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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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お茶会 2

 対策軍、童話組のカフェテリアにて童話組の全員が集まっていた。


「じゃ、じゃあ! お茶会を始めるよ!」


 うきうきと楽しそうにお茶会の開始を宣言するみのり。


 今回のお茶会の主催者はみのりである。


 アリスと白奈が泣いていたあの日の夜、翌日にお茶会を開こうと思っていたけれど、流石に翌日に開ける程白奈や餡子の精神状態は安定していなかったため、数日空いてからお茶会を開く事にしたのだ。


 カーペットを敷いてその上にローテーブルを並べる。


「アリス、脚痛い」


「分かった」


 朱里が文句を言えば、アリスがクッションを全員の座っている足元に押し込むようにして生み出す。因みに、カーペットもローテーブルもアリスが生成したものだ。これなら片付けも楽ちんである。


「そ、それじゃあ、皆カップを持って!」


「いやお茶会って乾杯とかしないから。それじゃ宴会だから」


「そ、そう? じゃあ、ふ、普通に始めよっか」


 言って、みのりは紅茶を飲む。


 白奈もカップを持って紅茶を飲む。


「美味しい」


「で、でしょ? お茶淹れるの、ちょっと勉強してみたんだ」


 きゃっきゃとお喋りを始める二人を見て、他の者もそれぞれお菓子やらお茶やらに手を付ける。


 アリスはクッキーをつまみながら、白奈と餡子の様子を窺う。


 二人共、まだ完全に復帰できた訳では無いのだろう。表情には影が在り、心の底からこのお茶会を楽しめているという訳では無さそうだった。


 ログを見た限り、美奈と餡子は良い友人になれそうな雰囲気が在った。二人共、互いに心を開き始めていたようにも思える。


 いや、きっと二人は友人だったのだろう。友人が亡くなれば、辛いのは当然だ。


 だからといって、かける言葉が在る訳では無い。アリスだって負い目を感じているのだから。


「キヒヒ。暗い顔をしているね、アリス」


 膝の上で丸くなっていたチェシャ猫がじっとアリスを見上げる。


「してない。クッキー美味しい」


 誤魔化すように、クッキーの感想を言うアリス。


「ていうか、珍しいわね」


 おもむろに朱里がアリスに言う。


「何が?」


「アンタがお茶会(こういうの)に参加してる事よ。前だったら断ってたでしょ」


 言外に何かあったのかと訊ねる朱里。


 朱里は美奈の事も、白奈の事も知らない。


 知らないからこそ、こうも平気で爆弾を投下するような発言をするのだけれど、それに気付いているのは思い当たる節のある当人達だけである。


 白奈と餡子が意識をアリスに向ける。


 餡子は白奈から事情を聞いている。美奈が白奈の妹である事も、白奈の母親がアリスに魔法少女としての戦い方などを教えた人だという事を。


 二人の間に緊張が走る中、アリスは淡々と口を開く。


「別に」


「ふぅ~ん……」


 特に弁明をする事も無く、ただ一言で片付けるアリス。


 朱里は全く納得している様子は無いけれど、これ以上食い下がるような事はしなかった。


 ただ、アリスが何かを隠しているという事は理解した。


 微妙な空気が流れ始めようとしたその時、みのりが声を上げる。


「ね、ね! お茶会と言ったら、これだって、わたし思うんだ!」


 言って、みのりは十一本の棒が入った箱を取り出した。


「なにそれ?」


 笑良が小首を傾げて問えば、みのりは満面の笑みで答えた。


「王様ゲーム!」


 その回答を聞いた全員――瑠奈莉愛と餡子を除く――は思った。ああ、こいつアホなんだな、と。


「お茶会でそんな下品なことするかよ……」


 珠緒の言葉に、唯と一が頷く。


「え、で、でも……やりたいでしょ? 王様ゲーム……」


 言って、みのりはアリスを見る。さしずめ、王様になってアリスにナニカお願いしたいのだろう。それが分かっているからこそ、全員が呆れたような顔をする。


 そんな中、アリスがぽつりと言う。


「私、王様ゲームやった事無い」


「……大丈夫……」


「何が?」


「……王様ゲーム、陽キャのやるクソゲー……」


「そうなの?」


 純粋にアリスが問えば、詩はこくりと頷く。


「……命令次第で、合法的にエロれる……陽キャのゲーム……つまり、朱里がやるようなゲーム……」


「アンタ、アタシの事馬鹿にしてんでしょ?」


 詩の言葉に額に青筋を浮かべる朱里。


「……それは被害妄想……ともあれ、アリスがやる必要無い……」


「そう」


 詩の言葉に納得するアリス。


 エロい事などしたくないアリスは、少しだけ軽蔑したような目をみのりに向ける。


「ち、違うよ! え、えっちなことなんて命令しないよ! ちょっと、軽く、ソフトな、さきっちょだけのゲームをしてもらうだけだよ!」


「どんどんエロいワード出すじゃん」


 みのりの言葉に珠緒がツッコミを入れる。


 自己弁護をするみのりを無視して詩は続ける。


「……陰キャは陰キャのゲーム、する……」


「アリス、アンタ陰キャだって馬鹿にされてるわよ」


「否定が出来ない」


 アリスは自分の事を別段明るいと思っていない。どちらかと言えば、詩のように教室のすみっこで静かに過ごしているような人間だ。つまり、詩とは同類と言っても過言ではない。


「じゃ、じゃあ、その陰キャのゲームってなに? お、王様ゲームより、楽しい事なのかな? わ、わたしは、王様ゲームの方が良いなぁ。ね、アリス!」


「……アリスに王様ゲームは酷……陰キャには毒……」


「ねぇ、王様ゲームって毒性あるの?」


 詩の言葉を聞いて、笑良が珠緒に訊ねる。


「合法的にエロい事出来るから中毒性はあんじゃね?」


「ああ、そういう……」


 どうでも良さそうに答える珠緒に、しかし笑良は妙に納得してしまっている。


「いやそれ陰キャ関係無いじゃない。それよりも、陰キャのゲームってなにかしら? あんまり酷いとみのりと一緒に檻に閉じ込めなくちゃいけなくなるけど……」


「な、なんで檻に入れようとするの?! わ、わたしは健全な王様ゲームしたいだけだよ!」


 喚くみのりを無視して、詩は心得たとばかりに一つ頷く。


 全員の視線が詩に集まる中、詩はゆっくりと口を開く。


「……ポッ〇ーゲーム……」


「お前の方がどエロじゃねぇかクソ陰キャ」


 ドストレートに詩を罵倒する珠緒。


「はいはい! ポ〇キーゲームって何ッスか?!」


 瑠奈莉愛が手を上げて質問をする。


 今までお菓子を食べるのに夢中になっていてあまり会話を聞いてなかったけれど、〇ッキーゲームというお菓子に関するワードが出て来たので反応をしたのだ。


 興味津々な瑠奈莉愛に、詩が鷹揚に頷く。


「……実践する……」


「せんで良い」


「……論より証拠……」


「証拠ならアンタの大好きなネットに山ほど転がってんでしょ」


「……実物に勝るものは無い……」


 言いながら、詩はスティック状のクラッカーのお菓子を一本つまみ、隣に座るアリスの方へ向ける。


「……まさかの私」


 まさか自分がターゲットにされるとは思っていなかったアリス。


「……やるなら、一番スペシャルなチュウが欲しい……」


「最初からキスする気満々じゃねーか! 出来レースだろそんなの!」


「だ、だだだだだダメだよ!! 絶対ダメ!! アリスのファーストキスはわたしが貰う予定なんだから!!」


「え、キス? チュウ? ポッキ〇ゲームってどんなゲームなんッスか?!」


「止めなさい詩。強火な人達が更に強火になるわ」


「わ、わわわ! 良いんでしょうか? 見ちゃって良いんでしょうか?!」


 わちゃわちゃと大慌てになる面々。


 そんな中、詩はアリスの口にお菓子を押し込み、アリスの頬をがしっと掴む。


「……熱いの行くぜ……」


「行くぜじゃねーんだわ!! おい誰かそのクソ女止めろ!!」


「アリス、わ、わたしと実践しよう? ね? ね?」


「あははは! 良いじゃない! やれやれー!」


 焦って止めようとする珠緒と欲望に忠実なみのり。そして、ゲラゲラと楽しそうに笑う朱里。


 笑良は静観する事に決めたのか、笑みを浮かべながら紅茶を飲み、瑠奈莉愛と餡子は顔を手で隠しながらも指の隙間からがっつりと見ており、唯と一はお菓子を食べながらじーっと様子を見ている。


 白奈は何か思い至ったのか、何やら納得の表情を見せていた。


 そして、詩の顔が近付いてきたアリスもようやっとその事実に気付いた。


「酔ってる?」


 微かに香って来るアルコールの匂い。


 そして、長い前髪で分かり辛いけれど、詩の顔色が少し赤くなっていた。


「……よっへらい……」


 呂律の回っていない詩の言葉を聞いて、騒いでいた全員がぴたりと止まる。


 そして、テーブルに置いてある一つのお菓子を見やる。


 お菓子のパッケージを見やれば、そこには大きな文字で『ウィスキーボンボン』と書かれていた。


「酔っ払いね……」


「たち悪……」


 笑良と珠緒が言った直後、ふらっと詩がアリスの膝の上に倒れ込んだ。


「……一人脱落ッスね?」


「そういうゲームじゃ無いから」


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