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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第3章 眠れる■星の■

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異譚3 映画

 対策軍の童話組のカフェテリアの二階。そこで、アリスと珠緒はソファに並んで座って映画を見ていた。


アリスは無表情でスクリーンを眺め、珠緒は少し落ち着かない様子でスクリーンを眺めている。


何故二人がカフェテリアで映画を見ているかというと、事情は先日のお茶会に遡る。


 先日のお茶会にて、バニーガール衣装の珠緒がアリスに訊ねた。


「アリス。真面目な話していい?」


「なに?」


「どうしたら強くなれる?」


 その言葉を聞いた全員が、思わずお喋りの口を止める。


 珠緒はプライドが異常に高い。誰かに助けを請う事も無ければ、誰かに教えを請うという事もしない。それは、彼女の過去に由来している。今まで一人で生きて来て、誰かの手を借りてこなかった。いや、誰も手を貸してくれなかった。


 だからこそ、珠緒は他の誰にも期待しない。誰にも頼らない。


 とはいえ、その傾向も童話組に対しては緩和されつつある。命令や指示といった形だけれども、頼る、頼むという事を憶えた。けれど、それ以上の事を誰かに望むという事は無かった。


 そんな珠緒がアリスに教えを請うたのだ。驚いてお喋りの口を止めるのも無理は無いだろう。


 シーンっと一斉に静かになる面々を見て、珠緒が不機嫌そうに顔を顰める。


「なに? なんで静かになったの?」


「いや……珠緒ちゃんが素直に『教えて(ハート)』って言うとは思わなくて……」


 婦警さんの恰好をした笑良が驚いたように言う。わざわざハートを口で言うあたり、驚いているのか微妙なところではあるけれど。


「いやハートなんて付けて無いから」


「でも、意外ね。貴女が誰かに教えを請うなんて」


 幼稚園児が着るようなスモックを来た白奈が言えば、珠緒はふっとつまらなそうに鼻を鳴らす。


英雄(アリス)になら、教えてもらう価値は在るでしょ」


「あの訓練を忘れたか」


「いびりの日々を忘れたか」


「いびってない」


 チャイナドレスに身を包んだ唯と一が神妙な顔をして言えば、アリスが心外そうに返す。


「忘れて無いわよ」


 珠緒はアリスによる地獄の反復訓練を思い出す。


 休憩殆ど無し。コツを教えて貰える訳でも無い。ただ淡々と反復練習を行わされ、不意に難易度を上げられる理不尽極まる訓練。


 忘れろという方が難しいくらいには、キツイ内容だった。


「まぁでも、クソみたいな内容の訓練でも、実際それなりに強くなれた訳だからね。それに、せっかくなら一番強い奴に教えてもらう方が良いでしょ」


「クソじゃ無いけど……」


 あんまりな言い方をする珠緒に、アリスは不服そうな顔をする。


「んな事ぁどーでも良いのよ」


「どうでも良くないけど……」


「で、どーやったら強くなれんの? 手っ取り早く、なんて事は言わないわ。あんたがいつもしてる事でも良い。教えて」


 真剣な珠緒の表情。ずずいっとテーブルに乗り出す珠緒。真面目な話をしているのに、ぴょこぴょことうさ耳が揺れるのがちょっと面白い。


 ともあれ、珠緒が強くなりたいと思っているのは事実であり、それは良い傾向でもある。


「特別な事はしてない。ただ……」


「ただ?」


「イェーガーは、魔法に遊び(・・)が無いように思える」


「遊び?」


 聞き返せば、アリスはこくりと頷く。


「魔法はもっと自由に出来る。理屈に縛られないのが魔法だから」


「……なるほど……」


 確かに、珠緒の魔法はかなり現実的な魔法だ。


 弾こそ魔力が尽きるまで延々撃ち続けられ、アンティーク調な銃で在り得ない程の連射が可能だ。


 けれど、それはあまりにも現実に則した魔法だ。現実の延長線上でしかない。


 魔法はもっと自由で良い。


「例えば、ヘンゼルとグレーテルなら、大好きなお菓子を魔法に使ってる。現実のお菓子は硬く無いし、爆発しないし、くるくる回転して敵を斬り刻まない」


「そういうB級映画ありそうだけどね」


「……デススナック……」


 バニーガールの朱里が茶々を入れ、アリスの膝枕を堪能している看護服を着た詩がB級映画にありそうなタイトルを言う。


 そんな二人の茶々を聞き流し、アリスは話を続ける。


「つまり、貴女は想像力を鍛えるべき。魔法をもっと自由に扱えるように」


「なるほど……」


「なるほどです……」


「なるほどッス……」


 頷く珠緒。そして、猫の着ぐるみパジャマを着た餡子と、メイド服を着た瑠奈莉愛も頷く。


「具体的に、どうすれば良いの?」


「本を読むべき。図鑑でも、漫画でも、なんでも」


「本かぁ……」


 本と聞いて、珠緒は嫌そうな顔をする。


 珠緒は中学に通っているけれど、学校に通う事が出来るようになったのは一年程前だ。それ以前は文字の読み書きも出来ず、計算すら出来なかった。


 文字に触れる機会があまりなく、文字に対する苦手意識が強くなってしまっている。今だって、他の人が知っているような漢字でも読めない事がある。中学の勉強にもまったくついていけておらず、授業中は殆どぼーっとしている事が多い。


 携帯端末の操作はアリスの写真を撮るために何とか憶えたけれど、それ以外の事は必要最低限の事しか憶えていない。


「あ、じゃ、じゃあ、映画とか、良いと思うな!」


 凶悪犯を拘束するような服に身を包んだみのりがアリスにしなだれかかりながら言う。


 両手を拘束されて仕方が無くアリスにしなだれかかっているように見せているけれど、実際はそんな事しなくてもバランスを保つ事が出来る。


 因みに、どさくさに紛れてアリスに抱き着こうとした結果、拘束具を付けられた。それでもめげないしょげない諦めないがみのりである。


「あ、アリス。わ、わたしと、映画デートしよ? ね?」


「いやみのりがしてどーすんのよ。でも、映画ね……」


「映画は良い案。文字から想像するのも良いけど、それが苦手なら映像から想像力を働かせるのも良い」


 しなだれかかるみのりを詩が引き剥がし、遠くの方まで転がす。


 そして、アリスのところへと戻って来て膝枕の体勢に戻る。


「それなら、二階がシアタールームになる」


「そうなの?」


「うん」


 珍しくアリス以外の全員が出払っている時に、アリスは一人で映画を見ていた。


 それ以降は常にアリス以外の誰かがいて使用するのがはばかられたので使用していなかった。


「……アリス的に、おすすめの映画とかあるの?」


 珠緒が訊けば、アリスは考えるように小首を傾げる。


「分からない。映画はあまり見ないから」


「そう」


「……それなら、おすすめが、在る……」


 遠くの方から戻って来たみのりが、器用に脚で詩を挟んでアリスから引き剥がそうとするのを、詩はアリスの細い腰に腕を回して強く抱きしめる。絶対に退かないという強い意志が感じられる程の力強さである。


「……幾つか、用意、しとく……」


「……ありがと」


「……うい……」


 まさか詩が用意してくれるとは思っていなかった珠緒が、驚きながらもお礼を言う。


「ど、退いて! もう酔って無いでしょ!」


「……酔ってる。もう、べろべろ……」


「つ、次はわたしの番だよ! 退いてってば!」


「……私の貸し切り……」


 どったばったと攻防を繰り広げるみのりと詩。


 自分を巻き込んでの攻防をアリスは気にした様子も無く、珠緒を見る。


「まずは、想像力を鍛える。その後に、想像力の方向に在った訓練をする」


「分かった。やってみる」


「じゃあ、準備しておく」


「え? なんの?」


「映画の」


 と、いう事で、二人は今カフェテリアの二階で映画を見ている。


 てっきり一人で見るものだと思っていた珠緒は驚きながらも、またとない機会(チャンス)を逃すまいと一緒に映画を見始めたのだ。


 アリスはポップコーンをもぐもぐと食べながら、スクリーンをじっと見ている。


 その膝の上で人間のように座り、アリスのお腹を背もたれ代わりにしているチェシャ猫が、アリスからポップコーンを貰って食べている。


 アリスとペット(・・・)と一緒にくつろぎながら映画を見る。


 良いかもしれない。何が、とは言わないが。


 思わぬご褒美に少しだけ口角を上げながらも、珠緒はスクリーンに集中する。


 そんな二人の背後で、羨ましそうに眺めるみのりに、しかし二人は気付く事は無かった。


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