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魔法少女異譚【書籍化決定】  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚88 聞こえる声

燃える三眼の倒し方とか展開に苦心してました。

第八章、もう少しで終わりですのでもう少しお付き合いいただきたい。

 燃える三眼は、静止状態から急加速でロデスコに肉薄する。


 羽ばたき一つで衝撃波を生みだすけれど、それはロデスコも同じ事。


 一回の加速で熱風と衝撃波を生みだし、周囲の地形を破壊する。


「オラァッ!!」


 ロデスコの攻撃を燃える三眼は見た目にそぐわない俊敏さと小回りで回避し、更に自身の周囲に展開している三つの魔法陣から属性別の魔法を放ちロデスコを迎撃する。


 対して、ロデスコも持ち前の機動力で燃える三眼の魔法を回避し、ロデスコの周囲から絶えず噴出するプロミネンスが燃える三眼を襲う。


『君達は知らないだろうけれど、魔法少女の覚醒に制限は無い。だが、大抵の者は一度の覚醒で止まる。多くて二度、三度だ。それ以上の観測は事実上存在していない。が、君は四度目の覚醒を果たした。正直言って異常だよ』


「お褒めに預かり光栄だわ!!」


 魔法少女に成りたての頃から、漁港の異譚までに一度。ヴルトゥーム戦で二度。アトラク=ナクアで三度。そして、アフーム=ザーとの戦いで四度目。


 窮地に陥り、強敵と会敵した時、ロデスコは幾度と無く覚醒を果たした。そして、その度に強敵を倒してきた。


 その全てを燃える三眼は観測していた。


『最初は、君のようになんの面白味の無い魔法しか持たない魔法少女は直ぐに死ぬと思っていた』


「悪かったわね、面白味が無くて!!」


『だが、私の予想に反して君はしぶとくも生き残った。炎を纏って蹴るしか能の無い君が、だ』


「さっきからうるっさいわねぇッ!! アンタ黙って戦えない訳!?」


『いや、折角だ。お喋りでも楽しみながら、存分に殺し合おうじゃないか』


「アタシは御免なのよッ!! アンタなんかと話してても面白味も無んだから!!」


 言葉を交わしながらも、両者は高度な攻防を繰り広げている。


 燃える三眼との会話を拒否するロデスコだけれど、燃える三眼は気にした様子も無く話を続ける。


『ゲームを行うにあたって、ある程度私の方で筋書というものを用意しているんだ。ある程度と言うのも、参加者が筋書き通りに事を進めるような素直な存在では無いからだ。君達も良く知っているとは思うが、旧支配者という存在は癖者揃いだからね』


 精神構造的に、種族的に、存在的に、様々な面で一癖も二癖もあるような連中。それが旧支配者である。


 癖はあるものの、人間と対話をし、友好的にコミュニケーションを取るヴルトゥームはかなり珍しい。まぁそれも、牙を抜かれたからに過ぎないのだけれど、そうやって精神的に変化出来る点も含めてヴルトゥームは珍妙な生き物と言えよう。


『ヴルトゥーム。アトラク=ナクア。この両者は地球まで出張って来ている。これは、私も想定外だったよ。だが、想定外がゲームは面白くなるというものだ。君達にとっても良いスパイスになったんじゃないかな?』


 想定外の動きは良いスパイスではあるけれど、それはそれ、これはこれでもある。アトラク=ナクアはそういう生態だから仕方ないけれど、ヴルトゥームは明確なルール違反。そのため、ヴルトゥームにはペナルティを与えたのだ。


「どこが!! アンタ達が余計な事しなければ、この世界は平和そのものなのよ!!」


『本当にそうかな?』


「そうに、決まってんでしょうがッ!!」


 言葉と同時に燃える三眼へ急接近。


 最小限の動きで燃える三眼の攻撃を躱して蹴り込む。


 咄嗟に魔法陣を盾にするも、ロデスコの蹴りは魔法陣を砕いて燃える三眼に直撃する。


「浅い……ッ!!」


 しかし、芯を捉える事は出来なかった。ダメージを与える事は出来たけれど、致命傷とまではいかない。


 すかさず、蹴りの衝撃で吹き飛んだ燃える三眼を追う。


『ふぅ……やはり、この形態では手数に限りがある。異譚支配者である事の不便の一つだね』


 魔法陣を壊され、蹴りを入れられても動じた様子の無い燃える三眼。


 追随するロデスコから冷静に距離を取りながら、再度展開した魔法陣で攻撃を仕掛ける。


「それももう見飽きたっつうのッ!!」


 幾つもの属性、幾つもの形の魔法を幾ら放とうと、ロデスコは華麗に迎撃と回避をする。


 消耗は激しいけれど、ロデスコと燃える三眼の実力は拮抗している。両者ともに並みの攻撃は通用しない。


『魔力切れを狙っても良いけれど、それじゃあ面白味が無い。とは言え、制約の多いこの身体では手数も増やせない、か……。千の異形が聞いて呆れるね』


 本来の実力の半分程の力とは言え、それは出力に限った話。異譚支配者である以上、旧支配者の時と同じように能力を行使する事は出来ない。


『……あぁ、そうだ。蹴られた衝撃で忘れていたよ。さっきの話の続きだけれどね』


 状況は燃える三眼の劣勢。少なくとも、燃える三眼はそう判断している。にも関わらず、燃える三眼は焦った様子も無くお喋りを続ける。


『私が居なければ世界は平和、というのは語弊がある。それは上辺しか見えていない者の見解だよ』


「どーいう意味よ!!」


『世界は元々平和なんかじゃないという事さ。それこそ、異譚の頻発は私の手によるものだけれど、その異譚を起こしている者が誰だか君は知っているのかい?』


「知らないわよそんなの!! アンタもアイツも、勿体ぶった言い方すんじゃ無いわよ!! 訳知り顔で偉そうに話してくるのが本当にムカつくわ!!」


『秘密と言うのは隠しに隠した方が味わい深いというものさ。まぁけれど、面白そうだから君には教えてあげようかな。異譚を発生させている者が誰なのか』


 直後、燃える三眼は反転。


 追随するロデスコに急接近する。


 燃える三眼の攻撃を警戒しながら、ロデスコはプロミネンスを放つ。


 燃える三眼はロデスコの放つプロミネンスを、魔法を放って迎撃する。その瞬間、周囲に爆音が響き渡る。


 爆音が響き渡る数秒。その数秒の間にロデスコと燃える三眼はすれ違う。


「……は?」


 すれ違う直前に放たれた燃える三眼の言葉に、ロデスコの動きが一瞬止まる。


 その一瞬で、燃える三眼には十分だった。


 三つの魔法陣が上に一つ下に二つ整列し、そこから線が増えて一つの魔法陣を形成する。魔法陣から放たれたのは特大の鉄砲水。


「がっ……!?」


 衝撃に血反吐を吐きながら、ロデスコは鉄砲水に押され地面に叩き付けられる。


 鉄砲水の威力はヴルトゥームの極光と同程度の威力。それは背中から無防備な状態で受け、なんの受け身も取れないまま地面に叩き付けられる。


『火は水に弱い。当たり前の事だよね』


 衝撃により抉れた地面に叩き付けられたロデスコを見て、燃える三眼は一つに統合した魔法陣の照準を再度ロデスコへ合わせる。


『まさかとは思ったけれど、此処まで効果覿面とは思わなんだ』


 地面に伏したロデスコに炎の手足は無く、服の背中側は盛大に破れ、皮膚は鉄砲水に削られてぐちゃぐちゃになっている。


『粉々にならないのは驚きだけれど、流石にその身体では何も出来まい。世界の秘密を手土産にあの世でゆっくり過ごすと良い』


 先程と同威力の鉄砲水が無防備なロデスコの背中へ放たれる。


 その時、何かの声が聞こえた。酷く小さく、死にかけの弱々しい声。


 けれど確かに、その声は聞こえて来た。


「『ロデスコ先輩は、絶対に死にません』!!」


 その声は確かに、世界に聞き入れられた。


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シュティーフェル……しなないで(届かぬ声)
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