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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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突撃! ドキドキルームツアー! 1

 これは、四つの異譚が終わる前のとある休日のお話。


 椅子に座って本を読んでいる春花と、春花の布団の上で寝転がりながらチェシャ猫と一緒にゲーム実況を見ている朱里。


 朱里が春花の布団の上で寛いでいる事から察せられる通り、朱里は春花の部屋で寛いでいる。


朱里はうつ伏せに寝転がっており、部屋着として着ているスカートが若干めくれ上がっており、晒す生足の範囲を広げていた。これが思春期の男子高校生、もしくは男子中学生であれば、見ないふりをしつつも横目でしっかりとその目に焼き付けるのだろうけれど、生憎と春花は普通の男子高校生ではないので黙って読書に集中している。


しかして、不可抗力で見えてしまった時に気を遣うのは春花の方だ。そのため、服装には十分注意して欲しいし、もっと言えば何も春花の部屋で寛ぐ事は無いと思うのだけれど、この家の家主は朱里なので文句を言えようはずもない。


 黙って見ないように心がける。春花の取れる防衛策はそれくらいである。


 ぺらりぺらりとページを捲っていると、不意に朱里が顔を上げて部屋を見渡す。


「やっぱり、アンタの部屋って質素よね」


「そうだね」


 特に否定するような事でもないので、春花は朱里の言葉に頷く。


 春花の部屋にあるのはノートパソコンとそれを置く机と椅子。ローテーブルと布団に朱里達と買いに行った小物などしかない。着替えやら教材やらは部屋に備え付けのクローゼットに入っているので、部屋の中は余計に物が無いように見える。


「おしゃれな部屋とか興味無いわけ?」


「無いかな。必要な物が必要なだけあれば良いし。現状不便も無いし」


 最近分かった事だけれど、春花にもちゃんと趣味と呼べるものがある。読書、映画鑑賞、料理である。この三つを楽しむのに別段必要な物は無いので買い足す必要も無い。


 以前、ヴルトゥームの紹介や、ヴルトゥームに水(塩水)やりをする時に朱里の部屋に入ったけれど、朱里の部屋は物が多いけれど綺麗に飾ったり、ちゃんとまとめられていたりと整理整頓がしっかりできている様子だった。


 流石にクローゼットや箪笥の中までは見ていないけれど、その中も綺麗に整理整頓されているはずである。何せ、春花が来て直ぐの時も冷蔵庫や食器棚、その他の生活スペースは綺麗にされていた。


 事情が事情とは言え、真弓の家とは大違いである。


「こういうさ、おしゃれな部屋とか良くない?」


 そう言って、朱里は布団から起き上がって携帯端末の画面を春花に見せる。画面に映っていたのはゲーム実況者の配信で、右下のワイプには配信者とその部屋が映っていた。


 映る角度は固定されているものの、確かにその配信者の部屋はとてもおしゃれであった。ただ、ゲーム実況者の部屋として考えればおしゃれだけれど、春花が普段使うのであればあまりに物が多いように感じられてしまう。


「ちょっと、物が多いかな。あ、でも、後ろの猫の置物は可愛い。チェシャ猫に似てる」


「キヒヒ。確かに、()そっくりだ」


 春花の頭の上に移動したチェシャ猫も画面を見て、自分にそっくりだと言う。


「え、どれ? あ、ほんとだ。って、コレチェシャ猫じゃない?」


「……確かに、お口が大きい。あ」


 そこまで言って、このフィギュアの正体に思い至る春花。


ゲーム実況者の部屋に置かれていたのはチェシャ猫のフィギュアで間違い無い。思い返せば、一度だけチェシャ猫のフィギュアをグッズ化した事がある。恐らくはその時のフィギュアだろう。


「昔、一回だけ出したチェシャ猫のグッズだ。持ってる人居たんだ……これはちょっと欲しいかも」


「こんなん置いたらおしゃれ部屋から遠のくわよ。あ、在庫まだあるみたいね。玄関にでも飾りましょ」


 そう言って、早速チェシャ猫のフィギュアを注文する朱里。


 春花がこうやって何かを欲しいと言うのは非常に珍しい。その上、欲しいと思っても実際に買う事は滅多にない。こういう時は、春花の意見を聞かずに勝手に買うのが一番なのだ。


「うん。招き猫みたいだね」


「キヒヒ。開運ならお任せだよ」


「どっちかと言うと魔除けだと思うけどね」


 小判を持っている訳でも無ければ、招くように前足を上げている訳でもない。その大きな口的に魔除けの効果の方が期待できそうではある。


「まぁフィギュアは良いとして、この独房みたいな部屋をおしゃれにしたいわよね」


「そうかな? 僕は気に入ってるけど」


「キヒヒ。ロデスコ、過干渉は嫌われるよ?」


「ベッドも無いんじゃ身体痛くなるでしょうが。この布団も硬いし。アンタ、よくこの布団で快眠出来るわね」


 春花の布団は朱里が予備で持っていた物を使っているだけだ。マットレスも敷いていないので床に直接敷いている形になる。


「戦士にはちゃんとした休息も必要よ。アタシ達の仕事上、いつ叩き起こされるか分からないんだから、睡眠の質はしっかり上げておかないと」


「なるほど」


 確かに、朱里の言い分には一理ある。しっかりとした睡眠をとらなければ疲労は回復しない。魔法少女として戦う以上、睡眠にもしっかり気を配らなければいけないだろう。


「と言う事で、ベッドは頼みましょうね。後は、そうね……本棚とかどう? 買った本を並べるの。こんなに本読んだって一目で分かるし、コレクションしてるみたいで楽しいと思うわよ?」


「でも僕、図書館で借りる事が殆どだから……」


「じゃあスクリーンとプロジェクターは? アンタ、映画見るのも好きでしょ?」


「いつもリビングで見てるから必要無いかも……」


 朱里の家のリビングには大型のテレビがある。映画を観る時はそのテレビを使っているので、別段自分の部屋にスクリーンとプロジェクターが欲しいとは思わない。


 それに、映画を観る時は朱里や朱美が一緒に居る事が多いので、部屋に籠って観る事も無いのだ。


「なら、観葉植物とかは?」


「ヴルトゥームが居るから良いよ」


「じゃあキャットタワーとか」


「チェシャ猫は瞬間移動しちゃうから、意味無いかも……」


 言う事言う事却下され、朱里は難しそうに首をひねる。


「うーん……部屋づくりって難しいわね……」


「キヒヒ。人の部屋だと特にそうだね」


「自分の部屋だと、アタシの趣味に合わせれば良いだけなんだけどね……あ、そうだ!」


 良い事思い付いたとばかりに声を上げ、朱里は携帯端末を操作する。


「よし、許可取れた。じゃあ、行きましょうか」


「行くって、何処に?」


「何処って、決まってんでしょ」


 何が何やら分かっていない春花に、朱里は得意気な顔で行き先を告げる。


「ルームツアーよ」


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― 新着の感想 ―
朱里がいなくなった後の話が続いていくのかと寂しさを感じていた所にこの過去の話は…嬉しいけどもとてもつらい
執筆お疲れ様です。泣いちゃうよ。この人でなし!ロデスコー、でも、大好きなんだ。こういう展開、ダークな世界のほのぼの。ロデスコ大好きです。
ロデスコいなくなった後にこのお話を持ってくる、人の心案件。 ほのぼのしたお話も好きですけど、好きですけど!
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