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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣
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異譚27 姿無き邂逅

 出現した気配の大きさからそれが異譚支配者であるという事は直ぐに分かった。


 童話の役割はいつでもどこでも例外無く遊撃(・・)。三人は即座に異譚支配者の元へと駆ける。


 が、なにやら少しばかり様子がおかしい。


「なんか、移動速くない?」


「速いって言うか……跳んでる?」


「急に気配が出たり消えたりですね!」


 異譚支配者の気配はずっと感じている。けれど、急に弱くなったり、急に強くなったりと、気配の強弱があまりに極端なのだ。


「……多分違うね。弱まってるんじゃなくて、薄く(・・)なってる。ワタシ達が感知しづらくなってるんだと思うよ」


「薄く? なに、味噌ケチった味噌汁みたいな感じ?」


「その例えは良く分かんないかなー」


「あれよ、京都で飲んだ味噌汁が薄かったのよ。あれは味噌ケチってたわ」


「あれはそーいう味付けなの。使ってる味噌も違うし、地域によって味付けが違うのなんて当たり前だよー?」


「は? そうなの? 味噌汁なんて味噌ぶっこんどきゃ同じじゃ無いの?」


「ちっちっちっ。甘いなぁ、イェーガーちゃんは。味噌汁を作るにもいろいろ――」


「先輩方、脱線してまっす! 今は味噌汁より異譚です!」


 盛大に話が脱線した二人に軌道修正をかけるシュティーフェル。


「おっと。いけないいけない。……で、何の話だっけ?」


「核の気配が薄くなってるってところです!」


「ああ、そうそう。核の気配が薄いっていうのはね、なんかこう……急に遠くに行った感覚かな?」


「遠く? どれくらい?」


遥か遠く(・・・・)。それこそ、この異譚じゃ収まりきらないくらいに遠くだね」


 一瞬で希薄になったと思えば、次の瞬間には圧倒的な存在感を主張してくる。


「遠く、ね……。この移動速度とも関係あるの?」


「そこまでは分からないかなー」


「てことは、会ってみないと分かんないって訳ね。いつも通りじゃない」


余裕そうに言うけれど、イェーガーもこの異譚の異様さは警戒している。


異譚支配者のあまりにも速い移動速度と強弱の激しい気配。


 先程あった異譚侵度の引き上げの事も在り、妙に引っ掛かる。


 そんな中、イェーガーの耳に最悪(・・)の情報が飛び込んでくる。


「ぞ、増援ですって! お二人共!」


「そう、ね……」


「チッ、なんであいつなの……アリスとかスノーホワイトで良いじゃない」


 増援に喜ぶシュティーフェルに対して、二人の反応はあまり喜ばしい感じでは無かった。


 イェーガーはロデスコが増援という事が気に食わない様子であり、それはある種いつも通りの反応とも取れる。


 けれど、アシェンプテルが増援を喜んでいない事はシュティーフェルにとっては意外だった。


「あんまり、嬉しく無いですか……?」


「まぁ、魔法少女は出来高みたいなところあるしね。そうじゃなくてもあいつは嫌いだけど」


「アシェンプテルさんもですか?」


「ワタシは違うよ。増援は喜ばしいけど、逆に言えば増援が必要な程(・・・・・・・)の事態(・・・)って事だからねー。なめてかかるつもりは無いけど、ちょーっと気を張っちゃうよね」


「あ、確かに……」


 アシェンプテルの言葉を聞いて、事の重大さに気付いたシュティーフェル。


 そう。増援が必要な事態という事はつまり、現戦力では足りないと判断されたという事だ。


 戦力不足のまま戦わざるを得ないという現状だ。決して、手放しに喜べる状態ではない。


「でも異譚侵度Bでしょ? 雑魚よ雑魚」


「その雑魚にアリスちゃんが殺されかけたの忘れたの?」


「油断してただけでしょ。油断しなければあいつが雑魚に負ける訳ない」


「その油断が命取りだっていう話。なんであれ、気を引き締めてね」


「分かってるって。小うるさいなぁ……」


 心底面倒くさそうに溜息を吐くイェーガー。


 しかし、即座にその表情を引き締める。


「来る。構えて」


 移動していた気配が、急速に迫ってくる。


 強い気配が弱まり、急速に接近。そして、その気配が三人の元へと到達する。


「……?」


 が、姿が見えない。


 気配が近くに在るという事は分かる。何故か正確な位置は分からないけれど、近くにそれ(・・)が居る事は分かるのだ。


 だが、姿が見えない。


「……見える?」


「み、見えないです……」


「ワタシも……」


 アシェンプテルを挟むように、イェーガーとシュティーフェルが立ち、周囲を警戒する。


 近くに居るのに気配は希薄で、直ぐ近くに居るはずなのに随分と遠くに感じる。


 だが、肌を突き刺すような暗澹(あんたん)たる気配は確かにそこに在る。


 正体の分からぬ相手との睨み合いが続くが、急激に気配は遠のく。


「追う」


 気配を追うように走り出そうとしたイェーガーだけれど、直ぐにアシェンプテルに腕を掴まれて止められる。


「なに?」


「シュティーちゃんが腰抜かしちゃったみたい」


 アシェンプテルに言われてシュティーフェルを見やれば、ぺたりと座り込んでいるシュティーフェルの姿があった。


「……チッ」


 舌打ちしながらも、イェーガーは追跡を断念する。


「大丈夫?」


「大丈夫です……ごめんなさい……」


 しょぼんと肩を落とすシュティーフェル。


 けれど、最初の相手が異譚支配者であれば腰を抜かしてしまっても仕方が無いだろう。


 シュティーフェルが復調するまで待機しようとした矢先に、三人の小型無線機に緊急連絡が入る。


「救援要請。小学校か……」


「小学校っていうと、ワタシ達結構近いね。救援っていうことは、アレ(・・)と接触したって事かな? どうする?」


 言われ、イェーガーはシュティーフェルを見やる。


 本来であれば、シュティーフェルが復調した段階で異譚支配者を追う事だろう。


 だが、アシェンプテルの言う通り、救援が必要だという事は、異譚支配者と戦った可能性が高い。異譚支配者以外の気配が無いので、きっとこの異譚には異譚支配者しか存在しないのだろう。どういう訳だかは皆目見当も付かないけれど。


異譚支配者だけを倒せば良いのであれば話は簡単だが、今回は初出撃のシュティーフェルが居る。イェーガーは初見の攻撃に対応する自信があるけれど、シュティーフェルは違う。


本来ならば今回の異譚には経験を積むためにやって来た、経験の浅い魔法少女だ。初っ端から異譚支配者と戦わせるにはあまりにリスクが大きい。


 異譚支配者しか居ないとなると、他で経験も積めない。


 であれば、別のところで経験を積ませるべきだろう。


「……安全策で行く。まずは情報」


「りょうかい。じゃあ、シュティーちゃんはワタシがおんぶしてあげるね」


「も、申し訳無いです……」


「いーのいーの。気にしない気にしなーい」


 腰を抜かしたシュティーフェルを背負い、三人は救援要請のあった小学校へと向かった。


 シュティーフェルは連れて行けない。異譚支配者と戦うには、あまりにも経験不足だ。


 後方支援に回す方が確実にシュティーフェルのためになる。実戦経験は後で積ませればいい。


 だが、後方支援に置くとしても戦闘向きの能力をしているシュティーフェルではあまり役には立たないだろう。


 アシェンプテルを連れて行くにしても、そうなればシュティーフェルの面倒を見る者が居なくなる。


 必然的にイェーガーが単独で行動する事になる。


 人手が足りていればアシェンプテルを連れていけるけれど、救援要請である以上それは期待できないだろう。


 異譚侵度Dだと甘く見て、少数で来た結果がこれだ。


 増援があるにしても、到着までにはまだ暫く時間がかかるだろう。


 その間に情報を整えるか、あるいはイェーガー一人で仕留めるか。


 どちらにせよ、安全策で行くと決めた以上、いったん救援要請のあった小学校に向かうしかない。


 そこで状況を把握してから考えるべきだろう。


「チッ……遅いんだよ鈍間(ノロマ)……!」


 イェーガーは届かぬ悪態をつく。


「ぴぇぇ……ごめんなさぁい……」


 が、別の者(シュティーフェル)には届いてしまったらしく、誤解を解くのに少しだけ苦労したとか。


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