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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い
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異譚75 目には目を歯には歯を

HJ小説大賞の二次選考通過しておりました。

応援してくださってる皆様のお陰です。ありがとうございます。

 イヴに抱えられたまま、イェーガーはイヴの作戦を聞かされていた。作戦の概要を聞いた後、イェーガーはイヴの作戦に納得を示した。


「なるほどな。手が無ぇ以上はそれが一番か」


『はい。ただ、いくらドロシーの魔法とはいえ元は張りぼて(・・・・)です。抑え役が必要になります』


「それはあたしがやる」


『では、よろしくお願いします。……ただ、もう一つ懸念点があります』


「懸念?」


『はい。今、ドロシー達が何処まで敵を減らせたかです。ある程度は数が残っている事は覚悟しておりますが、想定以上に残っていた場合は核にのみ注力する事が出来なくなります』


 確かに、イヴの作戦を完遂するのであれば、余計な手出しは無い方が良い。『無い』は無理でも『少ない』まで持っていけるのであれば理想だろう。


 ただ、剣使いの獣人との戦闘になる前に、原始獣人の数をざっくり確認してみたけれど、到底ドロシー達だけで殲滅するのは不可能な数であった。ドロシーが本気で戦えば無理では無いかもしれないが、本気を出せない以上はかなり厳しい。


「あぁ、なるほどな」


 しかして、イェーガーに焦りはない。それどころか、軽く返事をしてからあらぬ方向に向かって銃を撃つ始末。


「で、それ以外の懸念は?」


『あるとすれば、先程伝えた作戦で倒しきれなかった時ですね。そうなれば、奥の手を使う他ありません……が、かなりの危険が伴う上に、それでも倒しきる確証はありません。流石に、この手は選びたくないと言うのが本音です』


「なら、失敗したら大人しくアリスでも待とうぜ。その間、殺さないように削り続ければ良いだけだしな」


『ですが、そうなれば異譚は拡張し続けます。他の異譚と接触する前に、なんとか片を付けるべきです』


「そりゃそうだけど、無理にこねくり回して悪化するよかマシだろ。手がつけられねぇ化け物にでもなったら目も当てられねぇよ。それに、この一回を最後にすりゃ問題ねぇだろ。楽観視する訳じゃねぇけど、倒せんだろ。あたし達なら」


 根拠の無い言葉だった。なんの理論にも裏打ちされていない、ただ気持ちだけを乗せた言葉。


 だが、無責任には感じなかった。その言葉を、楽観と無理解で吐いたわけでは無いと思った。


『……本当に、いつの間にこんなに大きくなったのやら』


「おい子供あやすみてぇに背中とんとんすんな! 照準ブレんだろうが!!」


『おや、これは失礼』


 無意識の内にイェーガーの背中をとんとんしてしまった。まるで子供を褒めるように、とんとんとしてしまった自分に驚く。因みに、走る事に専念するために大斧は消してある。アリスの剣のように出し入れ自由なのだ。


 走りながらの作戦会議を終えた頃、二人はようやっとドロシー達の姿を目視する。


 ドロシー達は絶賛戦闘中であり、それぞれが原始獣人の相手をしていた。数が減っている事を期待したけれど、数は一向に減っておらず、むしろ少し増えたような気さえする。流石に増えた気がするのは気のせいだと思いたいけれど、如何せん離脱する前と状況があまりにも変わらないので否定できないところではある。


『ドロシー!!』


「うっ!! 倒した!?」


 イヴの声を聞いたドロシーが喜色満面の笑みを浮かべてイヴの方へ振り返る。


 だが、その後ろから迫る膨張した身体をしたなんだかよく分からない生物を見て、うげぇっと嫌そうな表情へ変わる。


「なーんそれー!! きもいー!!」


『核です!! 説明は後でしますので、ひとまず張りぼて(・・・・)をお願いします!!』


「はりぼて?」


 張りぼてと言われ、小首を傾げるドロシー。あまりに隙だらけのドロシーだけれど、その周囲には金づち頭の手の無い人間が、ドロシーを護るように頭を伸ばして原始獣人を吹き飛ばしている。


『炎の張りぼてです!! それと、巨大な顔を!!』


「ほのー? きょだなかおー?」


「おいあいつ分かってねぇぞ!?」


 小首を傾げる角度が深くなり、心配になるイェーガー。


『後ろのでっかいのを、火の玉と一緒に大きな顔で閉じ込めてください!!』


「おー! 分かった!!」


 金づち頭がイェーガー達の背後を走る剣使いの獣人を牽制しながら、ドロシーは即座にイヴに頼まれた物を召喚する。


 それは、巨大な顔だった。つるりと毛の無い表皮にぎょろりとした目。一見して不気味に感じる見た目をした巨大な顔はぎょろりとした目を剣使いの獣人に向ける。


「ぱっかーん!!」


 ドロシーの掛け声と共に、巨大な顔が左右半分に割れる。


 巨大な顔の中は殆ど空洞であり、木の骨組みや目や口を動かすだけの絡繰りしか存在しない。


 左右に割れた巨大な顔は左右から剣使いの獣人を挟みこむように展開する。


 流石に、大がかりな仕掛けに警戒をする剣使いの獣人は、巨大な顔を壊そうと大剣と同化した右腕を振るう。


「させっかよ!!」


 即座に、イェーガーは銃撃で剣使いの獣人の両目を射抜く。イェーガーだけに注視していたのであれば防ぐなり出来たであろうが、左右に展開された巨大な顔に一瞬でも注意を向けてしまえば、イェーガーにとっては十分な隙であった。


 両目を射抜かれ、絶叫を上げる剣使いの獣人。


「ぼんっ!!」


 絶叫を上げ、暴れ回る剣使いの獣人の頭上に巨大な火の玉が出現する。


 轟々と燃え盛る巨大な火の玉は、ゆっくりと剣使いの獣人に迫る。


 目を潰されても耳と鼻があり、巨大な炎の玉からは熱を感じる。


 剣使いの獣人は熱源から離れるように、右腕を乱暴に振り回しながら前へ進む。


 イェーガーも脅威ではあるけれど、今一番の脅威は巨大な炎の弾を操るドロシーだ。ドロシーさえ殺せば、後はどうとでもなる。


「獣らしく、火は苦手みてぇだな」


『知性はありますのに、文明的は無いようですね』


 しかして、それを許す二人では無い。


 うねる右腕の攻撃を掻い潜り、イヴは剣使いの獣人の脚の腱と思しき個所を斬る。


 そして、イェーガーもスラッグ弾で鼻を撃ち、耳と思しきところを抉るように撃ち込む。


 完全に破壊出来た訳では無いだろうけれど、ある程度は妨害出来るはずだ。


 二人の妨害のかいあって、剣使いの獣人が地面に倒れ込もうとしている。


「むうぅん!!」


 完全に地面に倒れ込むその前に、巨大な炎の玉を剣使いの獣人に直撃させる。突如、轟音と熱風に混ざって響き渡る絶叫。


 たまらず逃げだそうと手足をばたつかせるその前に、左右に展開していた巨大な顔が剣使いの獣人を閉じ込めるように閉じる。


『ドロシー!! そのまま維持でお願いします!!』


「うごっ!? ぎぎぃ……!!」


 巨大な炎の玉と剣使いの獣人を閉じ込めた巨大な顔がガタガタと揺れる。炎は巨大な顔に伝播して燃え移り、完全に閉じ込める事が敵わなかった右手と両足が巨大な顔の張りぼてを壊さんと暴れ狂う。


「きつぅいぃ……!!」


 うぎぎと歯を食いしばるドロシー。竜巻を二本維持しながら、金づち頭の人間を複数体召喚し、その上で巨大な炎の玉と巨大な顔を維持し続ける。常人であれば直ぐに魔力が底を尽きる程の大盤振る舞いだ。


 それに加え、剣使いの獣人は巨大な顔を破壊しようと暴れ狂っている。いくら張りぼてとはいえ、ドロシーが召喚した巨大な顔はかなり強力な檻となる。その檻を壊さんと必死の抵抗を示す剣使いの獣人の力はまさに火事場の馬鹿力。表面は破れ、骨組みは折られてしまう。


 表面と骨組みを維持し続けるけれど、それよりも速く剣使いの獣人は檻を壊す。


『ドロシー!! 全力で炎と顔に魔力を注いでください!! 他は全部私達が請け負います!!』


「わ、がっだぁ!!」


 このままでは壊されると判断したドロシーは、イヴの指示通りに金づち頭の人間と竜巻を消す。


 直後、今まで竜巻が抑えていた分の原始獣人がわらわらと押し寄せて来る。


『イェーガー!! ドロシーを頼みます!! ライオンと案山子はイヴと一緒に迎撃です!!』


「承知した。だが、この数を捌き切れるか……」


「オレ、もう疲れたー」


『ごちゃごちゃ言わないでください!! きりきり働く!!』


 程度の差はあれど弱音を吐くライオンと案山子を叱責するイヴ。


 だが、気持ちはイヴも同じだった。


 一か八かの賭けの要素が強い作戦。一つ前の形態であれば恐らくは此処までドロシーが苦戦を強いられる事は無かっただろうけれど、今は飛躍的に強化してしまっている。


 そのため、剣使いの獣人を閉じ込める事に全リソースを注ぎ込む必要がある事は分かっていた。その上で、自分達だけでこの原始獣人の群れを抑えなければいけない事も分かっていた。


 それでも、あまりにも数が多すぎる。


 三人だけで殲滅するのは可能だろう。その自信と自負はある。だが、護り切るとなれば話は別だ。ドロシーはこの場から動けない。加えて、このチャンスを逃す事も出来ない。これ以上剣使いの獣人が強化されれば手が付けられなくなる。


 この場を死守する他に選択肢は無いのに、状況はあまりにも絶望的だ。


 この展開を予測出来なかった。イヴはAIなのに。いや、分かっていた。だって、イヴは出来損ないの――


「グッドタイミングだ」


 ――悲観が回路を走ろうとしたその瞬間、イェーガーの満足そうな声が聞こえて来た。


 そしてその数瞬後、幾つもの魔法が原始獣人に飛来した。


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 けれど、彼女達の姿を見て何が起きたのかを理解する。


 白亜の建物の屋根に、通路から、イヴ達の背後から、彼女達は――魔法少女達はやって来た。


「目には目を歯には歯を、だっけか?」


 剣使いの獣人から目を離す事無く、イェーガーは口の端を上げて笑みを浮かながらリボルビングライフルを構える。


「んじゃあ、数には数だろ」


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