お茶会 3
寝転がる詩に膝を貸しながら、タオルケットを生成してかけてやる。
「キヒヒ。取られちゃった……」
アリスの膝の上を取られてしまったチェシャ猫は、仕方なしに詩のお腹の上に座る。
詩がしてもらっているのは俗に言う膝枕というやつだ。それを、とても羨ましそうに見るみのり。
「んで、どうすんの? やるの? 王様ゲーム」
「や、やる! 絶対やるもん!!」
朱里が水を向ければ、みのりはムキになったように食いつく。
そして、テーブルの上にどかんっと勢いよく箱を置く。
十一本から十本に数が減っているので、詩は脱落という扱いになったのだろう。
「やり方分からない」
アリスがぽつりと言えば、笑良がにっこりと笑って答える。
「この中に王様って書かれた棒が一本あって、それ以外には数字が振ってあるの。それで、王様になった人が数字を言って命令をするの」
「……それの何が楽しいの?」
純粋に不思議そうな顔をしているアリスに対し、笑良が苦笑をする。
「詩ちゃんが言ったみたいに、ちょっとエッチな事を命令したりするからね。本当は男女でやって楽しむようなものなんだろうけどね」
「……私は遠慮する。エッチな事はしたくない」
「し、しないよ! ちょっと面白おかしい事をお願いするだけだよ!」
「そう……なら、やっても良い」
アリスが了承すればみのりはよしっとガッツポーズをする。
「じゃ、じゃあやろっか! 皆、棒を引いて!」
さっと、みのりがいの一番に棒を引く。
みのりの後に続くように棒を引く。アリスは膝の上に詩の頭があって動けないので、魔法で棒を引く。独りでに棒が動く光景は中々にシュールである。
「そ、それじゃあ行くよ! 王様だ~れだ?」
みのりがそう言った後、全員が番号を確認する。
「あ、わ、わたしだった~! えへへ」
どうやら王様はみのりだったらしく、王様と書かれた棒を皆に見せる。
「じゃ、じゃあ、どうしようかっなぁ」
にんまり笑顔で全員に視線を送るみのり。
「き、決めた! さ、三番が王様とチュウ!」
「馬鹿言ってんじゃ無いわよ発情女」
「キスはアウトね」
珠緒が罵倒し、白奈がジャッジする。
「だ、大丈夫! フレンチなやつじゃないから! バードキスだから!」
「破廉恥が言っても説得力無いっての。て言うか、バードも口じゃねぇか」
「別の命令でお願いね、みのり」
「む、むぅ……仕方ないなぁ。じゃ、じゃあ、三番が王様にハグ! どう?」
ジャッジを白奈に求めるみのり。
「まぁ、それくらいなら」
「よしっ!! じゃあ三番はハグ!! ハグハグハグ!!」
興奮したようにハグを連呼するみのり。
「で、三番誰?」
朱里が訊ねれば、おずおずと一人が手を上げた。
「私……」
嫌そうな顔で自らの番号を見せたのはアリスだった。
「ぷっ、ご愁傷様~」
珍しく表情に出ているアリスを見て、おかしそうに笑う朱里。
「あ、アリス! ハグ! ハグミー!」
四つん這いになってアリスに近付き、アリスの目の前で両手を広げる。
「アリスー、王様の言う事は絶対だぞー」
面白がって言う朱里に、アリスは面白くなさそうな顔をする。
しかし、参加すると言った以上、ここで拒むのも違うだろう。
ただ、元の姿が男である以上、必要以上の接触をしたくはない。アリスとは違い、彼女達は正真正銘の少女達だ。そんな破廉恥な事はしたくはない。
だが、やると決めた以上はルールに従わなければいけないだろう。
目をハートにしてアリスの前で両腕を広げるみのり。
アリスは渋々と言った様子で両腕を広げる。
「う、うううううウェルカムって事だよね良いんだよねじゃあ行くねアリスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
がばっと勢いよくアリスに抱き着くみのり。
「変態」
「狂気」
唯と一がみのりを見て感想をぽつりと呟く。
「羨ましいッス……。自分もハグしたいッス……」
羨ましそうに見つめる瑠奈莉愛。
「はっ、あんなんの何が良いんだか」
呆れたように言いながらも、内心では心底羨ましいと思っている珠緒は、表情に出ないように陰で膝を抓っている。
そして、アリスの首元に顔を埋める。
「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! はぁぁぁっ!! すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! はぁぁぁっ!!」
大仰に深呼吸をする。吸う方を長く、吐く方を短くして、アリスの匂いをこれでもかと自身の肺に取り入れる。
「おいその変態深呼吸してんぞ!! ハグまでだろうが!!」
深呼吸を始めたみのりを見て、流石に我慢ならなくなったのか珠緒が声を荒げる。
「うわきっしょ……」
流石に引いたのか、朱里が嫌そうな顔を浮かべる。
そんな面々に反応を気にした様子も無く、みのりはアリスの匂いを堪能する。
「か、柑橘系の香り!! 甘すぎず、強すぎず、仄かに香るお日様のような香り!! あぁっ、あ、こ、これ、香水にして売ろう!! 絶対売れる!! ダースで買うから!!」
ぎゅうっときつく抱きしめながらアリスの匂いをこれでもかと堪能するみのり。
対照的に、アリスはぞわぞわと鳥肌が立っており、開いた両腕はぴくぴくと揺れていた。
「はい終わり。離れてくださーい」
白奈がみのりを無理矢理引き剥がす。
「あ、ああ!! もっと!! もっと――――っ!!」
じたばたと暴れながら引き剥がされるみのり。
あまりに必死過ぎるみのりに、全員が引いたような顔をしている。
「アンタ、ヤバい成分でも分泌してんの?」
「し、してない……」
罰ゲームが終わったアリスはぞわぞわとした気分を隠せないのか、見た事も無いような微妙な表情をしていた。
みのりを座らせた後、白奈がぱんっと手を鳴らす。
「それじゃあ、次を始めましょう。皆、棒を箱に戻して」
「いや、ちょっと待った」
棒を箱に戻そうとした全員を珠緒が止める。
「どうしたんですか?」
餡子が問えば、珠緒は棒の持ち手の端っこを指差す。
「全員の持ってる棒に違う傷が在る。これ、どーみても人為的な切れ込みに見えるんだけど……どう思う、みのり?」
「ぴぅっ?!」
珠緒に指摘され、びくっと身を震わせるみのり。
見やれば、確かに棒の端っこにそれぞれ違う傷が付いている。
しかし、よく見なければ分からない程の小さな傷だ。普通に遊んでいるだけでは気付かない程に小さな傷。
「良く気付いたわねぇ、珠緒ちゃん」
「こいつが最初に王様で、最初に選ばれたのがアリスだった時点で作為的だって思うでしょ。んで、どーなの?」
「あ、え? え、えへへ、どうかなぁ? へ、へへ……」
困ったように笑うみのりに、全員がじとっとした目を向ける。
特に被害者であるアリスの目は尋常ではないくらいに責め立てるような色をしている。
作為的。つまり、そこにゲーム性は無く、ただただみのりがアリスに抱き着きたかっただけという事になる。
ゲームであれば仕方が無いと考え、男という事を鑑みて躊躇したのにも関わらず、みのりはそもそも最初から抱き着く気満々だったという事になる。
つまり、セクハラをする気満々だったという事だ。
アリスは自身の身体を抱きしめるようにしてから、非難の眼差しでみのりを見た。
「変態……」
「あひっ!? へ、変態じゃないよ、アリス!! あ、で、でも、蔑むような目もまた……!!」
しかして、余計にみのりを喜ばせるだけの結果になってしまったようだ。
「どうしようも無いわね……」
興奮を隠しきれていないみのりを見て呆れたように言葉を漏らす白奈。
「ともあれ、棒は交換。アリス、棒作って」
「……分かった」
正直このまま続けたくはなかったけれど、まだ一回目である。みのりという脅威が残っている訳だけれど、一回で終わらせてしまうというのも興醒めだろう。
アリスは言われた通りに数字と王様と書かれた棒を生成した。




