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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚4 邪魔者達

 映画を見終わった後、アリスが淡々とした声音で訊ねる。


「どうだった?」


 二人が見ていたのは海外のアクション映画だ。


 元殺し屋の主人公が死別した妻から送られた犬と一緒に暮らしているところを、マフィアの孫に犬を殺された挙句車を盗まれる。主人公は復讐を誓って殺しの世界に戻る、という物語だ。


「いや、戦い方が現実的過ぎて――ってなんでお前がそこにいんだよ!!」


 言葉の途中で何かに気付いた珠緒が声を荒げる。


 映画に夢中で気付かなかったけれど、いつの間にかアリスの膝を枕にして横たわっている詩の姿があった。


 ソファは大きめなので、身体の小さな詩であればアリスの膝を枕にして横になれるくらいのスペースはある。


 だが、アリスと珠緒は隣り合って座っていたのだ。それこそ、肩が触れ合うくらいにはぴったりと横並びに座っていた。にも関わらず、アリスの膝にいつの間にか移動していた詩にまったく気付かなかった。


 それほど映画に夢中になっていたのか、それとも詩が異様に気配を殺すのが上手いのか。


 驚きと憤慨が在る事は確かだ。


「退け馬鹿!!」


 立ち上がり、詩をソファから引きずり降ろす。


「……幸福の枕が……」


 引きずり降ろされた詩は残念そうに床からアリスの膝を眺める。


「それで、どうだった?」


「いや、あんたちょっとは動じなさいよ……」


「最近こういうのばっかだから慣れた」


 詩もみのりも、なんだかんだとべったりしてくるのでもう慣れてしまった。


 過剰なスキンシップをしてくるのであれば控えさせなければとは思うけれど、膝を貸すくらいであれば平気だろうと考えている。


 それに、最近学んできた。言っても聞かない奴はいるという事を。


 であれば、注意するだけ無駄だし、疲れるだけだ。気にしないのが一番良い。


「嫌な慣れだな……」


 言いながら、詩を踏みながらソファに座り直す。詩が邪魔をしないように、踏んで起き上がれないようにしているのだけれど、詩に起き上がる様子はなく、そのまま携帯端末を操作し始める。


 そんな詩を無視して、珠緒はアリスの質問に答える。


「映画としては面白かったけど、魔法の(・・・)参考になるかどうかは別だわ。銃を使った近接戦の参考にはなるけど、相手が異譚生命体なら通用しない」


「そう」


「けど、銃を使って近接戦ってのは面白いわ。格闘術も相手によっては通用するし、戦闘スタイルに幅も出る。何より、隙を自分で作れるってのも良いわ」


「……好戦的な、珠緒向き……」


「うるさい」


「……ふぎゅっ……」


 ぐっと、踏む脚に力を込めれば、呻き声を上げる詩。


「戦闘スタイルが広がるのは良い事」


 言いながら、詩の下に長座布団をねじ込んであげるアリス。


「……座布団ねじ込むなら、助けて……」


 詩のもっともな言い分はさておき、アリスはそのまま続ける。


「じゃあ、次は別の映画を見る」


「ええ」


「……甘んじよう……」


 諦めたのか、詩は長座布団に完全に身体を預けてスクリーンの方に視線を向ける。


「……アリス、枕……」


「分かった」


 言われた通り、アリスは詩の頭の下に枕をねじ込む。


 詩はアリスにねじ込まれた枕の位置を調整しながら、携帯端末を操作して次の映画を再生する。


 詩が映画見放題のサービスに登録しているので、そのアカウントを使って映画を見ているのだ。


「こ、これ、なんの映画?」


「知らない」


「……ファンタジー系の映画。魔法が出てくる……」


「魔法少女が魔法の映画見る、ねぇ……」


「参考にはなる。魔法に対して強いイメージを持ってれば、魔法を行使しやすい」


「なるほどね」


 アリスの説明に頷く珠緒。


 が、数秒してから違和感に気付く。


「いや、おかしくない?」


「なにが?」


「今四人居たでしょ?」


 詩を見て、アリスを見て、自分を指差す。


 この場に居るのは三人。しかし、先程確かに四人目の声を聞いたのだ。


「ここに居る」


 言って、アリスが左肩にかかっている髪をかき上げる。そうすれば、左肩(そこ)には親指程の少女――サンベリーナがちょこんっと座っていた。


「え、えへへ……」


 笑いながら、サンベリーナはポップコーンを食べる。


「お前いつの間に! こんな事で変身なんてしてんじゃねぇ馬鹿!」


 いつの間にかアリスの肩で一緒に映画を見ていたサンベリーナを鷲掴みにする珠緒。


「ぎゃー! やだやだやだ! アリスの肩の上で映画見るのー!」


「うるさい」


 耳元で叫ばれて顔を顰めるアリス。


 サンベリーナを掴んだ珠緒はそのまま振りかぶって一階までサンベリーナをぶん投げる。


「わーーーーーっ!?」


 叫びながら、一階まで落ちていくサンベリーナ。


「どいつもこいつも……っ、邪魔ばっかしやがって……っ!」


「別に、してないと思うけど……」


 肩を怒らせる珠緒を見て、アリスは不思議そうに小首を傾げる。


 珠緒からすれば、天使(アリス)との特別な時間に割り込んでくる奴は全員邪魔者だ。許しがたい大罪人だ。


 だが、アリスを天使と慕っている――表には絶対に出さない――という事は絶対にアリスに知られてはいけない。なので、藪蛇(やぶへび)になる前に話題を変える。


「もういい……。映画見るよ」


「……りょ……」


 珠緒が騒ぎ始めたので一時停止していた詩が、映画を再開させる。


 映画が再開された中、サンベリーナは一階で菓子谷姉妹とお菓子を食べていたチェシャ猫をせっついて、チェシャ猫の背に乗って二階に戻って来る。


 二階に上がった段階でチェシャ猫のお腹にしがみつき、チェシャ猫がアリスの膝の上に乗った段階で珠緒にばれないようにアリスの肩に移動する。


「へー、映画見てんの。これ何?」


 突然、アリスの後ろから誰かが声をかける。


 ソファの背もたれに肘を置きながら訊ねたのはしっとりと髪を濡らした朱里だった。


 朱里は先程までトレーニングをしており、シャワーを浴びて戻って来たところだった。


「なんであんたが居んのよ。訓練終わったなら帰れ」


 キッと珠緒が睨みつけながら言えば、朱里はふんっと鼻を鳴らしながらアリスの隣に座る。


「それはアタシが決める事。アリス、お茶とお菓子」


「自分でやれよ」


「ん」


 サイドテーブルを出し、お茶とお菓子を用意するアリス。


「アリスも出さなくて良いから!」


「うるさいぞー。上映中はお静かにねー」


 ぷふふと笑いながら朱里が言えば、珠緒は額に青筋を浮かべて睨みつける。


「イェーガーも食べると良い」


 きっと自分だけお菓子を貰えなくて怒ったのだろうと思い、アリスはイェーガーの方にもお茶とお菓子を用意する。


 そういう理由で怒った訳では無いのだけれど、折角アリスから貰ったものだ。ここはアリスに免じて矛を収めてやろうと思い、アリスが用意したお菓子を食べる。


「……アリス、私も……」


 寝転がる詩が言えば、アリスは詩の前にお菓子とお茶を用意する。


「あ、アリス。わ、わたしも、欲しいなぁ」


 肩からサンベリーナが主張をすれば、アリスはサンベリーナの身体を魔法で浮かして朱里の方のサイドテーブルに乗せる。


「一緒に食べて」


「あうぅ……わ、わたしも自分のが欲しかったのにぃ……」


 しょんぼりしながらも、サンベリーナはお菓子を齧る。


「で、これ何見てんの?」


 朱里が訊ねれば、寝転がってお菓子を食べる詩が答える。


「……魔法生物の専門家が、悪の魔法使いと戦う話……」


「ふーん」


 頷き、それ以降は口を閉じる朱里。


 思ったよりも大人数で二つ目の映画を見始める事になり、珠緒は不満げな表情を浮かべる。次は二人だけ(・・・・)で映画館に映画を見に行けば邪魔も入らないだろうと考えた珠緒だった。


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