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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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異譚48 刺突解放

 潜伏した。相手の隙を窺うために。一撃で殺せる瞬間を待つために。


 何度もシュティーフェルと美奈が死にそうになるのを見送った(・・・・)


 信じていたとか、そんななまっちょろい事は言わない。イェーガーは、二人を見殺しにしてでも異譚支配者を殺そうとしていた。


 それが、イェーガーに見えた最善策。例え少数を犠牲にしてでも、大勢を助ける――なんて殊勝な考え方はしていない。


 冷静に、冷徹に。いつだって勝つ(・・)事だけを考える。


「クソッ……!!」


 だからこそ苛立つ。


 撃った瞬間に分かった。


 外した。自身のとっておきを外してしまったのだ。


 イェーガーのとっておき。魔力を超高密度に圧縮して作り上げた弾丸。名を『銀の弾列(ナンバーズ・シルバー)』。


 銀の弾列(ナンバーズ・シルバー)には種類が在り、貫通、爆破、切断、打撃、等々。様々な属性に分けて使う事が出来る。言ってしまえば、アリスの致命の剣列(ヴォーパルソーズ)の銃弾バージョンという所だ。


 アリスの致命の剣列(ヴォーパルソーズ)と違うのは、日に六発までしか作れない事。加えて、生成にもかなりの時間を要する。


 イェーガーは変身した直後から銀の弾列(ナンバーズ・シルバー)の生成を始める。一番銃との相性が良い貫通の属性を持った弾丸を作り始め、戦況によって別の弾丸を作る。


 現状持っている弾丸は貫通の一発のみとなり、次弾はまだ生成されていない。


 だからこそ、外せなかった。外してはいけなかった。


「クッソ、がぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」


 声を荒げながら、イェーガーは銃を乱射する。


 怒りながらもその腕は正確無比であり、貫通の弾丸が抉ったところを狙い違わずに撃ち抜いている。


 疲労も在った。痛みも在った。最上のコンディションでは無かった。


 だが、一番の理由は直前で異譚支配者に感付かれた事だ。


 発砲する直前、異譚支配者は身体を逸らして急所を避けた。


 きぃんっと空気が揺れる。


 異譚支配者が異次元に逃げる前兆か、それとも空間爆発の前兆か。


「逃、がすかぁぁぁぁあああああああああッ!!」


「如月さん!!」


「ええ!!」


 シュティーフェルの意図を理解し、美奈は即座に矢を放って異譚支配者の行動を阻止しようとする。


 イェーガーの銃弾と美奈の矢が直撃(・・)してなお、異譚支配者は止まらない。


 空間を歪ませ、最後に甲高い音を立て――


「――ッ!! クソぉッ!!」


 ――異譚支配者は姿をくらませた。


 イェーガーの怒号だけが虚しく空気を揺らした。





 異次元を泳ぎ、戦場から逃走する異譚支配者。


 貫通の弾丸は急所を外れたとはいえ直撃しているためにダメージは大きい。それに、他のところでダメージを負い過ぎた。これ以上の継戦は不可能だろう。


 いったん異譚を解いて(・・・・・・)、回復を待つ方が賢明だ。それまでに何日かかるか分からないけれど、ここで死んでしまったら元も子もない。


 苛立つ事ばかりでまともに狩りが出来なかったけれど、次回への教訓にすれば良い。


 また次が在る。


 異譚を解き、次の狩りに備え――


「キヒヒ。やっぱり、もう爆発は使えないみたいだね」


 ――ようとしたその時、異次元に何者かの声が響いた。


 驚愕のままに声の方を見やれば、そこには二度も自身を斬り付けた黒い少女が立っていた。


「空を飛んでるから、なんでかなって思ったけど……空間爆発はあれ一回きりなんだろう? あれ一回きりで、今みたいに逃げるための機能しか残らなくなってしまうんだ。つまり、君にとってあれは切り札だったんだね。キヒヒ」


 見透かしたようにぺらぺらと種明かしをする黒い少女。


 在り得ない。ここは異次元だ。『猟犬』でも無ければ『ヴェールを破る者』でも無い。ただの少女が異次元に存在できるはずが無い。


「君、結構限界だっただろ? 空間の振動も弱かったからイェーガーと美奈の攻撃が直撃しちゃってたし、動きだって大雑把だった。それに、注意力も散漫。転生前(・・・)はさぞ集中力の無い子だったんだろうね。キヒヒ」


 転生。その言葉を聞いて、異譚支配者の中での驚愕度合いが跳ね上がる。


 それは、誰も知らぬはずの事実。それこそ、アリスも、対策軍の上層部すらも知らない事実。異譚支配者だけ(・・・・・・・)が知る(・・・)真実。


 異譚支配者の驚愕など無視して、黒い少女は手に持った先端が異常に尖った刀を構える。


「まぁ、長々話すつもりは無いよ。僕は君に興味無いからね。キヒヒ」


 まずい。何がまずいのかはよく分からないけれど、この少女が尋常ならざる者だという事ははっきり分かっている。


 異譚支配者は即座に逃走を選ぶ。


「刺突解放」


 踏み込み、一突き。


 異次元を貫きながら伸びる刺突は、狙い違わず異譚支配者を串刺しにする。


「……キヒヒ。駄目だったか」


 が、寸でのところで回避されてしまった。


 イェーガーと同じく、致命傷は与えられなかった。


 異譚支配者は黒い少女を恐れてか、異次元から現実世界へと逃げて行った。正体不明の存在が居る異次元よりも、疲労困憊の魔法少女しかいない現実世界の方がまだましだと考えたのだろう。


 黒い少女に剣はもう無い。黒い少女に戦う術が既に無いという事を異譚支配者は知らない。


「……後は頼んだよ。キヒヒ」


 申し訳なさそうに笑った後、黒い少女は姿を消した。


 これ以上、少女に出来る事なんて何も無いのだから。





「――っ、これって!」


 異変にいち早く気付いたのは、まだ少し余力のあった美奈だった。


 異譚支配者が異次元に逃れて直ぐ、空間が揺れ、異譚支配者が姿を現わした。


 シュティーフェルは怒号を上げた後に限界が訪れたのか、力尽きたように倒れ込んだイェーガーの元へ行っており、異変が起こった時には異譚支配者に背を向けている状態だった。


 異譚支配者が姿を現わしたのに気付いたシュティーフェルは即座に振り返るも、直ぐそこに異譚支配者が迫っていた。


 異譚支配者にとって現実世界も安全とは言えない。魔法少女はまだ存在するし、あの黒い少女も現実世界に姿を現わす事が出来る。


 有り体に言えば、異譚支配者は焦っていた。錯乱と言っても過言ではないだろう。


 目の前に居る魔法少女など無視すれば良かったのに、異譚支配者はその鎌を振り上げた。


 無防備なシュティーフェルにそれを防ぐ術はない。


 油断したと直感し、二度目の死を覚った直後――


「――ぶッ!?」


 ――頬に衝撃。


 衝撃そのままに吹き飛ばされるシュティーフェルは無様に宙を舞う。


 宙を舞うその最中、自身を吹き飛ばした張本人である美奈と視線がぶつかった。


「……もう。二度目よ、お馬鹿……」


 獣の聴覚が小さくこぼした美奈の言葉を拾う。


「――ぁ……」


 その直後、美奈の身体を異譚支配者の鎌が容赦無く斬り裂く(・・・・)


 異譚支配者の持つ鎌の特性は、斬り裂いた相手の魂と身体の接続を永続的に(・・・・)切り離すというものだ。切り離す際に掠め取った相手の生命力を糧として自身の力にする。ゆえに、意識が無くなっても魂を感じられたのはそのためだ。


 けれど、鎌の特性を使うのにも魔力を消費する。


 異譚支配者の魔力は既に枯渇寸前まで消耗しており、最早一撃必殺である鎌の特性を発動する事は出来ない。


 つまり。ただの鎌の斬撃。


 斬撃が美奈の無防備な身体を襲う。


 その光景を、シュティーフェルはただ呆然と眺める事しか出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしてゆうt…いや、なんでもないです
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