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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚81 半死半生

 時間が経つにつれて戦闘は激化していった。


 ロデスコの火力は上がり、冷たい炎の火力もまた上がっていく。


 ロデスコの脚はズタボロで、罅割れ、欠け、冷気によって壊死している箇所もある。足の骨は既に砕け、足先から太腿まで全ての骨が損傷している。


 満身創痍になりながらも、ロデスコは絶えず攻撃を繰り出し続ける。


 何せ、負傷をしているのはロデスコだけでは無い。


 冷たい炎もまた、ロデスコの苛烈な攻撃によって損傷を強いられていた。


 まるで栓でもされたように炎と魔力が廻らない箇所がある。表面だけの部分もあれば、内部まで浸透する程の損傷個所もある。いかんせん炎で出来ているので見た目には分かり辛いけれど、月のようにクレーターだらけになっているのだ。


 油断は無い。されども侮りはあった。


 高々人間の小娘一人に何が出来ると、そう高を括っていた。アリスならばともかく、同じ炎属性の相手。いかに数多の異譚支配者や旧支配者を倒して来たとは言え、それでも接近戦しか出来ないような出来損ないの魔法少女だ。直ぐに凍り燃やされる事だろうと思っていた。


 だが結果は違った。今、こうして互いに身を削り合い戦っている。


 脚はとうに砕け、限界を迎えているはずなのに、ロデスコは諦める素振りを一切見せずに攻撃を続けている。


 その事実に冷たい炎は身震いする。異譚支配者という存在に自身のグレードを落しているとは言え、これほどまでに戦い合える相手とは思っても居なかった。


 かつての人間の魔導士には無い底力。上位者を封印するか追い返すくらいしか出来なかった小さき存在が、こうも上位者に歯向かうのかと、怒りと同時に感動すら覚える。


 自身の使命を忘れた訳では無い。この異譚を展開した理由を忘れた訳では無い。あの男の話に乗った事も忘れてはいない。


 あぁ、けれど、小さきながらも父を思わせる(・・・・・・)その姿、全力で向かわねばなるまい。


 今はただ、この出会いの為に。


「――っ!?」


 一瞬の魔力の高まり。その直後に、冷たい炎の体積が減っていく。


 減るというよりも、縮むと言った方が正しいだろう。冷たい炎が中心を目掛けて凝縮して行く。


 何が起こっているのかは分からない。けれど、それが良く無い事の前兆である事は直感で分かった。


「くそっ!!」


 即座にロデスコは上空へ飛び上がり、急制動をかけて勢いを殺し、数秒力を溜めて爆発的な炎を上げる。


 弾丸のように急加速しながら、ロデスコは一条の流星となって凝縮する冷たい炎へ迫る。


 何をされるか分からないのであれば、その前に殺す。


 一条の流星が冷たい炎と激突するその瞬間、ロデスコは意識を失った。





 嫌な気配がした。


「~~っ!!」


 ぞわりと背筋が泡立つ。それでも、アシェンプテルはロデスコを信じてシュティーフェルの治療を続ける。


 何とかしてシュティーフェルを回収して貰い、必死になって回復魔法をかけてはいるけれど、シュティーフェルの回復があまりにも遅い。


 じわじわと何とか命を繋ぎとめられる程度の回復力。それもそのはずで、シュティーフェルは既に顔の半分が大火傷で爛れ、左腕は無くなり肺に到達する程に抉れている。両足共に欠損しており、そっくり残ったのは右腕だけだった。


 魔法少女だから生きていられる状態。その状態から完治させるのはアシェンプテルやサンベリーナでも無理だ。


 自身の経験でそれは分かっている。それでも、アシェンプテルは治療を止めない。


「大丈夫よ~。絶対に助けるからね~……」


 笑みを浮かべながら、アシェンプテルはシュティーフェルに優しく声を掛ける。


 自分が助からない事は自分が一番良く分かっている。だから治療を止めて欲しい。皆が生き残れるように力を使って欲しい。


 朦朧とする意識の中で自身の気持ちを伝えようとするけれど、口からは乱れた呼吸音しか漏れず、目で訴えようにも最早視界が霞んで何処に何があるのかすら分からない。


 アシェンプテルの声と、温かい力が流れてくるのが分かるから、治療をしてくれているのだと分かるのだ。


 何とかして自分の意志を伝えられないものかと、回らない思考を頑張って巡らせる。舌でも噛み千切ってしまえば良いのかもしれないけれど、そんな事をしたらアシェンプテルにトラウマを植え付けかねないし、そもそもそんな事が出来る程の咬合力も残っていない。


 それに、声が出たところできっとアシェンプテルは言う事を聞いてくれないだろう。絶対に治すと言って、諦める事はしないだろう。


 こんな事になるのなら、あの時綺麗に死んでおくべきだったと思う。


『はぁ? 綺麗に死ぬって何? ふざけないでよね』


「え?」


 唐突に聞こえて来た声に、思わず声が漏れる。


 聞き覚えのある声にも驚いたし、自分の口からまだ声が出る事にも驚いた。


『死ぬに綺麗もクソも無いわよ。死んだらそれでお終いなんだから』


 怒ったような声が聞こえて視線を声の方に巡らせれば、そこには居るはずの無い人物の姿があった。


その姿を見て、思わずぽかんと口を開けてしまうのも無理からぬ事だろう。


『なぁに? 死人でも観たような顔をして』


「え、いえ、だって……貴女は……」


 シュティーフェルが言いよどむ姿を見て、くすりとおかしそうに笑みを漏らす。


『ふふっ、じょーだんじょーだん。えぇそうね。死んでるものね、私』


 くすくすと楽しそうに笑う少女を見て、シュティーフェルは当然の疑問を投げかける。


「ど、どうして……どうして、美奈さん(・・・・)が此処に?」


 シュティーフェルの言葉を聞いて、少女――如月美奈は笑うのを止める。それでも、笑みだけは崩さない。


『私としては、こっちの台詞って感じなんだけど? どーして餡子が此処にいる訳?』


「どうしてって、だって、此処は異譚です、か……ら……」


 言ってから、周囲の異常に気付く。


 そこは荒れ地に冷たい炎が燃え盛る異譚では無く、見覚えのある白と黒の世界だった。


 あの時、美奈の死んだ異譚。その異譚の学校の屋上で、二人は向かい合っていた。


 数秒ぽかんと口を開けて呆けてしまうけれど、ああそうなのかと納得してしまう。


「……私、死んだんですね」


『正確には半死半生ってとこね。まぁ、こっちに片足突っ込んでるのは間違い無いわね』


「そう、なんですか……。でも、もう秒読みですよね。詳細は分からないですけど、自分が死んでしまうんだって事は分かっていたので」


『うわっ、相変わらず可愛くない反応! もっと悲しそうにするとか無いの? 死んじゃうのよ?』


「まぁ、悲しいは悲しいですけど……自分がやれることはやり切ったので。それに、美奈さんとこうして会えましたし」


『わっわっ、ハズイハズイ!! 面と向かってそんなハズイ事言わないでよね!!』


 素直な感想を口にしたシュティーフェルに、真っ直ぐな好意を受け取った美奈は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。


 そんな美奈の反応が面白かったのか、くすりと笑みをこぼすシュティーフェル。


 笑われた事が恥ずかしかったのか、むぅっと頬を膨らませる美奈。


『ほんっとうに可愛く無いわね餡子は。まぁ、良いわ。そんな可愛くない餡子に、私から一つだけアドバイスしてあげる』


 そう言って、美奈はシュティーフェルに歩み寄る。


『異譚はまだ終わってない。それに、餡子の命もまだ終わってない』


「……でも、もう私には……」


『何も出来ないって? んな訳無いでしょ。必死こいて助けてくれてる人が居るんだから、まだ一言二言くらい話せるわよ』


「でも魔力が……」


『もう失う物も無いんでしょ? なら残った命を使いなさい。全部全部出し切って、一矢報いてやりなさい』


 目と鼻の先まで来た美奈は、にっと勝ち気に笑みを浮かべて右手を上げる。


『私は餡子を生かした。今度は、餡子が誰かを生かしなさい。たった一人だって良い。その一人を絶対に生かしなさい。……今なら分かるけど、そうやって、私達は巡ってくのよ』


 そう言って、美奈はぴしっとシュティーフェルの額を指で弾く。


『行きなさい、シュティーフェル。皆が待ってるわよ』


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