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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚80 完璧なる菓子細工

 これは、スノーホワイトも渦巻く闇も騙された事だ。


 ただ、どちらとも冷静になれば気付けたはずだ。特に、間近で見たスノーホワイトは気付いてしかるべきだった。


 自身と妹が死に瀕し、その瞬間の激情により覚醒したヘンゼル。そして、双子特有のものなのだろう。それに引っ張られるようにグレーテルも覚醒を果たす。


 だが、覚醒したとは言え、グレーテルの重傷が完治した訳では無い。多少なりともマシにはなったけれど、戦闘可能な状態では無い。


 ヘンゼルがこの状況を打破するしかない。自分だけじゃない。グレーテルもこの場に居る皆も、ちゃんと守らなければいけない。


 けれど、自分一人では無理だ。せめて、グレーテルが居てくれれば。


 ヘンゼルがそう思ったその時、ヘンゼルの隣にもう一人の自分が現れる。キャンディケインに跨って、グレーテルを抱えたもう一人の自分を見て驚くけれど、それが自分の出した魔法の産物だと気付くのに時間はかからなかった。


 それは自分の分身であり、自分の意のままに操る事が出来る。そして、ある程度は自立可動する事が出来る事も理解した。


 これならなんとか戦える。グレーテルを預けて、この場で渦巻く闇を倒せれば……。


 ヘンゼルは近くに居た魔法少女にグレーテルを任せようとしたが、その魔法少女はそれを拒否した。


「貴女は逃げて。逃げて、皆を護って。時間は私達が絶対に稼ぐから」


 ヘンゼルが光り輝いた途端に渦巻く闇は校舎の影に隠れた。光が苦手だという事は彼女にも理解できた。


 そして、ヘンゼルが生み出したもう一人の自分を囮に使えることも何となくわかった。何せ、童話の魔法少女は特殊だ。星や花に出来ない事が出来たって別段おかしくはない。


 魔法を使えずとも、ある程度自立可動してくれれば問題は無い。


「行って。二人共しっかり回復して、絶対にアイツを倒して」


 決意の籠った声で、彼女はそう言った。


「行って!!」


 決心の決まらないヘンゼルに、彼女は叱責するように声を上げた。


 彼女の声に押されるように、もう一人の自分を囮にし、ヘンゼルはグレーテルを連れて要救助者達と一緒に学校から逃げ延びた。


 自分が居れば絶対に勝てるという過信は無い。それでも、自分が居なければ隙を作る事だって難しいとは分かっていた。


 このままでは彼女達は全員死んでしまう。それが分かっていながら、ヘンゼルは逃げ出した。


 戦う上ではそれは正しい選択だったのだろう。実際、渦巻く闇に有効な攻撃方法を持っているのはヘンゼルとグレーテルのみだ。彼女達を失えば渦巻く闇を倒せる確率は大きく減少する。


 彼女も自分も正しい判断をした。


 それなのに、納得出来ない自分が居る。


 だって、自分が強ければこうはならなかった。アリス程とは言わない。それでも、もう少し強ければ、こんな事にはならなかったはずなのだから。


「……絶対、倒す……っ」


 涙を堪えながら、ヘンゼルは必死に逃げた。


 そうして、ヘンゼルとグレーテルは逃げ延びる事が出来た。彼女達を犠牲に、時間を得る事が出来たのだ。


 逃げ延びた先でグレーテルは治療をして貰い、戦う事が出来る状態にまで持って来る事が出来た。


 グレーテルが完全回復するまでの間に、ヘンゼルと他数名の魔法少女は更に時間を稼ぐために、バッテリー式のバルーン投光器や懐中電灯、後付けの自転車用ライト等、考えうる限りの光源を持って異譚中に散らばり、渦巻く闇の注意を逸らす為に光源を設置した。


 そうやって時間を稼ぎ、完全回復したグレーテルと共に渦巻く闇を倒そうと避難所を飛び出したところで、スノーホワイトと戦闘している渦巻く闇に出会ったのだ。


 そんな経緯があったとは知らないスノーホワイトは、驚愕を露わにヘンゼルとグレーテルを見ている。


 なにせ、スノーホワイトには確かに死んだように見えていたのだから。


 驚愕するスノーホワイトと渦巻く闇。双方に答え合わせをするように、ヘンゼルとグレーテルは種明かしをする。


「「完璧なる菓子細工パーフェクト・スカルプチャー」」


 二人がそう唱えた直後、二人の隣にもう一人の自分が現れる。


 完璧なる菓子細工パーフェクト・スカルプチャー。それは、ヘンゼルとグレーテルを完全に模した菓子細工。覚醒したヘンゼルに発露した魔法であり、双子特有の現象なのかは分からないけれど、ヘンゼルに引っ張られるように覚醒を果たしたグレーテルにも発露した分身魔法である。


 見た目は完全にヘンゼルとグレーテルに瓜二つ。ただ、菓子細工なので血は通っておらず、負傷をすればケーキのスポンジやウェハースの骨、ストロベリーソースの血が流れるだけだ。


 スノーホワイトはヘンゼルの頭部を見た。頭部は既に損壊していたため、スポンジやらストロベリーソースの血やらが出ていたけれど、極度の疲弊と出血により集中力を欠いていた為に気付く事が出来なかった。


 ヘンゼルとグレーテルの分身を見たスノーホワイトは、自身が本人と分身を見間違った事を理解した。そして、驚愕も安心も引っ込めて声を張り上げる。


「二人共!!」


 スノーホワイトが指示を出す前に、二人のヘンゼルとグレーテルがぐっと親指を立ててスノーホワイトに見せる。


「ここからが」


「クライマックス」


「「OK?」」


 訊ねるように小首を傾げれば、スノーホワイトも勝ち気な笑みを浮かべて返す。


「ええ、オーケーよ!!」


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