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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚79 クソ雑魚芋虫

 自分の寿命が後一年しか無い事は他の面々には伝えていない。チェシャ猫にも黙っていて欲しいと伝えた。


 優しい彼女達を心配させたく無かったというのもあるけれど、一番の目的は出撃出来なくなってしまうのを回避する事だ。


 余命一年と分かれば確実に出撃許可は下りない。沙友里の心情的にもそれは忌避する事だろうし、対策軍の対外的なイメージを考慮しても絶対に出撃許可は下りない。


 余命一年しかない者を戦わせ続けただなんて知られれば、大きなバッシングの対象になる。残念な事に対策軍の寝首を掻きたいと思っている者は少なくない。悪いイメージに繋がるような事は極力避ける事になる。


 餡子はそこまで深くは考えていなかったけれど、自分が出撃出来なくなる事は分かっていた。だから、誰にも言わずに一人で抱えて行くと決めた。正確には一人と一匹だけれど。


 仲間にも告げず、友人にも告げず、SNS等で心情を吐露する事も無い。ただ一人、その心の内に暗い真実を隠して来た。


「『氷の上ですっころびます!!』」


 シュティーフェルと距離を詰めようとした人型が、偶然氷の上に足を踏み出して盛大にこける。まるでギャグマンガのような派手な転び方だけれど、それを笑う者はこの場には居ない。


 白蛆の放つ氷を掻い潜りながら、シュティーフェルは人型をちまちまと間引いて行く。


 一瞬でも隙を見せた人型に獣の脚力で肉薄し、軍刀で首を断つ。


 恐怖に怯える事も、逃げ惑う事も無い。最後まで無機質な目でシュティーフェルを捉え続ける。


 騒がれたり、逃げ惑われたり、恐怖や怒りの目を向けられるよりは断然やりやすいけれど、それでも人の形をした相手の命を奪うという行為には得も言われぬ忌避感がある。人間の本能から出る忌避感なのだろう。その忌避感を無視して、シュティーフェルはひたすらに軍刀を振るう。


 真弓達が援護をしてくれているのと、人型自体にそれほど知性が無いのが幸いしている。人型はただ動いて魔法を放つだけ。アリスのトランプの兵(カードソルジャーズ)と似たような感じだ。


 それでも多勢に無勢は変わらない。


 全てに注意を払いながらも、シュティーフェルが一番注意を払うのは白蛆だ。低位であろうと異譚支配者には変わりなく、人型の魔法よりも威力も速度も段違いだ。


「でも、スノーホワイト先輩の方が強いです!! クソ雑魚です!! クソ雑魚芋虫です!!」


 そう声に出して自身を鼓舞する。


「『炎の魔法はクソ雑魚芋虫に集中します!!』」


 シュティーフェルがそう声に出せば、シュティーフェルに放たれたはずの魔法が全て軌道を変えて白蛆へと迫る。


 チェシャ猫の言っていた事が本当であれば、実現可能であれば多少は無理筋の嘘でも運命を捻じ曲げて魔法は発動する。


「ぃっ……」


 先程からずっと喉が痛い。鼻血も止まらないし、頭の奥がずきずきと痛む。


 それでもかまわず、シュティーフェルは戦い続ける。


 白蛆は自身に向かう魔法を氷の壁で防ごうとするけれど、氷の壁が出来た瞬間にシュティーフェルは魔法を言い放つ。


「『氷の壁は砕け散ります!!』」


 直後、言葉通りに氷の壁は砕け散る。砕け散った直後に炎の魔法が白蛆に到達し、そのぶよぶよとした白い表皮を炎が炙る。


 絶叫なのか何なのか分からないけれど、不愉快な音を上げる白蛆。


「『瓦礫はクソ芋虫に飛来します!!』」


 間髪入れずに魔法を言い放ちながら、シュティーフェルは白蛆に接近する。


 遠くで戦うロデスコ達の戦闘の余波が地面を抉り、その瓦礫が白蛆に降り注ぐ。


 瓦礫に押し潰されながらも、白蛆は肉薄するシュティーフェルに氷を放つ。


「『氷は――』ごふっ……! ぁっ……!!」


 魔法を言い放とうとしたけれど、喉が限界に達したのか、声が上手く出てくれない。


 それでも、シュティーフェルは脚を止めない。


 氷の礫を掻い潜り、白蛆の目前まで迫る。


 炎が、氷が、シュティーフェルに殺到する。


 もう魔法は使えない。でも大丈夫。こうなる事は分かっていた。そのために誘導は続けていたのだから。


 白蛆の意識は完全にシュティーフェルに向いていた。意志薄弱の人型も最前線まで出て来ているシュティーフェルを脅威として捉えているのか、その矛先はシュティーフェルにしか向いていない。


 道は開けた(・・・・・)。本人は恥ずかしがって謙遜するだろうけれど、その精度はイェーガーに迫るものがあると、シュティーフェルは思っている。


 人型の数が薄くなり、肉の壁が無くなった。それでも、充分に白蛆と彼女を遮るくらいには人型はひしめき合っている。


「じゅーぶん!!」


 一筋の隙間。その光明(隙間)さえあれば、真弓には十分だった。


 急激な魔力の高まりに、白蛆や人型が反応を示すが、シュティーフェルは最後の力を振り絞って魔法を言い放つ。


「『()、まれぇ……ッ!!』」


 シュティーフェルが魔法を言い放った直後、敵の動きがぴたりと止まる。


「ばびゅんっ!!」


 その瞬間、真弓は高出力の一矢を放つ。


 レーザーのように直線で飛翔する一矢は、真っ直ぐに隙間を通り余波で人型を吹き飛ばしながら白蛆に直撃する。


 抵抗する間も無く、白蛆の身体には大きな風穴が空いた。


 それでも、まだ動き魔法を放とうとする白蛆の頭にシュティーフェルが降り立ち、その頭に軍刀を突き立てる。


 白蛆が放ち続けている冷気に身体を侵されながらも、シュティーフェルは突き立てた軍刀を握り締めながら白蛆の前へ飛び、身体を捻りながら軍刀を振り下ろし白蛆の顔を立てに真っ二つに切り裂く。


 真っ二つに切り裂かれた白蛆は、顔から夥しい量の赤い球粒のような液体を溢れ出しながら力無くその場に倒れる。


 徐々に減少していく魔力反応に、シュティーフェルは白蛆を倒す事が出来たのだと悟る。


「……っ、ぱ……クソざ、こ、ぃも……むし……」


 煽るように、そう口にするシュティーフェル。


 安堵は無かった。ただ、無理に酷使した魔法による疲弊と、長時間の戦闘による疲労があった。


 白蛆と接触していた時間は短かったけれど、シュティーフェルの体温を奪うには十分で、身体機能を低下させるにも十分だった。


 よろめくシュティーフェルに幾つもの炎の魔法が殺到する。


 白蛆を倒したところで人型が消滅しない事は分かっていた。分かっていながら、シュティーフェルは後先考えずに全力を出した。だから、これは当然の帰結だ。


 殺到した炎の魔法がシュティーフェルに直撃する。


 幾つか当たって、幾つか外れて、それでも、命を奪うには十分な火力だった。


 遠くの方で誰かの絶叫が聞こえる。


 誰のかは分からないけれど、やっぱり余命の事は伝えなくて良かったと、そう思った。


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― 新着の感想 ―
救いを 救い(迫真)
辛すぎる…新人組これで全滅なんですか?救いはないんですか?
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