傾げながら疑問符を浮かべるヘンゼルとグレーテル。


「それを言うならフィフティフィフティよ、グレーテル。でも、どっちの可能性も考えておいた方が良いと思うわ。異譚に通例は無い訳だし」


 スノーホワイトの言葉に、アリスはこくりと頷く。


「最大限警戒しよう。マーメイド、音叉無しで敵の位置は分かる?」


「……だいたいは……」


「なら、音叉は仕舞う。音で引き寄せても面倒だから」


「……うい……」


 アリスは音叉を消す。


「それじゃあ、核のところへ向かおう」


「れっつら」


「ごー」


 おーっと腕を上げるヘンゼルとグレーテル。


「マーメイド。核の場所分かる?」


「……薄っすら……」


 マーメイドは補助系の魔法少女であるけれど、探知はそこまで得意ではない。音の反響で細かい位置を割り出す事が出来たり、何処から何が来ているのかを把握したりは得意だけれど、あまり探知距離は広くない。遠くの異譚支配者の細かい位置などは分からない。


 それでも、アリス達よりも探知能力は高いので、この編成であれば探知を担当するのはマーメイドである。


「陣形は崩さずに向かう。ヘンゼルとグレーテルは斥候をお願い」


「りょう」


「かい」


「マーメイドは少しでも違和感を覚えたら教えて」


「……うい……」


「スノーホワイトは…………」


「私は?」


 言葉に詰まったアリスを見て、スノーホワイトは小首を傾げる。


「……臨機応変に」


「大雑把ね……分かったわ。臨機応変に、ね」


「うん」


 アリスの大雑把な指示に、スノーホワイトは怒るでも呆れるでもなくくすりと一つ笑う。


 これがロデスコやイェーガーだったら――


『抽象的な指示で仲間を動かそうとしてんじゃ無いわよこのタコ!!』


『アリス……そんな指示でこの先どうすんの? 臨機応変ってつまりなんでもやれって事でしょ? それ、他の人と思考がすれ違っただけで一気にピンチになると思うけど大丈夫?』


――なんて、理路整然と怒られることだろう。


 ロデスコが怒るのはいつもの事だけれど、イェーガーはアリスに対してあまり怒らない。そもそも天使に口答えするつもりはあまりないけれど、仲間の命がかかっている以上、いかに天使であろうと指摘しない訳にはいかない。


けれど、スノーホワイトは注意する様子も、怒った様子も無い。


 そもそも、アリスは他人に物を頼むときは出来ない事は言わない。つまり、スノーホワイトが上手く立ち回ると分かった上で指示を出しているのだ。


 信頼されているのだと思えば、悪い気はしなかった。


 美奈の事でスノーホワイトに対して過保護(・・・)になっていないかと心配はしていたけれど、どうやらその兆候も無いようだ。しっかりと、仲間として認識してくれている。


「……それで、アリスは……?」


 マーメイドがアリスの頬をぷにぷにと突きながら訊ねる。


「まさかの」


「おさぼり?」


「違う。私は……」


 少し考えるような仕草を見せた後、アリスは眉を寄せて気まずそうに答える。


「……超臨機応変に、頑張る」


 アリスの出した答えに、四人はふっと笑みを浮かべる。


「……アリス、それじゃあ、小学生と一緒……」


 ぷぷぷと笑うマーメイド。


「超が付くのだ」


「とても凄いのだ」


 からかうように笑うヘンゼルとグレーテル。


「それじゃあ、私もアリスに負けないように超頑張らないとね」


 楽しそうにスノーホワイトが笑う。


 しかし、笑われたアリスは面白くないので、むぅと頬を膨らませる。


「出発する。さっさと歩く」


 怒ったのか、気まずくなったのか、アリスはぶっきらぼうに言う。


「「はいは~い」」


「了解です、指揮官殿」


 ヘンゼルとグレーテルが軽く答えて前を歩き、からかうようにスノーホワイトが返事をする。


 三人の後ろを眉を寄せて歩き出すアリスに、マーメイドはにっこし笑いながら言う。


「……私も、ちょー頑張るね……」


「うるさい」


「……にししっ……」


 眉間に皺を寄せるアリスを見て、マーメイドは楽しそうに笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶喪失から2年しか経ってない上にその半分はアリスとして生きてるからかたぶん幼女メンタルなんだよなぁ
[一言] 尊い
[良い点] 「超臨機応変に、頑張る」←可愛すぎる! こいつほんまに男!?
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