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魔法少女異譚  作者: 槻白倫
第8章 ■■の魔道使い

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異譚67 擦り減る武器

 冷たい太陽に向けて飛翔する。


 冷たい太陽との距離が近付くにつれ、熱気と冷気がロデスコの肌を焼く。


 炎に耐性のあるロデスコですら、近付く程にその熱を脅威と感じる。


 他の魔法少女では近接戦に耐えられない程の温度。熱気と冷気という相反する二つが混在する領域で戦えるのは、魔力に強い耐性のある者か、ロデスコのように炎に耐性のある者だけ。


 それでも、この地獄の環境に耐えられるのはごくわずか。それほどに、過酷な環境に変貌してしまっている。


 迫り来るロデスコを感知している冷たい太陽は、ロデスコに向けて無数の火の粉が飛ばされる。


 火の粉と表現をしたけれど、実際には冷たい太陽の規模に比べての火の粉である。その大きさは一つ一つが人を軽々飲み込める程の大きさであり、それが無数に放たれ弾幕となってロデスコに襲い掛かる。


「大雑把!!」


 迫る火の粉を華麗な動きで回避するロデスコ。大雑把に放たれた弾幕など避けるのは容易い。


 だからと言って、冷たい太陽の攻撃が止むわけでは無い。


 冷たい太陽からは絶えずプロミネンスが放射されており、指向性を持ったプロミネンスがロデスコに迫り、指向性を持たないプロミネンスはいたずらに地面を抉り、空気を燃やし凍てつかせる。


「だからッ!! 大雑把なのよッ!!」


 超高速移動をしながらの急旋回や最高速度を維持したままの急な方向転換をしてプロミネンスを回避する。


 回避して、すれ違う度に冷や汗が流れる。プロミネンスの威力は、一つ一つがアリスの致命の剣列(ヴォーパルソーズ)一本分の威力に匹敵する。言うなれば、炎と冷気属性の致命の極光が幾つも放たれているという事だ。


 幾ら炎に耐性のあるロデスコであろうとも、直撃を受ければひとたまりも無い。良くて重傷。悪くて即死である。


 大雑把な攻撃ではあるものの、気を抜いて良い攻撃では無い。数多放たれる火の粉ですら、ロデスコに致命傷を与えるに足る威力を誇っている。


 火の粉は冷たい太陽にとってはくしゃみや咳程度のものだ。攻撃という程のものでもなく、人間に例えるのであればただの生理現象。それが、人の命を軽々奪ってしまう。


 生物としての格が違う。魔法少女は息をするように人を殺す事は出来ない。


 たった一つの判断ミスが、ロデスコを死に至らしめる。


 それでも、ロデスコは果敢に攻める。護りに秀でていないロデスコは、少しでも護りに回れば不利になるのはロデスコなのだから。


 接近するのに問題は無い。問題が在るとすれば、接近した後だ。


 ロデスコには近接戦以外の戦い方は無い。つまり、高温と低温を併せ持つ冷たい太陽と接触をしなければいけないのだ。


 それがどんな結果を招くのかはロデスコは分からない。それでも、それでもロデスコにはそれしかない。それ以外の戦い方が無いのだ。


 だから、もう腹は括ってある。


「オラァッ!!」


 気合一閃。冷たい太陽に急接近したロデスコは左足で冷たい太陽を蹴り付ける。


 ロデスコの炎と冷たい太陽が激突する。直後、衝撃波が広がる。その衝撃波は異譚を駆け巡り、その激闘の知らせとなる。


「ぐっ……」


 冷たい太陽を蹴り付けたロデスコは、左足の痛みに顔を顰める。


 蹴り付けた瞬間から、耐え難い冷気がロデスコの肌を貫いた。炎の熱は打ち消す事が出来たけれど、どうやら冷気を防ぐ事は出来ないらしい。


「どういう理屈よ……ッ!!」


 文句をこぼしながら、自身に向けて放たれるプロミネンスを避けて冷たい太陽から距離を取る。


 冷気と熱気が混在しているのであれば、炎で両方共相殺出来ると考えていた。実際に、炎は相殺出来たし、ロデスコの蹴りが冷たい太陽に効いていない訳でも無かった。


 現状はじわじわと再生しているけれど、ロデスコの蹴りを受けた冷たい太陽の表面にはクレーターのような陥没が出来ていた。


 声や表情がある訳では無いので、相手にどれほどのダメージが通っているのかは分からないけれど、確かな手応えは感じた。


 倒せない相手では無い。それが分かっただけでも、僥倖と言えよう。


 それでも――


「あっ……ぶないわねぇ!!」


 ――簡単に倒せる相手という訳では無いけれど。


 冷たい太陽の表面から何の前触れも無く放たれた火の粉を紙一重で避ける。


 普通の相手であれば身体の動きや視線、癖などで攻撃の前兆というのが分かる。けれど、この冷たい太陽に関して言えば手も足も顔も無い。表面を絶えず流動する炎が薄っすらと動きを変えたような気がした程度の前兆しかない。


 攻撃のタイミングを間違えれば即座に戦闘不能の重傷を負う事になる。それ自体はいつもの事ではあるのだけれど、攻撃の前兆が見えない分こちらの方が厄介極まり無い。


 加えて言えば、近距離戦闘しか手段を持たないロデスコは戦闘のたびにその冷気に身を蝕まれる事になる。その上、相手のダメージ蓄積量も分からないときた。


「骨が折れるわ、ねッ!!」


 躊躇わず、左足で冷たい太陽を蹴り付けるロデスコ。


「ぐっ……っ」


 衝撃と同時に足を蝕む冷気に苦悶の声を漏らす。


 この戦い、どう着地するのかは分からない。それでも、戦い抜いた果てに自身が五体満足で居られる可能性は無いだろう。一度目の攻撃でそれは確信していた。


「はっ……五体満足じゃ無くたって、良いわよ別に」


 横からロデスコかっさらおうとプロミネンスが迫るが、爆発的な加速でそれを回避し、続けざまに冷たい太陽を蹴撃(しゅうげき)する。


 例え自分が五体満足で無くなったとしても、例え魔法少女じゃ無くなったとしても、ロデスコには帰る場所があり、帰りを待っている人が居る。


 そしてそれは、ロデスコだけに限った話では無い。


「おらぁッ!!」


 気合一閃。痛みに顔を顰めながらこれでもかと冷たい太陽を踏み付けにする。


 低位の異譚支配者であれば、一撃で倒せる程の威力を誇る蹴りを何度も何度も繰り出す。


 その度、ロデスコは自身の脚から感覚が抜け落ちていくのが分かる。自分の脚が自分の物で無くなるような、そんな感覚。


 冷気に髄まで侵された骨は既に折れ、末端から凍傷によって壊死していく。その進行を、自身の炎が辛うじて遅らせてくれている。


 自分の(武器)が擦り減っていくのを感じる。この脚が無くなれば、ロデスコは戦う事は出来ない。


 分かっている。充分理解している。それでも、この脚を止める事はしない。


戦いの終わったその先が、例え辛い道のりになったとしても、戦う事を止める事を自分の誇りが許さないから。


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