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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第2章 三本の剣

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異譚25 サンフラワー

 童話の三人が白黒(モノクロ)の世界に飛び込むその少し前。既に花の魔法少女は現着しており、当該地域の住民の避難を行っていた。


「慌てないでくださーい! 異譚の境界はすぐそこです! 慌てずにお願いしまーす!」


「列になってください! 大丈夫です! 我々魔法少女が皆さんをお助けしますから!」


 花の魔法少女達は異譚内部に取り残された一般市民の避難誘導を行っている。


 まだ戦闘経験の浅い魔法少女は、避難誘導に回される。その中には美奈の姿もあり、必死になって住民の避難誘導を行っている。


 誰一人見捨てない。皆助ける。自分は、アリスのようにはならない。


 その第一歩が今回の異譚だ。


 自分が、皆を護る。


「おい! 後がつっかえてんだ! 早く歩けよ!」


「仕方ないでしょう!? 子供も居るのよ!?」


「荷物なんて捨ててガキ抱えりゃ良いだろうがよ! とろくせぇんだよ!」


「焦らないでください! ペースを合わせて進んでください! 私達が必ずお守りしますから!」


 前の親子連れを急かす青年を美奈が諫める。


 異譚は時と場所を選ばない。異譚内部には子供も居れば老人も居る。大人の歩みに合わせては、子供や老人が付いていけないだろう。


 だが、誰も彼もが気が気でない様子なのは致し方無い事だろう。何せ、彼等は異譚から身を護る術を持ってはいないのだから。


 その気持ちは理解できる。何せ、力を持っていたとしても異譚は恐ろしく感じてしまうのだから。けれど、だからと言って勝手な行動を許すわけにはいかない。勝手に動かれては護り辛いし、何より混乱を招く事にもなる。


 狭い異譚とはいうけれど、それは異譚の規模を比較した時の話だ。範囲としては広大なもので、一般人であれば移動にある程度の時間を有する程に広い。


 加えて、異譚の中には異譚生命体が存在する。魔法少女は異譚生命体から彼等を護りながら移動をしなければいけない。異譚から一般人を出すだけでも一苦労なのだ。


「みなさーん、落ちついて、慌てず、怪我をしないように移動しましょー!」


 列の最前を歩く向日葵、通称魔法少女・サンフラワーは笑顔で後ろを歩く一般市民に声をかける。


「私の経験上、一番早く避難出来る秘訣は一致団結する事です。私達も全力を尽くしますが、そのためには皆様の協力が必要不可欠です。皆で、この窮地を抜け出しましょー!」


 サンフラワーは広報活動もしているので一般市民の認知度は高い。明るい性格と満天の笑顔もあって老若男女問わずに人気が高い。


 そんなサンフラワーに協力が不可欠だと言われれば、殆どの者は協力的に行動するだろう。


 それに、熟練の魔法少女に一致団結が一番早く避難できる秘訣だと言われれば、従わない訳にもいかないだろう。なにせ、自分の命がかかっているのだから。


 不満の声がなりを潜めたのを確認したサンフラワーは前を向き、少しだけ顔を顰める。


「……おかしいですね」


 集団を先導しながら周囲を警戒していたサンフラワーは訝しみながら視線を巡らせる。


「おかしいって、何が?」


 サンフラワーの隣で周囲を警戒する魔法少女が、サンフラワーの言葉に疑問を返す。


「静かすぎます。それに、異譚生命体の姿が見えないのも妙です」


「確かに……」


「考えすぎじゃない? 異譚の侵食力が弱いだけでしょ」


 二人の会話を聞いていた他の魔法少女がそう言うけれど、サンフラワーの表情は硬いままだ。


 確かに、侵食力の弱い異譚もある。その場合、難無くとはいかないものの比較的安全に異譚を終わらせる事が出来る。サンフラワーもそんな異譚を攻略した事がある。


 けれど、その時の異譚とは何かが違う。そんな違和感がある。


 違和感の正体を掴めないまま異譚の端まで進む魔法少女達の小型無線に、唐突に最悪の情報が飛び込んでくる。


「え?」


「嘘……」


「そんな、どうして……!」


 その報告を聞いた途端、一瞬で全員が動揺する。が、サンフラワーや熟練の魔法少女達は直ぐに動揺を鎮める。


 だが、動揺が表に出てしまった事は事実であり、その動揺は一般市民にも見られてしまっている。


「どうする、サンフラワー?」


「……誤魔化しは出来ないです。長期戦も覚悟するなら、早めに真実を伝えた方がパニックは小さい(・・・)と思います」


「でも、早期解決出来るなら余計な情報かもよ?」


「誰も表に動揺(それ)を出していなければの話です。少なくとも、異常事態は知られてしまいましたから……」


 熟練の魔法少女ですらも動揺を隠せなかった情報だ。新米魔法少女達が思わず声に出してしまったのは無理からぬことだろう。


「舵取りは間違えられません。安全策で行きます」


「了解。まぁ、どっちにしろ直ぐに脱出する事が出来なくなった訳だしね……」


「いえ、直ぐに避難させます。何としてでも」


 言って、サンフラワーは背後を振り返る。


「皆さん、一度足を止めて聞いてください。異常事態が発生しました。包み隠さずにお伝えいたしますので、どうかパニックにならずお聞きください。実は――」





「異譚から出られない?」


「はい。どうやら、そうみたいです……」


 異譚に入る前に花の魔法少女に止められたと思えば、とんでもない報告を受けた童話の三人。


「出られないって、どうやっても?」


「ぶっ壊せば良くない?」


「それが、どんな攻撃も受け付けないらしくて……一応、手応えはあるみたいなんですけど……」


「入るのは簡単なの?」


「はい。簡単に入れます」


「なるほど……」


「ど、どうしましょう……?」


 シュティーフェルが不安げな顔でアシェンプテルを見やる。


「勿論行くに決まってんでしょ。異譚には変わりないんだから、核を殺せばそれまでなんだから」


 異譚支配者さえ倒せば異譚は崩壊する。それは、明確な異譚の法則(ルール)である。


「そうだね。核を倒せば異譚は終わる。そうすれば中から出られるようになるだろうし、何よりこうしてる間にも中の人達が危ないからね」


「ま、手応えが在るって事は、最悪の場合はアリスの致命の大剣(ヴォーパルソード)で壊せるでしょ」


「おっ、イェーガーちゃん冴えてる~! 避難要員として呼んどく? 多分直ぐ来てくれると思うよ?」


「最悪って言ってるでしょ。あれ回数制限あんだから。それに……」


「それに?」


「あんな奴いなくたって、あたしだけで充分なんだから」


「もー、強がっちゃって! アリスちゃん大好きなくせに~」


「好きじゃないし」


「えー? 待ち受けアリスちゃんなのに?」


「はっ!? あ、んた、なに勝手に人のスマホ見てんの!?」


 アシェンプテルの言葉にイェーガーが眉尻を吊り上げて怒りを露わにする。


 イェーガーはカフェテリアに居る時はアリスと同じように端っこに居る事が多く、人と話す時は携帯端末をしまっている。そのため、携帯端末の画面を見られる事などないはずだ。


「そんな事は置いておいて。異譚に入ろっか」


「ちょっと! なんであんた知ってんのよ!! 絶対にアリスに言わないでよ!! あとあの糞女にも!! シュティーフェル!! あんたもよ!!」


「りょ、了解しました!」


 怒りの形相でシュティーフェルを見るイェーガーに、シュティーフェルは思わず敬礼をして返す。


 しかし、イェーガーは気付いていない。アシェンプテルは携帯端末の待ち受けの事を知らなかった事を。面白そうだったからカマをかけてみたら勝手に引っ掛かっただけだという事を。


 加えて言うなら、車内の時の意趣返しでもあり、シュティーフェルの緊張をほぐすための方便だった事も知らない。


 今は羞恥と怒りで頭がいっぱいだから。


「ちょっと!! 聞けコラ!!」


「異譚が終わったらね~」


「はいって言え! 言わないって言え!」


「はえぇ~」


「はえぇ~じゃない!! 撃つぞほんとにぃ!!」


「な、仲間を撃っちゃだめですよぉ!」


「今から敵よこんな奴!!」


 わちゃわちゃと騒がしく異譚へ入る三人。


 まるで異譚に入るテンションじゃない三人を、取り残された花の魔法少女は呆然と見送るのだった。


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[良い点] とても面白かった ツンデレはいいぞ
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