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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚91 ただの少女として

多分、後一話です。

年内に八章終われそうで良かったです。

 四つの異譚が終わりを迎え、一番最後に残った異譚の暗幕が無くなった頃にはもう全てに決着が付いていた。


 全てに決着が付いた後で知らされた事実は、アリスにとってとても許容しがたいものであった。


「ロデスコが見つからないって、どういう事……?」


 アリスの担当していた異譚の暗幕が消えた段階で、異譚内の猟犬を狩り尽くしたアリスの元に届いたのは餡子の訃報とロデスコが安否不明という報せだった。


 受け入れがたい二つの報告を受け、アリスだけでは無くサンベリーナとマーメイドもまた悲しみと動揺を隠しきれなかった。


「……二人共、付き合って」


 主語の無いアリスの言葉。けれど、それが何を意味しているのかは二人も理解できた。


「わ、分かったよ!」


「……うん……」


 探知に優れた二人を伴い、アリスもロデスコ捜索の為に未来の科学を駆使できるアリス・エンシェントになる許可を取り、ロデスコ達が戦った場所へと向かった。


 到着して直ぐ、アリスは自分の心が折れたのを感じた。


 見つからないという事は、瓦礫の下に埋まっていたり、物陰に隠れてしまっているからだと思っていた。けれど、ロデスコが戦闘した場所は殆どが更地になっており、何処にもロデスコが隠れられる物陰や隙間は無かった。


「あ、アリスぅ……」


 サンベリーナもアリスと同じ気持ちになったのだろう。涙声でアリスを呼ぶ。


「捜す……」


 それでも、アリスは諦めきれなかった。


「で、でもぉ……」


「捜すっ!!」


「ぴぅっ」


 否定的な言葉をこぼしたサンベリーナに、思わず声を荒げてしまうアリス。


「絶対に、何処かに居るはず。だから、捜す」


 そう口にするけれど、アリスの言葉に力強さは無い。


本心では分かっている。アリス達の異譚が一番最後に終わった。ロデスコ達の異譚が終わってから、アリス達の異譚が終わるまでに二時間かかっている。その間に捜索隊は出ているのだ。


 この更地では探す場所だって限られる。アリス達が手を尽くすまでも無く、既に隅々まで捜索はされているのだ。


 それを理解していてなお、アリスはロデスコを捜す。


 ふらふらと力無い動きで歩き出すアリス。


「……私も、付き合う……」


 その後をゆっくりと泳いで付いて行くマーメイド。


 サンベリーナも、涙をごしごしと拭いながら周囲の魔力反応に気を配る。


 更地の上を練り歩いた。熱や匂い、音に魔力、様々な能力を駆使してロデスコを捜した。


 それでも、見つからなかった。


 どれだけ練り歩いても、どれだけ能力を駆使しても、どれだけ願っても、ロデスコが見つかる事は無かった。


 隅から隅まで捜して、じっくりと、ゆっくりと現実を押し付けられて、アリスはようやく足を止めた。


 力無くその場に座り込み両手で顔を覆って背中を丸める。


「朱美さんに……なんて言ったら……っ」


 覆った手の隙間から涙が零れ落ちる。


 アリスの肩でサンベリーナは大泣きし、マーメイドもまた涙を流しながらもアリスの背中を優しくさすった。



 〇 〇 〇



 ぽかぽかとなんだか温かい陽気に包まれているような感覚。ずっとこのまま眠っていたいけれど、ずっと誰かが呼んでいる。


 ああ、起きなくてはなと何となく思い、重い瞼をゆっくりと上げれば、目に映るのは呆れた顔の美奈だった。


「お早う寝坊助。ん? 永眠した訳だから、お早うはおかしいのかしら?」


 起床して直ぐに不謹慎な死人ジョークを炸裂させる美奈。


 美奈が居る事に不思議や驚きはない。自分の死をしっかり自覚しているのだから。


「お早うで良いじゃないですか。寝て起きた訳ですし」


 んっと美奈に手を差し出せば、美奈も意図を察したのか餡子の手を掴んでぐいっと引っ張って起き上がらせる。


 起き上がって改めて周りを見てみれば、辺り一面に色とりどりの綺麗な花が咲いた丘に寝そべっていたのだと気付く。


 綺麗な花々に目を奪われながらも、餡子は美奈に問う。


「此処、何処ですか?」


「さぁ? 天国かなんかじゃない?」


「そんないい加減な……」


「しょうがないでしょ、私だって知らないんだから」


 律義にこの場所を示す看板が立っている訳でも無いので、この場所が何処なのかは美奈も知らないのだ。


「ま、天国なら会いたい人が居るから良いんだけどね」


「会いたい人、ですか?」


「えぇ。まぁ、会ったら早死にした事怒られそうだけど」


 そう言って、美奈はゆっくりとお花畑の丘を歩き出そうとして、餡子を振り返り手を差し伸べる。


「ね、お母さん捜すの手伝ってよ。見つけ出したら一杯文句言ってやらなきゃいけないのよね、私」


 美奈が差し伸べた手を、餡子は笑みを浮かべて握る。


「良いですよ。此処が天国なら、きっと私の家族も居ますからね。私も、私を置いて行って事に一杯文句言ってやります! 寂しかったんだぞーって!」


「ふふっ、良いじゃない。じゃあ、とりあえず当面の目標はお互いの家族捜しね。あ、お爺ちゃんにも会わないとだ」


「あ、こっちなら瑠奈莉愛さんも居るかもです!」


「誰それ?」


「私のお友達です! 美奈さんにも紹介しますね!」


「それじゃあ、家族を見付けた後は友達捜しね。死んでもやる事ってあるもんねぇ。ていうか、貴女最後凄かったわね。一言二言くらいかなって思ったけど、まさか三言も魔法を使うなんて」


「えへへ。最後だから頑張りました! 此処で頑張らなきゃ、美奈さんに合わせる顔が無いとも思いましたし」


「それを言うなら、私の方が合わせる顔無いわよ。貴女を助けるので精一杯だったから、核も倒せなかったし……」


「そんな事無いです! 美奈さんが助けてくれたおかげで、私は今日まで戦ってこられたんですから! 美奈さんは凄いです!」


「ちょっ、止めてよ。恥ずかしいじゃない……」


 キラキラした目で自身を見る餡子を見て、恥ずかしそうに顔を背ける美奈。


「そんな事より! お互い、色々お喋りしましょ。まだ付き合い浅いからね。お互い知らない事の方が多いし」


「そうですね。私も、美奈さんが頑固者だって事しか知らないです」


「それはお互い様でしょうが!」


 当面の目標が決まった二人は、楽しそうにお喋りをしながら手を繋いでお花畑の丘を下っていく。


 これで、彼女達の戦いは終わった。


 戦いの末に命を落とした彼女達は、この先の未来も、この世界の結末も知る事が無い。


 それでも、彼女達は笑みを浮かべて歩を進める。


 ただの少女として二人は歩き続けた。


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