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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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異譚52 終息、その後――

 空を高速で泳いで逃げる異譚支配者。


 異譚を解除するにも時間を要する。安全に異譚を解除できるところまで行かなければいけない。


 異次元に行けない以上、現状では人がいないところ最も安全な場所という事になる。


 だからこそ、既に住民の避難が済んでいる地帯へと向かっているのだ。


 誰かが追って来る気配はない。


 新しく異譚に二人程入って来たけれど、片方は先程まで戦っていた地点へ向かった。もう片方も此処から正反対の場所に居る。


 異譚支配者が安全な場所にたどり着いて異譚を解除する方が早いだろう。


 そう思っていた。


 一瞬の油断。その直後、高速で何かが飛来して異譚と現世を阻む境界を同時に十ヵ所も破壊する。


 突然の出来事に思わず意識をそちらに割かれる。


 剣は全て一ヵ所から飛来した。つまり、一人の魔法少女が同時に十ヵ所に穴を開けるほどの攻撃をした事になる。


 まずい。異譚の境界を破壊できるのは異譚支配者並みの力を持つ者だけだ。今までは外に居るから大して警戒はしていなかったけれど、それが中に入って来たとなれば話は別だ。


 それも、外から穴を開けていた者とは別の存在。つまり、現状この異譚には異譚支配者並みの存在が二人も居るという事になる。


異譚支配者並みの二人の魔法少女。そして、異譚支配者の真実(・・)を知る謎の少女。


 異譚支配者にとって、この異譚に留まるメリットは既に無い。


 早急に脱出をしようと急ぐも、それはあまりにも遅すぎた。


 それ(・・)は、殆ど対角線上にいたはずだ。距離も、異譚の端に近かった。


 それが、爆速で接近する。


 炎を散らし、空を焦がしながら、それは迫る。


「チッ、残りカスじゃない……こんなん倒したって何の功績にもならないっつうの!!」


 目標を視認した途端に悪態を吐くロデスコ。


 しかし、油断はしない。最後の最後まで本気で戦う。それが異譚の鉄則だからだ。


 だから、本気の一撃をお見舞いする。


「燃えろ、『赤い靴(ロデスコ)』!!」


 赤い靴が灼熱を纏う。


 陽炎のように周囲の空気を歪ませる。


 目が痛くなるほどの鮮やかな炎が異譚支配者を照らす。


 その姿はまるで炎の化身。意思を持った炎。


 炎は上空から急降下する。その姿はまるで彗星のようで、兵器(悪しき文明)の煌めきのようで。


 逃げる余裕は無かった。異譚を解除する暇も無かった。


 急降下した炎は強い光を放ちながら一瞬にして異譚支配者を(つんざ)いた。


 劈かれた異譚支配者はマンガのように爆発四散し、火炎に焼かれてチリ一つ残さずに燃え尽きた。


 爆風と熱波は異譚の端まで届くも、ただ優しく頬を撫ぜる程の余波だった。


 本当であれば避難が完了してから攻撃を開始する予定だったけれど、良くない予感がしたので異譚支配者の撃破を優先させた。


 もちろん、住民に被害が出ないように威力は調整した。もっとも、手加減してでも勝てる程に疲弊していたため、住民に被害が出る程の火力を出す必要も無かったけれど。


「はい、終了」


 爆音を奏でながら地面に降り立ち、乱れた髪をさらっとかき上げて整える。


 たった一撃で異譚支配者を仕留めたロデスコ。


 けれど、彼女に達成感など一つもありはしない。


 全員が疲弊させた異譚支配者の止めを貰っただけに過ぎない。こんなの、倒せて当たり前だ。功績としてカウントするのも恥ずかしいほどだ。


「……ったく、なに手間取ってんのよ」


 不機嫌そうにロデスコがこぼす。


 本来なら、避難が済み次第ロデスコが投入される予定だった。


 けれど戦況は悪化の一途をたどり、最後の最後まで泥沼の戦いを強いられるはめになった。


 ロデスコから見た戦力比は六対四。魔法少女の方が六、異譚支配者の方が四で考えていた。明らかにこちらの方が優勢だったにも関わらず、結果は惨敗と言っていい程だ。


 中の様子をロデスコは断片的にしか確認できていなかったけれど、銀の弾列(ナンバーズ・シルバー)灰被りの城(シンダー・パレス)を出し渋った事が原因だろう。


 その二つとヘンゼルとグレーテルの火力があれば、灰被りの城(シンダー・パレス)の中で十分に封殺出来たはずだ。


 いや、それだけでは無いだろう。謎の黒い少女が異譚支配者に大怪我を負わせた事で、魔法少女側の思考に少しだけ余裕が出てしまった。それが油断に繋がり、結局大技を出し渋る結果になった。


 銀の弾列(ナンバーズ・シルバー)は六発まで撃てるのだから相手が警戒していない一発目を確実に当てておけば良かったのだ。次弾を警戒させて相手の動きを鈍らせつつ、持ち前の移動速度と遠距離からの攻撃で異譚支配者を引き付けて時間を稼ぐ事だって出来た。


 倒す事だけに固執した結果がこれだ。


「って、手間取ったのはアタシもか……」


 ふんっと鼻息荒く肩を落とす。


「帰ったら反省会ね」


 そうぼやき、ロデスコはアリス達の方へと向かった。


 白黒の異譚が終わり、世界に色が戻る。


 こうして、異譚は呆気無く終わりを迎えた。



 〇 〇 〇



 異譚が終われば、異譚によって発生した犠牲者の葬儀が行われる。


 異譚支配者によって魂と肉体の接続を断ち切られた者達は、回復の見込みを願って自宅や病院で今もなお覚めない眠りについている。


 被害地域では翌日から復興作業に入っている。


「毎度思うけど、硝子会社は大儲けね。殆ど毎回硝子割れてるし」


 制服に身を包み、アリスの隣を歩く朱里。


 アリスもいつもの空色のエプロンドレスではなく、喪服に身を包んでいる。


「アンタのそういう恰好、なんか新鮮ね。いや、新鮮だと思っちゃいけないんだろうけどさ」


「初めて着たから」


「ま、学生は基本制服よね。アンタが幾つとか知らないけど」


 制服は春花の時に着ているものしか持っていない。男子用という事もあるけれど、アリスの場合はあらゆる身バレのリスクは除外しなければいけない。必然、こうして喪服を着る事になる。


 本当であれば春花として出向きたかったけれど、春花と美奈に接点は無い。接点のあるアリスとして葬儀に参列する方が自然だ。


 だが、接点と言えば朱里にも言える事だ。朱里は美奈とは接点が無い。こうしてアリスと一緒に来る理由が無いのだ。


「ロデスコは、どうして?」


 アリスが問えば、朱里は真面目な声音で返す。


「後輩を護ってくれたとあっちゃね……来ない訳にもいかないでしょ」


「そう……」


 アリスもログは確認した。最後、シュティーフェルを庇って美奈が殺されたという事も知っている。


 アリスも朱里も間に合わなかった。もう少し早ければと、意味の無い後悔だと分かっていてもそう思わずにはいられないのだ。


 会場にたどり着けば既に御通夜は始まっているらしく、お焼香の列が出来ていた。


 彼女の同級生だろう。セーラー服の少女達が泣きながらお焼香をしたり、ロビーの椅子で自身が落ち着くまで涙を流していた。


 自分の子供と同年代の子供が亡くなった事がショックだったのか、保護者と思われる者達も涙を流していた。


「慕われてたみたいね」


「うん……」


 アリスと朱里はお焼香の列に並ぶ。


 有名な魔法少女二人が並んでいる事で少し騒がしくなったけれど、それも直ぐに落ち着く。


 そうして、自分達の番になった時、親族の方達にお辞儀をしようと親族席の方を見た。


「……え」


 そこで、思わぬ人物を見た。


 向こうもアリスに気付いたのか、泣き腫らしたであろう赤い目でアリスを見て、悲し気に笑った。


「どうして……」


「ほら、行くわよ」


 混乱の中、アリスは朱里にせっつかれてお焼香をする。


「ちょっ、そっち火の方!」


「え、あ……ごめんなさい……」


 朱里に怒られながらアリスはお焼香を終わらせる。


 最後に親族にお辞儀をして、親族席の横を通って会場を出て行こうとしたその時、ふと腕を掴まれた。


「ごめんなさい。待ってて貰えると嬉しい」


 それだけ言って――白奈はアリスの腕を放した。


 理解が追いつかないまま、アリスは会場を後にした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 親族って・・・うそやん。辛いんですけど・・・
[良い点] やっぱ炎キャラって王道だな、なんて。 [一言] ある意味、この舐めプ異端支配者一匹でマシだったかもしれない。 この他にも下っ端かなんかいたら面倒くさい上に混乱で阿鼻叫喚の地獄絵図になってい…
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